表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

16話 困った時は月の女神におまかせあれ

 翌日。


 土曜なので、仕事は休みだ。

 悠は、普段よりも長く寝て、いつもより遅い時間に起きた。

 色々あったから、疲労が溜まっていたのかもしれない。


「おはよう」

「お、おはようございます」


 リビングに移動すると、フィニーの姿があった。

 先に起きていたらしい。


「おっはよー! ご飯食べる?」

「いや、もうすぐ昼だから、今はいい」

「じゃあじゃあ、その分、昼は豪華にしてあげるね」

「期待してやるよ」

「デフォルトで上から目線!? っていうか、ツッコミ入れてよー」


 アリアが、当たり前のような顔をして家に上がり込んでいた。

 「どうしてここに?」みたいなリアクションを期待していたらしいが、悠がスルーしたため、ダダをこねる子供のような声をあげた。

 案外、寂しがりやなのかもしれない。


「はいはい、なんでアリアがここにいるんだ? 飯をタカリに来たのか?」

「ボクのこと、食いしん坊だと思ってない?」

「思ってるぞ」

「肯定された!?」

「むしろ、それ以外の何者でもないだろ」

「ボクどんな存在なの!?」

「妖怪飯タカリ魔」

「妖怪にランクダウンした!?」


 朝から騒がしい女神だった。


 やれやれ、と悠はため息をこぼすが……

 フィニーは口を開かないで、うつむき加減でじっとしている。

 昨日のことがまだ尾を引いているらしい。


 そんなフィニーの様子を見て、アリアがコソコソと話しかけてくる。


「ねぇねぇ、フィニーちゃんどうしたの? もしかして、やっちゃった? 使徒くん、やっちゃった?」

「何をやったのか知らんが、適当なことを言うな」

「じゃあ、どうしたのさ?」

「あー……まあ、アリアならいいか」


 友達なら事情を話してもいいだろう。

 それに、他人の意見を聞きたいところだ。


 そう判断した悠は、昨日の出来事を説明した。


「なるほど、そんなことが……」

「気にするな、とは何度も言ったんだが……まあ、見ての通り、効果はないな」

「フィニーちゃん、優しいからね。自分よりも他人のことを気にしちゃうタイプだから、気にするな、って言われても無理があるよ」

「まあ……それは同意するよ」


 フィニーは優しい女の子だ。


 誰かのために。

 そのことだけを思い、より良い結果を求めている。

 だからこそ、失敗した時は、人一倍落ち込んでしまう。


 どうして、そこまでするのか?


 その理由を悠は知らない。

 でも、そこまでがんばるフィニーだからこそ、応援したいと思う。


「どうしたらいいと思う? アリアの小さい脳をフル活用して、良いアイディアを出してくれないか?」

「人にものを頼む態度じゃないよねぇっ!?」

「俺、不器用なんだ」

「そんな言葉で済まされるかぁっ!」

「まあ、本気はこれくらいにして」

「冗談じゃなかった!?」

「何か良い案はないか? 俺も手詰まりでな」

「そうだねぇ……」


 腕を組んで、小首を傾げて、考えるアリア。


 ほどなくして、ぽんっと手の平を打つ。


「よしきたっ、このボクに万事おまかせあれ」

「何か思いついたのか?」

「根本的な打開策じゃないけどね。一時的な治療法みたいなもの」

「今はそれでもいいさ。どうすればいいんだ?」

「今のフィニーちゃんは、落ち込んで落ち込んで落ち込んで、自分の存在を虫けら……ううん、ミトコンドリアのように思ってる状態じゃない?」

「お前ら、ホントに友達か? めたくそに言うな」

「ただの例えだよ」


 それにしては、サラリと口にしていたが……


 とはいえ、踏み込んだら余計なことを聞いてしまいそうな気がする。

 悠は、深くは気にしないことにした。


「人によるけどさ、うまくいかない時って何をしてもうまくいかないじゃん?」

「だな。俺も徹夜明けで上司に無茶振りされた時は、頭が回らなくてミスばかりしたな……あの上司、ふざけたことしてくれたな。今なら殺れるか?」

「こらこら、サラっと怖いこと言わないの」

「冗談だ」

「目が本気だったけど……まあいいや。で、フィニーちゃんのことだけど、今は仕事はしない方がいいと思うんだよね。失敗しやすい状態になってると思うし、またミスしたら、トドメになっちゃうかもしれないし。となると……」

