17話 デートをしよう・1
「シルフィード・ウイング」
アリアから教えてもらった魔法で空を飛び、北の王都を目指す。
思ったよりも速度がある。時速200キロは越えていそうだ。
これなら、30分ほどでつくだろう。
そんなことを考えていると、同じく魔法で空を飛ぶフィニーが追いついてきた。
詳しい説明をしていないのに悠の後を追いかけてくるあたり、どこかの忠犬みたいだ。
「あ、あのあの、デートってどういうことですか……?」
落ち込んでいるフィニーに気晴らしをしてもらいたい……と言えば、余計に気をつかわせてしまうだろう。
そう考えた悠は、適当に、思ったままを口にする。
「休みの日なのに家に閉じこもってるなんて、もったいないだろ? たまには外に出ないとな」
「それは、まあ……で、でも、どうして異世界なんですか……?」
「興味あるんだよ。アリアに聞いたけど、王都はいつも賑わってるそうじゃないか。一度は行ってみたいだろ」
「な、なんで私まで……」
「一人で行ってもつまらないだろ。フィニーもヒマしてるんだから、付き合え」
「ひ、ヒマというわけでは……」
「いいから行くぞ。ほら、ついてこい」
「わ、わわわっ。お、置いていかないでくださいよぉっ」
速度を上げると、フィニーは慌てて後を着いてきた。
たったこれだけのことで、話をごまかせるなんて……
なんてチョロイ神さまだろう。詐欺に合わないか心配になる。
悠は、真面目にそんなことを考えた。
――――――――――
王都が見えてきたところで、郊外に降り立つ。
後は歩いて移動した。
「へぇー、ここが王都か」
「は、はい……太陽の世界でも有数の国家、『アムトレス』の王都です……」
馬車が複数並走できそうな大きな通り。
その脇に、無数の店舗が並んでいる。
人通りはかなり激しい。
休日の渋谷並じゃないだろうか?
活気にあふれていて、本来の目的を忘れてしまいそうなほど、わくわくしてしまう。
田舎者丸出しで、悠は驚いた顔でキョロキョロと周囲を見回した。
「すごいな。初めてストーリアを見た時も驚いたけど、今回はそれ以上だ。まさか、こんなに人がいるなんて」
「こ、ここは交易の中心でもありますから……その、たくさんの人が集まるんです」
「なるほどな。さすが王都、っていうところか」
「そ、それで、こんなところに来てどうするんですか……?」
「言っただろ。デートだよ、デート」
「ほ、本気だったんですか、それ」
「冗談でこんなこと言うか。ほら、フィニーも付き合え」
「うぅ……ご、強引です……」
なんだかんだ言いながらも、フィニーはおとなしく着いてきた。
デートに合意したというよりは、諦めたというか、流されて逆らえないというか……そんな感じだ。
デートに誘い出すことはできたから、まずはこれでよしとしよう。
あとは、一緒に遊んで気晴らしをすればいい。
そう考えた悠は、フィニーと一緒に道の脇に並ぶ屋台を見て回る。
まだ何も食べていないので、まずは何か食べたい気分だったのだ。
「おぉ、これが異世界の料理か。どれも見たことがないけど、うまそうだな」
「あ、あの……異世界異世界って、あまり言わないでくださいね? その、一応、私たちのことは、普通の人には秘密なので……」
「問題ない。フィニーみたいなちびが神さまなんて、誰も思わないだろ」
「新しい称号が追加されました!?」
「おっ、これはなんだ?」
肉の串焼きが売られていた。
見た感じ牛肉っぽいが、異世界にも牛は存在するのだろうか?
「そ、それは、チョムポッケの串焼きですね……」
「チョム……なんだって?」
「ちょ、チョムポッケ……です。えっと、えっと……この周辺に生息する魔物の肉ですね」
異世界のネーミングセンスはどうなっているのだろうか?
それとも、自分のセンスがおかしいのだろうか?
