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理想の島/運命の赤い糸  作者: 大和香織子
第一章 はじまり
5/107

5

幸か不幸か外に出ると午前中の為前が見えるし、数メートル先も見える。ただ天候が悪い為海全体が黒く見える。


足の悪いお年寄りを先に避難させようにも何せ年寄りが大多数なのものだから我先にと言う人も溢れかえり、大混乱を起こしてしまっている。


「なにか浮けるような物を探すんだ」色々な声が聞えてくる。

「おばあさん逃げましょう?」絨毯席に座ったままでいるお年寄りにそう声を掛ける。

「わたしゃ足が痛くてね、八十歳まで生きたんだからいいんだよ」そう言っておばあさんはにっこりと笑って、そこに座ったまま動こうとはしなかった。


 次第に船が傾き始める。

 人や物が、傾き始めた方へと滑り始めていく。下に落ちないようにしっかりと棒に捕まる。そして、落ちそうな人の手を引っ張ってこちらに引き寄せたりする。

船の片方が段々と海の中へ沈んでいく。

 

 こんな事ならお母さんの言うとおり、会社を無理やりやめてでも東京に行けば良かった。 お父さんお母さんを残して先に死ぬことなんて出来ない。

 沈みゆく人や船を見ながら、小さい頃両親にどれほど愛情を注いでもらったか走馬灯のようにして駆け巡る。


 涙が溢れて止まらない、せめて携帯で掛けようとするも、ここは電波が入っていない。


 それでも、もしかしたら読んでもらえるかもしれないとメール欄を開き、「お父さんお母さん沢山の愛をありがとう今まで幸せでした」そう入力する。


  段々と角度が大きくなっていき、ついに直角寸前になってしまった頃には全員で70人いた人数が船上には10人も満たなかった。

海面がものすごく下に見える。

とにかく振り落とされないようにしなければならない。

 隣のおばさんとは途中ではぐれたままで、どこにいるのか分からない。

 そして段々と私が立っている場所が海面へと近づいてき、ついには私の身も海面へと放り出されてしまった。

 荒い波が私の頭を覆い、呼吸をしようと上へ上へと一生懸命手で水を掻く。

 しかし、

呼吸が出来たと思えばまた波に飲み込まれ……。


 海面に頭を出しながら必死に捕まれるものを手で探り、私の手は何かを捕えて、そのお蔭で海面にしっかりと顔を出すことが出来た。

 雨に濡れ、冷たい海に放り出され体温が段々と低下していく。

 しかし、私は諦めずに、島に向かって泳ぐことにした。


 浮き輪もなくカナヅチな私が島まで泳げるはずなんてなく、海水で口の中がしょっぱい。思うように呼吸が出来ない、身体は最大限の疲労感を感じ、息苦しさで水をバシャバシャと全身で掻く、しかし身体は浮くどころか、ますます沈んでいく。激しい波がまるでモンスターの様にして、私の身体を飲み込む。呼吸が……息が出来ない。

苦しい、段々と意識が遠のいていく……。お父さんお母さん私を産んでくれてありがとう……。そして、私は死んでしまった……。




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