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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第七章 アイリスでの決戦
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第五十九話 意思を引き継ぐ者

 僅か数ヶ月の間に戦争が続いているオズマン大地は、雪に閉ざされる大陸としては思えない程、大地が見える荒れた土地へと変わっていた。


 少数精鋭でミリアを攻める予定だった菊池率いるアイリス軍に対し放った瀧見のメテオスラッシュにより殆どのアイリス軍は殲滅され、残されているのは僅かなプレイヤーのみとなっている。


 菊池に接近戦を挑み召喚を阻止しようとする木村と、鮫島を守りながら生き残りのプレイヤーとりょうと対峙する辰巳、そして鮫島から譲り受けた『雄鶏の杖』を構え蘇ったちょうと対峙する瀧見が、先ほどのメテオスラッシュにより全ての雪が解かされたオズマン大地で戦いを繰り広げている。


「何を考えているか知らんが、『雄鶏の杖』程度の補助でこの私のホロゴーストを止める事は出来ない」

「それは、どうかな!」


 瀧見が持つ三種の神器『雄鶏の杖』を見ながら挑発するちょうに、瀧見はそれを軽くかわすように軽快な口調で答え鮫島から受け取った『雄鶏の杖』を振り上げると、既に張のホロゴーストから放たれ襲い掛かる無数の霊魂を『浄天眼』で動きを見切り、霊魂の軌道に向け『雄鶏の杖』をかざす。

 杖から放たれた見た事の無い薄いオレンジ色に染まる閃光はプレイヤーの魔力を具現化したもので、それは並みのプレイヤーでは持ち続けるだけで魔力を枯渇してしまう魔性の杖を己の物にする程の魔力量を持つ瀧見が即興で編み出したオリジナルの技で、その閃光が無数に放射されホロゴーストが放った霊魂を包み込み消化するかのように霊魂を消し去り、残りの閃光は張へ目がけて向かって来るが、その攻撃に驚きを見せながら張はそれを紙一重でかわす。


「魔力の具現化だと?・・・貴様、その杖の攻撃は一体なんだ!?」

「だから言ったでしょ、あたしにとっての『雄鶏の杖』の使い方はこれが正しいのよ」


 三種の神器の中で魔法使いが使える武器として最強の位置に君臨するのが『雄鶏の杖』だったが、杖に吸収される魔力と引き換えに術者の魔法の威力を倍増させるその能力は、杖の精霊が吸収する魔法は威力増大と引き換えにするにはあまりにも膨大過ぎる為、『雄鶏の杖』を持つ事は『聖なる青い剣』や『妖魔刀』と違い、魔法使いとしてはある種のステータスとしてリレイズでは認識されていた。


 だが『ステータス操作』により膨大な魔力量を持つ瀧見の魔力は一般のプレイヤーとは比べ物にならない為、その膨大な瀧見の魔力を吸収し反応した杖が放ったその光は魔法補助的な効果では無く魔力を具現化し閃光と化し、無詠唱で放たれ威力も他の魔法と比べ物にならない程強力な最強の飛び道具となり放たれたその閃光は、どんな攻撃も反応する『無属性』攻撃として完成した。


 それは北洋の底でキリングと対戦した時にキリングが体内に留めている魔力を攻撃に変える事に気付き、キリング同様に膨大な魔力を持つ瀧見であれば『雄鶏の杖』で同様の攻撃が出来るのではないかと考えた鮫島の考えと、それを即座に理解した瀧見の絶妙なコンビプレーが生んだ結晶でもあった。


 『雄鶏の杖』を持つ瀧見の放つ想定外の攻撃の正体に気付いた菊池は、リプレイスを使えない現状でこのまま戦いを長引かせれば、元は奇襲攻撃用の少数精鋭の勢力では不利になると考え、先程までの好戦的な態度と違い木村から逃げるように距離を取り始め、近くで瀧見と対峙する張の所へ向かう。


「張、ここは一旦引くぞ。我々の目的はあくまでミリアへの奇襲攻撃であり、このままではミリア軍に気付かれるのも時間の問題だ」

「ああ?こんな魔法使いを倒すのに私一人で十分だ。貴様はそのロードに勝つ自信はないのか?」

「そうとは言っていない。我々は勝つ事が目的ではない、最終目的はアイリスがリレイズを制服する事であり、今回の我々の任務はミリアへの奇襲だ。貴様が戦いたいだけであれば、それはまた別の機会にしろ。これは、『軍師』として戦略的撤退だ」

