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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第五章 リレイズ攻略
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第四十三話 ダークゲートの迷宮 Floor:7ー8

 六階層での玄武との戦闘で、回復役として立ち回った入口はもちろん、ウロボロスを出さなければならない状態であった鮫島も同様に魔力消費が激しく、七階層へ行く前に二日のインターバルを置いた事で多少は回復出来たが全快とまでは言えなかった。


 だが、それ以上に全魔力を枯渇した瀧見に関しては深厚な状況にあり、魔力を枯渇した影響で歩けない程ではないが高熱も患っている状態である。


「瀧見、大丈夫か?」

「ああ・・・、魔力を使い果たした影響だから仕方ない事さ。元々魔力は生命力の延長線と考えて設定した物だから、使う事で疲労感や脱力感を伴うようになっていて、枯渇すれば強烈な脱力感が襲う事は想定の範囲内だよ。」


 心配そうな表情で話す上杉に対し、魔力は体力とも繋がっている事を話す瀧見は熱の影響で赤くなった顔を心配させまいと笑顔を見せるが、この状態での戦闘は不可能に近い事は自身が一番理解していて、我慢強くそれを隠す瀧見の前に立った村雨がおもむろに背中を向けしゃがみ込む。


「・・・お前はこれ以上無理だ。ある程度回復するまで俺が背負ってやるよ。」

「な!何を言い出すんだ。・・・あ、あたしは全然大丈夫だって。」

「いいから!オッサンはこんなチビッ子には発情しねぇからよ。」


 瀧見の前で突然腰を降ろし背中に乗るように話す村雨に戸惑いの表情を見せる瀧見に、村雨は半ば強引に熱の影響で抵抗の出来ない瀧見を背負い村雨は歩き出す。

 最初は照れもあり恥ずかしそうな表情を見せていた瀧見だったが、襲い掛かる眩暈と熱に適わない瀧見はやがてその照れも出来なくなり、なぜか居心地の良いその背中にやがて眠りについた。


 瀧見はその広い背中を妙に懐かしく感じ、それは背負っている村雨を瀧見は想像する父親と重ね合わせていて、今までの瀧見は自身を捨てた両親を憎み続け、その中でも事の発端となった父親を心底恨んでいたが、村雨の中で眠る瀧見の心は安心に満ち溢れ、その心地の良い空間に幼少の頃を思い出していた。


 それは、出掛け先で疲れた瀧見を優しく包んでくれたあの時。

 それは、殆ど帰らなかった中でも時々帰って来た時に瀧見へ向けたあの笑顔。


 瀧見の家族をバラバラにした原因は間違いなく父親である事実は変わらない。

 だが、自身にくれた愛情は間違いなく本物であった事を瀧見は、その背中の上で思い出していた。


 暫くしてその遠い意識から開放され現実の世界へと戻った時、村雨の背中で目覚めた瀧見の熱はほぼ下がっていて、この戦闘で自身が常に緊張していたせいで回復が送れていた事に気付き、村雨の背中で眠り緊張が解けた事で瀧見の体力と魔力は全回復に近い所まで戻っていた。


「村雨、あ、ありがとう・・・。お陰で助かったよ。」

「お、大分表情が良くなって来たな。そこまで回復すれば大丈夫だろう。オッサンの背中はさぞかし寝ずらかったと思うが元気になって良かったよ。」


 瀧見は照れ臭そうな表情でお礼を言うと、自身の背中で眠りについた瀧見を嬉しく思っていたのか、笑いながら自身の背中での寝心地の感想を聞くかのように話す。

 村雨自身も瀧見の気持ちよさそうに眠る寝顔を見た時、幼い時の娘を背中に乗せた時の思い出し、これまでの道中は自身の心の闇を浄化してくれるかのような晴れ晴れした気分に浸っていた。


 七階層も六階層同様にトラップは少ない構造になっていたフロアで、それはこのフロアにいるボス的なモンスターが玄武やウロボロス同様の強力な者が現れる事を予感させ、六階層同様の暗く冷たいフロアが続く道を下山は手の感触を頼りにトラップの確認を行ないながら後ろに居る上杉に結果を逐一報告し、上杉はその報告通りに少し大きめな紙に迷宮の地図を描いてゆく。


 七階層に現れる通常のモンスターも上級な者が現れるようになり前衛の上杉達でも討ち逃す事も多くなっていたが、眠っていた瀧見を守る為戦闘に参加出来なかった村雨が参戦できるようになり後衛の層が厚くなると、村雨の『聖なる青い剣』から放たれる血飛沫で広範囲攻撃を行いリシタニアと小沢が切り込むスタイルで後衛に漏れたモンスターを退治していく。


