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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第六章 リレイズでの選択
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第四十八話 冷徹のゲームマスター

 熱帯植物が生茂るジャングル奥地のようなこの地はアイリスが占拠したラムダ島で、この地はネクロマンサーのこうがアイリスへ嘆願し王に即位している。


 こうがラムダ島を収める事に躍起になっていた目的は、表向きには強力な飛び道具である鉄砲の製造と説明していたが、本来の目的は上空を飛ぶ『ルシフェル』の監視とプログラム内への潜入で、『ルシフェル』の影響でリレイズが現実世界と書き換えられた事を既に知っているこう達ネクロマンサーは、現実世界でエンジニアとして『ルシフェル』のシステムを売り込んだりゅうと共に『ルシフェル』から放射される電波の影響を受けない唯一のエリアがあるラムダ島で『ルシフェル』のシステムを乗っ取る為、この地で生活している。


 ラムダ島にはリレイズでは貴重な金属とルシフェルの電波を拾う為に必要な材料である『クリスタル』が存在し、ネクロマンサーはクリスタルを採取する為に鉄砲制作を隠れ蓑にメンバーであるりゅうが『ルシフェル』を操る為のアンテナとプログラムを制作している。


 りゅうが一人PCに向かう小さな小屋に一人の男性が訪れる。

 その人物を知っているかのように、りゅうは開かれる扉に背を向けCのモニタを見つめたまま口を開く。


「・・・どうした?お前がわざわざこんな所へ来るとは思わなかったぞ、鮫島 春樹。」


 それがりゅうの特殊能力かは分からないが、扉を開け無言で入って来た鮫島 春樹に対し驚きの表情を一切見せないどころか見向きもしないりゅうに鮫島 春樹は表情を変えず話しだす。


「・・・やはり、お前達も特殊能力を身に着けているらしいな。」

「まっ、お前達『ゲームマスター』だけの専売特許ではないって事だよ。」

「その能力を与えたのは『ミハエル』だな?」

「さぁ・・・、その質問には答える事は出来ないな。」


 鮫島 春樹と会話を始めたりゅうは質問に対し流すかのように返事をした後、座っていた椅子を後ろに引きおもむろに立ち上がり小さくため息をつく。


「・・・はぁ、せっかく調子が出て来た所だったのに・・・。」


 面倒臭そうに話すりゅうが立ち上がった瞬間、その場に居た筈のりゅうは姿を消すと鮫島 春樹の横から突如現れ右手に持つ短刀の刃を突き刺すと鮫島 春樹の首から大量の血が噴き出す。

 だが次の瞬間、鮫島 春樹も姿を消し、突き出した短刀は空を切っていた事に気付いたりゅうの後ろから鮫島 春樹が現れ話をする。


「僕は別に君達と争う為に来たんじゃないんだよ。ただ『ミハエル』の居場所を教えてくれればいいんだよ・・・。」

「・・・なるほど、それがお前の特殊能力って訳か。」

「っで、教える気はあるのかい?」

「確かに、私では『俊傑のプログラマー』を相手にするには荷が重すぎる。だから既に助っ人は読んである。」


 りゅうの背後を取る鮫島 春樹はロングコートから右腕を突き出し詠唱の準備をしながらミハエルの居場所を質問すると、りゅうは自身の代わりを用意していると話す。

 次の瞬間、鮫島 春樹の背後に冷たい殺気を感じ一瞬慌てた素振りを見せながら後ろを振り向くが、その殺気である程度の目星はついていた為その動揺は即座に消え冷静さを取り戻す。


「・・・『ミハエル』か。」


 外国人らしいブロンドの長髪を風に靡かせ鏡のように眩い鎧を身に付けたその人物は『ゲームマスター』の一人でありアステル社社長である『ミハエル』で、背後から現れたミハエルはそのまま鮫島 春樹の横を通り過ぎ大人並みの体格であるりゅうを片手だけで持ち上げると、ミハエルは細く冷たい目で鮫島 春樹を暫く見つめる。


 鮫島 春樹と並ぶヘッドマウントディスプレイを作ったアステル社社長『冷徹』『ミハエル』。


 リレイズではハード担当として鮫島 春樹と共にシステム全体の制作を行った人物で、『ゲームマスター』としてリレイズ内の治安を守っていた人物であったが、別のゲーム制作で多忙を極めていた鮫島 春樹に代わり最近のゲーム運営は全てミハエルが受け持っていた。

 そのミハエルへ連絡が突然取れなくなったのは『バウンダリー(境界)の破壊』が起こる数日前で、事の異変に気付いた鮫島 春樹が自身と娘である鮫島のIDを取得した時の事だった。