「わかった、話が読めたぞ」

「おっ、理解してくれた?」

「クビにするんだな?」

「ぜんぜん理解してなかった!?」

「ぽんこつだから、誰も文句言わないだろ」

「キミ、ホントにフィニーちゃんの使徒!?」

「獅子は我が子を谷に突き落とす、って言うだろ? あれと同じだ」

「谷どころじゃないよ! 底なしの奈落に突き落とす勢いだよ!」

「冗談だ」

「使徒くんの冗談は、ホントに笑えないんだけど……」

「要するに、息抜きをさせろ、っていうことだろ?」


 アリアの考えを理解した悠は、そんな答えを口にした。


 何をやってもうかくいかない時というものは、確かにある。

 そういう時は、がんばっても意味はない。どツボにハマるだけだ。

 無理をしないで、息抜きをするのがベストだ。


「そーゆこと。ちょうど今日明日は土日だから、息抜きにちょうどいいんじゃない?」

「しかし、何をしたものか……何かいい娯楽は知らないか?」


 地球に戻ることができれば、山ほど娯楽はあるが、あいにくとそうはいかない。

 行ける場所は、この教会と住居。あと、太陽の世界だけだ。


「ストーリアから北に100キロくらい行ったところに、王都があるよ。いつも賑わってて、たくさんのお店があるから、そこでデートをするといいんじゃないかな?」

「なんでデート?」

「年頃の男女がすることといったら、それ以外にないじゃん」

「……まあいいか」


 ぽんこつぶりが目立ち忘れがちになるが、フィニーはとんでもない美少女だ。

 そんな女の子とデートできるのは、普通にうれしい。


 もっとも、フィニーの息抜きが目的なので、色々を気をつかいそうではあるが。


「でも、100キロなんて遠すぎるだろ。もっと近場でいいところはないのか?」

「ん? 100キロなんて、ボクたちにしたら大した距離じゃないよ。魔法を使えばいいんだから。速く空を飛ぶ魔法、使徒くんに教えてあげるね」


 アリアから魔法を教えてもらう。


 ついでだから、便利な魔法をもっと教えてもらおうか?


 悠は、ふと思うが……

 やめておくか、と後回しにした。

 今はフィニーを優先しないといけない。


「じゃあ、さっそくフィニーちゃんを誘ってきなよ」

「アリアは一緒に行かないのか?」

「デートを邪魔するほどボクは空気が読めない子じゃないよ」

「そのニヤニヤした顔がイラッとくるな」


 良いアイディアを教えてもらったこともあり、悠は我慢した。


 部屋の隅でどんよりしているフィニーに声をかける。


「フィニー、今ヒマだよな? ちょっと出かけようぜ」

「いえ……そ、そんな気分じゃないので、悠さんお一人でどうぞ……私なんかが一緒にいたら、その、不幸な目に遭ってしまうかもしれませんし……ぽんこつですから……」


 アリアと話し込んで放っておいた間に、ネガティブ思考が加速して、なかなかめんどくさい状態になっていた。


 わざわざ説得していたら、それだけで一日が過ぎてしまいそうだ。


 そう判断した悠は、猫を掴むように、フィニーの首根っこを掴んだ。


「ぴゃっ!? な、ななな、なんですか!?」

「いいから行くぞ」

「で、ですから、私は……」

「拒否権はなしだ」

「そ、そんな無茶な……えっと、えっと……悠さんは私の使徒なんですから、その、言うことを聞いてください」

「そうだな、俺はフィニーの使徒だな。言うことを聞かないといけないな」

「わ、わかってくれましたか……」

「だが断る」

「えぇっ!?」


 この台詞、爽快感が半端ないなぁ……


 悠は、妙なことを考えながら、フィニーを引きずり教会に移動した。


 後ろから、「がんばれー」なんてアリアの声が聞こえてきたが、とりあえず無視した。

 というか、アリアは主不在の住居に居座るつもりなのだろうか?

 そして、また勝手にご飯を食べるつもりなのだろうか?


 ……まあいいか。


 考えるのが面倒になって、悠はアリアのことは気にしないことにした。


「ど、どうするんですか? その、異世界に行くんですか? 休日出勤ですか?」

「そんなことしてたまるか。俺はもう、社畜は卒業したんだ」

「そ、それじゃあ、どうして……?」

「今からデートするぞ」

「あ、そういうことですか」


 納得したように、フィニーはコクリと頷いて……


「デートぉっ!?!?!?」


 一瞬遅れて言葉の意味を理解したらしく、ボンッと顔を赤くした。


「え? え? えええぇ? ど、どうして……あの、その……」

「質問なら後にしてくれ。今から転移するから、喋っていると舌を噛むぞ」

「そ、そんなこと言われても、なにがなんだか……むぎゅっ!?」


 悠の忠告も虚しく、転移の衝撃でフィニーは舌を噛むのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