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06話 初仕事・2

 前世の名前は、中津祐也。

 今世の名前は、グルタ・ソラウ。


 透明になることができて、なおかつ、気配も消すことができる『インビジブル』の能力を得て、異世界に転生。


 能力を活かして、冒険者として活躍。

 しかし、報酬の分け前を巡り仲間と対立する。

 その後、闇討ちに遭い、瀕死の重傷を負う。


 一命はとりとめたものの、その一件で、人間不信に陥る。

 盗賊団を結成して、日々、悪事を働いている。




――――――――――




「おもいきりグレてるじゃねえかっ!!!」

「ぴぃっ!? わ、私に言われても!?」


 悠とフィニーは、引き続きストーリアの街で、数日かけて転生者たちの様子を確認した。

 差はあるものの、皆、冒険者や研究者として活躍していた。


 しかし、全員が正しい道を歩んでいるわけではなかった。

 最後の一人は、見事なまでの転落人生を歩み、盗賊団の頭として君臨していた。


 冒険者ギルドで手配書を見て、そのことを知った悠は、思わずその場で頭を抱えた。

 隣のフィニーは、また怒鳴られるのではないかと、ビクビクとしている。


「ま、前に様子を見た時は、何も問題なくて……こ、これなら大丈夫、って思っていたんですけど……」

「……ちなみに、前回、様子を見に行ったのはいつだ?」

「えっと、えっと……5年前、かな?」

「あほかっ!」

「あほ言われましたっ!?」

「あほをあほと言って何が悪いっ、このドあほっ! 5年も放置すりゃ、何が起きてもおかしくないだろうが! そうならないように、こまめにサポートするのがフィニーの仕事じゃないのかっ、このドあほ女神!」

「新しい称号っ!?」


 周囲の人々が何事かと視線を向けてくるが、そこまで気にしてる余裕はなかった。


 殴りたい、と悠は切に思う。

 この駄女神が女の子でなければ、問答無用でおしおきしていたところだ。


「うぅ……わ、私もがんばっているんです……で、でもでも、転生者の方々はたくさんいますし、い、一度に全員の様子を見ることは難しくて……」

「こんなのが女神で、この異世界、大丈夫なのか……?」


 ダメかもしれない。


 悠は、わりと本気でそう思った。


「はぁ……まあ、起きたことは仕方ない。問題は、これからどうするか、だ。こういう時はどうしてるんだ? 本人の人生だから、っていうことで放置とか?」

「い、いえ。本来なら、それでも構わないんですけど……でも、転生者は『能力』があります。能力を悪用したら、その、とんでもないことになる可能性もあって……そうならないように、な、なんとかしないといけません」

