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「いや、自衛官と言っても数年で退職してこっち帰ってきたわけだし」
「それにしても現役並みの筋肉ですね」
「まあな、毎日このチューブ使って鍛えているからな」そう言って満足そうに微笑んだ。
「今まで何をしていたんですか。一人で不安じゃありませんでしたか?」
「いや、大の大人が殺人鬼にビビッて何も出来ないようじゃあな。敵を自ら追いかけるような馬鹿な真似はしないが、それでも用意は必要だからな」
「それでこんなに包丁を並べているんですか?」
「いや、まあその方が安心だろう?」そこに置かれている包丁は出刃包丁から果物ナイフまで色々な種類の包丁が並べられていた。
「それじゃあもし自分が殺人鬼ですって言ったらどうします?」
「まさか。その時にはこんな包丁なんて使わないでも首の骨を折るさ」
「そんな。でも案外本当かもしれませんよ?何てね、冗談ですよ」そう言って二人でガハハと笑いあった。
「それにしても殺人鬼来ませんね。茂さんにはビビッて近づいてこないんでしょうね」
「まぁ、俺がこの島で一番力があるし強いからな」
「そうですよね。自分もそう思います。ところで筋肉触らせてもらえませんか?すごい固そうで」
「筋肉を?まあ腕の筋肉とかならな」そう言うと自慢げに茂さんはこんもりと膨らんだ上腕筋を見せつけた。
「失礼します」そう言って右の上腕筋を触り「固いですね。自分だけじゃなくもう一人誰かと一緒にぶら下がっても壊れなさそうですね」
「そうか?」随分と満足をした様子でその顔は誇らし気であった。
「腰の方とかどんな感じなんですか?背中とか見てみたいです」
「背中?背中はまぁ普通だと思うけど?」そう言って茂さんは上の服を脱ぎそして自分に背中を向けた。
「失礼します」そう言って自分は即座に引き金を引き上着から取り出すと尾下茂の頭を一発撃ち抜いた。
自分の耳の穴を左手人差し指を入れてグリグリとしながら「あ、あ」と自分の声がきちんと聞こえるかを確認する。
名簿を開き尾下茂の名前を線で消す。 <残人口52名>
軽トラックに乗り込み、次の家へと向かう。公民館の前を通り過ぎようとしたとき、三人ぐらいが固まって館内へと入って行く姿を捕らえた。