 モンスターとの戦闘を繰り返し進み続け、その先に見えた強大なアーチ上に開く壁を抜けると、その先は迷宮内とは思えない程の広大なフロアで、その大きさはプロ野球が使用するドーム球場レベルではなく、それが数個は軽く入りそうな広さを誇っている。


 その広大なフロアの中に中階層的なフロアが、まるで宙に浮いているかのように長い螺旋階段の先に存在し、その中階層フロアの広さも広大であったが、そのフロアには一匹の強大なモンスターが目を閉じて鎮座している。


 長い髭に蛇のように細長い体は無数の鱗で覆われるその姿は一目で竜だと確認出来たが、青草のような深い緑の体のそれを見た上杉達はそのモンスターの正体を即座に理解し、先頭に居る下山が口を開く。


「・・・まさか、ここにケツアルクァトルってのは強烈だな・・・。」

「竜族最強のモンスターの『緑竜』のお出ましって訳だな。」


 驚きの表情で話す下山の横に居た上杉が、ケツアルクァトルの存在に緊張感を醸し出しながら話を続ける。


 『緑竜』と言われるケツアルクァトルは竜族最強の竜と言われるモンスターで、その力は従者であるウロボロスやリヴァイアサンよりも強力と言われている。

 上杉達がケツアルクァトルの力を断定出来ない訳は、ケツアルクァトルの存在を知るプレイヤーは圧倒的に少ないとされていて、このメンバーでもその存在を見た者はおらず、リレイズ最強のプレイヤーである上杉や村雨でさえもケツアルクァトルとの対戦経験は無かった。


「さすがにお前でもケツアルクァトルの存在は分からないか。」

「ああ、ヤツは確か電撃系のブレスと瞬間移動に近い速度で移動するってのは聞いた事はあるが、カシミールに居るヤツらでもケツアルクァトルを見たヤツはいねぇな。入口、魔力は回復したか?」

「まだ完璧じゃないな。」

「ったく、相変わらず回復が遅せーなぁ。」

「ウルセー、これが俺の欠点だってのはお前が一番知ってるだろうが。」

「嬢ちゃんと瀧見はどうだ?」

「私は大丈夫です。」

「あたしも大丈夫だ。二日以上も役立たずって訳には行かないからね。」


 上杉が村雨にケツアルクァトルに関する情報を聞くと、カシミールの内情に詳しい村雨でもケツアルクァトルと対戦したプレイヤーを見た事は無く、知っているのは情報として電撃系の攻撃と噂上である瞬間移動に近い速攻があるとの事だと話し、村雨は続けざまに後衛部隊の魔力量を確認する。

 エスタークの回復役である入口は、ヴィショップの中でも多数の魔法を持つとして有名なプレイヤーだが、彼の最大の欠点はその回復能力で、普通のプレイヤーと比べてのそれは倍以上の時間を要し、既に全快に近い瀧見に対し魔力量が半分程度しかない入口は未だに全快になっておらず、その事を知っている筈の村雨が入口を弄るように話すと、それを知ってか入口も半笑いの表情で返す。


 瀧見も鮫島もこの二日間で魔力はほぼ回復出来ている事を村雨と話しているのを聞いた下山は、螺旋階段の上で待ち受けるケツアルクァトルを睨み話し始める。


「どうやら、アイツを倒さねぇ限り先へは進めそうにないな。その前にヤツの属性が分からない現状じゃ属性の偏りの少ないスピードで対応する『神速』で様子を見るしかなさそうだな。」

「そうですね。では、東さんが盾になり上杉君とリシタニアで攻撃を仕掛けて下さい。属性が見えた所で、火炎属性の小沢さんと清水さん、水属性の私のリヴァイアサンと村雨さんで第二攻撃を仕掛けます。」


 下山の言葉に鮫島が攻撃陣形を指示し、まずは盾となる東が螺旋階段を駆け上がりケツアルクァトルへ近づくと、ケツアルクァトルは東の存在に気づき鋭い目を開き視線を東へ送る。

 宙に浮く巨大な緑色の体を揺らしながらケツアルクァトルが尾で東に攻撃を仕掛けると、土竜派の技である浄土壁で壁を作りその攻撃を受け止め、壁を回り高速移動して来たリシタニアがサーベルを振りケツアルクァトルの皮膚に一撃を入れるが緑色の体には傷一つ付ける事は出来なかった。


