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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第七章 アイリスでの決戦
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第六十四話 影

 アイリス城内にある室内とは思えない程の広大な広さを誇る中央フロアにある階段の先のフロアでは、鮫島と瀧見、そして辰巳の三人が『軍師』菊池を倒しその先にいるアイリスの重鎮達の部屋を目指し走り出した。


 菊池を倒した決め手となった瀧見のメテオスラッシュは、その強大な威力を室内で放つ為に自身も威力を計算して放ってはいたが、落とされた隕石は菊池を直撃した中央フロア奥だけでは無く、その下の階層で対峙する木村と加須にも被害を与えた。


 だが、その衝撃は二人にとって静止した戦局を再び活性化させる為の切っ掛けに過ぎず、落とされた隕石の衝撃波によって無数に飛び散る宮廷の壁の欠片を背にしていた加須がその沈黙を破り去る。

 加須の手から放たれる見えざる糸は相手に絡みつき動きを封じる技で、それを受けた上杉は身動きが取れず危機を迎えていたが、その技の本質を知っているかのような木村は、魔力を込めた自身の剣を振りかざし、その剣は加須の見えない糸を意図も簡単に斬り裂く。


「私は、貴方を作ったミハエルと同じ『ゲームマスター』。貴方の構造も・・・そして、その正体も」

「・・・」


 木村の言葉にも変わらず無反応を見せる加須は、見えざる糸を宮廷の柱に向けると柱をもぎ取り、自身の手を振り抜く事で柱を木村目掛け放る。

 木村はその柱を造作も無くかわすと、加須は木村へ息つく暇を与えない程の感覚で柱を次々と投げつけると、痺れを切らしたかのような木村は避けず剣を振り下ろし次々と柱を斬り裂いて行く。


 だが幾つかの柱を切ったその時、それを隠れ蓑に間合いを詰めた加須が切り裂いた柱の後ろから突如現れると、加須は両手を振り上げ木村の死角から攻撃の見えない攻撃を繰り出す。

 だが、その攻撃にも動じる様子を見せない木村は右手を上げると加須は空中で動きを止め、やがて加須の手から見えなかった棒状の光が現れると木村はその光を握りつぶし叫ぶ。


「私にはそんな子供だましの攻撃は効きません。言った筈です、私は貴方の全てを知る人間だと」

「・・・」

「随分と遠回りな攻撃をする人だったのですね、ミハエル。・・・いえ、ミハエルの『影』!」


 木村は目の前の加須に対し同じ『ゲームマスター』のミハエルの名を叫ぶと、その真意を理解していると感じたのか沈黙を守り続けていた加須の顔を完全に覆っているローブのフードに手を当てる。


「・・・やはり、オマエはその事に気付いていたのか」

「貴方が作ったヘッドマウントディスプレイと、リレイズとの互換性プログラムを作ったのは私ですからね。アシメントリーとは、脳へ信号を送り込み現実世界では存在しない物をリレイズの世界で再現するシステム。それを別の器として作る事は、『ステータス操作』同様に当時のリレイズの世界では実現可能でした」

「だが、加須のアバター情報は実際にいたアイリス教の幹部の情報を使って作った物。そう簡単には解明できる筈では無かったが」

「それが、私達がこの世界へ転移した『バウンダリー(境界)の破壊』」の影響でしょうね。自分自身がリレイズの世界へ転移されたあの時から、この世界で私達同様に素性の知れないプレイヤーが現れている事に気付いたの。それは、現実通貨と同等にあるルディーの換金を狙ったBOTが殆どだったけど、目の前にいる貴方からはミハエルと同じオーラしか感じられない。それは私達『ゲームマスター』しか知らない事実。・・・でも、それはミハエル本人とは明らかに違うオーラ・・・まるで『影』に感じる」

「・・・やはり、オレは瀧見や鮫島 春樹以上にオマエの存在に以前から少なからず不安を抱いていた。オレの企むこの計画に支障を来たす人物としてな」


 先程までと違い流暢に会話をする加須に、木村はその人物がミハエルの分身だと確信し鞘から剣を構え戦闘態勢を取る。


 これまでの攻撃は様子見。 

 恐らく、これから繰り出される攻撃こそが真の加須であり、またミハエルの『影』でもあると木村は直感し、その様子を見た加須の口調は明らかに不気味に笑う様子が確認出来た。


