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一話目にして死んでしまった件

彼、松井 雄一 は顔、学力、身体能力のどれを

取っても周囲の人物と何ら変わりのない

平凡な男子高校生だった。


唯一違う点を挙げるとするならば、多少オタク趣味が

あることと、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ

正義感が強い、そんな人物だった。


だからそんな平凡な彼は、今、目の前で起こっている

出来事に対して何も出来ずにいた。


彼が今居るのはゲームセンター。

たまにここに来て、一日中こもってゲームを

プレイすることを楽しんでいた。


だが、今となってはゲームセンターには

楽しげな雰囲気が一切無く、恐怖に包まれていた。


突然ゲームセンターに入ってきたナイフを持った

男が、近くに居る人を斬りつけ始めたのだ。


悲鳴が響き、血が床に広がっていくのを見た

彼等は逃げることしか出来なかった。


運悪く逃げ遅れた雄一は、ただゲームの筐体の裏に

隠れてやり過ごすことしか出来なかった。


(いずれここも見つかる...、早く逃げないと...!)


雄一がそう思っていたとき、男は雄一の隠れている

場所とは反対の場所へ向かった。


(ここだ...今しかない!)


決断した雄一の動きは速かった。

サッと筐体の裏から身を出すと、そのまま出口まで

駆け出した。


男が雄一に気がついたようだが、何故か

追ってこなかったので、雄一は全力で

出口まで駆け抜けようとした。


だが、追ってこなかったことを不思議に思った

雄一は後ろを見て気付いてしまった。


「あ...あぁ...」


男の前に恐怖に顔を染めた

一人の女子高校生が居ることを。


もしも彼以外の人物であれば、女子高校生を

哀れに思いながら、罪から逃れるように

逃げただろう。


だが、雄一は人より少しだけ正義感が強い。

その少しの正義感は、彼を動かすのには

充分なものだった。


震える足に鞭を打ち、男の元へと走って向かい、

思いきりタックルをかました。


「だらぁぁぁぁぁ!!」


「ぐおっ!?」


突然の強い衝撃に、男は倒れかけたが、持ち直して、

手に持っていたナイフで雄一を突き刺した。


「ぐぅ...ああぁぁぁぁぁぁ!?!!」


経験したことのない熱を帯びたような痛みが彼

を襲い、痛みのあまり意識が飛びかけた。


だが、彼が今倒れてしまっては近くに居る彼女は

どうなってしまうのか、想像するまでもなくわかる。

だから、彼は倒れるわけにはいかなかった。


雄一はナイフを引き抜こうとする男の手を掴み、

それに驚いた男がナイフから一瞬手を離した隙を

見逃さずに蹴りをお見舞いした。


「ぐぅっ....!?」


火事場の馬鹿力というものだろうか。

雄一の蹴りは普段の物とは比べ物にならない威力で

男の腹に命中し、男は後ろにあった筐体に背中から

叩きつけられた。


ナイフが男の手元に無くなった以上、あとは

逃げるだけだ。


「そこの人っ....早く逃げろ!!」


「でも...貴方、怪我をして...」


「こんくらいなら自力で走るくらいなら

ギリギリなんとかなる...!一緒に逃げるぞ!」


「...はい!」


雄一は刺された痛みに耐えつつ、逃げようとした。

だがそのとき、銃声が響き渡った。


「...え?」


隣で一緒に逃げていた女子高校生が雄一の方を見て

目を丸くしている。


正確には雄一の腹部を見ている。


その視線を雄一も追うと...


「...は?」


何かが貫通したような穴と、血が噴き出していた。

それに気付いたと同時に、雄一は体に力が

入らなくなり、その場に倒れた。

そして、刺っていたナイフは、倒れたときの衝撃で

さらに奥深くまで刺しこまれた。


「へへ...一応コイツを持ってきておいて正解

だったぜ...」


そう言った男の手には拳銃が握られていた。


「そんな...そんなっ...!!」


(はは...やっぱ俺なんかじゃ無理かぁ...)


薄れていく意識の中、雄一は自分の非力さを

心の中で嘆いていた。


「どうして...どうしてこんな酷いことを

するんですか.....?」


「殺すことが楽しいから、ただそれだけだ。

つーわけでお嬢さん、アンタにも死んでもらうよ」


その言葉を聞いて雄一の意識は覚醒した。


(自分の力の無さを嘆いてる場合じゃねぇ...

ここで俺が何もしなかったらこの人まで

死ぬことになるんだぞ...。嘆いてる暇があるなら....)


「立てよ...俺ぇぇぇぇぇぇ!!」


叫び声を上げて自分を奮い立たせた雄一は

ゆっくりと立ち上がった。


「なっ...!?」


「...どうせ...この怪我じゃ....、もう....助からない...

だか...ら...」


雄一は刺ったままだったナイフを引き抜いた。

強烈な痛みが走るが、それを我慢して男に

ゆっくりと歩み寄る。


「相討ちと...行こうぜ...殺人鬼さん...よぉ!!」


「お前!! 正気か!?」


男はそう言いながら雄一に対して銃弾を乱射するが、

ただならぬ気配の雄一に恐怖を感じているのか、

標準が合わず、銃弾が雄一に当たることはなかった。


「これで...俺も...アンタも...終わりだ...!!」


雄一がナイフを男の心臓に刺したのと、男が

撃った最後の一発が、雄一の心臓を捉えたのは

ほぼ同時のことだった。


こうして、彼、松井 雄一 の人生は幕を閉じた。

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