18話 デートをしよう・2
「ふぁ……お腹いっぱいです」
「だな。さすがにもう食べられない」
あれから、再び屋台巡りをして……
あれこれ食べているうちに満腹になってしまった。
悠もフィニーも、満足そうにしていた。
「こんなに食べたら、だんだんと……眠く、なって……きます……」
「食べてすぐ寝ると太るぞ?」
「ね、眠くないですよっ!?」
慌てた様子で、フィニーは閉じそうになっていた目を開いた。
「腹ごなしに散歩でもするか?」
「そ、そうですね、良いアイディアです」
「じゃあ、行くか」
通りの奥に向かい、足を進める。
さきほど地図を確認したところ、この先に公園があるらしい。
散歩するにはぴったりの場所だ。
「わっ、わわわ!?」
「フィニー?」
フィニーが人波に飲まれてしまう。
こんなところで迷子になったら、合流するのにどれだけ時間がかかることか。
悠は、完全に姿を見失う前に、慌ててフィニーの手を取った。
「大丈夫か?」
「は、はぃ……お手数おかけします……」
「まったくだ」
「あのぉ……そこは、き、気にするな、と言うところでは……?」
「俺が優しくすると槍が降るんだろ」
「ひ、密かに気にしていたんですね……」
「しかし、すごい人混みだな」
移動しているうちに、人が一番集まる繁華街に入り込んでしまったらしい。
見渡す限り、人、人、人。
ちょっとでも目を離したら、すぐにフィニーとはぐれてしまいそうだ。
どうしたものか?
迷っていると……不意に、柔らかい感触が右手に触れた。
フィニーの手だ。
「フィニー?」
「えっと、えっと……は、はぐれたらいけないですし……こうしていれば、も、問題ないかと……ダメ、ですか?」
「……手を繋ぐなら、もっと強く握らないと、すぐにほどけるぞ」
「はぅ」
悠もフィニーの手を握り帰した。
その感触を受けて、フィニーが赤くなる。
恥ずかしいならしなければいいのに……
とは思うものの、照れて、恥じらうフィニーはかわいらしい。
ある意味、眼福だ。
「はぐれるなよ?」
「は、はい……たぶん」
「頼りない返事だな」
悠は苦笑しながら、フィニーの手を引いて歩いた。
――――――――――
繁華街を後にして公園に着いた。
広い公園だ。
中央に澄んだ池が設置されていて、それを囲むように緑が広がっている。
空気が綺麗で、ここにいるだけで穏やかな気持ちになれる。
「い、良い場所ですね」
「来たことないのか?」
「初めてです……いつも、し、仕事ばかりしていたので……」
「仕事ばかりしてたら、前世の俺みたいな社畜になるぞ。心に余裕を持って、休みはこういうところに出かけないとな」
「な、なんか……そういう言葉、悠さんには似合いませんよ……」
「ケンカ売ってんのか?」
「ぴゃあっ!?」
睨みつけると、フィニーはプルプルと小動物のように震えた。
ただ、繋いだ手は離さない。
「えっと、えっと、いいところですね!」
「ごまかそうとするな。あと、さっきも同じことを言ったぞ」
「あぅ……すいません……」
「まあいいさ。最近、色々あって忙しかったからな。今日はのんびりしようぜ」
悠とフィニーは、近くのベンチに並んで座る。
ちょうど、陽の光が当たる場所だった。
ぽかぽかしていて心地いい。
フィニーには寝たら太ると言った悠だけど、あまりの心地よさに、眠気がやってくるのを感じた。
これじゃあ、さっきのようなことは言えないな。
苦笑しつつ、のんびりと日向ぼっこをする。
「……」
ふと、フィニーの視線に気がついた。
フィニーは、何か言いたそうに、じっと悠を見つめていた。
ただ、きっかけを掴めないらしく、唇を開いたり閉じたりしている。
「どうした?」
「ふぇっ」
「何か話があるんじゃないのか? それとも、聞きたいことか?」
「あっ、いえ、その……」
なぜか、フィニーは赤くなった。
「あの、その……あ、ありがとうございます」
フィニーは、ペコリと頭を下げた。
お礼を言われるようなこと、何かしただろうか?