「・・・いいだろう。菊池も死にアイリスの中軸の力が弱まった今、オレにはもうアイリスに用は無い。後はオレ自身の目的を達成させてもらう」


 両手で持つフードを下ろし加須の姿が露わになった時、その顔を見た木村は驚きの表情を見せる。

 その顔は木村の予想する人物と掛け離れた見た事のない人物であったが、先程までの会話から自身の推測は間違っていないと実感じていた分、その素顔に余計驚きを隠せずにいた。


「・・・貴方、一体何者・・・」

「まぁ、オマエの予想は間違ってはいない。・・・だが、オレの考える本当の計画は『リプレイス』のような簡易的な器に魂を納める事では無く、新しい戦闘兵器『人造人間』を再現する事だ」

「人造人間・・・」

「それも只の人間では無く『ステータス操作』によって生まれた完璧な戦闘兵器だよ!」


 ミハエルの叫びと共に加須は両手を前に出すと、まるで何かに飛ばされるかのように木村は後方へ弾き飛ばされるが、突如押される謎の力から抜け出す為に木村は既に『見透かしの目』を発動し加須がその攻撃を繰り出すタイミングを呼んでいた為、ギリギリでその力から解放され壁に叩きつけられる前に横へ倒れる。


「・・・そうだな。オマエの目は、相手の行動を読めるんだったな。だが、その目に関してはオレとしては一番恐れに足らぬ人物だ」


 加須は木村へ話した直後再び攻撃を繰り出すが、その攻撃は木村の目には何も映らない為に、木村はその攻撃をリムーブシールドで防ぐ。

 木村の『見透かしの目』は相手の目から情報を得る能力であり、相手が目を閉じればその情報を得る事が出来ず、瀧見や鮫島 春樹のような瞳術と比べて特性を知る相手には効果が薄い能力である事は、同じ『ゲームマスター』のミハエルだからこその知り得ている事実であった。


 自身の能力を封じられた木村は防御としては一番早く出せるリムーブシールドを選択したが、リムーブシールドはその場から動く事が出来ない為にスピードのある敵の第二攻撃に対しての効果は圧倒的に低く、加須は瞬時に移動し木村の死角から光の棒で攻撃を繰り出し、その棒が木村の脇を捉える。

 攻撃を受けた木村は口から吐血し、その様子に加須は目じりを険しく吊り上げ力を再び込めた表情で叫ぶ。


「死ね!!」


 接近戦であれば『見透かしの目』は意味を無くす。

 その作戦を取った加須に間違いは無かった。


 だが、木村が『ムフタール』として覚醒した事で得た真の能力を知らない加須には、木村の本当の目的が理解出来ずにいる。

 木村の狙いは覚醒した『見透かしの目』で相手の能力を知る事で、接近戦で勝利を確信した加須であれば間違いなく目を開けると考えた木村は、自身を犠牲に相手の『人造人間』の能力を見極めようとしていた。


 脇から襲い掛かる激痛に意識が跳びそうになりながらも必死に耐え加須を睨む木村に、それが最後の抵抗だと感じる加須は笑いながら話す。


「オマエはもうじき死ぬ、オレの『影』によってな!向こうへ言ったら鮫島 春樹によろしくな。ヤツもラムダ島と共に、オレの手によって葬ってやったよ!」

「・・・なら、貴方と一緒に鮫島 春樹の所へ行きましょうか・・・」

「戯言を!」


 木村の挑発に、加須は木村の脇に刺さる棒に渾身の力を込めたその時、それまで木村の脇を捉えていた筈の光の棒が気付かないうちに加須自身の胸部を捉えている事に気付き、意識が胸部に集中したと同時に加須のあらゆる場所から大量の血が噴き始める。