「なるほど、ヤツの体は相当な硬度を持っているな。」

「リシタニア!次は妖魔刀で斬りつける。」


 ケツアルクァトルの頑丈な皮膚に触れ、その硬度を確認したリシタニアの後ろから妖魔刀を持つ上杉が現れケツアルクァトルの体に刀を振り抜く。

 妖魔刀はリレイズで最強の強度を誇る剣だが、存在する物は全て切れると言われるその剣をもってしてもケツアルクァトルの皮膚に傷をつける事は出来ない。


「駄目だ!直接攻撃じゃヤツの体に傷一つ付けられない。」

「上杉君!何かが来るわ!」


 自身の攻撃が効かず距離を取る為に引く上杉に、鮫島が今までと違う行動を取るケツアルクァトルに気づき上杉に話しながらバッグから術紙を取り出し召喚を始め、鮫島の手によって現れたリヴァイアサンは即座に秘術『解放』を行う事で、従者本来の力を出せる召喚獣の状態へと変化する。


 ケツアルクァトルの口が開くと、その口内から強烈な光が現れ中階層へ向け方範囲にそれをばらまくように放つが、リヴァイアサンの津波の壁によりその攻撃は地面へと消えて行った。


「・・・なるほど、『緑竜』か。ヤツが相手なら最初から解放を使わないと敵わないな。」

「リヴァイアサンは同じ竜族のケツアルクァトルを知っている筈よね。」


 真の姿で現れたリヴァイアサンは、目の前の巨大な緑色の竜を見てその状況を即座に把握し、鮫島は同じ竜族あればケツアルクァトルを知っていると思い話をするが、少し俯きがちに鮫島を見るリヴァイアサンは重たそうに口を開く。


「同じ竜族と言っても、ワタシ達従者とモンスターとして生きるヤツとは縁遠くてな。ワタシもヤツの事は知らんのだ。・・・だが、竜族でも最強と言われている事には間違いない。」

「・・・あなたよりも?」

「無論、従者の中でもワタシの力はウロボロスよりも低い。確かにお前はウロボロスに『解放』は使えないが、それでもヤツとは互角止まりだ。だが、お前がウロボロスを召喚せずに魔力の消費が激しいワタシの開放を選んだのには訳があるのだろう?」


 リヴァイアサンの話を聞き質問しずらそうに再び質問をする鮫島に対し、リヴァイアサンは躊躇なく答えると、その事を知りつつも自身を召喚したのを察知したリヴァイアサンは鮫島に話し返す。


「リヴァイアサンの言う通り、あなたを呼び出す方が私の魔力消費は激しいわ。けど、あの電撃はウロボロスよりあなたの津波で地上へ流してしまった方が防御出来る筈だと思ったの。それとリヴァイアサンにお願いがあるの。」


 リヴァイアサンの質問に答えた鮫島は自身の考えを続けて話をし、話し終えたリヴァイアサンは一旦身を引くかのようにケツアルクァトルの居る中階層から姿を消した。


 電撃の攻撃を防がれたケツアルクァトルは暫く静止していたが、その直後姿を消したかと思われた瞬間、突如東の目の前に現れ、防御が間に合わない東はケツアルクァトルの攻撃をもろに食らい中階層から弾き出され下階層のフロアへ落ちて行く。


「東!」

「上杉!後だ!」


 下のフロアへ落ちて行く東に目を奪われ叫ぶ上杉にリシタニアが叫ぶと、上杉の後方にケツアルクァトルが突如現れ攻撃を繰り出すが、上杉の『神速』はそこからのモーションでも間に合い、上杉の妖魔刀はケツアルクァトルの右手と重なり合うが、力勝負は呆気なく着き上杉は弾き飛ばされフロアを勢いよく引きずられるように叩き付けられる。


「今、私のトレントを東さんへ向かわせました。入口さん、上杉君へ回復魔法を。」

「分かった!」


 下のフロアへ落ちた東へ鮫島の召喚したトレントを向かわせ、元ヴィショップある自身でも回復出来ない可能性のあるダメージを受けた上杉に対して回復を行うように入口へ指示をする。


 先程ケツアルクァトルの繰り出した攻撃は下山が話していた高速攻撃だと鮫島は理解し、その速さは『神速』にも迫る速度で、その技を持つ上杉でさえその攻撃を受け止める事しか出来ず、決してスピードが遅い訳では無い東には剣を構える暇すら与えず、中階層フロアから弾き出される程のダメージを受与える。