 ミハエルは瀧見同様リレイズで生活をしている『リレイザー』でもあり、鮫島 春樹のアステル社と違い、テック社はネット内に存在をする異例な会社である為その素性はあまり知られておらず、エスタークともネットを通じて知り合い『ルシフェル』の制作と今回の計画も、多忙だった鮫島 春樹の知らないうちに進められていた。


 『冷徹』の二つ名通りの全てを凍りつかせそうな冷たい目を持つミハエルは、見下すような目で鮫島 春樹を見つめながら暗く低い声で話し出す。


「・・・オマエ、なぜ俺の邪魔をする。」

「邪魔などしていない、僕はお前に会いたかっただけだ。」

「それが邪魔だと言っている。オレはオマエ等に会いたくはなかった。」


 鮫島 春樹を招かれざる人物だと語るミハエルは片手で持っていたりゅうを降ろし脇にある鞘から剣を抜き鮫島 春樹へ刃先を向ける。


「オマエはオレにとって邪魔な存在だ。邪魔な存在は消す!」


 低い声であったが威嚇するには十分な音量で鮫島 春樹に叫ぶミハエルは、その叫びと同時に剣を上段に構え突進し、鮫島 春樹はコートに隠してあったもう片方の手を出すと、手には剣の形をいた光り輝く棒が現れミハエルが振り下ろす剣と混じり合わせる。

 互いの剣は鎬を削り飛び散る火花は互いの剣の削り取り、その欠片はどちらの物なのか判別出来なかったが、次第に鮫島 春樹の持つ光の棒にヒビが入り出すのが確認される。


 鮫島 春樹は右手に光を作りミハエルに向けて放つと、その光をかわすようにミハエルは後退し二人は再び距離を取る。


「相変わらずの怪力ぶりだなミハエル。それに、その特殊の力はこの世界になっても変わらないみたいだな。」

「オマエこそ、魔法使いでありながらそのパワーは『ステータス操作』の恩恵だろう?」


 転移される直前にIDを作った鮫島 春樹と違い、それ以前にIDを作成しているミハエルの能力やステータスを知っている鮫島 春樹は、ヒビが入り使えなくなった光の棒を捨てながら距離を取ったミハエルにいつもの調子で話しかけたが、その表情は次第に険しくなる。


「・・・ミハエル、お前はネクロマンサーと共謀して未完成だった『ルシフェル』を打ち上げたんだろう?そこにいる男はあの時『ルシフェル』のシステムを売りに来た中国企業の技術者で、僕が参加しないうちに作戦を進めリレイズを現実世界へと書き換えた、そうだろう?」

「オマエは別の業務で多忙だったから、オレ達に次世代機の製作は任せていた筈だ。これこそが次世代のリアルシミュレーションゲームだとは思わないのか?」

「だが、僕達の住む世界が無くなるのでは話は別だ。お前のようにゲームの世界に住み続ける人間だけが全てでは無い。『ルシフェル』はβ版のリレイズ以上に危険なバグを抱えるハードだったのはお前も知っていた筈だ。」


 鮫島 春樹はネクロマンサーのりゅうとは初対面であったが、自身の事を知っている素振りをみせたりゅうの言動と助けたミハエルの行動を見た事で、その男が以前ネットを通じて『ルシフェル』を売りに来た中国企業の人間だと理解した鮫島 春樹が『ルシフェル』の危険性を話すが、ミハエルは口元を緩める。


「オマエはそう反対するが『ルシフェル』は素晴らしいシステムだ。それは、オレ達が開発したヘッドマウントディスプレイが過去の遺物に見える程で、この『ルシフェル』によってこの世界をオレ達『リレイザー』中心に変えさせる事が出来る。」

「それは『ルシフェル』にとっては重大なバグの一つに過ぎない。そのバグの影響で僕達は元の世界へ戻る術を失くしている。」

「オマエ、あの世界へ戻りたいのか?欲望が埋めく薄汚いあの世界に?」

「確かに『上書き』の影響で、今はこの世界も現実する世界になった。現実世界の汚さは会社を経営していれば良く分かる話だ・・・。だが、それでもあの世界こそがこの世界と違い僕達の真実の世界だ。」