「・・・分かりました」

「張は梁と残りのプレイヤーを連れて戻れ。すぐに私も戻る」

「そう簡単に逃がす訳内だろ!」


 菊池は張へ撤退を話し、一時はそれを渋る張に『軍師』としての命令として再び指示すると、菊池の命令に渋々了承した張は辰巳と対峙する梁の所へ移動し、それと同時に瀧見は張を逃がさないと『雄鶏の杖』から閃光を放ち張の足止めを行うが、その閃光を受け止めたのは菊池が召喚したヴィゾーヴニルの業火の壁だった。


「今度はあんたが相手かい?菊池さんよ!」

「ふん、さすがに『ゲームマスター』二人を相手にする程の力も無謀さも無いのでな」

「貴方のお陰で残りのアイリス軍は撤退しましたが、残された貴方は私達の相手をしなくては逃げる事は出来ませんよ」

「・・・それは、どうかな」


 アイリス軍が撤退する為に盾になった事で唯一残された形になった菊池は、二人の『ゲームマスター』と『パラディン』を前に普通であれば勝機の無いこの状況に絶望を感じる筈だが、その場面でも菊池は先程と変わらず冷静さを保ち続ける。

 余裕を見せる菊池に対し瀧見は即座に『雄鶏の杖』から閃光を作り出し菊池へ放つと、その閃光を菊池は避けるそぶりを一切見せず全てを己の体で受け止めた菊池の体には、無数に刺さる閃光により体の中心周りに無数の風穴を作り出し、菊池の口からは大量の血が飛び散る。


 だが菊池は冷静な表情を一切崩さず、術を放った瀧見を鋭く睨みつけながら大量の吐血をする口を開き叫ぶ。


「リプレイスは『負のエネルギー』が無くならない限り常に進化し続ける。今まで魂を入れる為の器を作らなくてはならなかったが、私はそれを幻術によって分身を作り出し魂の器を即座に作る事が可能なのだよ!」

「まさか、貴方は私の接近戦で従者を呼び出さなかったのでは無く、呼び出す事が出来なかっただけなの!?」

「・・・まぁ、半分正解、ってとこだな。術を作った人間、つまり私はその分身を何時でも作る事が出来て、何時でもリプレイスを使う事が出来るという訳だ。貴様との戦いの最中に私の器を変えた時点で四大従者を召喚出来る体では無かったと言う訳だ!」


 夥しい血の量を出しながら頭から崩れ去る寸前に叫ぶ菊池の言葉に、三人は驚きの表情で菊池を見つめる。


 実際にリプレイスを使うには多くの時間が必要になり、現在の研究ではそれが唯一の欠点となっている為アイリスは次の戦略を出来ずにいたのは確かだったが、術を開発した菊池自身は何時でもリプレイスを使える事で、その真実を隠しつつ術は何時でも使える事を敵である瀧見達へ植え付ける事に成功し、命の尽きた分身の菊池はその場で力尽きると亡骸は敗となり風と共に消え去る。


 そして菊池を盾にする事で同時に撤退したアイリス軍も完全に姿を消し、瀧見達はそれ以上の追撃する事は不可能になった。


「・・・まっ、あんた達と別れてから、あたしがミリアへ戻る迄の話はそんな感じよ」


 アイリス軍が去ったオズマン大地に残された四人は、鮫島の体調を考慮しその場でキャンプを行い、瀧見は木村が上杉達と別れたミリア以降に起きた出来事を二人に話し、二人は上杉達がリレイズを攻略した事は噂では聞いていた為、『バウンダリー(境界)の破壊』を止めたのは上杉達だとは薄々感じていたので瀧見の話の内容をすぐに理解出来たが、瀧見が次に話し出した自身の仮説に木村は耳を疑う。


「まぁ、これは断言出来る事じゃ無いけどね・・・。今回『アングレア』を使った場所は中央大陸の中心部、それはアイリスの領地である筈なのに誰にも邪魔される事は無かった。今回みたいに戦略に少しでも狂いがあれば即次の手を打つ慎重派のアイリスがだ。あたしが思うに、『アングレア』で『ルシフェル』を破壊する事はアイリスにとって好都合だったんじゃないかって思っているんだよ」

「瀧見さんは、『バウンダリー(境界)の破壊』が止まるのはアイリスには想定内であり、むしろ都合の良い結果だったと言うのですか?」

「確かに・・・、自分の領地で何かやっていればアイリスが気付かない訳ないですしね」

「もしかすると、『ルシフェル』はあたし達が考えている事とは全く別の目的があったかも知れない。それは『ゲームマスター』のあたし達も知らない真実が・・・」


 瀧見の仮説に木村と辰巳は納得するように話すと、続けて瀧見は『ルシフェル』の本来の目的が別にあり、それはプレイヤーはおろか『ゲームマスター』でさえも知りえない事だと話す。


