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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第七章 アイリスでの決戦
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第六十五話 思想への覚悟

 アイリス城の最深部である広大フロアで対峙する上杉と村雨は、リレイズで最強と謳われる能力と『三種の神器』で互いの思想を叶える為の死闘が始まっていた。


 上杉が『神速』を使い村雨の間合いへ瞬時に入るが、それを見越して既に『聖なる青い剣』の血で己の周りの防御をまとめて迎え撃つ村雨の血の塊に、それを砕きながら進む事で余計な力を掛けさせられ本来のスピードを活かせずにいる。

 だが『神速』を上乗せする事で威力を増した上杉は血を砕き切り村雨の懐へ侵入し、互いの刃は乾いた甲高い音を立て火花を散らす。


「やっぱり、ヴィショップの時とは比べモンにならねぇ力だ!お前がなぜ侍になる事を渋ったかは知らねぇが、この力があれば間違いなくリレイズ最強の座は危なかったかも知れねぇな!」

「村雨!お前は・・・瀧見には、この事をどう話すつもりだ!」

「そんな事は今、関係ねぇな!俺は、命を掛けてリレイズ最強の座を巡る今の戦いを楽しみたいだけだ!」


 村雨の叫びと共に繰り出された水竜閃は、通常であれば水の膜を作り相手の攻撃を防ぐ防御魔法だが、接近戦でそれを使う事で強靭な水の膜を使い相手を弾き飛ばす攻撃として使う事で、二人の間に出来た水の膜が上杉を跳ね飛ばす。

 だが上杉も村雨の攻撃に備え『妖魔刀』のオーラを練り出していて、村雨の放った水竜閃は上杉の作った『妖魔刀』のオーラによって斬り裂かれる。


 上杉の想定していなかった攻撃に動揺を見せる村雨に息継ぐ間を与えず、上杉は『妖魔刀』を振り上げ村雨へ向かう。

 その時、村雨へ向け振り下ろした『妖魔刀』を受け止める『聖なる青い剣』との間に眩い閃光が走ると、二人はその光によって後方へ弾き飛ばされ、驚いた様子の上杉が叫ぶ。


「な、なんだ!一体!?」

「ふん、お前か・・・。邪魔するんじゃねぇよ!こう!」


 正体不明の攻撃に驚く上杉に対し、その攻撃を放った人物を特定し決闘に邪魔を入れられた事に激怒した村雨は、その人物に向け叫ぶその名はネクロマンサーのリーダである江で、江は鋭く睨む村雨に対し不気味な声で話す。


「でも、さっきのは正直危なかったじゃないかネ?」

「それで殺されれば俺の負けだ!」

「・・・それでは困るネ。私達は決闘をする為に『ムフタール』を待ち構えていた訳では無いネ。これはあくまで戦略であり、ここから先にお前達を通す訳にもいかないネ」


 江は術式の書いてある右腕をローブから出すと、上杉の足下が突然クレーターのように陥没をし始め、それに合わせ上杉の体には強力な重りを背負わされ押し潰されそうな感覚に襲われる。


「くっ!!重力操作魔法か」

「これは私の得意な無属性魔法ネ。他の魔法で相殺する事は不可能ネ!」


 自身の体に圧し掛かる強烈な力と感じ苦痛の表情の上杉の前に突如現れた人物がその手に持つ剣先を輝かせると、江が繰り出した重力操作魔法は効力を失い上杉の体は元の状態へ戻る。


「この能力は『属性吸収』。・・・バカな!私の『無属性』なら効かない筈ネ」

「・・・だが、私も『バウンダリー(境界)の破壊』によって覚醒した『ムフタール』の一人。何時までも自身の弱点を放って置く訳にはいかないのでな」

「小沢さん!」

「『属性吸収』は属性を属性で相殺する技で、『バウンダリー(境界)の破壊』によって編み出された無属性には効かない。だが、幾ら無属性とは言え、元を糺せば結局は魔力を使った魔法に過ぎない。そうであれば、魔力の波長を合わせればそれは可能だ」


 相手の魔法を相殺出来る能力を持つ人物が同じサイレンスの『属性吸収』の二つ名を持つ小沢だと上杉と江も気付いたが、その能力では通じない無属性が防がれた事に意表を突かれギョッとした表情の江へ語る小沢に、上杉は無事再開出来た喜びを見せるが再び神妙な表情へ戻る。