悠は小首を傾げるが、フィニーは構わずに続ける。
「その、今日の、で、デートって……私のため、なんですよね? 私が落ち込んでいるから、き、気晴らしをしよう……みたいな。そ、そんな感じの」
「別に。ただの気まぐれだよ」
「あ、ありがとうございます」
「だから、気まぐれだって」
「悠さんって、その、素直じゃないですよね」
「俺はすごい素直だぞ。全国で一番の素直な人を決める、素直1グランプリで優勝に輝いた男だ」
「な、なんですか、それ。適当グランプリの間違いじゃないですか?」
「適当さ加減は、どこかのめが……ぽんこつに比べると負けるな」
「なんで言い直したんですか!?」
いつものようにからかわれて、フィニーがしょんぼりした。
ただ、それもすぐに終わり。
くすくすと、楽しそうに笑った。
「悠さん……優しいです」
じっと、悠を見つめるフィニー。
その瞳には、信頼の色が宿っていた。
「い、いつもと変わらないみたいで……気がついたら、その、笑っていて……ちょっと楽になりました。何も解決してないから、ダメなんですけどね……」
「いいだろ、別に」
「え?」
「確かに、解決してないさ。でも、解決してないからってのんびりしちゃいけないなんて決まりはない。むしろ、こういう時こそ休むべきだろ。慌ててもどうしようもないんだ。なら、開き直って楽しんだ方が得だ」
「……と、時々思うんですけど、悠さんって、実はすごい人なのでは……?」
「そんなもん、俺がわかるわけないだろ」
フィニーは、もう一度、小さく笑った。
ややあって、真面目な顔を作る。
「私、その……また失敗して、ダメダメで……で、でも、がんばろうと思います」
「そっか」
「何ができるか、わ、わかりませんけど……でもでも、落ち込んでばかりしても仕方ないって、気がついたから……ううん、気が付かせてくれたから……だから、がんばります」
「その意気だ。昔の偉人はこう言ってたぞ、やる気があればなんでもできる、ってな」
「あのー……そ、その人、まだ生きているような……」
「すまん、適当言った」
「悠さん、適当ばかりです……」
「俺の半分は適当でできてるんだ」
「の、残りの半分は……?」
「フィニーをからかう要素だな」
「ロクでもありません!?」
ガーン、とショックを受けて……
次いで、フィニーが楽しそうに笑う。
今朝のような暗い影は見えない。
憑き物が落ちたような、サッパリとした顔をしていた。
「あ、あの、悠さん。お願いがあるんですけど……」
「断る」
「言う前から断られました!?」
「ぽんこつ女神のお願いなんて、ぽんこつなものに決まってるからな。めんどくさい」
「あぅあぅ……や、優しくされたと思ったら、いきなり辛辣な態度をとられました……私、泣いてしまいそうです」
「ここで泣くなよ、俺に迷惑がかかる。泣くならあっちにいってくれ」
「容赦のない追い討ち!?」
フィニーが虚ろな目をして、ため息をこぼしはじめた。
「冗談だよ。打てば響くように良い反応が返ってくるから、つい」
「……で、次はどんなことを言ってくるんですか?」
フィニーは、ジト目を悠に向ける。
完全に警戒されてしまったようだ。
まあ、悠の自業自得なのだが。
「何も言わないって。で、どうしたんだ? ほら、お願いがあるんだろ?」
色々と言われたものの、なんだかんだで無視できないあたり、フィニーは『いい子』なのだろう。
「えっと、えっと……あっちに花壇があるじゃないですか? その、一緒に見に行きませんか?」
「ああ、もちろん」
「えへへ、よかったです」
立ち上がり、花壇に移動する。
色とりどりの花が広がっていて、とても綺麗だ。
芸術と言っても過言ではないくらいだ。
「わぁ、すごいですね。綺麗ですね」
「そうだな……この花、摘んだらマズイかな?」
「ダメですよ!?」
最後まで、フィニーのツッコミが響き渡るのだった。
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