「・・・ですが、『ルシフェル』はリレイズを現実世界と『上書き』させる為の転移装置に過ぎないのではないのですか?」

「鮫島、大丈夫なのかい?」

「ええ・・・、皆さんのお陰で体調はある程度戻りました。瀧見さんの話す『ルシフェル』の本来の目的は今回の『バウンダリー(境界)の破壊』で完結していないと言うのであれば、『ルシフェル』を打ち上げた目的はその電波を利用した別の目的があると言うのですか」

「あたしは、それがリプレイスだと思っているんだ。上杉やあたしが研究してもリレイズの世界では実現出来なかった、存在する要素を組み合わせた創造では不可能な人体構成に関わる魔法を開発出来た要因がそこにあるとあたしは思っている。『ルシフェル』の放つ電波は人体の脳に直接映像を送れるのであれば、それを使えば人体の一部を奪う事だって可能だろう」

「人体の一部を、・・・ですか」

「・・・そう、もしそれが可能であれば、あたしなら人体の中で一番神秘で有効活用が出来そうな部分である『命』を奪う事を考えるわね」

「瀧見さんは、それがリプレイスを作り出した要素だと言うのですか」

「この世界に居ない人間の事を考えれば、その仮説はある程度確証があるって訳よ・・・」

「リレイズのIDを持たない人間と転移後に死んだ人間の事、ですか・・・」


 瀧見の話す仮説に疑問を持ち起き出した鮫島は、『ルシフェル』はリレイズの製作者を騙し現実世界と入れ替える事が目的だったのではないかと話すと、瀧見は鮫島の話す電波放射は『バウンダリー(境界)の破壊』を起こし現実世界と『上書き』する事以外に目的があると話し、それがアイリスの使った『ゲームマスター』でも実現出来なかった人体構造に迫る魔法リプレイスであれば自身の考える仮説が立証出来ると考え、それはリレイズのIDを持たない者や転生後に死んだプレイヤーの末路を言っているのかと木村は質問すると、重たそうな口調で瀧見は答える。


「これはあたしの仮説にすぎないが、『ルシフェル』を打ち上げた本当の目的は現実世界の『上書き』ではなくて、それによって消された現実世界の方だったのかも知れない・・・、と」

「アイリスが本当に欲しがっていたのはリレイズの世界ではなくて、『上書き』され消された元の世界って事ですか。そんな恐ろしい事が現実に・・・」

「全てを操れる人間であれば・・・あたしが同じ立場であればそちらを考えるね。リレイズのゲーム人口は約数十万人に対して、世界人口は約七十億だからね。命の天秤であれば圧倒的なのは確かだからね・・・。おそらく『バウンダリー(境界)の破壊』によって約七十億人の人が犠牲になったのではなく、何かの目的によって犠牲になったと考える方が『ルシフェル』を使った目的に筋が通る感じはするね」


 瀧見の仮説に反論の余地のない三人はその重い空気に押し潰され言葉が出せずにいたが、その空気を作り出した張本人である瀧見はその空気を嫌うかのように再び口を開く。


「多分『バウンダリー(境界)の破壊』を止めた事で元の世界は二度と戻って来ない。・・・だからあたし達はこの世界で生きる以上、自分で未来を作って行かなきゃいけない、・・・それが、アイツが・・・川上があたし達に残した意思だろ?生まれ変わったらまた人間としてリレイズの世界で生きたいと思わせる世界を作る事だろう。だったら、その意思を継ぐ為に妨げとなる物は倒さなきゃならない。・・・それが、このリレイズの世界だ」


 瀧見の言葉にいち早く反応したのは木村で、『瞑目の薬』を使いこうへ達向かった川上が語った最後の言葉を思い出した木村は瀧見が話し終えた直後、座っていた地面より腰を浮かせ決意を込めた表情を見せ立ち上がる。


「・・・行きましょう。ここからイスバールへ戻るには時間が掛かり過ぎますから、私達はミリアからこの世界を変えて行くべきです」

「イスバールへは上杉君達が向かっている筈ですから、イスバールは必ずアイリス討伐へ立ち上がってくれる筈です」

「・・・そうだね。あたし達には時間が無い、イスバールを信じてミリアからアイリスを討伐しようじゃないか」

「私も今回の戦いで気付きました。この世界の未来は自ら切り開いて作って行くしかない事を。私も微力ながら協力します」


 力強く話す木村に連れられるように鮫島は回復し切っていない体に鞭を打ちよろめきながらも立ち上がり話すと、続けて瀧見と辰巳も立ち上がる。


 こうして、二人の『ゲームマスター』と『パラディ』『至高の召喚士』が手を組み、ミリアからアイリスへ向かうミリア軍を作り上げる為に立ちあがり、打倒アイリスの流れが始まる。


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