「小沢さん、カシミールは・・・、村雨の状況を知っているんですか」

「ああ、カシミールはそれを承知で兵を出しアイリスへ来た。・・・自国の英雄との対決する決意で」

「村雨、それでもお前はアイリスに加担するのか。お前がリレイズで作り上げたカシミールを自らの手で壊そうとしているんだぞ!」

「そんな事、俺の知ったこっちゃねぇよ・・・。カシミールなんて国はリレイズが出来た時からある国だ。作ったのは、あいつら『ゲームマスター』だろが」

「だけど、カシミール王は今まで数々の国ピンチを救い産業国としての基礎を作った、自国の英雄であるお前の突然の裏切りに酷く頭を痛めていた。」


 カシミールへアイリス討伐兵の嘆願を国王へ直接交渉を行った際に、カシミール十世は自国の英雄である村雨の今回取った行動に対し悩んだ末に今回の決戦を選んだ事を話すが、それは元のゲームの話だと小沢の言葉を突き離し話す村雨に剣を向けられ対峙する上杉は叫ぶ。


「お前の言う通り、カシミールは元々リレイズで存在していた国だ。だが、『バウンダリー(境界)の破壊』によって、この世界は私達の居た現実世界同様に存在する世界になった。そのキャラクター達であるカシミールの住民達はお前の事を国のヒーローだと言っているのは、純粋にお前がこれまでカシミールに対し行った行動への結果だからでは無いのか。お前が、これまでカシミールを『家族』として守って来たこその結果が今のカシミールだろう。・・・あの時、お前は俺達を『家族』と言ってくれた。この世界になってからは、繋がりのある人は全て『家族』だと思っている」

「俺の、この世界唯一の肉親が無事であればそれでいい・・・。ここからは俺の生き方でリレイズを生き抜く!」

「ふふふ・・・。それが、お前がミハエルに対する『恩返し』って事かネ?義理堅いと言うか、どうにも古風な男だナ」

「何とでも言え。俺にとっちゃ人生で大きな『しこり』だった物を排除したいだけだ」


 村雨の言葉を聞いた江は、彼がなぜ突然アイリスへ寝返る決意をしたのかを理解し、それを古風だと笑い話を続ける。


「ここは私に任せるネ、上杉以外のヤツはちょうとムスカで相手するネ」

「何!?張って、ヤツの事か!?」

「お前が驚くのは無理無いネ。だって、張はお前の手で殺されたのだからネ。だが、アイリスが開発した蘇生呪文『リレーション』で張は復活したネ」


 村雨に上杉以外の人物の相手をすると話した江の口から出た張の言葉に驚きの表情の上杉に、不気味な笑みを見せたと同時に以前に対峙した記憶のある不気味なオーラと魔剣『ホロゴースト』を持つ張が姿を現す。


「貴様とはシャーラでの戦い以来だな上杉」

「張・・・生き返ったのか?・・・いや、そんな事は不可能だ」

「今回は村雨の敬意に評して譲るが、リレイズ最強同士のぶつかり合いってのは真に楽しみだ。・・・しかし、代わりに貰った相手もそう悪くない相手だが」

「相手は『ゲームマスター』と『パラディン』と『至高の召喚士』ネ、お前達とこのフロアのアイリス軍なら十分勝負になるはずネ。・・・それに、ここに鮫島がいるって事は、恐らく菊池はやられたって事だネ」

「上杉との決着も着けたいが、『ゲームマスター』に菊池を倒した『至高の召喚士』であれば相手にとっては不足無しって所か。ムスカ、貴様に『パラディ』は任せる」

「簡単に言いますが、私は貴方達と違い最強を名乗る冒険者達では無いのですがね・・・。お前達!我がアイリスの神に誓いヤツらを倒すぞ!」


 江の言葉に多少の不満を持ちながらもムスカへ指示を出した張は、自身も持つホロゴーストから霊魂を瀧見へ向け放つと同時に、ムスカも自身の背丈の倍以上の長さを持つ深紅の鞭を辰巳へ向け攻撃しながら広大なフロアの奥へ移動し、そのムスカの行動と