 鮫島の中に一つの作戦があったが、高速移動を行うあの技を崩さなければその作戦は決行出来ず、敵がその攻撃を行うまで待つにはリスクが高すぎる今の状況に苛立つ鮫島の耳に、ケツアルクァトルの高速移動を正確に捉え指示を出す声が聞こえる。


「リシタニアの右横にヤツの右手が来るよ!小沢、その反動でヤツが尾で攻撃を仕掛けて来る。」


 その指示は正確で、ケツアルクァトルが突如現れた先は指示した通りの場所で、リシタニアがタイミングよく攻撃をかわすと、続いて指示が出された小沢は向かってくる尾を跳び越える。

 その声の主は瀧見で、瀧見は高速で移動するケツアルクァトルの動きを見切っていて、自身の目でその行動を追いかけている。


「瀧見さん、見えているの?」

「ああ、あたしの目は特別でね。普通の人より良く見えるんだよ。村雨、行ったぞ!」


 瀧見は『ゲームマスター』のみが持つ目を駆使しケツアルクァトルの高速移動を見極める。

 瀧見の特殊能力『浄天眼』は遠くの人物を認識出来る能力だが、近距離でその能力を使えば一瞬ではあるが動きをコマ送りにして見る事が出来る事を瀧見は発見し、今回のような高速移動する者に対し有効な術となる。

 その話を聞いた鮫島は、先程までの陣形を変更させるべく全員に話し掛ける。


「瀧見さんの能力を使って前衛のリシタニアと代わって上杉君と組んでケツアルクァトルを攻撃し、東さんが戻る迄壁役を務めて下さい。村雨さんは前衛に出て敵に撹乱攻撃を、電撃は特殊能力ですが属性の可能性もありますので、小沢さんは『属性吸収』で先程の雷撃を吸収可能か試みて下さい。」


 東の脱落により陣形を見直した鮫島は、瀧見の能力を使いケツアルクァトルの瞬間移動の動きを読み上杉で攻撃し壁役も兼ねる作戦に変え、東に代わり村雨を前衛に置く事で広範囲攻撃による撹乱戦法を行い、前衛だったリシタニアを一旦後衛に下げフォローに回した。


 その作戦が見事にはまり、高速移動を瀧見に見切られていたケツアルクァトルの攻撃は上杉の『神速』のカウンター攻撃にかわされ、勢いそのままの突きを繰り出されたケツアルクァトルの鋼鉄の皮膚は僅かであったが傷つき青い血が流れ出すが、上杉渾身の一撃も鋼鉄の皮膚を貫く事は出来ずにいる。


「どうにか傷つける事は出来たけど、いくら相手の動きが読めてもこれだけのダメージじゃ・・・。やっぱり力のある清水や小沢を前衛に持って来た方がいいんじゃないか?」

「だけど、それではいくら瀧見さんの能力があってもスピードが足りず攻撃を加える事が出来ないわ。大丈夫、私に少し考えがあるの。リヴァイアサンを呼んだのもその為だから。」

「あ、そう言えばリヴァイアサンの姿が見えないけど。」

「リヴァイアサンには下へ降りて貰っているから。」

「東の所か。だけどそこは回復用にトレントを送っている筈じゃ・・・!?」


 ケツアルクァトルの皮膚に与えたダメージが僅かなのは自身の力が足りないと自覚している上杉は、竜派で一番の力のある炎竜派の清水や小沢を前衛にする事を話すが、それではいくら瀧見の能力を使ってもスピードが足りず攻撃できないと鮫島は言い返すと、自身に策がある事を続けて話す。

 その話を聞いた上杉は、先程召喚した筈のリヴァイアサンの存在に気づき、この戦場に居ないリヴァイアサンはその下に居る事を話した鮫島の言葉につられるかのように下を見た上杉は驚きの表情をする。


 先程まで居た下層階の一面は水で覆い尽くされていて、下に落ちた筈の東は水が入る前にトレントに助けられ、宙に浮くリヴァイアサンの体に乗っている。


「鮫島、これは一体・・・。」

「説明は後で。とりあえず上杉君は、ケツアルクァトルの高速攻撃を止めさせて雷攻撃に移行させるように誘導して。」

「あ、分かった。」


 その下階層を見て疑問を投げかける上杉に対し、鮫島はケツアルクァトルに雷攻撃をさせるように頼むと、近くにいた清水と小沢を呼び会話を始める。


 瀧見の指示の後に動いても『神速』のカウンターを使えば攻撃をかわす事は問題なく出来、上杉は自身へヘイトを一点に集め、ケツアルクァトルが他の人間に攻撃しないように己に注意を引き付ける。


