屋台が楽しみな件
あのあと、自己紹介は最後の人まで終了し、
デダイスが明日の予定を話して解散となった。
「さて、二人とも! 屋台行こうか!」
ユーリは席から立ち上がり、レミナとユリウスに
声をかけた。
「うん! ほら、ユリウスも、早く行きましょう?」
「わかりました」
ユリウスとレミナは走り始めたユーリを
追った。
「ちょっとユーリ!? 少し速すぎ...」
「僕達が自由に参加出来るこんなお祭り騒ぎ
滅多にないんだよ!? 早く行って楽しまないと
損だよ!!」
「確かにそうかもしれないけど...!
ユリウス! 貴方もいくらなんでも
急ぎすぎているとユーリを説得してください!」
「...たまにはこういうのもいいですね」
「ユリウスぅぅぅぅ!! この状況を
楽しまないでくださいぃぃぃぃ!!」
レミナが必死の思いでユーリを追いつくと、
ユーリの行く手に二人の男が立ちはだかっている
ことに気がついた。
「レミナ様とユーリ様で間違いないですね?」
「え? うん...そうだけど...」
「そうですか...なら...
悪いが一緒に来てもらおうか!」
二人の男はレミナとユーリに素早く手を
伸ばしたが、触れたと思ったとき、
すでに二人は後ろに下がっていた。
ユリウスの左右に抱えられて。
(うっげぇ、あっぶねぇ...。 一応警戒しといて
よかった...)
ユリウスは二人を降ろすと、男達に近付いた。
「...で? 何が目的なんですか?
場合によっては暴力に訴えざるを得ないのですが」
「聞いたか? 暴力に訴えるそうだぞ?」
「俺らを相手に邪魔をするなら殺すぞ?」
二人の俺は剣を抜いた。
「さぁ、もう一度聞こう。 邪魔をするなら
殺すぞ? どうする? 逃げるなら見なかったことに
しておいてやる」
「はぁ...そんなこと言われて逃げるとでも?」
「交渉決裂...だなぁ?」
二人の男は笑い、剣を構えてユリウスに向かって
飛び、左右から斬りかかった。
「ユリウス!」
「ユリウス君!」
二人の声が聞こえるが、ユリウスは一歩も
動かずにいた
「ふははは!! 今になって怖気づいたか!!」
「だがもう遅いぜ小僧!」
男達は笑いながらユリウスを斬ったが、
その顔からすぐに笑みが消えた。
「はは...嘘だろ...?」
「こりゃ...なんの冗談だ?」
ユリウスは腕で彼等の剣を受け止めていた。
ユリウスの腕は浅く切れているだけで、微量の
出血しかしていなかった。
「さて、正当防衛が成立しましたね」
ユリウスはそう言うと、腕の傷を治癒魔法で
治した。
「なぁ...!? テメェ! バケモンかよ!?」
「化け物なんて人聞きの悪いこと言わないで
ください。 これには種も仕掛けもあるんですから」
ユリウスは二人に切られる寸前に、体表数mmの
位置に"空気障壁"を展開していた。
そのあと剣の一撃が当たった瞬間に
風の魔法で斬られた位置を薄く切っておけば
体が驚くほど頑丈な人物の完成というわけだ。
「ちっ! ずらかるぞ!」
「精々運が良かったと思うんだな!!」
(敵わないと思って逃げたくせに何を
おめでたいことを言ってるんだろうか...)
そう思っていると、後ろからユーリとレミナが
走ってきた。
「ユリウス君! 腕は!? 大丈夫!?」
ユーリはユリウスの腕をペタペタと触って
怪我が無いか確かめている。
「ユリウス...私ー」
「レミナ様!」
レミナが何か言いかけたところに、
一人の赤い髪の青年が駆け寄ってきた。
「ケイン!?」
「ご無事ですか!?」
「ええ、大丈夫。 そこにいるユリウスが
守ってくれましたから」
レミナがそう言うとケインはユリウスを方を
振り向いた。
「...礼を言う。 ユリウスと言ったな?
ちょっと此方へ来てくれ」
「...? わかりました」
ケインの後ろに付いていくと、人目の付かない
ところにユリウスは招かれた。
「さて、本題に入る。 実は私は貴様の戦いを
見ていた」
「え?」
「無論、もしも危なくなったら助けるつもり
だったさ。 でも、その必要は無かったよう
だがな」
そう言うとケインは鋭い視線をユリウスに向けた。
「はっきりと言おう、私はお前が恩を売って
レミナ様の警戒心を下げようとしたのではないと
したのではないかと疑っている。
つまり、奴等が貴様とグルなのではないのかと
私は思っている」
「...え?」
突然の冤罪にユリウスは驚いた
「理由としては、最初に二人を助けたときだ。
奴等が現れるとわかっていないとあんなすぐに
助けることなど難しい。
そして、もうひとつ理由がある。
奴等の剣に貴様の血が付いていなかったことだ。
お前は多少なりとも怪我をしたはずなのにも
怪我をさせた凶器に血液が付着していないのは
怪しい」
(あ...、確かにこれなら俺でも少し疑うわ)
「何より私は汚いやり方を何度も見てきた。
貴様のことはレミナ様からよく聞いているが、
無償で善行をして相手の警戒心を無くすなど
よくある手法だ。
さて、今は何もしないがこれだけは言っておく。
レミナに害を及ぼす行為をしたら即刻殺す。
覚悟しておけ」
「肝に命じときます」
ユリウスは冤罪をかけられたことに
多少不満はあったが
(まあ仕方ないよなぁ、それにああいう人が
居るからこそ世界が成り立つんだよなぁ)
そう思いながらユリウスは二人の元へ戻った。




