シリアスは苦手な件
今、ユリウス達はとある食堂に来ていた。
理由は先ほどメルがお腹が空いたと言っていたのを
ユリウスが思い出し、さりげなく自分が空腹に
なったことにして、食堂へと誘った。
先程ユリウスは誤解は解いたはずなのだが、
何故かミシェルのユリウスを見る視線は
若干熱っぽく、レミナとユーリは、ミシェルを
警戒するように見ていた。
メルは相変わらず刺繍に夢中だった。
(な...なんか気まずい...なんでだ?)
自分が原因だとはわかっていないユリウス
だったが、とりあえず空気を変えようとして
ユリウスは喋りだした。
「そういえば、何故メルさんはそれほどまでに
ゼル・イビル...でしたっけ? が好きなんですか?」
メルはその質問を聞くと、満面の笑みを浮かべ
「それはね! 昔、助けてもらったことが
あるからなんだ!」
「「「えっ!?」」」
ユリウスと一緒にレミナとユーリまで
驚いた。
「だからかな、愛着が湧いたっていうか、
とにかく、蹂躙だとか狂暴だなんて言葉が
名前に使われてるけど、そんなことないの。
本当は強くて、優しい子なの」
「へぇ...、でも、好きなのはわかりましたが、
流石にあんなにベタベタされると、あの...
僕も一応男なので...その...」
「そ、そうです! ユリウスにはまだ
早いんです!」
「待ってレミナ、君の方がもっと凄いこと
してるからね?」
さりげなく過剰なスキンシップをしないように
ユリウスが告げると、メルは突然涙目になった。
「......えっ?」
「そうだよね...、いきなり迷惑だよね。
久し振りで、あまりにも似てて、思わず
舞い上がっちゃった...。
ごめんね、君の気持ちも考えずに...。
も、もうしないから...」
泣きながら酷く悲しそうに言うメルに
ユリウスは思わず
「うわぁぁぁぁぁぁ! ちょちょちょ!
ちょっと待ってください! 別にそこまでは...」
そこまで言ってユリウスは口を止めた
(あまりにも...似てて?)
先程彼女の言った言葉がユリウスの中で
ひっかかった。
(刺繍がゼル・イビルに似てたって
わけではないよな? だからって俺が
ゼル・イビルに似てたってこともないはずだ。
すると、俺がメルさんの知り合いに似ていて、
俺にその知り合いを重ねてるってことか?)
そこまでわかってしまえば話しは早かった。
ユリウスはメルの両肩に手を置くと
「メルさん、貴女がぼくにだれを重ねているのか
わかりません。 ですが、その人の代わりに
僕なんかがなれるのなら、僕をその方のように
扱ってください」
「ユリウス...君?」
メルは泣き止み、赤くなった顔を上にあげた。
「いいの...? 私は...」
遠慮するような発言をメルがする前に、
ユリウスはメルの口を手で塞いだ。
「そういうのはなしです。
俺だってこれでも男の子なんですよ?
女の子一人の願いくらい聞けますよ。
ドーンと頼ってください」
その言葉を聞くと、メルの目尻には再び涙が
溜まり始めた。
「...きっと、大きくなったら...君みたいに
立派で格好いい男の子になってたんだろうなぁ...」
そういうと、メルはユリウスに抱きつき、
その顔をユリウスの胸に沈めた。
「...クーちゃん...クーちゃん...!!
私のせいで...ごめんね...ごめんね...!!」
ユリウスは何も言わずにメルの頭を撫でた。
(きっと、そのクーちゃんって人が、
メルさんが俺と重ねてる人のことなんだろう。
ここまでメルさんに好かれてるんだ、一度
そのクーちゃんって人に会ってみたかったな)
クリス=デイビット
一人、森に入っていった姉のメル=デイビットを
心配して追いかけ、運悪く出会ってしまった
魔物から姉を庇い、5歳という若さでこの世を
去ったとても優しく、勇気ある少年であった。