 暫くしケツアルクァトルもさすがに高速移動が通じない事に気付いた時、もう一つの必殺技である雷撃を繰り出す為に口を大きく開き口内に光を集め出すと、そのタイミングを図っていたかのように鮫島が上杉と小沢に向かって叫び出す。


「上杉君一旦引いて!瀧見さん、小沢さんへケツアルクァトルの雷を出すタイミングを教えて下さい。」

「お、俺下がっていいの!?」

「分かったよ。・・・小沢、出るぞ!」

「ああ!」


 意外な指示を受けた上杉が驚いている訳は、自身が一旦下がると集めていたヘイトは全て無くなり近くに居た瀧見がそれを全て背負う形になるからで、その事を心配した上杉であったが、鮫島がその事を知らない筈もないと即座に理解し後方へ下がると、鮫島は続けて小沢と瀧見へ指示を出しタイミングを見極めた瀧見は、小沢へ雷の放つタイミングを告げる。


 ヘイトを全て受け取った瀧見目掛けて強烈な光が襲いかかるが、向かってくる場所が既に分かっている状態であった為、小沢は躊躇なく瀧見の所へ走り出し『属性吸収』を行う為、雷に向け剣を振るった。


 前回の攻撃で小沢の『属性吸収』が電撃に効果があるのは確認出来ていたが、その膨大な威力は吸収出来ず弾くのが精一杯だったのは一緒に居た鮫島も知っていた。

 だが、それは鮫島にとってどちらでも問題なく、『属性吸収』は吸収し切れない強力な攻撃は跳ね返す事しか出来なかったが、鮫島が元々狙っていたのはその『反射』の方であった。


 小沢の剣から弾かれた雷撃は下階層へ落ちて行き、その強大な威力を受け止め切れなかった小沢もフロアを弾き飛ばされるが、それを予測してスタンバイしていた下山によって受け止められる。


 次の瞬間、ケツアルクァトルの後方に一人の戦士が現れ剣を振り上げる、それはこのメンバー最強の力を持つ清水で、清水の長剣はケツアルクァトルを捉えても斬り裂くまでには至らなかったが、自身の最強の技である突きを使わなかった事から、それは作戦だと他のメンバーは即座に理解していた。


 鮫島が考えた作戦では、小沢が電撃を下の階層へ反射させた時点で成功していたので、続く清水の攻撃も作戦のうちで、清水の突きは敵を貫くには良い技であったが、自身が一番物体を移動出来る力を発揮できるのは上段からの振り下ろしだと自負する清水は、鮫島に言われた指示である『敵を突き飛ばす』を実施する為に、あえて突きでは無く押しの強い上段からの振り下ろしを選択した。


 清水が繰り出した渾身の一撃はケツアルクァトルの意識を一瞬であるが失わせるには問題なく、長剣での攻撃を受けたケツアルクァトルのダメージは少なかったが、一瞬意識を失い螺旋階段中央を下階層へと向けて落ちて行き、その先に広がる湖に体の一部が触れた瞬間、先程小沢が反射させた雷撃が流された水面から伝達された電気がケツアルクァトルの体に流れ出し、強烈な光が発せられた後ケツアルクァトルの体には所々電気ショックの火傷による皮膚の爛れが現れ、強烈なダメージを受けた様子が窺える。


 続けざまに繰り出された攻撃はリヴァイアサンの津波で、竜族最強と言われたケツアルクァトルもダメージを受けた状態であれば『解放』され真の実力を引き出したリヴァイアサンに敵う筈もなく、その巨大津波に飲まれ姿を消した。


「・・・やっつけたんだよな?」

「多分リヴァイアサンの攻撃でとどめは刺せた筈です。でも復活する可能性はありますから、今のうちに急いで次へ進みましょう。」

「そうだな。多分この先が次の階層の筈だ。」


 姿の見えなくなったケツアルクァトルを探し不安そうな表情の下山に、手応えを感じていた鮫島は今のうちに次へ進む事を話すと、復活の可能性もあるモンスター相手に長居は無用と思わんばかりに下山は気持を切り替え、次の階層はこの螺旋階段の先だと話し進み始める。


 戦闘中にトレントの回復により復帰した東もその後すぐに合流し、メンバーが揃った上杉達は次の階層を目指し螺旋階段を上り始めた。


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