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14話 異世界転生者の犯罪率は意外と高い

 街で聞き込みをして……

 途中、フィニーが迷子になって……

 ついでに、誘拐犯に拉致されそうになって……


 紆余曲折あったものの、二人はクレスの能力を奪った転生者らしき人物を特定刷ることに成功した。


「シグフォート・ノグ。34歳。職業不明。現在は郊外の屋敷に住んでいる……つまり、ここか」


 シグフォートの情報を得た二人は、その足で郊外の屋敷に移動した。


 豪邸という言葉とは程遠い屋敷だ。

 壁はヒビが入り、窓は割れていて、蔦があちこちを覆っている。

 どちらかというと、幽霊屋敷と言った方が早いかもしれない。


「フィニー。転生者かどうか確かめる魔法ってのは、どれくらいの距離で使えるんだ?」

「も、もう使えますよ……えっと、その、ちょっと待ってくださいね。す、すぐに調べますから……サーチ・ソウルシート」


 フィニーは目を閉じて、意識を集中して、魔法を唱えた。

 光の粒が波のようになって弾ける。


「い、いました。中に一人、転生者の方がいます」

「間違いなさそうだな……多分、荒事になるぞ。準備はいいか?」

「は、はい。大丈夫……です」


 フィニーが頷いたのを合図にして、二人は屋敷の中に足を踏み入れた。




――――――――――




 外観と反して、中は思っていたよりも綺麗だった。

 ゴミが散らかっているということはなく、たくさんの物で荒れているということもない。


 玄関の開く音が聞こえたのだろう。

 奥から、ローブを着た男が現れた。


「なんだ? 私の家に勝手に……なっ!?」


 ローブを着た男は、悠とフィニー……というよりも、フィニーを見て驚きの声をあげた。

 あからさまな態度に、ますます疑惑が深まる。


「あんた、シグフォート・ノグか? ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

「ファイア・ランス!」


 悠の話を無視して、シグフォートはいきなり魔法を放った。

 初級魔法の、炎の槍を撃ち出す『ファイア・ランス』だ。

 射程、速度は低いものの、威力は十分だ。まともにくらえば、普通の人間なら一撃で戦闘不能になってしまう。


 炎の槍がフィニーに襲いかかる。


「ぴぃっ!?」

「ぼさっとしてるな!」


 使徒になったことで、身体能力はかなり強化されているみたいだが、魔法の直撃を受けて無事かどうかはわからない。

 ここは避けるが無難だ。

 悠はフィニーを抱えて跳んだ。


 一拍遅れて、炎の槍がさきほどまでいた場所に突き刺さる。

 床に穴が空いて、絨毯が黒焦げになる。


「いきなりやってくれるな。そんなことをすれば、後ろめたいことがあるって言ってるような……」

「くっ……ファイア・ランス!」


 再び、シグフォートは問答無用で攻撃した。

 炎の槍をフィニーに放つ。


 今度は避けているヒマはない。


 悠は手近にあった花瓶を手に取り、炎の槍めがけて投げた。

 花瓶と炎の槍が空中で激突して、爆発する。

 火の粉と花瓶の欠片が嵐のように撒き散らされる。


「いたっ!? いたたたたたっ、とっても痛いです!?」

「我慢しろ!」


 涙目になるフィニーをなだめて(?)、悠は花瓶の欠片を拾い、シグフォートに向けて投げた。


 が、当たらない。

 破片があまりにも小さすぎたため、コントロールが効かないのだ。

 かといって、大きい破片では威力がありすぎて殺してしまうかもしれない。


 手頃なものはないだろうか?

