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19話 がんばります・1

 休みが終わり、翌週……



「い、いらっしゃ……じゃなくて! よ、ようこそ、死後の世界へ」

「こ、ここは……?」


 教会に転生者が現れて、フィニーが迎える。

 多少ぎこちないが、それはいつものことなので気にしない。


 うろたえる転生者を安心させるように、フィニーは必死で笑顔を浮かべてみせた。

 こちらも、多少ぎこちないが、まあまあの笑顔だった。


「えっと……あんたたちは……? それに、ここは……?」

「その、あの……お気の毒ですが、あなたは死んでしまいました」


 どこかのゲームのセーブデータが消えた時のような言い方だな。


 悠は、どうでもいいことを考えながら、フィニーの一歩後ろで様子を見守る。


「死んだ? 俺が?」

「は、はい。えっと……お、覚えていませんか?」

「そういえば、車にぶつけられて……」

「お、思い出したみたいですね。ここは、その、死後の世界です。これからあなたは、えっと、別の世界に……異世界に転生して、あ、新しい人生を歩むことになります」


 たどたどしいながらも、フィニーは必死に言葉を紡ぐ。


 ぎこちなさは消えない。

 というか、増している。


 顔色もどこか悪い。

 焦っているらしく、汗がダラダラと流れていた。


 危なっかしい様子に、悠は手を出したい衝動に駆られる。

 しかし、我慢した。


 がんばりたいから、一人でやらせてほしい。


 フィニーが、そう言い出したのだ。

 ならば、よほどのことがない限りは、フィニーに任せたいと思う。


 落ち着いていれば問題ないはずだ。

 とんでもない失敗をしないように……

 子供のおつかいを見守る親のような気分で、悠は成り行きを見ていた。


「転生……そっか、これが異世界転生ってヤツか。まさか、本当にあるなんてな」

「えっと、ですね……転生するにあたって、一つだけ、と、特別な能力がもらえます。その、この中から選んでください。く、暗くなっているものはダメで、光っているものはオッケーです」

