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理想の島/運命の赤い糸  作者: 大和香織子
第三章窮追
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11

タオルを水で濡らし上着を脱いでサッと血の付いた部分を拭く。

 鏡で乱れた自分の紙を整え、居間に行き名簿を開いて平園一の名前を探す。

平園一の名前を線で消す。  <残人口47名>


―――呂戸早紀江


 停電のままでテレビもつかんし、お父さんは帰ってこんし、この雨の中船が動かんようになってしまって、離島から出られんようになっとるんだろうか。

 それでも佳代子ちゃんが家に帰っていたんだからなあ。

 うちのお父さんの事だから誰かの家で酒でも呑んで宴会やらなんやらして大騒ぎでもしよるんだろうで?

 しょうがない人じゃ。

 ん?窓の外で誰かが通ったか?


「お父さん?」

しかし、返事はない。


まったくお父さん耳が遠いもんでな。

やっと帰ってきたか。

懐中電灯の電池をどこに収めたか聞かないとな。単四電池はあるけど単一電池どこにやったか?


玄関が開く音がしたが、ただ今も何も言わんでからに、何をしとるんだろうか。

「お父さん、帰ってきたか?単一電池がどこにあるか探してくれ」

うんともすんとも返事せんのだな。


酔っぱらって玄関先でそのまま倒れ込んで眠りよるんじゃなかろうね?まったく世話が妬ける人だけんの。

 机に手をついて、よっこいしょと立ち上がる。


 「お父さんそこで寝とるんか?」そういいながらゆっくりゆっくりと歩いて玄関先に向かう。

 しかし、そこにはお父さんの姿はなく、玄関はこの強い風の中開いたままになっている。


「なんねー?ドア位締めて電池探してけれ」

  その時、階段から新聞がバサッと落ちてきた。


「なんねー?新聞を投げつけんでもいいだろうに。停電でな電気が点かんのんよ、懐中電灯の電池が切れとるんよ」 全く返事ぐらいすればいいのに、難しい人だけんね。

 しっかりと壁の手すりにつかまりながら、玄関の段差を下りてそしてガラガラとドアを閉める。

 そして鍵を締めて、部屋の中に戻ろうとした時「なんで、そんな」

                   

           *


 銃口から出る煙をふーっと吹く。

 左耳に人差し指を入れ、ぶるっと頭を振る。階段をゆっくりと下りて呂戸早紀江の遺体に向かって「お父さんじゃなくて残念だったね」と言った。


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