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第二章 遠い記憶1
記憶一
幼い頃より自宅には大量の本が溢れかえっていた。
「どうしてこんな事もできないんだお前は」と言いながら父は机の上に置かれている汚れたままの皿を手に取ると母の身体目掛けて投げつける。
皿が宙を舞う瞬間に、自分の目に両手を当てて前が見えない様に覆い、そしてドンと鈍い音がした後にガチャンと音を立てる。それは皿が割れた音だと気がつく。
母は、ウッと痛そうな声をあげた後に、自分を別室へと連れて行き、「ここから出たらいけないよ」と言って、その辺に置かれていた本を適当に手に取り「これを読みなさい」と言って自分に手渡してきた。
そして、再び母は父のいる部屋に戻って行った。
まだ幼かった自分は、渡された本を手に持ったまま、布団を被った。ドアの向こうからは、「やめてください」と言う母の声が聞こえてくる。
そして、次の瞬間ガチャンともう一枚の皿が音を立てて割る音が聞こえてくる。
布団から出れずに、ただブルブルと震える事しか出来なかった。
翌日、目がさめると、母を心配してゆっくりと音を立てない様にドアを開けた。 片付けられていない飛び散った皿の残骸が足に刺さらない様にして避けながら母を捜した。
母は布団の上に仰向きで寝ていた。
乳房を隠すことなく、その姿は生まれたままの状態で、裸姿の母の隣には白いブリーフ一枚の姿の父がグーグーと鼾をかいて寝ている。そっと、母の元に近づき、母の鼻の所に指を近づける。
よかった。息をしている。安堵の表情を浮かべてから、また静かに自分が寝ている部屋に戻る。
両親に決して自分がここに確認しに来たことがばれない様にしながら……。
部屋に戻ると静かに本を読んだ。もともと自分の遊び相手は本を読む事で、戦記物からファンタジーそして推理小説、童話とジャンルを問わず色々な本を読んだ。
父はお酒を飲むと人格が変わり、まるで怪物の様に人が変わってしまう。
しかし、お酒を飲んでいない時の父は至って正常で「本屋に行こう」と言って必ず本を自分に買い与えてくれた。
近所の人には夫婦仲が良好のように見えていたのか、「いつも手を繋いで仲良しだわね良いことよ」と言われたときには耳を疑った。
自分の知っている両親の本当の姿は、家で見せる姿とは違うようで、自分はへんな違和感を覚えたし、もしかしたら自分が見聞きしている地獄の様な状況はそれこそ本の世界の中の様に違う世界を自分だけが見ているのだろうか、とさえ思った程だった。




