10
―― 平園一
冷蔵庫から瓶ビールを取り出し、グラスについで呑みはじめる。停電で冷蔵庫も電源が切れていたが充分まだ冷えていた。
ガタン。
家の中の何かが床に落ちたような音がした。
音がした方を目で追う。外の風は強く、窓ガラスがガラガラと揺れている。
ガタン。
もう一度音がした。
「誰かいるのかー?」
瓶ビールを手に持ち、他の部屋を覗いて行く。
軋む(きしむ)廊下を進み風呂場名前に立ち、瓶ビールをしっかりと顔の前に握りしめ、そして一気に開ける。
そこには誰もいない。
ほっと一安心して別の部屋へと向かう。
仏間の前まで静かに息を潜めながら歩き、そしてふすまを勢いよくあける。
そこは静まり返って、荒らされている様子もなくいつもの部屋だった。
「なにをビビッているんだわしは」
肩に入っていた力が抜け、居間に戻り、もう一度酒を呑み始める。
部屋に置いてあった鞠が急に廊下の方に、まるで誰かがコロコロと投げて行くように転がっていった。
なんだ?
拾い上げようとして立ち上がった、その瞬間、後ろから何者か羽交い絞めにされてしまった。
「か、かよ……」息ができない。
*
平園一を羽交い絞めにし、左手で銃を、持ち出しそして左耳に向かって銃弾を一発放つ。
「あーあこんなに服を赤く汚したりして仕方のない人ですね」そう言って、平園一の身体を踏んづけて、箪笥の引き出しを開ける。
適当に服を選んで、自分の赤く染まった服を着替える。
上着は黒色で汚れてもすぐに拭ける生地にしておいて正解だった。さてタオルはどこだろうか。
洗面所へ向かいタオルを探す。
洗面所の前にある木製の箪笥の引き出しを覗く。
下着類が、数センチもずれることなく綺麗にずらりと並べてある。
他の引き出しをあると数枚ものフェイスタオルが入っているのだが、これもまた見事なまでに角は揃えてあり丁寧に畳んでしまってある。
ここの奥さんはキツイ性格できちんとしていて神経質そうな感じだったが、なるほど、その性格がこんな所にも出ているとは。