 と共に辰巳も剣を構え鞭の攻撃を返し、鮫島は大勢のアイリス兵を相手に術紙を出しながらフロア奥へ移動する。


 自身が殺した筈の張の姿に動揺が残る上杉に、江は『妖魔刀』が村雨の『聖なる青い剣』と交差している隙にシャインムーブで間合いを詰め上杉にアンセムを放つ。

 だがその閃光は上杉の手前で消され、それと同時に現れた小沢の姿に江は小沢の想像以上のスピードに驚く。


「貴様・・・。私のシャインムーブについて来られる魔法もスピードも無い筈なのに、なゼ」

「なぜだろうな。・・・なぜだか、これからお前がしようとした事が手に取るように分かったからかな!」


 小沢の予想外の動きに動揺した事で動きの鈍った江に気付いた小沢は魔法剣を繰り出し、江はその光る剣の特性を即座に見抜きファイヤーボムを作り出しそれを受け止めると、互いの波長の合った魔法が二人の間で激しくぶつかり合い弾かれた炎の破片がフロア中へ飛び散る。

 その様子を村雨と剣を交えながらも気にしている上杉に、小沢は今まで見せた事の無い笑顔で叫ぶように上杉へ話す。


「上杉、ここは私に任せろ!私はアイリスの神と清水にお前達を・・・『家族』を守る事を誓った。そして、お前の思想確かに聞いた。・・・私は、お前の仲間で良かった」

「小沢さん・・・」

「村雨を倒せ!その先にあるのが例えお前の望まない未来だったとしても、それはお前自身が信じて進んで来た思想だ。・・・なら、それは決して間違った事では無いし、私もその現実と共に向き合おう!」

「貴様ごときに私が倒せると思っているのかネ。いくら覚醒し『ムフタール』の資格を得たとは言え、『バウンダリー(境界)の破壊』を事前に知っていた私達に敵うと思てるのかネ?」

「・・・やはり、お前達がこの世界を作った張本人って訳か」


 上杉達と共にこの世界で生きる事を誓った小沢は江と決戦する事を話すと、その言葉に『バウンダリー(境界)の破壊』を実施したのは自身だと不気味な笑みと共に語る江は話を続ける。


「『ルシフェル』を、リレイズの製作者『ゲームマスター』へ売り込んだのは私ネ。そして鮫島 春樹に代わり担当したミハエルと共に『バウンダリー(境界)の破壊』に備え事前にアイリスで準備を行い、『ルシフェル』から回収した『負のエネルギー』を使い新しい魔法や法則を作たネ」

「・・・やはり、『ルシフェル』を作ったのはお前達か」


 互いの魔力が全て散り再び間合いを取った江が『ルシフェル』を放ったのは自身とミハエルだと話すと、ある程度想定した答えに納得いく表情の小沢を見た江はその不気味な笑みのまま話す。


「・・・だが、貴様達は『ルシフェル』の『負のエネルギー』の意味を完全に理解しているのカ?」

「『負のエネルギー』の意味?」

「そうさ!『負のエネルギー』は人間が持つ心の闇の事を指し、『ルシフェル』はそのエネルギーを回収し蓄積する為の装置なのサ!」

「人間の闇を回収する装置だと」

「表向きは電波を直接脳へ送る事でゲームの世界をヘッドマウントディスプレイ無しで体験出来る未来的装置だが、『ルシフェル』の真の正体は世界を『上書き』する事で不要な人間を全て抹消し『負のエネルギー』を回収して、リレイズの世界に『シャングリラ(理想郷)』築く事ネ!」

「・・・お間達は、その目的の為に数十億の人間を殺したと言う事なのか!?」


 江の口から語られた『バウンダリー(境界)の破壊』の真実を知った小沢は、驚きと同時に一個人の目的の為に世界中を巻き込んだその計画に憤りを覚えると同時に、己の剣に再び魔力を込め江へ斬りかかるが、先程同様にその特性を即座に見抜いた江は同じ波長の魔法を繰り出し魔法剣を相殺する。


「はーはっはっは!貴様に私が倒せないと言った理由はこれネ!『属性吸収』は確かに脅威だが、所詮はカウンター攻撃の賜物ネ。こちらから魔法攻撃を繰り出さなければ貴様の能力は使えまい」

