第五十話 心の扉
上杉達と別行動を取った鮫島は、一人『転職の聖地』と言われるカサードにいる。
ここへ来た目的は自身の基礎能力の向上を狙っての訪問で、以前清水が『カーン道場』で鍛錬を積む事で転職せずに自身の能力を向上させた話を頼りにカーン道場の前までやって来た。
上杉には手紙を書く事で己の誓いを述べた鮫島であったが、本当にこれで自身の能力を向上する事が出来るのか今も不安を抱き続けカーン道場の前で暫く立ち止まったままの鮫島に、この道場で訓練を行っている『辰巳』が鮫島の存在に気付く。
「どうかしましたか?それとも入門希望の方ですか?」
「え!あ、あ、べ、別にそう言った者では無いのですが・・・。」
「あなた・・・、一体何が目的ですか。」
道場の入口で怪しい程の動揺を見せる鮫島に不信感を抱く辰巳は厳しい視線を送り、その二人の姿を見たこの道場の主であるカーンが話しかける。
「お前さん達、何を門の前でもめているのじゃ?」
「師匠!この女怪しいです!」
「え、え、え!別に怪しい者ではありません・・・。私は、清水さんの紹介でお話をしたくて参りまして・・・。」
「えっ!清水さん!?」
「・・・ほぅ、久々に聞く名前じゃの。あやつは元気かの?」
「はい、清水さんはリレイズ討伐メンバーに参加し活躍されました。今は別行動でイスバールへ向かっています。」
「えっ!君達がリレイズを!?」
「・・・なるほど、お前さん達がリレイズを倒した冒険者かの。」
清水の名前を聞き懐かしそうな表情で話すカーンに、鮫島は清水がリレイズを討伐したメンバーの一人だったと話すと、続けざまに驚く事しか出来ずにいる辰巳の横で、大量に蓄えた白髭をさすりながらカーンは話を続ける。
「・・・お前さんの目的は転職ではないな。お前さんなら、この道場の入門も高級職業への転職条件も既に満たしておるが、召喚士が転職すれば四大従者は次の職へ引き継ぐ事できん事を知らない筈はないじゃろう。それに、お前さん程の召喚士であれば、既に高級職業にも匹敵する実力を持っている筈じゃしな。・・・いや、それ以上、かの。」
「四大従者って・・・、君は一体何者なのですか!?」
「なぜ、私が四大従者を持っている事を知っているのですか。」
「ま、この業界に長く関わると分かるもんじゃよ。」
召喚士が転職をする場合は、四大従者を次の職へ引き継ぐ事は出来ない。
それはリレイズでの転職に対するペナルティの一つで、他の職業も同様に転職の際はその職業の最強の魔法や技を引き継げない。
しかし、日が浅いとはいえ勤勉な鮫島がそれを知らない筈は無く、四大従者を二体も従える召喚士であればリレイズでは最強に近い実力の持ち主とも言え、それは同時に転職がデメリットになる事を示す。
だが、それよりも予知能力に近いカーンの発言に驚きながらも、鮫島はカーンの質問に答える。
「カーンさんの言う通りで、ここへ来た目的は転職の為の修行ではありません。四大従者を召喚する時間を延ばす為に、私自身の魔力量を上げる修行をしたいと考えここへ来ました。」
「・・・なるほど、魔力の絶対量とな。」
清水がカーン道場を訪れた時、転職ではなく己の竜派を知る事で炎竜派奥義を極める修行をカーンに教わった事を聞いた鮫島は、清水から聞いた話と先程のカーンの人を見る能力を見た事で、自身の考えていた目的のヒントを与えてくれる人物はカーンしか居ないと確信した鮫島はカーンへ嘆願する。
その話を聞いたカーンは白髭を摩りながら暫く黙り込んだ後、言葉を探り出すように口を開く。
「・・・お前さん、名前は?」
「あ、申し遅れました。私は鮫島と申します。」
「鮫島よ、お前さんの考えは間違ってはいないのだが少し的が外れておる。」
「・・・と、言いますと。」
「確かに、従者を呼び出すのは魔法同様に魔力が必要じゃ。だが、呼び出した従者をこの世界へ留めさせる為には魔力ではなく『心』が必要なのじゃ。」
「心、ですか・・・。」