「通販みたいだな……えっと、色々あるけど……おっ、これなんていいな。この瞬間移動できる能力、『テレポート』にするよ」

「『テレポート』ですね? わ、わかりました。では、その能力を与えます」


 魔法の詠唱とは似て異なる、神だけが使える言語を口にする。


 光の粒子が生まれて、転生者を包み込んだ。

 そのまま光の粒子は体の中に吸い込まれて、一体化する。


「こ、これで完了です。転生したら、その、『テレポート』を使えるようになっています。ただ、一度行った場所にしか移動できないので、注意してください」

「ふーん、ゲームみたいだな。まあいいか」

「えっと、えっと……それでは、心の準備はいいですか?」

「ああ、問題ないよ」

「では、そこの魔法陣に入ってください。そ、それで、異世界に転生することができます」

「魔法陣だな、了解」


 転生者は魔法陣に入ろうとして……途中で、くるりと振り返った。


「えっと……ありがとな、神さま」

「……え?」

「俺、わけもわからないうちに突然死んで、正直、凹んでたんだけど……まだやり直せるってわかって、うれしかった。神さまのおかげだよ、ありがとな」

「あ、いえ、その……ど、どういたしまして……?」

「今度はちゃんと生きてみせるよ!」


 笑顔で言って、転生者は魔法陣の中に消えた。


「……」


 フィニーはポカンとしていた。

 何を言われたのか理解していない様子で……

 転生者が消えた魔法陣を、ぼーっと見つめていた。


「おい、フィニー?」

「……」

「どうしたんだ? おい?」

「あ」


 ようやく、フィニーが我に返った。

 悠を見て、目をパチパチさせる。


「や……やりました!」

「おぉ?」

「わ、私、やりましたっ、ちゃんとできました! ……で、できましたよね?」

「そこで不安そうになるな、台無しじゃないか」


 悠は苦笑しながら、フィニーの頭をぽんぽんと撫でた。


「90点だな。まだ、おどおどしたところが残ってるから、それがなくなれば満点だ」

「わぁ……悠さんに、ほ、褒められました……夢みたいです。いえ、これは夢? そうです、きっと夢ですね……こんなことがあるわけいたいですっ!?」

「いちいちネガティブモードに突入するな」

「うぅ、叩くなんてひどいですよぉ……」

「自虐するからだ。ちゃんとできたんだから、もっと胸を張れ」

「あ……はい!」


 にっこりと、フィニーは晴れ渡るような笑みを浮かべた。

 見てきた中で、一番の笑顔だった。


「おはよー」


 なじみの居酒屋に顔を出すような感じで、アリアが現れた。


「なんでおはようなんだ? 今は、もう夕方だぞ?」

「ボク、今さっき起きたばかりで……徹夜でゲームしてたから、こんな時間になっちゃたんだよね。ふあああぁ」


 アリアも駄女神なのかもしれない。


 駄女神は駄女神を呼ぶ。

 悠は、頭の中でそんな造語を作った。


「あ、アリアちゃん。き、聞いてください!」

「おおぅ、テンション高いね、フィニーちゃん」

「わ、私、やったんです。ついにやったんです!」

「殺った? 誰を? もしかして、そこの使徒くん?」

「どういう耳してんだ? 腐ってんのか?」

「そ、そうじゃなくて……その、私、ちゃんとお仕事をやり遂げることができたんです! 一度も失敗しませんでしたっ」

「おーっ! それはすごいね、おめでとうっ」

「あ、ありがとうございますっ」


 笑顔で祝福されて、フィニーはうれしそうな顔をした。


 喜ぶ二人を見て、悠は苦笑する。


 成功したのは一度だけだ。

 しかも、満点とは言えない。


「でもまあ……」


 初めての成功なのだ。

 今は余計なことは言わない方がいいだろう。


「今日は月曜だから、異世界転生の仕事だよね? 何人送ったの?」

「あ、はい。一人です」

「あれ? 一人だけ?」

「はいっ。でもでも、失敗しなかったんですよ」

「うーん、一人だけで喜んでもなー。そういうのは、百人くらい成功してからじゃないとダメなんじゃない?」

「あほかっ!」

「頭が割れるように痛い!?」


 ついつい手加減を忘れて、悠はおもいきりアリアの頭を叩いた。


「人が喜んでるところに水を差すようなことを言うな! アリアは空気が読めないのかっ」

「へ? 空気なんて読めるわけないじゃん、見えないし」

「本物のあほかっ!」

「またまた痛い!?」


 もう一度、ツッコミを入れた。

 うすうす思っていたが、この女神も、色々と頭が足りないのかもしれない。


「くすくすっ」


 落ち込んでいるか? と思いきや、悠の予想に反して、フィニーは笑っていた。

 ボケとツッコミを繰り返す二人を見て、楽しそうな顔をしている。


「フィニー……お前、平気なのか?」

「え? な、何がですか? もしかして、私、し、知らないうちに何かやっちゃいました……?」

「いや、そうじゃなくて……アリアが余計なことを言ったから、落ち込むんじゃないかと……」

「あ、そのことですか。えっと、その……アリアちゃんの言っていることは事実ですし……それに、その……私、がんばるって決めましたから。だ、だから、落ち込んでなんていられません」

「おぉ」


 あのぽんこつ女神がこんなに頼もしいことを言える日が来るなんて……!


 思わず感動してしまう悠だった。

 隣のアリアも予想外だったらしく、きょとんとしている。


「おーっ、すごいね、フィニーちゃん。成長したね。お姉さんはうれしいぞ、うんうん」

「あ、ありがとう、アリアちゃん」

「お姉さんっていうが、アリアの方が年上なのか? っていうか、お前ら何歳なんだ?」

「ボクは15歳だぞ♪」

「いや、無理があるだろ」


 自分より年下な神さまがいてたまるものか。

 悠は、ジト目でツッコミを入れた。


「あと、アリアは15歳には見えないからな? もっと上だろ」

「もーっ、そんなこと言うと、アリア、怒っちゃうぞ。ぷんぷんっ」

「わかった、わかったから、その気持ち悪い口調をやめてくれ……」

「うん……実はボクも、ちょっとないかなー、なんて思ってた……」


 二人して、げんなりしてしまう。


「なにはともあれ、今日はめでたい日だね! お祝いしよう、お祝いっ」

「お前、お祝いにかこつけて、飯をたかりたいだけだろ」

「もちろん!」

「胸を張って肯定されただと!?」

「さっ、フィニーちゃん。ボクのためにおいしい料理をたくさん作ってね♪」

「う、うん。私、がんばるねっ」

「おいこら、なんでアリアのためになってんだ」


 騒がしい日常に、悠は苦笑しつつ、こういうのもアリだな、と心の中でつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さっき気付いたばかりなのに、「凹んだ」ではなく「凹んでた」なんだなぁ、と。 その後の、「まだやり直せる」も生き返るなら「まだ」で通りますが、この場合は「(転生して)またやり直せる」では…
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