「だが、それはお前も同じ。攻撃出来ないのであれば幾ら『ウィザード』でも接近戦が出来ない魔法使いなら私の方が有利だ」

「それはどうかネ?」


 言葉に直接攻撃であれば自身が有利だと話す小沢に、江は高笑いした表情のまま両手に魔法を作り出し向かって来る。

 小沢の考える予想外の行動に一瞬驚きを見せたが即座に『属性吸収』を発動しその攻撃を止めに入ったが、小沢の能力をすり抜けたその魔法は小沢の体に直撃し激しく後方へ飛ばされる。


「・・・バカな、『属性吸収』が効かないなんて」

「タネを教えても貴様には回避不能だから、冥土の土産に教えてあげるネ。私は魔法では無く『魔力』を放出する事が出来るネ」

「魔力だって・・・」


 江の言葉に最初は戸惑いを見せた小沢だったが、自身の体に受けた魔法の跡が想定していた火炎系では無く氷系を受けていた事で江の言葉に合点が行き神妙な表情になり、その表情で小沢が全てを理解したと感じた江は話を続ける。


「魔力とは魔法を放つ為に必要な自身のエネルギーネ。私はそれを自在に表に出す事が出来て、かつ形や属性を変える事が出来るネ」

「・・・そうか、お前はあの時・・・」

「そう、表面上に出していたのは火炎系だったが、私はそれを偽装しその裏には逆属性の氷系を作っていたネ!感じ取る事しか出来ない貴様では裏に隠れた真の属性に気付く事は出来ないネ。だからと言って、次に繰り出される攻撃に勘で挑んでも駄目ネ。私は直前に属性を変える事も可能だからネ」

「くっ!・・・」

「はーっはっはっは!これこそ、相性が悪かったとしか言えないネ!」


 高笑いした江が両手に魔力を集め再び小沢へ向かって来るが、その属性を判断出来たとしても直前に変えられる事が真実であれば『ウィザード』に魔法勝負では分が悪いと小沢は感じるが、その間を与えないとばかりに江はシャインムーブを使い瞬間移動で小沢の間合いへ入る。


「捉えたネ!!」


 江は閃光魔法で作った光る手刀で小沢の首を捉えると、その高速の動きの為小沢の首からは血が噴き出す前に江の手によって小沢の頭部は遥か彼方へ飛ばされる。


 だが、実際に斬った江にはその感触が残らず、逆に心の中に不気味な違和感だけが残っている事に気付いた瞬間、周りの景色が不気味な深紅に染まると同時に自身の背後に凍りつくような恐ろしい気配を感じ、額に大量の汗を浮かべながら江は背後を振り向く。


「これは幻術・・・しまった!貴様、なぜここにいル・・・」


 江の背後に居たのは同じ人間とは思えない赤い瞳をした人物が自身の能力である瞳術で江に幻術を掛けていた。


「江・・・、久しぶりだな」

「貴様はあの時、・・・ラムダで島と共に消えた筈じゃ・・・」

「お前、本当にあの程度で僕が殺せると思っていたのかい?この世界を作った『ゲームマスター』にして、リレイズの全てを作った僕を」


 江と小沢の前に現れたのはラムダ島でミハエルと江によって殺されたと思われていた鮫島 春樹で、鮫島 春樹は『裁きの目』を使い小沢が斬られる寸前に江に術を掛けていて、『裁きの目』により幻術の世界へ送られ事に気付き驚きの表情の江に鮫島 春樹は話し出す。


「以前は良い話を聞かせて貰ったよ。それに、残りの『負のエネルギー』で蘇生魔法を作り上げた事もな」

「だが、私を殺せばその術を操れる者はいなくなるネ!『リプレイス』同様に『リレーション』も覚えた人間しか使えない魔法ネ!」

「江よ、お前の話す事には一点違う所がある」

「何!?」


 鮫島 春樹の言葉に、江は自身が死ねば開発した魔法が消滅すると話すと、その事に興味を示さないように鮫島 春樹はため息を付き話を続ける。


「『リプレイス』は、多分使えるのはお前しかいないだろうが、あの魔法はリスクがあり、あくまで戦争のみでしか使い道がない。だけど、『リレーション』は人を蘇生させる事が出来て使い道が多い魔法だ」

