2話 幼馴染の壁はそれはもう高く、重い。
目の前には幼なじみの壁。「好き」なんて言わない、絶対に。
気づけば緑にそまった桜並木の下を歩いていた。
そして目の前に
「よっ」
誠がいた。
「・・・・誠」
「何?どしたの暗い顔して」
「別に!全然っ暗い顔なんてしてないしっ!」
―――誠の事で悩んでいた、だなんて言えない。そんな事言えたら告白なんてちょろいものだ。
わざと笑顔を作ってみせると誠はほっとした様な表情になった。
「いや、お前先刻赤くなってたからさー・・・。何かあったのかと思」と言いかけた誠の口を塞ぐ。
「いや、全然赤くなってないって!熱かったからだよ!気のせい気のせいッ!!」
「ふ!?んおうふッ」
鼻と口をすっぽりと塞いでしまった誠の顔はみるみる青くなっていく。ぎゃっ、と悲鳴を上げて力が入っていた手を離した。
「ご、ごめんッ!えと、じゃー帰るねッ!」
誠が何か言いかける前にソフトボール部でみっちりと鍛えた足で逃げる。
恥ずかしい!恥ずかしすぎる!!
猛スピードで緑に染まった桜並木の道を思い切り走る。と、同時に桜がビョウビョウと激しく散る。もう桜の木は緑色に近い。
そして桜がうざったい程顔に付く。振り払うがしつこく纏わり付いてくる。
「あぁっもう!」
思わず叫んでしまった。そして今まで急スピードに走っていた足が止まって空を仰ぐ様に上を見た。
告白してしまいたい―――けれどそう簡単に告白できないのが関の山である。
幼馴染という壁はそれはもう高く、重い。
告白してそれ以上になるというのが恐い。いや、それ以下になるが凄く恐い。
誠ともう喋れなくなったら―――・・・と考えると胸がチクリと痛んだ。
「なーに悩んでんの?純情娘?」
「な」
ひょこっと後ろから誠が―――じゃなくて誠の双子の弟、赤西郁だ。因みに一卵性の双子で顔がとってもソックリなのにとっても性格が似てない。小説とか漫画とかで出てくる良くあるパターンだ。そういうのは双子が主人公を取り合うとかどっちが好きなんだとうとか純情っぽく悩むみたいなありきたりな設定だが(いやあたしの恋も充分ありきたりだけど)、そういうのは絶対無い。
あたしが好きなのは誠だ。
この馬鹿で毒舌な男は好きにはならない。そして誠と同時に郁とも幼馴染なのだ。
「純情娘ってそういう時期なのッ!純情で悪かったなッ!!」
「ふーん・・・誠の事好きなんだやっぱ」
見透かした様に誠ソックリの顔があたしの顔を覗き込む。
思わず恥ずかしくなって顔を自分でも分かる程思いっきり逸らした。
「ち、違ッ!」本当は好きだけどコイツには知られたくない!という反感から全く逆の答えが口から飛び出す。
「じゃ、俺と付き合ってくれるよね?」
思考が固まる。
そんな瞬間を狙ったのかどうなのかスルリと郁の手がうちの体に回される。世間ではこれを抱きしめたというのか。
それにしてもどうして誠が好き?→違う→俺と付き合えになんのコイツは。かなり魂胆がミエミエだ。
「離せっつの変態タラシ男ッ!」
鍛え抜かれた自分の右手が郁の首筋にチョップを食らわす。鈍い音がして郁のう、という呻きと共に自分に回された手が緩む。その隙を狙って最後の止め―――腹に勢いよく蹴りを入れた。
ゲシッ
「痛っ・・・・・!」
「ふん、ザマーミロ」
郁はしゃがみ込み腹を摩りながらいてて...と呻いていた。たとえ好きな人の弟であり、どんなに顔が似ていても容赦はしない。
「乙女に抱きつくとは何事ッ!?誠とは大違いッ!」
「なッ・・・誠とはとか言うなっつの!そういうお前は好きなんだろ兄貴の事!」
「あぁ好きだよッ!あんたとは大違いね・・・ってあれ?」
思わず口が滑った。
郁の顔が少し歪んだ様に見えた様な・・・と思ったら気のせいだ。郁はゆっくりと立ち上がった。
「じゃ、賭けしてみない?期限は一ヶ月。愛が兄貴と両想いになれたら愛の勝ち。で、なれなかったら負け。お前が負けたら俺と付き合ってね」
「ちょッ・・・勝手に決めないでくれる?大体あんたと付き合うなんて―――・・・」
「自信ないんだ?」
プツッ
自分の何処かの線が切れた音がした。言ってくれたなコイツ!
「いい!やるッ!その代わり郁は負けたら、何でもいう事聞いてもらうからねッ!」
「じゃ、頑張ってね〜♪」
「生憎言われなくても頑張る主義ですんで!」
こうして、この日から期限付きの郁とあたしの賭けが始まった―――・・・。
サブタイトル&2話は蜜月が書きましたー。2話の方が若干読みにくいかと(泣
で、愛の一人称は「あたし」なのですが時々間違っているかもしれません^^;
感想、アドバイス等有りましたらどしどしコメントを送って下さいv