「まあ、道理だな」


 能力を与えたのがフィニーなら、それによって害が起きた場合、対処しなければいけないという責任が発生する。

 その責任を放棄したら、さすがに無責任すぎる。

 神を名乗ることは失格、ということになってしまう。


「じゃ、がんばれよ」

「えっ、えっ。ゆ、悠さんは? つ、着いてきてくれないんですか?」

「フィニーの責任だ。フィニーが、がんばるのが筋だろう」

「み、見捨てないでくださいいいいいっ!!!」


 がばっと、泣いてすがりつかれた。


「なんで俺も手伝わないといけないんだよ!? まず間違いなく、荒事になるだろ! 盗賊団なんだろ、そいつ! 俺、まともに戦えないんだぞっ」

「ケンカは得意って言ったじゃないですかあああっ」

「ケンカは得意だが、盗賊団なんぞとまともに戦うことなんてできるか! あと、フィニーの方がステータス上なんだろ! 神さまなんだから強いんだろっ」

「そ、そうですけど、でもでもぉ、戦いは慣れてないというか、怖いといいますか……あううう……お願いですから、捨てないでぇっ!!!」

「ちょっ、おま!? そんな人聞きの悪いことを……」


 周囲の人々が、ぼそぼそとささやく。

 悠を見る目が、まるでゴミを見るようだ。


 たまらずに悠は叫んだ。


「わかったよっ、俺も手伝うよっ。だから泣き止め!」

「あ、あああ、ありがとうございますうううっ!!!」

「ええいっ、だから泣き止めと言ってるだろうに! 涙を止めろっ」


 ……結局、フィニーをなだめるのに30分かかってしまうのだった。




――――――――――




「ここがアジトか」


 街を出て、歩くことしばらく……

 山の斜面に洞窟を見つけた。


 明かりは点いていないが、岩の影など見えにくい場所に、等間隔でランプが設置されている。

 地面を見ると、新しい足跡が複数あった。


「間違いなさそうだな」

「こ、こここ、ここに、て、ててて、転生者ががが……」

「緊張しすぎだろ」

「だだだ、だって、相手は盗賊ですよ? つ、つつつ、捕まったら、薄い本みたいなことをされたり……ぴぃっ」

「なんだその偏った知識は。っていうか、盗賊なんて問題ないんだろ」

「は、はい……ふ、普通の人が、私や悠さんの相手になることは、まずありえませんから……」


 悠は、先日、コインを握り潰したことを思い出した。

 確かに、あれだけの力があれば、普通の人間では相手にならないだろう。


 とはいえ、腕力がすごいとわかっただけで、他の項目については何もわからない。

 できれば、自分の力を試してからにしたかったが……今更、考えても仕方のないことだ。


「じゃあ、行くぞ」

「は、はいっ」

「仮にも神さまなんだから、そのへっぴり腰はやめろ」

「か、仮なんかじゃありませんよぉ……由緒正しい、本物の女神ですぅ」

「駄女神な」

「悪い方に言い直されました!?」


 気を引き締めて、悠は洞窟の中に足を踏み入れた。


 お化け屋敷に入るような感じで、悠の後ろにぴったりくっついて歩くフィニー。

 正直、かなり邪魔だったが、さすがにどこに盗賊がいるかわからない状況で突き飛ばすことはできない。


 それと、ちょっと柔らかい感触もしたので、これはこれでいいか、なんてことを思う悠だった。


「……ここが最奥か?」


 歩くことしばらく。

 広々とした空間に出た。

 他に繋がる通路が見えないことを考えると、ここが最奥なのだろう。


 が、ここに来るまでに盗賊の一人も見えなかった。


「本当にここか? 誰もいないぞ」

「お、おかしいですね……? あっ、ひょっとして、出かけているとか」

「……どうやら、それが正解みたいだな」


 タイミングを見計らったように、今来た通路から複数の足音が聞こえてきた。

 ほどなくして、盗賊たちが現れる。


「なんだ、てめえらっ!?」


 不審者である悠とフィニーを見つけて、盗賊たちが殺気立つ。

 武器を抜いて、二人をあっという間に取り囲んでしまう。


 戦いに慣れている。


 そのことを感じた悠は、ちょっとまずいかもしれない、と汗を流した。


「あ、あのあのっ、グルタさんはいますか?」

「なに? おまえら、頭の知り合いか?」

「……よぉ、久しいな」


 頬がこけて、不健康に痩せた男が前に出てきた。


 グルタだ。

 以前の面影がまったくないことに、フィニーは驚きを隠せないでいた。

 昔は、もっとふくよかで、優しい面持ちをしていたというのに。


「誰かと思えば、女神さまじゃねえか。今更、何の用だ?」

「えっと、その……グルタさんが、と、盗賊になったと聞いて……それで、その……やめてもらいたくて……」


 盗賊たちが笑う。


「なんだそりゃ、神さまの冗談ってヤツか? そんなバカなこと、聞けるわけないだろ」

「あう、そ、そんなぁ……お、お願いですから」

「ふざけんなっ、てめえの言うことなんて聞けるわけねえだろうが!」


 グルタは怒りをあらわに大きな声を放つ。

 その顔には、フィニーに対する怒りがはっきりと現れていた。


「なにが異世界転生だ! なにが素晴らしい人生が待ってるだ! ぜんぜん、そんなことねえじゃねえか! 人を騙しておいて、なに善人面してやがるっ」

「わ、私は、そんな……うぅ……」

「いやいや。それ、どう考えても逆ギレだろ」


 悠がツッコミを入れると、グルタの血走った目がこちらを向いた。


「なんだ、てめえは!?」

「この駄女神さまの使徒だよ」

「こ、こんな時なのに駄女神って言われました!?」

「まあ、あほ女神さまに5年も放っておかれたことは同情するが……そもそも、自分の人生は自分でなんとかする、ってのが当たり前だろうに。ここまで落ちぶれたのは、てめえの勝手だ。自己責任だ。他人のせいにしてるんじゃねえよ、かっこ悪い」

「こ、このガキっ……!!!」


 グルタが顔を真っ赤にした。


 図星を突かれたからだ。


 悠の言う通り、自分のことは自分で面倒を見るのが当たり前だ。神さまだからといって、なんでもかんでも求めてしまうのは、ただの甘えでしかない。

 『異世界転生』という言葉に過度な期待をして、能力を得たことで『甘え』て……その結果が、コレだ。


 普通に考えて、グルタの自業自得だ。

 最初から最後まで面倒を見ることなんてできないし、そんなことをする義務もない。

 勝手に勘違いされて、責任を押しつけられても困る、というものだ。


「殺せ……」


 グルタは狂気を孕んだ目で、悠とフィニーを睨みつけた。


「この二人を殺せぇっ!!!」


 そして、戦いが始まる。

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