なぜ自身の持つ従者を知りながら初めて会った人間のように名前を聞いたカーンに、頭を少し傾け腰まで伸びた長い黒髪を揺らしながら困惑気味の鮫島姿を、優しい表情で見つめるカーンは話を続ける。
「心とは己自身の精神との繋がりの事を示していて、その先に魔力や体力が存在すると考えればよい。言わば『命』と同類の物じゃな。・・・お前さんリレイズの戦いの時に二体同時に従者を呼び出したりはしていないだろうな?」
「い、いいえ・・・、リヴァイアサンとウロボロスを同時に呼び出しましたけど。でも、すぐに魔力が尽きた感覚に襲われて倒れてしまいましたが・・・。」
「リヴァイアサンとウロボロスって・・・。」
「なるほどな・・・。」
四大従者持つ召喚士自体がレアな存在の為、それを二体も召喚した鮫島の話を聞いた辰巳が驚きの表情で話す横で、先程までの優しい表情から険しい表情へと変わったカーンは口を開く。
「鮫島よ、上位従者の二体召喚は己の『心』への負担は大きく、ましてや四大従者の二体召喚は己の命を削る行為となる。リレイズを倒す事はそれ程までの戦闘だったとは言わずとも分かるが、お前さんの行ったそれは禁術に近い行為であり、今後無暗に使わない事を誓ってくれ。そうすれば『心』に関してお前さんに説いてやってもいい。」
「あ、はい・・・。ごめんなさい・・・。」
その険しい表情に驚く鮫島は謝りながら返事をすると、再び優しい目に戻ったカーンは話を続ける。
「分かってくれれば良い。・・・リレイズとの戦闘で無傷では帰れないのはワシも良く分かる。だが、リミットを知らない状態での無理と危険を知ってからの無理とはまた別で、これを使う時は仲間を思うが故の最後の手段だと思ってくれれば良い・・・。」
「・・・あの時、私の力が無いから一人の仲間を失う事になりました。目の前で一緒に戦った人間が無残に死んで行く様を見ていられなかったから・・・。」
「・・・もう良い、辛い事を思い出させて悪かったの。とりあえず道場へ来なさい。」
うな垂れるように落ち込む鮫島を見たカーンは、優しい声で鮫島を道場へ招き入れ話の続きを始める。
『バウンダリー(境界)の破壊』後の混乱の影響もあり、三大高級職業専門の道場とは言え、今まであれば必ず数人の訓練生を抱えていた道場も、現在修行するのは辰巳のみで、春の陽気を感じさせるこの時期でも人気のない道場内は冷たく、歩く廊下の床から足元を伝わりその温度が体に伝わって来る。
道場の訓練場である畳の引かれた広い部屋へ案内された鮫島は、対面で正座を始めるカーンと辰巳に続き腰を下ろすと、軽く胸に息を集め吐いたカーンがおもむろに口を開く。
「先ほども話したように、お前さんの実力を見る限り道場への入門資格は全く問題無い。それどころか、ワシから『推薦者』として招き入れたい程じゃな。」
「し、師匠!鮫島さんを推薦者として招き入れるのですか!?」
「そうじゃ。召喚士としては最強の冒険者にしてリレイズを討伐した人物だ、しない理由はない。だが、お前さんの要望する修行をさせる事は出来ん、それは理解出来たじゃろ?」
「はい、従者を召喚し続けるには魔力量では無く『心』が必要ですが、そもそも上位従者を複数呼び出す行為は禁術に当たる行為と言う事でした。」
「そうじゃ。従者を召喚するには魔力が必要じゃが、それを維持するには『心』が必要で、その仕組みを理解出来れば従者を長時間召喚し続ける事も可能じゃが、普通の従者であれば複数召喚しても枯渇する事など有り得ん。・・・ましてや、四大従者を複数召喚する事もな。」
召喚士は他の魔法使いと違い、魔力以外に『心』が必要だとカーンは説く。
だが召喚した従者は、例え長時間の戦闘でも術者が死なない限り消滅する事など無く、リレイズでも『心』に関してはプレイヤー間でも知られていない部分である。
