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05話 初仕事・1

 夜が明けて……


 朝食を食べて、準備を終えた悠とフィニーは教会に移動した。

 並んで、魔法陣の前に立つ。


「こ、この魔方陣に乗れば異世界に転移できます。私たちの場合は、その、常に同じ場所に転送されるので、はぐれる心配も、あ、ありません」


 住居といい魔法陣といい、便利なものが揃っていた。オーバーテクノロジーもいいところだ。ここは、本当は未来なのではないか?

 まあ、神さまが使用するものだから、それも当然なのかもしれない。神さまが不便な生活を強いられていたら、それはそれで複雑な気分になるというものだ。

 ……もっとも、フィニーの場合は、不便な生活をしている方が似合いそうな気がする。


 そう思ったが、悠は口にしないでおいた。

 たぶん、口にしたら、フィニーは1時間は動けなくなるくらい凹む。


「きょ、今日は異世界に降りて、過去に転生した人たちの様子を見ます。そ、それで、困っていたらフォローをしたり、えっと、色々したりします。サポート、ですね!」


 だんだん説明が大雑把になっていたが、深くは気にしないことにした。


 あらかじめあれこれ説明されても、よくわからない。ただでさえ、ほんの数日前までは異世界などとはまったく関係のない社畜生活を送っていたのだ。ファンタジー要素を詰め込まれても、覚えられない。

 こういうことは実践で学んだ方がはるかにわかりやすい、というものだ。


「ところで、転生する人の案内はいいのか? 俺たちがいなくなったら、ここ、空っぽになるぞ」

「あ、はい。そ、そちらは問題ありません。転生する人は、その、毎日来るわけではないので。月曜と火曜って、き、決まっているんです。ち、ちなみに、水曜から金曜が現世に降りて視察をして、ど、土曜と日曜が休日です」

「曜日ごとに分かれてんのか……ってか、曜日の概念あったのか」

「じ、時間の単位は、統一されていた方が、わ、わかりやすいので……神さまのトップが、そ、そう決めたんです」

「話がわかりやすそうなトップだな。休みも用意しておくなんて、いい経営者だ」

「か、神さまを経営者呼ばわりされても……えっとえっと、ほ、他に質問はありますか?」

「んー……いや、特にないな。後は、実際にやってみて確かめる」

「わ、わかりました。で、では、行きましょう」


 フィニーと一緒に、悠は魔法陣の上に立つ。

 光が立ち上がり、二人を包み込んだ。




――――――――――




 悠は異世界に転送された。


 ……空の上だった。


「うおおおおおおおおおおぉぉぉっ!?!?!?!?!?」


 使徒と言っても、翼が生えているわけではないので、空を飛べるわけじゃない。

 宙に浮かぶこともできない。

 当然、落ちる。



 ヒウウウウウュンッ!!!



 雲を突き抜けて、風を切り、大地に向かって落下する。

 意味もなく手足をジタバタさせるが、それで止まるはずもない。

 どうしようもなく、何もできなくて、悠は落ちていく。


「ど、どうしたんですか?」


 同じ場所に転移したフィニーは、器用に空を飛んで悠を追いかけてきた。

 おそらく、魔法を使って空を飛んでいるのだろう。


 落ちる悠の横に並び、不思議そうに問いかける。


「ゆ、悠さん。そ、そのままだと落ちてしまいますよ? さ、さすがに、痛いと思いますし……は、早く飛んでください」

「どうやって!? 魔法の使い方、まだ知らないんだぞ!?」

「……あっ」


 フィニーは、やらかした、というような顔をした。


「おいこらてめぇえええええっ!!!?」

「あああああっ、魔法を教えるの、わ、忘れてました!? す、すいませんすいませんすいませんっ、私、なんてことを……!?」

「謝るのはいいから、早くなんとかしてくれっ!!!」

「すいませんっ、本当にすいません! わ、私、ついうっかりして……ああもう、私、本当にダメな子です、ダメダメ女神です、生まれてきてすいませんっ」

「自虐もいいから、早くなんとかしてくれぇえええええっ!!!」


 ……結局。


 地面に激突する1秒前のところで、フィニーにキャッチされて、悠は九死に一生を得た。




――――――――――




「ったく……転送先が空なら、ちゃんと言っておいてくれよ」

「す、すいませんっ。で、でも、質問はない……って」

「転送先が空なんて思うか! そういう当たり前のことを説明しないから、フィニーは駄女神って言われるんだぞ!」

「ま、また駄女神って……って、私、いつもそんな風に言われてるんですか!?」

「主に、俺が心の中で言ってる」

「ひ、ひどいですっ。か、陰口はいけないと思います」

「だから、こうして面と向かって言ってるだろ」

「あっ……そ、そうですね。それなら問題はないですね……あれ? な、ないのかな?」


 こんなことで納得してしまうあたり、やはり駄女神だな。


 悠は、新たに駄女神のランクを上げて、フィニーのことを『なかなかの逸材の駄女神』と認定しておいた。


「で、転生者はどこなんだ?」


 話をしながら歩くことしばらく。

 二人は比較的大きな街に着いた。

 緑豊かで、自然と建物がうまく調和している。人々はみな笑顔だ。


 また、武具店が多く見られた。あちこちで武器や防具が売られている。その中に混じって、薬草などの道具屋も見えた。

 とにかく店が多い。

 それと、武具に身を包んだ冒険者の姿も多い。


 ここは、冒険者が集う街『ストーリア』だ。


「えっと、えっと……転生者の方は、今は、冒険者になっているはずなので、その、ぎ、ギルドに行ってみましょう」

「冒険者にギルドか……ホント、ファンタジーの世界なんだな。ゲームの中に迷い込んだ気分だよ」


 フィニーの案内で、進路を冒険者ギルドに向ける。


「ところで、さっきのことなんだけど……なんで、転移先が空なんだ?」

「え、えっと……誰かに見られるわけにはいかないので……わ、私たちのことは、転生者以外の人には秘密ですから。雲の上なら、人も魔物もいませんし……」

「なるほどね……帰ったら、真っ先に空を飛ぶ魔法を教えてくれ」

「は、はいっ。それはもう!」


 コクコクと頷くフィニー。


 そんなに頭をシェイクしたら、記憶がなくならないだろうか?

