ようやく真髄を理解した件
ユリウスが傷つけられては治し、また挑むという
訓練を続けて4年と数ヵ月が経過した。
毎日魔力が空っぽになるまで訓練していたので
魔力は凄まじい量になっており、またリシェルを
相手にしていたので、かなりの強さまで成長した。
だが
「...駄目だ、まったくわからん...」
ウルルとの約束の日が近付いてきているが、
ユリウスは未だに治癒魔法の事を完全に
理解できずにいた。
その為、訓練の合間や自由時間に本を
読んでヒントを得ようとしているが、
これといった情報を得ることは出来ずにいた。
「『わかりませんでした』
なんてウルルに言うのは簡単だけど...
折角の数少ない楽しみらしいし、ここはビシッと
正解を言ってやりたいな...」
ユリウスがそう言いながら椅子に座り、
本を読んでいると、とある項目に目が止まった。
『魔法の暴走について』
無理に強力な魔法を使おうとしたり、
魔法に過剰な魔力を注いだりすると起こりやすい
現象が魔法の暴走である。
暴走した魔法は術者の制御を失い、爆発したり
弾けたりする。
魔法の暴走として特に危険なのは治癒魔法の
暴走だ。
治癒魔法が暴走するときは爆発が起こることが
あるのは勿論だが、それ以上に恐ろしいことが
ある。
過去に起こった例を挙げると、身体中を火傷した者を
治癒魔法で治そうとしたとき、そのあまりにも
酷い火傷の状況に術者が焦ったのか、過剰な魔力を
流してしまった。
その結果、治癒魔法は暴走し、火傷を治すはずの
治癒魔法は逆に炎を発現させ、危うく患者と
共に死にかけたということがあった。
この時、術者が使ったのは火傷に効きやすい治癒魔法
であるが、殆どの怪我にそれなりに効くヒール系統の
魔法だと例え暴走しても周囲には癒しの力が
広がるだけなので被害は無い。
怪我によって使い分ける治癒魔法とヒール系統は
同じ治癒魔法であるにも関わらず、暴走したときの
効果がまったく違うという謎は未だに解明されて
いない。
「つまり...整理すると
・治癒魔法は暴走すると危ないよ。
・但しヒール系統なら暴走しても大丈夫。
・ヒール系統だけ贔屓の理由? 知らんわ
と...」
ユリウスは、目を閉じて考え、そして本を閉じ...
「なるほどわからん」
「何がだ?」
「うひゃいっ!?」
突然、後ろに現れたリシェルにユリウスは
驚き、裏返った声を出してしまった。
「なんだ師匠ですか...、驚かせないでくださいよ」
「驚かせるつもりはなかったんだが...ところで
何がわからないんだ?」
「えと...ここなんですが...」
ユリウスは先程まで読んでいた文章を指差した。
「あー、治癒魔法の暴走のことか。
私にもよくわからん。 治癒魔法で治そうとして
失敗して逆に悪化する効果を発現させるなんぞ
意味がわからん。 勿論、ヒール系統だけは
それがないということも含めてな」
「師匠は治癒魔法の暴走を見たことがありますか?」
「ああ、一度だけある。治癒魔法で火傷を治そうと...」
本での例えといい師匠の話といいどんだけ
火傷してんだよこの世界の人達は、という風に
ユリウスが思っていると
「―そんときに見たのは暴走して治癒魔法まるで
ファイアーボールみてぇなもんになったやつだ」
(...ファイアーボール?)
ファイアーボールとは火属性の魔法であり、
比較的簡単に発現させられる魔法で、
火属性に適性がある子供が最初に覚える魔法だ。
(まてよ...? ってことは...)
ユリウスは一つの考えに至った。
「っ! わかったぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
ユリウスは嬉しさのあまり椅子から立ち上がった。
「うわっ! うるせっ! いきなりどうしたんだ
ユリウス!」
リシェルが耳を塞ぎユリウスに先程の叫びの意味を
問いただそうとしたが
「師匠! 試したいことがあるんですが!!」
「試したいこと?」
「はい、それは―」
ユリウスの話を最後まで聞いたリシェルは
「...ははっ、なんだよそれ...ククッ...
もしそれが本当なら...」
堪えきれずにリシェルは笑いだした。
「っははははは!! おもしれぇ! 最高に面白い
じゃねぇか! よしわかった! 今すぐやるか!」
「はい!」
そして、ユリウスは実証をして、仮説が本当だった
ということを確かめたのだった。