 それなりに硬くて、頑丈で、扱いやすいもの。

 命中率が高くなるような大きいものがいい。

 それでいて、相手を殺さないような、殺傷力の低いもの。


「ど、どどど、どうしますかっ?」

「……」


 悠は、『いいもの見つけた』というような目でフィニーを見た。


「こうする」

「え? ゆ、悠さん?」


 悠は、がしっとフィニーを掴まえた。

 そのまま、小脇に抱えて……


「新魔法! フィニーミサイル!」

「ぴゃああああああああああぁぁぁっ!?!?!?」


 シグフォートめがけて、おもいきり投げつけた。


「うおおおっ!?」


 さすがに、これは予想外だったのだろう。

 シグフォートは飛んできたフィニーを避けられず、まともに食らう。

 ダーンッ! とまとめて床に倒れ込んだ。


「よくやった、フィニー!」

「ふぇえええ……ひどいです、あんまりです……えっぐ、ひっく……」


 頭に大きいタンコブを作ったフィニーは、マジ泣きしていた。

 さすがの悠も、やりすぎたと反省する。

 投げるなら、もっと丁寧に投げるべきだった……と。


 ……そういう問題ではないのだが。


「くそっ!」


 シグフォートはフィニーを押しのけて立ち上がり、屋敷の奥に逃げた。

 しかし、さすがにダメージはあるらしい。

 打ちどころが悪かったらしく、足を引きずるようにしている。


「逃げられると思うな! 追うぞっ、フィニー!」

「は、はぃいいい……!」


 泣きながらも、フィニーは悠に続いて、シグフォートを追う。


「追いつめたぞっ」


 使徒と神の足から逃げられる人間なんてそうそういない。

 シグフォートを追い、中庭に出た。

 出入り口は一つだ。


「こんなところで……捕まってたまるものか! ファイア・ランス!」

「フィニー! 魔法で防御を!」

「は、はいっ。えっと、えっと……シャイニー……」

「言っておくが、また花なんて出したら、今度は全力で投げるぞ?」

「アイス・シールド!」


 悠とフィニーを守るように、氷の盾が現れた。

 氷の盾は、シグフォートが放った炎の槍を受け止める。

 軽く表面が溶けるが、それだけだ。


 お前の魔法なんて効かないというように、氷の盾は力強く顕現していた。

 女神の唱えた魔法なので、転生者とはいえ、人間が打ち破れるものではない。


「まだ続けるか?」

「こ、こうなったら……私のとっておきをくらえ! ファイア・ランス! ウインド・ランス! アイシクル・ランス! アース・ランス!」


 炎、風、氷、土の槍が同時に生み出された。


 四つの魔法を同時に使うなんて大したものだ。

 盗人なんてしないで、魔法使いとして生きれば大成したかもしれないのに。


 悠は感心するが……さらに驚かされることになる。


「『コピー』! 『ペースト』!」

「なっ!?」


 四本の魔法の槍が、八本、十六本、三十二本……倍々式に増えていく。


 クレスから奪った『コピー』の能力を使っているのだろう。

 四属性の魔法の槍は、数え切れないほどに空間を埋め尽くして……


「シュート!」


 シグフォートの合図で、一斉に放たれた。


 それは暴力の嵐だ。

 四属性の魔法の槍が、雨のように悠とフィニーに降り注ぐ。



 ガガガガガガガガガガッッッ!!!!!



 爆撃でも受けたような轟音と激しい衝撃。


 屋敷の半分が吹き飛んで……

 土煙が晴れた後は、何も残っていなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……や、やったぞ。は、はははっ、何が女神だ。この程度のものなら、怯える必要なんてなかったじゃないか」

「同感だ。あんなへっぽこに怯える理由なんてないな」

「なっ!?」


 声は真後ろからした。


 シグフォートは、慌てて振り返り……

 瞬間、その顔に拳が叩き込まれて、吹き飛び、そのまま気絶した。


「魔法頼りで、肉弾戦は弱いのか? 一発で気絶するなんて、オタク、もうちょっと鍛えておいた方がいいぜ」


 シグフォートを叩きのめしたのは、もちろん、悠だった。

 悠の後ろに、へたり込むようにしてフィニーもいた。


「め、めちゃくちゃですぅ……」

「ん? なにが?」

「だ、だってだって……攻撃を全部受けきるなんて……ひぅ、死ぬかと思いました……」

「勝算はちゃんとあったぞ?」


 悠がとった行動は、実に単純なものだ。

 シグフォートの魔法を全て受け止めて……その後、爆発の土煙に紛れて背後に回り、奇襲をかける。

 ただ、それだけのことだ。


 シグフォートは圧倒的な数の魔法の槍を生み出したけれど、威力が上昇しているわけではない。ただ単に、数が多いだけだ。

 それなら、フィニーの魔法で防ぐことができるだろうと、悠はそう判断した。


 事実、フィニーはシグフォートの魔法をアッサリと防ぐことに成功した。

 シグフォートが弱いわけではない。

 フィニーが強すぎるのだ。

 それくらい、女神と人間の間には実力の差がある。

 伊達に女神は名乗っていない、というわけだ。


「フィニーのおかげでうまくいった。よくやったな」

「……ち、ちなみに、私が防御に失敗していたら、どうするつもりだったんですか……?」

「……必殺、フィニーシールドを使ってたかな」

「ぴゃあああああっ!?」

「冗談だ。いざという時は、強行突破してた」


 グルタとの戦いで、肉体的強度も高くなっていることは予想がついた。確信を得られたのは、屋敷に入ってすぐのこと……シグフォートの魔法を花瓶で迎撃した時のことだ。

 あの時、フィニーは花瓶の破片を受けて痛がっていたけれど、悠は何も感じていなかった。蚊に刺された方がまだ痛い。


 つまり、それほどまでに頑丈になっているのだ。

 初級魔法のファイア・ランス程度なら、まともに受け止めても、『ちょっと痛い』くらいで済むだろう。


 まあ、痛い思いなんてしたくないので、追い詰められた時以外はやらないが。

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