 本当に覚えていられるのだろうか?


 不安になる悠だった。


「あれ? 女神さま?」


 声をかけられて振り返ると、小柄な青年がいた。

 やや幼い顔立ちをしていて、おとなしそうな印象を受ける。

 帯剣しているところを見ると、冒険者なのだろう。


「え、えっと……? ど、どちらさまでしょうか……? も、もしかして、なにかの勧誘ですか? わ、私はちょっと……」

「えっと、覚えていませんか? 僕、アレクセイ……じゃなくて、橘ですよ。橘宏太」

「たちばな……? えっと、えっと……あっ、あの橘さんですか!?」

「はい。思い出していただけたようで、何よりです」

「フィニー。この人は?」

「転生者の……た、橘さんですよ。今は、えっと……アレクセイ・フルトさん、ですね」

「……その様子だと、前世の名前も今世の名前もうろ覚えだったみたいだな」

「うっ……そ、それは、そのぉ……」

「そんなんで、どうやって探すつもりだったんだ? この、ポンコツ駄女神め」

「な、なんかパワーアップしてます!? いえ、この場合はパワーダウン!?」

「えっと……女神さま。こちらの方は?」


 橘……改め、アレクセイの視線を受けて、悠が一歩前に出る。

 フィニーに紹介を任せるのは非常に不安なので、自分で名乗ることにしたのだ。


「俺は、東雲悠。駄……女神の使徒をやっている」

「い、今、駄女神って言おうとしませんでした……?」

「気のせいだ。被害妄想はよくないぞ」

「す、すみませんっ。そうですよね、疑うのはよくないですよね」


 あっさりと引き下がるフィニー。


 それでいいのか……?

 自分で言っておいてなんだが、複雑な気分になる悠だった。


「なるほど、使徒さまですか」

「そんな大仰な言い方はよしてくれ。まだ、成り立ての新人なんだ。気軽に、悠って呼んでくれ」

「そ、そんな。使徒さまをそのように呼ぶなんてできません」


 使徒といえば、女神であるフィニーとほぼ同格の扱いをされる。何しろ、契約によるものだけど、神格化した存在なのだ。敬わない方がおかしい。


 アレクセイは、真面目な性格なのだろう。

 悠の申し出に、神さまと同列である使徒を呼び捨てにするなんて……と、あたふたと慌てた。


「俺が言ってるんだから、問題ないって。それとも、命令でもしようか?」

「えっと……では、せめて、悠さんで」


 あまりしつこくしたら、それはそれで、アレクセイを困らせるだけだろう。

 そう判断した悠は、ここらが妥協時と判断して、よろしくと握手を交わした。


「それで、女神さまと悠さんはどうしたのですか? まさか、何か事件が?」

「い、いえ。そ、そんなことはなくてですね。今日は、転生者の方々の様子を見に……」

「なるほど、巡回でしたか。いつも僕たちのことを気にかけていただいて、ありがとうございます」


 アレクセイは、にっこりと笑みを浮かべて、ゆっくりとお辞儀をした。

 フィニーに対する敬意と感謝が現れている。


 とても礼儀正しく、気持ちのいい青年だ。

 悠は、アレクセイのことをそう評価した。


「そ、それですね、あの……さ、最近はどうですか? 順調ですか? なにか、えっと、困ったことはありませんか?」

「大丈夫ですよ。冒険者として、人々の力になれていると自負しています。全て、女神さまからいただいた能力のおかげです」


 アレクセイは、とん、と自分の胸を叩いた。


 どこにでも売っているような鎧を身につけているが、まさか、それが『能力』というわけではないだろう。

 かといって、服も当たり前の物のように見れる。


 だとしたら、なんだろう?

 悠は興味が湧いて、尋ねてみる。


「ちなみに、アレクセイの能力ってなんなんだ?」

「はい。僕の能力は『ストレングス』……強い体です。前世は病弱だったもので、新しい人生は自由に動き回れる体が欲しくて……それで、この能力に。女神さまのおかげで、健やかに育ち……それに、冒険者としての能力もサービスしてくれたらしく、普通の人よりもステータスが大幅に高いんですよ」


 それは多分、サービスとかではなくて、単にフィニーがやらかしてしまっただけの結果だろう。

 そう思い、悠はフィニーを見た。


 フィニーはたらりと汗を流して、明後日の方向を見た。

 どうやら、悠の言いたいことを理解したらしい。


「この駄女神め」

「うぅ……それ、言わないでください……ぐ、ぐさってきます」


 冒険者として正しい方向に活躍しているのならば、特に問題はないだろう。

 フィニーも悠と同じことを思ったらしく、軽く笑顔になる。


「え、えっと……それじゃあ、特に問題はないということですね」

「はい、大丈夫です」

「こ、今後もがんばってください。何かあったら、その、力になりますから」


 連絡のとりようがないのに、どうやって力になるというのだろうか?

 考えなしの発言にもほどある。

 この女神、やっぱり駄女神だ。


 やれやれと、悠はため息をこぼすのだった。

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