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変態紳士!ジェウォーダン・ラ・ベート登場

変態ロリペド野郎許すまじ。

 今年の10月も、例に漏れず期間限定で暴れまわる不届きな輩が都内を混乱に陥れていたのだ!


 その名も。

 ジェウォーダン・ラ・ベート。

 通称、ラ・ベートと略されて呼ばれている。

 そして、またの名を、変態紳士。変態野獣。

 それは何故かというと。

 なんと、少女たちの衣服または制服を刃で引き裂いてその羞恥に反応して赤らむ顔を見て楽しむという、大変に許し難い破廉恥極まる、まさに不埒な悪行三昧な愉快犯であったのだ。そして今日も、この変態紳士は電柱の影から獲物を物色中であった。

 その当の野獣の格好はというと。

 全身を白銀メッキのプロテクターに身を包み、犬とも狼ともとれるデザインのフルフェイスのマスクと、紳士のハーフマントは銀色に。それから極めつけは、逆立つ体毛を連想させるかのように放射状に尖って立つ装飾は、まさに刃であった。しかし、全身が白銀メッキのためか、白昼の太陽光を反射して(まばゆ)くてたまらない。それゆえか、むしろ目立って目立って仕方がないのだった。

「ヤングなジャポジェンヌは相変わらず美しいですね~、セヴォン。こうして見ているだけでもパリに咲く可憐な華々に重なって、大変メルベイユーですね~、シルブプレー」

 などとなにやら小声で語り出したではないか。

「嗚呼、見ているだけでも絶頂しそうですよセヴォン。嗚呼、絶好調に絶頂しそうでたまりませんね~。嗚呼、ジュジュ、ジュテーム。ジュテーム。ジュテーム。―――愛でたくて愛でたくてジュジュ、ジュべジュべジュべべべ、ジュビジュビジュべべべー」

 なんという危険人物であろうか。

 まさに野放しの野獣。

 まさに破廉恥な紳士。

 嗚呼、恐ろしきラ・ベート!

「我慢できません!」

 そして、白銀の野獣は電柱の影から飛び出して、女子高生の前に立ちはだかったのだ。ひゃっと小さく驚いて立ち止まるJK―――じゃない、女子高生の三人。その三人ともに通常とは違う華を持っていたが、とくに真ん中の少女は桁違いであった。それゆえに、ラ・ベートは思わず思考停止して、見惚れていた。右側は、細かいロン毛の天然パーマに縁無し眼鏡の女子高生。左側は、勝ち気な眼差しをした、焦げ茶の髪を七三にフワリと分けた女子高生。そしてその真ん中は、薔薇にとまる揚羽蝶。家猫っぽい顔つきが感じられるのも、愛嬌がある。

 三人娘ともに、眩い変態紳士に目を細める。

「おおう……! なんという、なんという。皆さん揃ってビューティホー! ビューティホー!―――ヤングなジャポジェンヌとの出会いにメルシーですよ。ジュジュ、ジュテーム。ジュテーム」