「な!?ば、ばかな。・・・どうやってこの光の正体を・・・」

「最初の攻撃では能力を使う事が出来なかったけど、私の目の本当の能力に貴方は気が付いていなかった・・・それだけ、よ・・・」


 互いに深手を負い仰向けに倒れるその姿は相打ちに見えたが、木村の放った加須の光は無数の針の形状で加須の体中に刺さり、加須は木村以上の深手を負っている。

 だが木村の傷も浅くは無く、相打ち覚悟で繰り出した最後の攻撃は見事に成功したが、その代償に木村自身も通常の回復では追いつかない程の深手を負っていた。


「相手の技の本質を見抜き弱点を見つけ、カウンター攻撃を掛ける。なるほど・・・、これがオマエの覚醒した能力、・・・と言う訳か・・・。だが、オマエの倒したオレはあくまで『影』に過ぎない。オレの記憶は本体であるミハエルにも通じ、次は同じ伝手は踏ま・・・ん・・・」


 木村の覚醒した能力を確認するかのように語る加須は、己がミハエルの影であり、この記憶は本体であるミハエルにも伝達済みだと語ると、加須は静かに息を引き取る。

 暫くの間回復に専念した木村は再び生気を取り戻し、まだ完治し切らない脇腹を押えながらゆっくりと立ちあがり朽ち果てた加須を見つめる。


「私の能力を見られたのは確かに痛いけど、それ以上にミハエルの企みが見えたのは大きいわ。ネクロマンサーのメンバーやアイリス兵の異常なまでの能力は、多分この『人造人間』に通じている。リレイズの世界を変えてしまった私達『ゲームマスター』は、ミハエルを倒す責任がある・・・。それと、『ルシフェル』の秘密も・・・」


 ミハエルの真の企みを知った木村は、同じ『ゲームマスター』として彼を止める責任があると呟くと、まだ完治しない脇を抑えながらゆっくりとした歩みで跡形も無くなった中央階段の残骸の上を進み始めた。



 最前線を進む上杉の前に突如現れた巨大な門が立ちはだかるフロアでは、その先がアイリスの重鎮達が控える事を伝えるかのように、上杉の目の前には軍を統率する村雨とムスカが行く手を遮る。


「村雨・・・。やっぱり噂は本当だったのか」

「何言ってるんだ?俺とお前は、リレイズの時から常にライバルとして敵対していた仲じゃねぇかよ?今更お手手つないで仲良くやりましょう、って考えていたのかよ」

「村雨!それはお前の本心じゃないよな?あの時・・・東の墓前で話した事は嘘じゃないだろ」

「だが、俺はこうとも言ったよな?また近いうちに戦おうってな。・・・まぁ、死なない程度ってのは無理だがな」


 村雨の手にある『聖なる青い剣』が深紅に染まる様子を見た上杉は、村雨の語る言葉に偽りの無い事と同時に説得は不可能な事を感じ、自身の妖刀『妖魔刀』を鞘から抜き戦闘態勢を取ると、後ろから上杉を追って来た辰巳・瀧見・鮫島が現れる。


「あれが、エスタークの村雨・・・」

「あんた!一緒に死闘を潜り抜けた『家族』をあっさり裏切るなんて!」

「・・・」


 真実を目のあたりにし言葉少ない辰巳に対し叫ぶ瀧見を横に、鮫島は上杉をみつめたまま無言を貫く。

 この状況で誰よりも辛いのは上杉自身だと感じていた鮫島は、これから始まる死闘を繰り広げるのであろう二人に掛ける言葉が見つからず、自身の一番大事な人を只見つめる事しか出来なかった。


 自身の娘でもある瀧見の態度を見た村雨の表情が一瞬変わったようにも上杉には見えたが、即座に目の前の敵に対し戦闘を仕掛ける形相へと変えた村雨は己の血を吸わせた『聖なる青い剣』を枝状に拡散させ口を開く。


「ギャラリーには別の相手を出してやるからよ。俺達は、気兼ね無く殺し合おうや!」

「村雨、お前がアイリスに着いた真意は正直分からない・・・。だが、リレイズを破滅させる事に加担するなら、例え友でも俺は俺の思想を貫く!」


 二人の会話が途切れた直後、上杉は『神速』を使い、村雨は『聖なる青い剣』の無数の血を硬化した塊を放ち始め、リレイズ史上最強と謳われた二人の決闘が始まる。


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