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こういう過去があったからこそ、ミツコがこんな事を始めるのは納得がいく。
アイツならやりかねないわよね。
そして覚悟を決めた。
調理室に向かい包丁を取り出しっかりと握りしめ、公民館を後にした。
風が強く吹き、飛ばされないようにしながら、隣にある一人暮らしの亡くなったヨネコさんの家に行き、ドアノブを回した。
この辺の人は家の鍵を掛けない人が多い。
ヨネコさんの家に勝手に上がり込み、室内を物色して少し小さめで寸足らずのカッパを来て、台所から包丁を二本取り出した。武器は多い方がいいわよね。
ヨネさんの家に掛けてあるショルダーバッグを拝借し、その中へ包丁を入れた。
「ヨネコさん借りますね」そう言ってヨネコさんの家を後にした。
ミツコは一体どこにいるのだろうか。
激しい憎悪が次第に強い殺意へと変わっていく。
よくもこれまで散々私の事を馬鹿にし、私の事を話題にして人との交流を深めてきたくせに、「佳代子は極悪人」だと!?
ふざけるな。
「佳代子ちゃんは仕事と結婚するけん寂しくないなあ」と、嫌味を言ってくるミツコの顔と言葉がぐるぐると身体中そして内面までを侵し、私の中の不完全だった黒い悪魔をついに完成させた。
多少はまだ残っていた最後の理性の糸がプツリと切れた音がした。
轟々と吹く強い風の中に私は身を投げ出し、そしてミツコの家へと向かった。
木は左右に激しく揺れ空き缶はコロコロとその辺を転がっている。
隣の家の銀さんの家においてある軽トラックに鍵がかけたままな事を確認するなり、それに乗り込むとミツコの家へと向かった。
ミツコの家が見えると少し離れたところに軽トラックを停め、包丁が入ったショルダーバッグを肩にかけそして静かにゆっくりとミツコの家へと忍び寄る。
ミツコの家の倉庫にあるカマを勝手に持ち出ししっかりと右手で握りしめた。
そして、裏側の方に屈んで周り、居間の様子を確認する。
そこには楽しそうに談笑するミツコとその取り巻き達の顔がある。
その顔を見た瞬間にヘドロがでそうになる。
随分と我慢して蓄積されてきた怒りが爆発寸前の所まで来ている。私の腹は煮えくり返る。




