どうも〇〇と申します
ジャーっと流れるぬるいシャワー
曇りガラスの向こうからは蝉のやかましい声が聞こえてくる
外から帰ってきてからすぐさま汗を流すのは長年の習慣の一つである
なんせアトピーという難儀な体に生まれたもので他の健康な人たちとは違い
快適に過ごすには工夫が求められる
まぁなんにせよ私の名前は〇〇、なんだい、これじゃあ読めないって?
まぁ知っても意味がないし、いま部屋で待っているお客さんもいるし長風呂?もやめておこう
風呂場から扉を開け出ると洗面台の鏡から嫌でも目に入る自分の体
「はぁーいつみても嫌になるよな」
「もうすぐお別れする体だがな」
何時からいたのかお客様である紫髪の少女が扉を背に立っていた、もちろんカギは施錠してあったはず
「のぞきの趣味がおありでしたか、将来が不安ですね」
「なに、異世界の男はどんなものかと思っていたのだが・・・」
「まぁ形は変わらんようだ、それにしても凄まじいの」
「まぁ見て楽しむような体ではありませんからね」
とりあえず濡れた体を綿100%のタオルで頭から下へ優しく拭いていく
上半身を拭き終わったところで扉のほうを向くとまだ異世界産の紫髪がこちらを見ている
「・・・なんだ別にいいだろう減るもんじゃないし」
「露出癖はないので部屋で用意してあったお茶でも飲んでてください」
「あのうまい緑の茶なら全部飲んだぞ!黒くて甘いのもな」
「じゃあ私の分まだ口つけてないので食べててください」
「そうか、ではお言葉に甘えて」
甘味で釣ると即座に扉の向こうへと消えていく紫髪、甘味を好むのは世界が違えど女性には共通らしい
肌触りのよい、部屋着に着替えると 少女の待つ部屋へと向かう
ひんやりとした部屋の空気、居間には紫髪がソファーに座って漫画を読んでいる
「お待たせしました」
「遅かったの、これはもうないのかの?」
気に入ったのか羊羹の入っていたガラスの皿を持ち上げて聞いてくる
「まだありますが食べ過ぎると太りますよ」
「問題ない魔術の行使には体力をつかうのでな」
「まぁいいですけど」
冷蔵庫をあけ羊羹の残りと自分用の緑茶を準備し始める
「しかしこの世界は魔力がほとんどない代わりにいろいろなものが発達しておるの」
「このようかんとやらもとても美味で病みつきになってしもうたわ」
「それは良かったです、ではおかわりです」
少女の目の前にご所望の品を置くと、待っていたとばかりに動き出す
「で異世界の魔術師殿がどうしてこんなところに?」
上品な仕草で羊羹を食べている少女に聞いてみる
「簡単な話だ」
最後の羊羹の一切れを食べ終えると少女は至極当然のように言った
「お前の体内の魔力が強いので従魔にしようと来たのだ」
「じゅうまですか・・・なんですそれ?」
「まぁ簡単に言うと魔術師の使い魔だ」
「まぁそれも昔の話で今では貴族のステータスの一部になっていたりするがの」
「余計にわかりませんが普通人間を従魔にするものなんですか?」
「前例がないことはないが珍しいな」
「前例あるんですね・・・」
「それに魔力が多く意思疎通が可能だといろいろ便利でな是非にもなってもらいたいな」
「申し訳ありませんが別のところを当たって見てください」
了承などしようなら、人生設計を書いた紙が机ごと吹っ飛びそうなやばそうな案件である何としてでもお断りしたい
「ではなってくれればその体を蝕む原因を取り除いてやるぞ」
「!?」
もしそれが本当だったら喉から手が出るほどやりたいが、受ければ剣と魔法の世界でスリリングな生活の始まりである、しかしこの体が直せるのならできる限りの対価は払ってもいい気もする・・・悩ましい
「とりあえずその原因を取り除いてもらう事は可能です?」
まぁダメであろうがとりあえず提案してみる、行って治りませんでしたでは笑えないジョークだし
もし治してもらっても羊羹のお礼ってことにしてしまえばいいんだし、なんなら仕舞ってあるカステラを手土産に渡してしまえばいいんじゃないだろうか
「まぁこちらとしても出来ることを証明しないといけないか・・・」
「まぁ魔術師なら一定の許容量があればできる事だやってやろう」
そう言うと少女はどこからもなく取り出した短い杖を片手に集中しだした
「いまから体に起きることに抵抗するでないぞ」
「何が何だかわからないが分かった」
最初は手足からだった、だんだんと体の熱が手のひらから腕へ、腕から胸へしばらくすると体から何か熱く感じるものは心臓付近から抜けていく感覚に陥った
「終わったぞ、どうだ気分は?」
「なんだかずいぶんと頭が楽になりました、いったい何を?」
「そなたは体の魔力が外からは入りやすく、中からは出にくくなっておったのでなちょいと魔力を操作して抜いてやったのじゃよ」
「それにしても大した奴じゃの、ふつうは魔力をあれだけ抜かれたら動けなくなるものじゃが」
「いや逆にすごく体が楽になった」
「魔力量が桁外れだからこその弊害かの?」
「まぁいいかでは、そろそろ契約の時間じゃな」
「それなんだが、やっぱりその私より適任がきっといるのでそちらのほうを」
「まぁ時間もないのでな・・・運が悪かったと思って諦めてくれ」
「それにお主このままでは結局死ぬまでそのままだぞ」
「・・・ですが、」
「拒否権はない、では一緒に行こうではないか」
「まっ待ってくださいカステラという甘味に興味はございませんか?」
「なんだそれ?美味なのかの?」
「とてもおいしいですよ、少し待っていてくれれば準備しますが」
「せっかくじゃ、ごちそうになろう」
今にもファンタジーな世界に連れていかれそうだったが何とか貴重な時間を捻出することに成功した
「今準備するので漫画でも読んでてください」
「おう、そうじゃったこの書物に書いてある魔術の解析もしなければ」
運よく更なる時間も捻出することができこのまま何とかしてしまいたいところだ
「まだその続きがあるのだが・・・」
「是非とも閲覧したい!!」
「わかった」
カステラと今度は牛乳をおいて時間稼ぎを考える〇〇だった