だが鮫島程の召喚士となれば話は別で、以前シャーラでの戦闘で菊池が三体の従者を召喚し消滅した理由は魔力の枯渇により従者が消えたと考えられていたが、菊池が脱出時にムーブポイントを使った事から、あの時点では菊池の魔力は枯渇しておらず、従者が消えた本当の理由は上位従者の複数召喚による『心』の枯渇が考えられる。
カーンの話しを聞いた鮫島は菊池と戦ったあの時の状況を思い出し、あの時の本当の原因が菊池の『心』のキャパを超えコントロール出来なくなった事で従者が消えたのだと理解し、そしてケルピーとゲートキーパーとの対戦時に自身が行った二体召喚後の体の異変が魔力ではなく『心』の枯渇だった事を同時に理解する。
「では、その『心』を鍛えるにはどのようにすればいいのですか。」
「鮫島よ、二体召喚を行った時の気分とかを詳細に覚えておるか?」
「・・・はい、魔力が枯渇した時と同様のダルさと脱力感、・・・そして『眩暈』・・・ですか。」
鮫島が二体召喚を行った時の体の変化を覚えている部分を聞き出したカーンは、最後に出た『眩暈』を聞き口元を緩ませる。
「四大従者を従える召喚士であるから当然の事じゃろうが、お前さんは優秀な冒険者じゃの。良くぞそこまで戦闘中に己を分析し記憶しておった。そう、その『眩暈』こそがお前さんの『心』の限界値じゃよ。」
「『心』の限界値、ですか。」
「それは普通の冒険者であれば経験しない現象で、禁術である上位従者を複数召喚以外では有り得ない症状じゃ。じゃが、お前さんのような短期間で異常なスピードで頭角を現した者も例外で、この世界の経験に合わない従者を持つ冒険者はそれが起こりうる可能性はある。」
「・・・私が、例外ですか?」
鮫島 春樹の計らいもあったが、今の鮫島はリレイズの召喚士としては最強の称号を持つ存在であり、菊池ですら数年掛けて従者にした四大従者を僅か一年足らずで二体も手に入れた鮫島のレベルが低い訳はなく、鮫島の魔力は四大従者を呼ぶには問題の無いレベルにある。
だが『心』に関しては、現実世界同様にリレイズの世界と言う慣れない環境に対する『心』へのストレスは経験により慣らす必要があり、短期間で異例な成長を遂げた鮫島には、リレイズの世界での経験不足が『心』が追い付いていない理由だと話すカーンに、鮫島がその克服法を訪ねると、眉間にしわを寄せ少し難しい表情になったカーンは答える。
「これを克服すにはこの世界での経験が不可欠で、こればっかりはどうにもならん。・・・じゃが、荒療法ではあるが『心』を鍛えられるかも知れない方法が一つだけある。」
「その方法は!?」
カーンが話す可能性に鮫島は食い入るように前へ出ると、少し困惑気味の表情のカーンは暫く間を置いた後、再び険しい表情で鮫島に話す。
「じゃがな鮫島よ、今のお前さんの『心』のリミットは四大従者をこの世界に留めるには申し分ない程ある。だから無理にリミットを引き上げる必要はないのじゃよ。・・・また二体の四大従者を同時に呼び出さない限り、な。」
リレイズの経験が少ないとは言え、鮫島の『心』は既に召喚士として問題無く、これ以上の引き上げは複数召喚を行う以外に必要無く、これ以上は禁術を使うための行為となり『心』のリミットを引き上げる必要が無いと話すカーンに、鮫島は先程までの聞き手に回る表情とは一変し、決意を秘めた真剣な表情を見せ話す。
「私は『ゲームマスター』の娘として、この世界を止める為にリレイズの世界へ来ました。例え以前と違い不死の体で無くなっても身を挺して私達を守ってくれた仲間の為にも、私は大切な仲間を守れる存在でありたいと思っています。・・・それが、命を賭けて私達を守ってくれた東さんや眠り続ける川上さんへの償いだと、私なりに考え抜いた思想です。」
人が無残に死ぬなど現実世界では有り得ないような現実を目の辺りにした鮫島は、上杉にその心を打ち明かし守られる幸せも感じたあの時から大切な人を守りたいと己の誓い単独行動をする決意をした。
鮫島はあの時の東の死を忘れられないのは真実であったが、大切な仲間を失う恐ろしさと同時に自身の大切な人間を失った時の絶望が、ここ数日鮫島の脳裏を襲い続けている。
