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15話 責任の在り処

 シグフォートを魔法で拘束した後、文字通り叩き起こした。


 事情聴取をした結果、悠が想像していた通りで間違いなかった。

 シグフォートが『スティール』の能力でクレスの『コピー』を奪い、悪用していたのだ。


 異世界の秩序を乱すような真似はまだしていないが、それも時間の問題。

 行ったことも極めて悪質。


 フィニーはそう判断して、シグフォートの能力と記憶を没収した。


 その後、クレスに『コピー』の能力を返還して、二人は異世界を後にした。

 これにて万事解決。

 ……になればよかったのだけど。




――――――――――




「はぁ……」


 仕事を終えて、家に帰る。

 そして、おいしい夕食を食べるが……フィニーの気分は晴れない様子で、憂鬱な顔でため息をこぼしていた。


「どうしたんだ? さっきから、ため息ばかり……自分の役立たず加減に嫌気が差したか?」

「あ、あのあの……空気を吸うように、私のことをディスるのは、や、やめてほしいといいますか……」

「なら、少しは役に立ってみせろ」

「わ、私、がんばったじゃないですか。その、あの、シグフォートさんの魔法を防ぎましたし……」

「その前に、色々とやらかしてるだろう。だから、プラスマイナスゼロだ」

「うぅ、き、厳しいです……はぁ」


 ますますフィニーが落ち込んだ。

 ため息の回数が増えた。


 正直、うっとうしい。


 それと……気になる。

 女神ということで、長い間生きているはずだから、女の子と言っていいのか微妙なところではあるが……

 女の子が落ち込んでいる姿は見たくない。

 どうせなら、笑っている方がいい。


 なんだかんだで、悠にも紳士なところはあった。


「どうしたんだ? 今度は、何を考えてるんだ?」

「それは、その……」

「話してみろよ。悩んでる主の相談に乗るのも使徒の仕事……かどうかは知らんが、目の前でため息ばかりこぼされていたら気が散ってしょうがない」

「でもでも、迷惑をかけるだけですし……」

「迷惑ならいつもかけてるだろう。今更気にすることか?」

「うぅ、真顔で言われました……」

「気になるんだよ。いいから話せ」


 悠は、多少強引に話を進めた。

 フィニーの弱気な性格からして、こうすれば断れないだろう。


 思った通り、フィニーはおずおずと口を開いた。


「あの、その……私、また失敗しちゃったなぁ……って」

「掃除機でビニール袋を吸いこんで詰まらせたことか? 料理で卵の殻を一緒に混ぜたことか? 風呂場でのぼせて溺れそうになったことか? 単に失敗と言われても、心当たりが多すぎでわからないぞ」

「うぅ……き、傷口に塩を塗り込むようなことを……ぐすん」

「……冗談だ。シグフォートのことだな?」


 フィニーが、コクリと小さく頷いた。


 今、悠が言ったように、フィニーは常日頃から失敗を繰り返しているが……

 ここまで落ち込むようなことはない。

 少し経てば、いつものフィニーに戻る。


 そうならないということは、本気で落ち込んでいる合図だ。


 フィニーが本気で落ち込むケースは、悠は一つしか知らない。

 仕事に関することだ。


「わ、私のせいで、シグフォートさんが暴走して……他の転生者の方に迷惑をかけてしまうなんて……」

「フィニーのせいじゃないだろ。シグフォートのせいだ」

「で、でもでも、悠さんの言う通り、シグフォートさんを放置していましたから……それに、『スティール』の能力なんて与えなければ……」


 ネガティブスイッチが起動したらしい。

 フィニーは暗い顔をして、部屋の隅で体育座りになる。


「私……また、同じ失敗を繰り返すところでした……」


 その台詞に、悠は口から飛び出そうとしていた暴言を引っ込めた。


 今回の一件、フィニーは思った以上に気にしているらしい。

 おそらく、過去の失敗を意識しているのだろう。


 親とはぐれた子供のように、体を小さくして……

 涙を瞳に溜めて、それでも泣けないで……

 ひたすらに自分を責める。


 女の子がそんな顔をするなんて反則だ、何も言えなくなってしまう。


「気にするな、とは言わないが、不必要に余計なもんまで背負い込むことはないぞ」


 悠は、柄にもないことをしているという自覚を持ちながらも、フィニーを励ました。


 ぽんこつで、ダメダメで、どうしようもない女神だけど……

 この女の子が落ち込んでいるところは見たくない。


「気にしないなんて……そ、そんなこと、できませんよ……」

「どうして?」

「だ、だって……私のせいで、クレスさんの人生がめちゃくちゃになるところでした……ま、また、昔のように迷惑をかけてしまうところでした……気にしますよ……」

「考え過ぎなんだよ、フィニーは」


 例えば、包丁を作る職人がいたとしよう。

 その職人は、人々の役に立つことを考えて、日々、包丁を作り続けていた。


 しかし、ある日、その包丁で人が刺されてしまう。


 この場合、誰が悪いのか?

 包丁を作った職人が悪いのか?


 そんなことはない。

 責任は人を刺した犯人にあり、職人に罪は欠片もない。


 職人に罪があるという人がいるのならば、それは、単なる八つ当たりだ。

 ありもしない責任を追求する愚か者のすることだ。


 『責任』というものは、個人が背負うものだ。

 そして、個人にしか背負えないものだ。

 他人の『責任』まで背負う必要なんてどこにもない。


「シグフォートも、この前のグルタも、自分で自分の首を締めただけだ。堕ちるのは勝手だ。そんなことまで気にしてたら、キリがないぞ?」

「それは、その……わからないでも、ないです……」


 フィニーも、悠の言いたいことは理解している。

 しかし、感情が追いつかない。


 こうしておけばよかった。


 一度、そう考えてしまうと、もう止められない。

 次から次に、『あの時に戻ることができれば』『本当に正しかったのか?』……などなど、色々な可能性を考えてしまい、自分を追いつめてしまう。


 そう簡単に止められるものではない。

 理屈と感情は、まったくの別物なのだ。


「私……自信、なくなっちゃいました……」

「むしろ、今まで自信があったのか? 驚きだな」

「うぅ……な、ないですけどぉ……」

「フィニーはあれこれ気にしすぎだ。あと、ネガティブすぎだ。もうちょっと、肩の力を抜いた方がいいぞ」

「そ、そう言われても、どうすればいいか……」

「適当にやればいいんだよ。全部が全部、全力を出そうとするな」

「め、女神がそんなことをしていたら、とんでもないことになってしまいますよ」

「いいんだよ、それで。神さまがなんでも手を貸さないとダメになってしまう世界なら、元々ダメなんだよ」

「きょ、極論です……そんな風に割り切ることなんて、で、できません……」


 悠の言葉は届かない。

 話は、いつまで経っても平行線だ。


 悠は考える。


 現状維持を考えていたが、それも難しいかもな……


 度重なる失敗で、フィニーは自分で自分を追い込んでいた。

 こんな状態で仕事をしたら、また失敗してしまうだろう。

 そうしたら、さらに落ち込んで……悪循環だ。


 どうにかして、このサイクルから抜け出さないといけないが……


「やれやれ、どうしたものか……」


 名案は思い浮かばなくて、悠もため息をこぼした。

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