筆記試験が余裕過ぎた件
リシェルに貰っていた資金で適当な宿屋に
泊まっていたユリウスは、ついに入学試験の日を
迎えた。
ユリウスは受付嬢からもらった地図を片手に
志望校に決めたディヴァイス学園へと向かった。
「そういえば...試験っつっても何をやるんだろ?
一応筆記用具は持ってきたが...。
ま、なんとかなるか」
深くは考えずにユリウスは学園へと向かった。
学園に近づくにつれて自分と同世代と思われる
人達が増えてきた。
「これ...全員試験受ける人なのか...。
本当に色々な人が居るな...」
庶民的な格好をしている者がいれば
贅沢な格好をした貴族もいて、中には
獣人も試験を受けに来ている。
「入学出来たらきっと楽しいんだろうな...。
ま、まずは合格しなくちゃなんねーけど」
一人でぶつぶつ言いながらも歩いていると、
ディヴァイス学園へ到着した。
校門を過ぎて校舎に着くと、案内板が
設置されていた。
案内板には、自分に割り振られた受験番号別に
向かう部屋が記されていた。
「えっと、俺は2階の第3試験室に行くのか」
案内板に従い、ユリウスは2階の第3試験室へと
向かった。
試験室に入ると、すでに何名かの試験者が
席についていた。
(席順は適当みたいだな...窓際にでも座るか)
ユリウスはそう思い、一番後ろの窓際の席に
座った。
しばらく座って待っている間に、どんどんと
試験者が入室してきて席が埋まっていく。
ユリウスが暇を堪えきれずに欠伸をしていると、
前の座席に一人の少女が着席した。
(...あれ? どっかで見たことあるような...)
目の前に座ったピンクの髪の少女はユリウスの方へ
振り向いた。
「やはり貴方はこの間の...あのときはありがとう
ございました」
「...あっ! 思い出した、先日の...」
「忘れていたんですか? やっぱり、不思議な人
ですね、貴方は」
クスッと笑いながらそう言われたユリウスは
その可愛さに顔を少し赤く染めた
(あれ!? この人こんなに可愛いかったっけ!?
いや、あんときは冒険者ギルド目指してたから
顔とかあんまり気にしてなかったからかも
しれないけど!!)
ユリウスが一人、頭を抱え唸っていると、
心配した少女がユリウスの顔を覗きこんだ
「あの...大丈夫ですか?」
覗きこむということは当然彼女は上目遣いになり、
ユリウスはそれを間近で見てしまった
「いやいやいや! もう全っ然!!
全然大丈夫なんで! 気にしないでください! 」
そうなんですか? と首を傾げながらも
少女は前を向いた。
(あんなん反則だろ...普通の男子だったら一発で
恋に落ちて振られるまであるぞ...)
ユリウスは熱くなった顔を手を団扇の代わりにして
パタパタと扇いだ。
(あれ? いつから俺はこんなにチョロく
なったんだ?)
そう考えている間にもどんどんと席が埋まっていき、
やがて全ての座席が埋まった。
そのまましばらく待っていると、一人の男性が
入室してきた。
「さて、私がお前らの試験管のモーガンだ。
よろしく頼む。 早速だが、筆記用具以外の物を
机の上からしまってくれ 」
モーガンは全員がしまったのを確認し、
テスト用紙を配り始めた。
「これで全員に行き渡ったな。 これより、
"ディヴァイス学園入学試験:筆記の部"を始める!!
さあ、とりかかれ!」
その言葉と共に、皆が問題を解き始めた。
ユリウスはテスト問題を見て思った
(ちょろい)
ユリウスがそう思ったのはリシェルが用意した
問題よりは格段に簡単だったからだ。
といっても、ファンタジーな要素に興味津々
だったユリウスが勉強をたくさんしたあまりに
テストを容易に解けるようになったユリウスを
見たリシェルが、問題のレベルを格段に上げて
理不尽な問題ばかり出していたというのも
あるだろうが。
(これなら筆記は余裕だな)
ただ理不尽な問題をやらされたユリウスが
異常なだけである。
「筆記試験終了! テスト用紙はそのまま
机の上に置いたままにしておいてくれればいい。
これから案内する待機室にて1時間の休憩を取る。
その間に昼食等を済ませて午後の実技に備えて
くれ」
試験官の声で皆が立ち上がり移動を始める。
(前世の高校受験なんかよりよっぽど
簡単だったな...数学に至ってはマジで
簡単すぎてちょっと笑ったわ)
ユリウスが考えながら皆が歩いている方に
着いていくと、待機室に到着した。
適当な席について、ユリウスはまた
考え始めた。
(筆記についてはほぼ満点っていっても
いいだろうな...となると問題は実技だ。
流石に両方出来てるとなると目立つ...。
実技っつーことは筆記と違って他の人の技も
見れるわけだ。 となると俺ができることは
俺の番が回ってくるまでにたくさんの人の
技を見てその平均くらいのものをやれば...)
ユリウスは自分の考えをまとめ
「完璧だな」
「何がですか?」
「ひゃい!?」
突然話しかけられたので、ユリウスは
驚いてしまった。
話しかけてきたのは先程のピンクの髪の少女
だった。
「フフッ...ごめんなさい...驚かせてしまった
ようで...」
彼女は口に手を当てて何かを堪えている。
「いや、貴女が笑いこらえてるのわかって
ますからね?」
「レミナです」
「は?」
「ですから、私の名前はレミナ。
レミナ・ノーツ です。 貴方は?」
ユリウスはそう聞かれてリシェルと決めた
苗字の設定を思い出しながら
「ユリウス・アーカイド」
「ユリウスさんですね? これからよろしく
お願いします」
そう言いながらレミナはユリウスに手を伸ばした。
「...まだ合格してませんし握手するのには
ちょっと早いんじゃいかなーなんて思ったり
するんですが...」
「フフッ...実は握手したくないとかだったりします?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるレミナに
うぐっ、とユリウスは息を詰まらせた。
「え? まさか本当に嫌でしたか?」
「あ、いや、そういうわけではなくてですね?
その...なんていうか女子に耐性がないから
あまり触れるのは避けたいなぁと...。
あと、視線が痛いので」
レミナが周りを見渡すと、こちらを見ていた
人達がぷいっとむこうを向いた。
「なるほど、そういうことですか...なら...」
そう言うと、レミナはユリウスの隣りに座り、
全員からの死角となる机の引き出しがある位置から
ユリウスに手を伸ばした。
「これなら見えないですし、大丈夫ですよ?」
(悪化したぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
隣りに座られてからというもの視線がさらに
痛くなってきたぁぁぁぁ!! 特に男子!!
お前らだって一歩間違えればこうなってたかも
しれないんだからな! 同情してくれよ!!)
ユリウスは心の中で嘆いたが、一旦落ち着いた。
「いや、でもさっきも言いましたけど
女子に触れるのはちょっと...」
そう言うとレミナはむっとした顔になり
ユリウスの手を掴んだ。
「っ!?」
「そんなことではこの先やっていけませんよ?
握手くらいは慣れませんと...ね?」
「う...、肝に銘じときます...」
もう目立たないってのは無理なのかなぁ...と
ユリウスは一人頭を抱えた。
主人公は基本的にオタク仲間(男子)を中心とした
人たちとしか会話をしていなかったので
女子に対する耐性があまりありません。
ただし耐性がどうでもなくなるような
緊急事態が起こった場合は普通に触れることも
あります。