 出会い頭に愛の告白とは、さすが変態紳士。

 小刻みに震えて興奮して小言を語るラ・ベートを見ていた三人娘のうち、左側の女子高生が真ん中の娘の背中と肩を押して、ゆっくりと前に突き出していくではないか。

「ほらほら、いきなり『愛しています』って告白されてきたわよ。良かったじゃない。その全身光り物の彼を受け入れて幸せになりなさいな」

「ちち、ちょっと八千代、貴女いきなりなにを云いだすのよ! この人見るからに変態じゃないのさ!あたしは御免よ。こんな怪しい人!」

 歯を剥いて踏ん張り拒絶する、揚羽蝶な女子高生。

「零華。この際、観念してそいつと付き合ってしまえ。お前、お見合い失敗したんだろ? 良かったじゃない」

 なんと、右側の天パー娘も八千代に加勢しだした。

「良くない! 良くない!―――絶ーーーっ対に良くない!」

 こんな三人の女子高生を見ていたラ・ベートはというと。

「皆さん、皆さん、大変ビューティホーで、ジュテームですよ。三人ともそのセーラー服を引き裂きたいですね~、セヴォン」

 どうやら、真ん中の揚羽蝶こと零華だけてはないようだ。

「ほらほら、聞いた? あの変態は皆さんってハッキリ云ったでしょ。八千代と麻実も入っているのよ!」

「マジか!」と、揃える二人の娘。

「ここはどうする。仲良く被害に遭うか、仲良く防衛するか」

「110番に決まっているじゃない」

「あたしも麻実に賛成。110番でしょ」

 麻実と八千代の裏切りに、息を飲む零華。

 納得しそうになるも、退かない揚羽蝶。

「それはとっても正常な判断よ。でもね、警察が現場に駆け付けるだけでもいったい何分かかると思っているの。その間に私たちはお嫁に行けない身体になってしまう危険があるんだからね!―――ヤられるくらいならば、徹底的に抵抗して華を散らすのよ。むしろ、ヤられる前にヤるのよ。先制攻撃して防衛してやればいいのよ!―――個別的自衛はOKでしょ!」

 おおっと。

 早口で捲し立ててきました揚羽蝶。

「一里あるわね」

「なるほど」

 納得する八千代と麻実。

 じゃあ一応110番しとくから、と、八千代は断った上でガラケー(ガラクタ携帯電話に非ず。ガラパゴス携帯電話の略称)をプリーツのポケットから取り出すなりに、国家権力へとかけていく。

「むーん。ジャポンのポリスに連絡とは、賢いですね~、セヴォン。しかし、ジャポンのポリスは殺人以外では何かと取り繕って犯人の逮捕は決して致しません。この間のアイドル傷害事件でも、被害者の目の前に危機があったとしても未然に防ごうという意志が無いという事実をジャポンのポリスは示してくれました。なので、我々にとっては天国です。例え、傷害事件が起こったとしても被害者が死ななければ逮捕しようとする気を起こさない、それがジャポンのポリスですよ~、シルブプレ?―――だから私におとなしく制服を引き裂かれてください。セヴォン」

「んまーーっ、御託を並べ立てちゃって。貴方がなにを云おうが、変態は変態に変わりないんだからね」

 変態野獣の講釈に鼻息を荒くして、零華は指を力強く差した。

「この変態、覚悟を決めなさい!―――先守」

 と、拳を引いて。

「先制!」

 拳を突き出した。

 捻りを利かせた、正拳突き。

 真っ直ぐに変態野獣の鳩尾を狙っていく。

「キュートな拳にキュンキュンきて絶好調に絶頂しそうですよ~、セヴォン。―――――オゴッ!」

 正拳の直撃に、ラ・ベートは一瞬呼吸困難になる。

 ―ホ、ホワイ? ミーのプロテクター越しにこの重さは、いったいなんザマス?――

「隙あり!」

「オゥイエッス!!」

 麻実の跳び足刀を顔面に喰らって、仰け反る野獣。

「もう一丁!」

「マイガッッ!」

 そして、八千代のドロップキックが胸元に突き刺さる。

 吹っ飛ばされた変態野獣は、背中から落ちるなりに、アスファルト舗装を転がっていき、地に伏せてしまった。予想を超えた女子高生三人組の連携プレーと、重い三連撃を受けてしまい、正直、痛さに呻き、驚愕していたラ・ベートであった。だからと言って、このまま寝ていては変態紳士の名が(すた)るというもの。それゆえに、ラ・ベートは意を決して力強く立ち上がってゆく。数多くの変態紳士の意志をその白銀の背中に背負って、変態野獣紳士は構えていった。

「ジュテームなヤングなジャポジェンヌたち。ミーの闘志に火を点けてしまいましたね~、セヴォン。これから、それ相応の闘いが展開されることを覚悟しておくと良いでしょう、シルブプレ?」

 “まずい”状況になったわね、と呟いた八千代の顔を、零華は「めんごメンゴ」と破顔一笑して見た。

 そして、白銀の変態野獣紳士は地を蹴って飛び出してきた。

 逆立つ体毛を連想させる、尖った各所の両腕のプロテクターが延びていき、刃物と化したのだ!


 ラ・ベートは本気だ。

 制服を引き裂く気満々だ。

 女子高生三人組に危機が迫る。

 いったいどうなるどうする!



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