・・・もう、だれも失いたくない。
大切な人を守りたい。
それを防げるのであれば、己の命など惜しくない。
前のめりになり懸命に自身の思想を語る鮫島の真っすぐ純粋な瞳を目の辺りにしたカーンは、その真摯さに心打たれ根負けしたかのように大きなため息をつき、ゆっくりと話し始める。
「・・・そうか、お前さんは鮫島 春樹の娘じゃったのか。・・・いずれこの世界中を巻き込む戦いが起きた時、命の駆け引きになる場面は必ず来るかも知れぬのは確かじゃ。だが、複数召喚は己の命を削る事だけは心して置くようにして欲しい。」
「・・・はい。」
「・・・『心』とは、魔力同様に精神の事を指し、体力であり魔力でもある。すなわち二つは別の系統であるが繋がる先は一緒で、魔力を枯渇しても死なないのは『心の扉』によって『心』のリミットが設けられているからじゃ。」
「・・・カーンさんが言いたいのは、『魔力』を枯渇する事は『心』も枯渇すると言う事ですか。」
カーンの話す事はリレイズでは誰もが知る常識の範囲である事で、経験の浅い鮫島にもそれは分かっている。
魔力が枯渇すれば体力を消耗したような脱力感を感じる事を既に経験している鮫島は、その事を話すのに躊躇したカーンの真意が理解出来ずにいる。
その話は既に理解していると言いたいような鮫島の言葉に、カーンは落ち着けと言わんばかりに暫く黙り込み再びゆっくりと口を開く。
「・・・鮫島よ、お前さんの言いたい事は分かる。『魔力』枯渇のシステムは既に知っておるだろうが、それは元を辿ればの話しであり、魔力枯渇時に体力低下と同様の症状が現れるが、その先にある『心の扉』からは先は魔力では無く人間本来の『心』のみが存在し、そこへ到達した時には『眩暈』が現れる。それは召喚士特有な症状と言う事じゃ。だが、『心の扉』の先にある『心』を引き出すには己の臨界点を超える事が必要なのだ。」
「・・・臨界点ですか。」
「体力が無くなればお前さん達は死ぬ事になる。だが、なぜ魔力が枯渇し魔法が使えない状態では人は死なない?それは『心の扉』により無意識にリミットが掛けられているからで、『心』を必要としない魔法使いには無縁であるが、召喚士が『心の扉』の先の『心』まで使い果たす事は魔力が体力と繋がっているこの世界では体力消耗同様に死ぬ事になる。『心の扉』を開き臨界点を見極める事で自身の『心』の限界点を引き上げる事が出来れば従者を複数呼び出す事も可能だが、見極めを間違えれば死ぬと言う事じゃ。」
「『心の扉』・・・。」
カーンの話す臨界点とは『心の扉』からの『心』であり、その先にある死の境界線の線引きが出来れば限界点を引き上げる事が出来るが、それを行う行為は失敗すれば己の死を意味する事も話す。
だがカーンの説明を聞き終えた鮫島は即座に立ち上がり、カーンに真剣な表情を見せる。
「カーンさん、その方法を教えてください!この世界を止める為にはその力が必要です。」
「方法は至って簡単な事じゃよ。ある道具を手に入れればいいだけ、・・・じゃがな。」
「ある道具、ですか?」
「強大な『魔力』を必要とする魔性のアイテム『雄鶏の杖』じゃよ。」
「・・・『雄鶏の杖』。」
カーンの話す名前に一瞬聞き覚えがある鮫島は即座にそのアイテムの事を思い出す。
雄鶏の杖。
それはリレイズに存在する『三種の神器』の一つで、持つ者の魔力を吸う魔性の武器。
上杉が持つ『妖魔刀』や村雨の『聖なる青い剣』のように使用者から何かを吸収する事で、それを攻撃に変えられる最強にして持ち手を選ぶ危険な武器でもある。
先のリレイズの戦いで村雨は『聖なる青い剣』に血を送り過ぎた為一時は生死を彷徨う状態になり、上杉のように特殊な形での契約では無い限り『三種の神器』を使う事は危険を伴う為、リレイズの世界でもその武器を扱った者は数える程しか存在していない。
