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01話 プロローグ

 管理職なんてロクなもんじゃない。


 上からは、当たり前のように無茶振りをされて。

 下からは、無茶ぶりに対する不平不満をぶつけられて。


 上と下の緩衝材を勤めて、四苦八苦する仕事だ。


 こんなことが毎日続くのだから、たまったものじゃない。

 風邪は引くし、心はすり減るし、間違いなく体によくない。おまけに給料も少ないときた。

 休日? なにそれ?

 世間一般で言う、とんでもないブラック企業だ。


 こんな仕事辞めてやる!


 東雲悠は、固く決意するものの……

 辞める前に倒れて、そのままぽっくりと逝ってしまった。




――――――――――




 目が覚めると、悠は見知らぬ場所にいた。


「教会?」


 結婚式で使われるような綺麗な教会だ。

 色鮮やかなステンドグラスに目が惹かれる。


「どういうことだっ!?」

「ひぅっ!?」


 怒鳴り声と怯える声が聞こえた。


 見ると、大柄な男と小さな女の子がいた。


 大柄な男は、いかつい顔をしている。

 声も太く、いかにも荒くれ者といった感じだ。


 対する女の子は、とても儚い雰囲気をまとっていた。

 おとなしそうで、弱々しそうで、ガラス細工のように触れたら壊れてしまいそうだ。


 ちなみに、かなりの美少女だ。

 髪は腰に届くほどに長く、光を束ねたように輝いている。

 やや幼さが残るものの、鼻はすらっとしていて、目はくりくりとかわいらしい。

 体の凹凸もハッキリしていて、トランジスタグラマーというヤツだ。

 妖精を人にしたらこんな感じになるのだろうか? と、悠は見とれた。


 悠の存在に気づかないで、二人は話を続ける。


「なんでも好きな能力をくれる、って言ったよな?」

「は、はい……い、言いましたけど、でも、それは……」

「なら、俺を最強にしてくれよ! 世界で一番強い男になれるような、そんな能力をくれよ」

「そ、それは、そのぉ……」

「あぁん? 聞こえねえよっ」

「で、ですから、それは……」

「できるのか? できねえのか!?」

「で、できることはできます……ですが、そんなチート級の能力は世界のバランスを乱してしまう恐れが……その、ありまして……あ、あとあと、生前の善行の量によって、得られる能力が決まっていまして……あなたは、た、足りないといいますか……」

「なんでも、って言ったじゃねえか! あれはウソなのかよ!」

「はぅ……す、すいませんすいませんすいませんっ、説明不足でした……!」


 会話が聞こえるが、内容はさっぱり理解できない。

 理解できないが……


「おい、おっさん」

「あん?」

「お前、うるさいぞ。少し黙れ」


 悠は迷うことなく、大柄な男をゲシッと蹴った。


 恫喝する大柄な男と、生まれたての子鹿のように震える可憐な美少女。

 どちらの味方をするか、考えるまでもない。


「お、おおおぅ!?」


 蹴り飛ばされた大柄な男は、床の上に書かれていた魔法陣の上に転がる。


 瞬間、魔法陣が光り輝いた。

 光のカーテンが立ち上がり、大柄な男を包み込む。


「ちょ、待てよ!? 俺はまだ、能力を何ももらって……!!!」


 最後まで言い終えることなく、大柄な男は光に飲み込まれて消えた。


「……え? なんだこれ? どういうことだ?」


 予想外の事態に、悠は唖然とする。


 ……もしかして、殺っちゃった?


「あああぁ……の、能力を渡さないで、転生させてしまいました……」


 女の子がよくわからないことを口にした。


「転生? どういうことだ?」

「えっと、あの……そこの魔法陣に乗る……魔法陣を起動させることで、異世界転生が完了となるので……さ、さっきの方は、今頃異世界で新しい生を受けて……でもでも、能力を渡しそびれてしまいました……だ、大丈夫でしょうか? うぅ、また失敗してしまいました……」

「いや、今のは、俺のせいというか……というか、異世界? 転生?」


 どういうことだ?

