女神様と約束した件
「治癒...魔法?」
「そう、治癒魔法」
雄一の質問に笑顔で答えるウルル。
「いやいやいやいや! 確かに治癒魔法あれば
死ぬ確率は下がるかもしれないけどさ!
戦えないじゃん! 足引っ張るじゃん! 死ぬじゃん!
三拍子揃っちゃったじゃん!」
雄一は思わず声を多少荒げて発言してしまった。
「え? 何言ってるの?」
ウルルはわからないといった顔で雄一を見ていた。
「え?」
「治癒魔法はね...」
と言ったウルルは目を閉じ...
「―最強の魔法なんだよ」
「無理がありすぎるだろ」
目を開いて彼女は言ったが、雄一は信じられないと
いった様子だ。
「なんで? 治癒魔法って言えば起源にして頂点、
全てを司る最強の属性なのに...」
「はい?」
少なくとも雄一の知っている治癒魔法とはそんな
世界を滅ぼせそうな恐ろしい力は持っていない。
「起源にして頂点? 全てを司る?
それは一体どういう...」
「え? あっ...」
一瞬ウルルは何故理解出来ないのだろうか?といった
顔をしていたが、雄一の反応を見て一人で納得した。
「そっか...今じゃもうあの世界でこの事は
認知されてないか...それに、異世界の魔法につい
て雄一が知ってるわけがないし...」
「??」
どうやらウルル一人で解決したようで、雄一は
釈然としない顔をしていた。
「治癒魔法が強いってどういうことだ?
アレか? 自分に治癒魔法を永続的にかけとけば
戦闘中にほとんど死なない不死身の戦士に
なれるから...とか?」
その言葉を聞いたウルルは、チッチッと言いながら
人指し指を振った。
「まあ、そんな使い方もあるかもね、でも、
治癒魔法の真髄はそこじゃないんだよ」
「それじゃあ...一体...」
「それは教えないよ」
ニッコリと笑いながらウルルは言った。
「え?」
「折角の第二回目の人生だよ?
最初から自分に与えられた能力を全て理解してちゃ
つまらないでしょ?
だから..そうだなぁ...10歳になるまで期限をあげる。
それまでに治癒魔法の真髄を理解出来るように
頑張って。
それでそのときまでにわかってなかったら
私が教えてあげる」
でも、とウルルは続け
「それだけじゃつまらないからひとつルールを
付けよっか」
「ルール?」
「うん、そうだなぁ...、負けた方が勝った方の
言うことを出来る範囲で聞くってのはどう?」
「うへぇ...なんか面倒なルールだな...、
しかし、なんでこんな勝負事なんかを?」
「私はこう見えて馬鹿みたいに長い年月を
生きてるの、今となってはこんな役職について
やることなんてほとんどないし...ようするに
私は暇なんだよぉ...受けてくれないかなぁ...?」
ウルルは涙目で上目遣いをしながら雄一に
お願いした。
「ぐっ...、わかった! 受けよう...」
雄一のその返答を受けるとウルルは笑みを浮かべた。
「それでこそ、私の見込んだ人だよ!!」
「...ところで、勝負を約束したはいいけど、
どうやって10歳の時に会うんだ?」
「あ、それなら心配しないで、私が雄一君の
10歳の誕生日の日の夢に乗り込むから」
「そんなことできんのかよ...」
「当たり前! だって私、女神様だもの!!」
胸を張って、自慢気にウルルは答えた。
「まぁ、下界に干渉するわけだからかなり
疲れるんだけどね...」
アハハと笑いながらウルルは頬を指で掻いた。
「そうか...、ん? さて、じゃあ...そろそろ...か?」
そう言った雄一の身体は、徐々に薄くなり
始めていた。
「...もう行っちゃうの?」
ウルルが寂しそうな目で雄一を見た。
「おい待てそんな目で俺を見るな何か
悪いことしたような気分になるじゃないか
大体転生するタイミングの悪さは俺のせいじゃ...」
「クスっ...」
「え?」
雄一が早口で捲し立てていると、不意にウルルが
笑った。
「やっぱり、雄一君は面白いね、一緒に居て
退屈しないよ。 でも、今はもうお別れ、
また10年後に会おうね? 私のワガママに
付き合ってくれて嬉しいよ、ありがとう」
「ああ、じゃあな。 ありがとう。 ウルル」
雄一がそう言うと、ウルルは手を振りながら
「いってらっしゃい、雄一君!
君の二回目の人生に、幸多きことを祈ってるね!」