『雄鶏の杖』は魔法使いが持てる最強の武器と言われ、杖の特殊効力の『魔力の付与』は唱える魔法の威力を自身の魔力次第で無限に上げる事が出来るが、杖に宿る精霊にも同時に付与する必要があり倍の魔力を消耗する事から『雄鶏の杖』のデメリットは膨大な魔力消費と言われている。
だが、膨大な魔力を消耗する事は逆に『心の扉』を開くには最も効果的なアイテムであるとカーンは語り、それを聞き合点の行った鮫島は即座に行動に移すべく『雄鶏の杖』の場所を教わろうとカーンへ話しかけるが、その質問を予想していたカーンは困惑した表情へ変わる。
「じゃがな、『雄鶏の杖』は現在行方不明でな。しかも杖を持つのはお前さん達冒険者でもなさそうなのじゃよ。」
「では、持っていると言うよりも行方が分からないと言う事ですか。」
「まぁ・・・そう言う事になるかの。」
『雄鶏の杖』を持てるのは冒険者であるプレイヤーのみで、キャラクターは持つ事が出来ない事を知る鮫島はなぜカーンが困惑の表情をしたのかを理解し、困惑の表情を変えずカーンもその答えに頷く。
手掛かりの無くなり先ほどまでの勢いが無くなった雰囲気の道場内で、突如鮫島は何かを閃いたかのように自身のステータスブックを広げると、父親である鮫島 春樹が己の為に残したメモを見始める。
鮫島 春樹の残したメモを一通り見て内容を把握していた鮫島であったが、殴り書きのような文章を全て覚えるのは難しく鮫島は暗号文のようにして覚えていたが、その中に『雄鶏の杖』とは関係の無い内容であった為カーンの話を聞くまで思い付きもしなかったキーワードが鮫島の頭に突如浮かび上がる。
『雄鶏の杖』が魔力を吸収するアイテムであれば、その中に秘める魔力は想像を絶する『魔力』を好む従者がいる事をメモに書いてあるのを鮫島は思い出す。
『霜の巨人キリング』。
己の生まれ持った魔力の影響で冷気を体内に留めていて、自身は魔法が使えないが体内の冷気を抑える為に膨大な魔力を必要とするモンスターの為、戦闘中に相手の魔力を奪う特殊攻撃を行う。
鮫島は父親の残した大量のメモの内容を覚えている一部分に、探している『雄鶏の杖』の手掛かりになるのではないかと考えた。
「カーンさん、手掛かりが無いのであれば心当たりのある場所を当たるしか無いと思っています。そこで、『霜の巨人キリング』の討伐へ行こうと思います。」
「キリングじゃと?・・・なるほど、お前さん鋭い所を突いて来たの。」
鮫島の話を聞いたカーンも一度はその話を聞いて我が耳を疑ったが、キリングの特性を思い出し、その意見もまんざらでは無い事に気づくと、『ゲームマスター』の娘と話した鮫島の名前を再度思い出しながらカーンはそばに居る辰巳に顔を向ける。
「手掛かりが無い状況であれば、そう言った要素から消して行くのが先決じゃからな。では、辰巳、お前さんも一緒に鮫島について行ってやりなされ。」
「えっ!わ、私もですか。」
「当然じゃろう、キリングはムルティプルパーティーに近いモンスターじゃ。鮫島とて一人では苦戦する相手じゃろうから、辰巳が壁役としてサポートしてやりなさい。」
「・・・はぁ、師匠がそう言われますのなら・・・。」
「鮫島よ、キリング相手ではお前さん一人では行かせる訳には行かん。だから辰巳と一緒に行くようにしてくれ。」
「それは私も大変有り難い話です。辰巳さん、よろしくお願いします。」
「あ、ああ、こちらこそ。私もまだ半人前であるが、君の役に立てるよう精一杯頑張らせてもらうよ。」
鮫島の挨拶に少々照れ気味の辰巳は返事をすると、カーンは立ち上がり二人に話す。
複数従者召喚を目指し修行をする決意だった鮫島は、カサードで訪ねたカーンに召喚の事実を教わり、従者を定着させる為に必要な『心』のリミットを引き上げる為『雄鶏の杖』を探しに、カーン道場修行生である辰巳と共に『霧の巨人キリング』を討伐しに向かう事になった。
それと同時に、カサードの南の一角では、この世界を変える重大な出来事が今起きようとしていた。