ついつい、悠は真剣に考えてしまう。
「魔物の肉なんて食べて平気なのか?」
「えっと、問題ありませんよ。ま、魔物といっても、人を襲う凶暴な野生生物をそう呼んでいるだけで、基本は、その、普通の動物と大差ありませんから」
「ふーん。なら、食べてみるか。おっちゃん、二つちょうだい」
金を払い、悠はチョムポッケの串焼きを二つ受け取る。
異世界独特のスパイスだろうか?
今までに感じたことのない香りがするが、悪くない。食欲を良い感じに刺激されて、とてもおいしそうだ。
きゅるるるっ。
「はぅ……!?」
「なんだ、フィニーも腹が減ってたんじゃないか」
「あ、あうあう……こ、こここ、これはその、あの……」
「ほら、食えよ」
「……い、いただきます」
悠から串焼きを受け取り、フィニーは恥ずかしそうにしながらも、ぱくりと食べた。
「んーっ」
フィニーはキラキラと目を輝かせた。
どうやらお気に召したらしい。
悠も串焼きを食べる。
肉はとろけるように柔らかくて、脂がたっぷり乗っている。
例えるなら、チャーシューに近い。
とてもおいしくて、あっという間に食べてしまった。
「うまいな。魔物の肉なんて思えないくらいだ」
「そ、そうですね……おいしかったです」
「お腹鳴らしながら食べてたもんな」
「はぅ……そ、それは忘れてください……」
「忘れられないな」
「うぅ、いじめですか? いじわるですか?」
「そうだ」
「肯定されました!?」
「ほら、あっちも見てみようぜ」
「は、はいっ」
フィニーを連れて王都を見て回る。
他の屋台で名物料理を食べて……
店を冷やかして……
綺麗な景色を楽しんで……
そうやって楽しんでいるうちに、フィニーはデートに慣れてきたようだ。
どうしてここに? なんてことは言わなくなり、素直にデートを楽しむようになっていた。
「あっ……」
「ん? どうした?」
不意に、フィニーが足を止めた。
フィニーの視線の先を追うと、アクセサリーを扱う露店があった。
「こ、これ……すごく綺麗です……」
フィニーは、花の髪飾りをじっと見つめていた。
子供のようたけど、そういうところが逆にかわいらしくもあった。
「それ、気に入ったのか?」
「は、はい……とてもかわいいです」
「……おっちゃん、コレ、ちょうだい」
「ふぇ?」
「じっとしてろ」
「え? え? えええ?」
フィニーの髪に触れて、そっと髪飾りをつけた。
「ど、どうして……?」
「理由はないんだが……なんとなく、そんな気分だったんだ。プレゼントするよ」
「ゆ、悠さんが優しい……明日は雨でしょうか? いえ、槍……?」
「よし、今すぐ返してもらおうか」
「ご、ごめんなさいごめんなさいっ。つい本音がこぼれてしまったんですぅっ!」
「本音かよ! 少しはごまかそうとしろよっ」
「あぁっ!?」
しまった、というような顔をするフィニー。
その顔が妙におもしろくて、悠はついつい笑ってしまう。
「まったく……しょうもないヤツだな、フィニーは」
「うぅ……なんだか、バカにされています……」
「それ、大切にしてくれよ?」
「えっと、えっと……本当にくれるんですか?」
「やるよ。男の俺が持ってても仕方ないだろ?」
「……ありがとうございます」
フィニーは花が咲いたような笑みを浮かべた。
うれしそうにしながら、髪飾りに触れる。
「あ、あの、その……に、似合っていますか?」
「そうだな、馬子にも衣装ってところかな」
「えぇ……そ、それ、褒められているのか微妙です……」
「冗談だよ。ちゃんと似合ってる、良い感じだと思うぞ」
「そ、そうですか……えへへ」
にっこりと笑うフィニー。
そうやって笑っていたから、悠が赤い顔をしていたのには気づかなかった。