「何が言いたいネ!」

「・・・冥土の土産に教えてやろう。ヤツは・・・ミハエルは、お前に全てを託した訳ではないって事だ」

「何をでたらめヲ!『ルシフェル』は私が提案した装置で、ミハエルには必要事項しか教えていない。貴様こそ、この開発に関わっていない分際で何が分かル!?」

「ミハエルが僕より勝る能力は、その特性を見抜き自分の物にする事。確かに、僕は『ルシフェル』の全てを知らないし、『バウンダリー(境界)の破壊』だってお前に聞かされるまで真実は知らなかった。・・・だが、僕も新しいシステムを組み込むのに確認をしない訳じゃないから『ルシフェル』は独自で解析し、その目的も大よそ理解していたから『ムフタール』を集める事を最優先にしたが、それでもお前の話す構造とミハエルの想定している構造にズレが見えるのは確かだ。・・・だから、僕はお前の話す真実に驚いた」


 ミハエルの開発スキルを知る鮫島 春樹は、ミハエルは江がひた隠しにていた『ルシフェル』の正体を『バウンダリー(境界)の破壊』以前に気付き別の企みを持っていると話し、その話に信憑性が無いと叫ぶ江に対し、自身も『ルシフェル』導入前に全てを把握していたと話す鮫島 春樹はミハエルと江の狙いにズレがある事を指摘すると、『ルシフェル』の全てを支配していたと考えていた江は鮫島 春樹の言葉に、これまでのミハエルの行動に心辺りがあったかのような驚きの表情を見せる。


「ミハエルはお前の考えている目的を全て理解して、かつ別の目的をこの『ルシフェル』に組み込んでいる。『死の領域』を使った他の目的をね・・・」

「ば、ばかな・・・。全てを支配したと思っていたリレイズの世界を、やはり貴様ら『ゲームマスター』に握られていたなんテ・・・」

「・・・そして、僕が掛けた瞳術はお前の『心』が折れた瞬間、お前はこの世界から消滅する・・・」

「ふふふふ・・・。構想から十年の年月を掛けた私の計画が、貴様ら『ゲームマスター』なんぞにあっさりと見破られるとはな・・・。我がアイリスよ・・・永・遠・・あ・・・れ」


 鮫島 春樹が江に掛けた瞳術は相手の精神を削り殺す残酷な術で、それを躊躇する事無く使ったのは次に訪れる同じ人間を殺す事に後れを取らない為の自身の覚悟でもあり、その精神攻撃により心を殺された江はボロボロのローブ同様に枯れ果てた姿となり現実世界へ戻り、その変わり果てた姿の亡骸に語りかける。


「・・・いや、お前の能力は僕達と違うステージであれば敵わなかった。・・・ただ、ゲームの世界で僕とタメを張るには、役不足だっただけだ・・・」

「・・・お前が、鮫島 春樹」

「君は小沢君かい?娘が世話になっている迷惑ついでに、娘達を助けてくれないか?」

「お前はどうするんだ!?」

「・・・僕は、僕にしか出来ない事をする。・・・それだけだ」

「ミハエルか・・・」

「『ゲームマスター』の暴走は僕達で止める。これは、リレイズを作った時に決めた僕達のルールだ。木村も向かっている筈だが、木村や瀧見にこの役回りをさせるには酷だと言う事だ。ここからは、リレイズを作り上げた者同士のけじめを着けに行って来る」


 鮫島 春樹の姿を初めて見た小沢は敵か味方かハッキリしない目の前の人物に警戒を示すが、小沢へ向け回復魔法を掛けながら自身の娘の力になって欲しいと話した鮫島 春樹は小沢の回復を確認し背を向け歩き出そうとするが、その姿に叫んだ小沢の言葉に鮫島 春樹は自身にしか解決出来ないと話しミハエルの元へ再び歩み始めた。


 鮫島達の戦闘が繰り広げられる広大なフロア内の中央にある扉の中では、江の指示によりアイリスを離れた筈のミハエルと仁王時と対峙するように現れた木村が一色触発の状況を迎えていた。


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