 事態についていけなくて、悠は頭の上に疑問符を浮かべた。


 疑問に応えるように、女の子がおずおずと言う。


「そ、その……私、フィニーといいます。なんといいますか、えっと……ここは、死後の世界で……ここに来た人は、別の世界で新しい人生を送ることになっていて……い、異世界転生というやつですね。し、知っていますか? えと、そ、それで、私はその異世界転生を管理する女神をやらせてもらっています、一応……」



 『異世界転生』



 最近、ライトノベルで流行っている物語だ。

 ひょんなことから異世界に転生した主人公が、チートな能力をもらい、無双する。


 色々な種類があるが、概ね、そんな内容の物語だ。


 流行は続いていて……というよりも、一つのジャンルとして定着した感がある。

 今も根強い人気を誇り、日々、たくさんの異世界転生モノが生み出されている。


 悠はライトノベルはよく読む方なので、女の子……フィニーの言うことをすんなりと理解することができた。


「なるほど。ってことは、俺は死んだのか」

「は、はい……お、お気の毒ですが……」


 仕事に追われて倒れたところまでは覚えている。

 どうやら、あのまま過労死してしまったらしい。


 ブラック企業にコキ使われるロクでもない人生だったせいか、死んだといわれても、不思議と取り乱さなかった。

 むしろ、仕事から解放されたという爽快感の方が強い。


「えっと、あの……あなたは……?」

「ああ……俺は、悠。東雲悠だ」

「悠さん、ですか……見た感じ、まだお若いのに……ざ、残念ですね……」

「まあ、残念といえば残念なのかな? 中卒で就職して、3年も経たないうちに死んじゃったからな。中学も、特例でバイトばかりしてたから、青春ってもんを味わったことがない。そのことは残念だな」

「お、お悔やみ申し上げます……」


 それ、本人に言うことだっけ?


 悠は疑問に思ったが、そのまま流しておいた。


「えっと、フィニーって言ったっけ? いや、フィニーさま?」

「さ、さま付けなんて、と、とんでもない! 呼び捨てでけっこうです。もしくは、この畜生め、でも構いません。わ、私、それくらいの価値しかない女神ですから……」

「なんだそのやたら低い自己評価は?」


 おどおどしていて小動物みたいだ。

 悠は、なんとなく、昔飼っていたペットのハムスターを思い出した。


「俺、これからどうなるんだ? 異世界に転生するのか?」

「は、はい……ここに来たということは、異世界に転生する資格が、あ、あるということでして……そ、その際に、一つだけ能力を選ぶことができて、ですね……」

「あー。さっきの男がなんか言ってたよな。まあ、定番っちゃ定番だよな」

「こ、こちらをご覧ください」


 フィニーが通販カタログのようなものを差し出した。

 パラパラとページをめくってみると、



『初期装備に魔剣』


『ステータスを10倍』


『金貨10000枚』



 そういった内容が記されていた。


「これが、転生の際にもらえる能力なのか? 能力っていうよりは、特典みたいだな」

「え、えっと……こ、細かいところは気にしないでいただけると……色々あった方がいいかな、と思ってたくさん用意してまして……」

「なるほどねー……ん? ページが明るくなってたり暗くなってたりするんだけど、これは?」

「光っているのは、う、受け取ることができるもので……暗くなっているのは、だ、ダメな能力です……生前の善行で、そのあたりが左右されてしまうので……す、すみませんっ」

「別に謝らなくていいさ。そういうシステムなんだろ? 気にしないよ」

「き、気をつかっていただき、ありがとうございます」


 ぺこぺこと頭を下げるフィニー。


 とても気が弱そうだ。

 それに、苦労しているように見える。


 こんな調子で、女神なんて務まるんだろうか?

 悠は疑問に思った。

基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

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