「・・・だから、オレはオマエが邪魔なんだよ!」


 ミハエルは再び剣を構え鮫島 春樹へ突進すると、その攻撃を再び作り出した光の棒で受け止めた筈だった鮫島 春樹の体からは夥しい血が溢れ出しその場で膝まずく。


「・・・やっぱり、君の最強の能力は消えていないようだね・・・。それが、時間を止める事の出来る『時を駈ける目』だね。」

「当然だ。それはオマエも同様だろう?・・・いつまでお遊びをしているつもりだ?オレと同様に最強の目を持つ『裁きの目』のサメジマよ。」


 大量の吐血をする鮫島 春樹に対し警戒を一切解かないミハエルは、『ゲームマスター』として持つ特殊能力の『目』を自身同様に持っている事を鮫島 春樹に話す。


 ミハエルの持つ『時を駆ける目』は一時的ではあるが自身以外の時間を止める事が出来る技で、先程の目で追えない程の高速な動きはその目を使った影響によって周りの時間を止めた事で実現出来た事である。

 だが同時にミハエルは鮫島 春樹も同様に『目』を持つ事を話すと、その目を『裁きの目』と語る。


 『ゲームマスター』達に特殊能力として『目』を与えたのは鮫島 春樹で、『ゲームマスター』間であれば名前程度なら知っているが互いの能力を知っているのは鮫島 春樹だけの為、今までIDを持たなかった鮫島 春樹の能力は未知数だった。

 鮫島 春樹の職業は、先程の攻撃魔法を使う所から『ステータス操作』によって攻撃力を上げた『ウィザード』だとミハエルは大よそ推測したが、『裁きの眼』に関しては能力を知らなかったが、先程劉りゅうとの交戦を見ていた時に使った瞬間移動とも違う能力に、それが『目』を使い幻覚を作った物だと判断した冴える勘を持つミハエルに不気味な笑顔を見せながら鮫島 春樹は口を開く。


「・・・ご名答、僕の能力はお前が考えている通りの能力だよ。β版リレイズでのバグであった現象を取り入れた、精神へ直接攻撃をする『幻術』が僕の能力だよ。」


 次の瞬間、血を流しながらおもむろに立ち上がりながら話す鮫島 春樹の体は空気を送り込まれたかのように膨らみやがて体は破裂する事で消滅し、その反動で散らばった破片は黒い槍へと変化しミハエルへ襲い掛かる。


 剣を構えるミハエルは無数に襲い掛かる黒い槍を剣で受け流しながらかわすが、気がつくと景色が一転し、ミハエルは巨大な十字架に縛られ身動きが取れない状態になっている。

 目の前から黒装束に身を包む数人の鮫島 春樹が亡霊のように現れ、手に持つ黒い槍で縛られているミハエルの体を躊躇なく刺し始める。


 ミハエルの受けたその痛みは肉体的な苦痛では無く己の精神の奥からジワリと痛む鈍痛的な感触で、次第にその痛みがミハエルの中心部に近づくにつれその痛みは激痛となりミハエルの精神を崩壊しようとする。


 激しい苦痛と脳を直接刺激され精神が崩壊しそうになりそうな感覚に悲鳴を上げるミハエルは、その経験はリレイズがβ版だった時のバグ同等だと感じながら、鮫島 春樹が話した『裁きの目』の正体が自身の想像通りであれば抜けだす方法はあると考えたミハエルは、突然己の太股に自身の剣を突き刺した。

 すると先程まで縛られていた場所は無くなり目の前に居た無数の不気味な鮫島 春樹も居なくなり、現状見えるのは黒いコートを纏う鮫島 春樹一人だけになっていた。


「・・・ほう、精神崩壊以上の激痛を己に与える事で術から逃れるなんて、さすがミハエルだね。だけど、お前の職業ではその傷を即座に回復する術が無いのも計算済みだよ『パラディン』のミハエル。」

「さすがに、オレの職業では回復魔法は使えないからこの傷を即座に回復するのは不可能だ。だが、オレにはバックアップへ回ってくれる仲間はいるからな。」


 ミハエルが話を終えた直後、ミハエルの後ろに亡霊のように一人の男性が現れる。

 その姿は黒いボロボロのローブを纏う魔法使いで、鮫島 春樹もその魔法使いの不気味さに気づくと同時にその人物が誰なのか即座に理解する。


「貴様が鮫島 春樹カ。」

「お前は、ネクロマンサーのこうだな。」


 不気味なオーラを放ちながら現れたのはネクロマンサーのこうで、『ウィザード』であるこうはミハエルにその場で回復魔法を放ちながら鮫島 春樹を警戒しながらもミハエルの回復を始める。


 ネクロマンサーのりゅうこうにミハエルを相手にする事になった鮫島 春樹は、『裁きの目』の能力を知られた事で戦況は逆転し不利になる状況へ変わっていたが、冷静さを失わない鮫島 春樹は再び右手に光る棒を作り出し戦闘の構えを取った。

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