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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第五章 リレイズ攻略
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第四十話 ダークゲートの迷宮 Floor:4

 困難だった三階層を突破し、階段を上り四階層へ上杉達は進む。


 四階層は三階層と違い高熱の炎が辺りを覆い壁役を果たす迷宮で、所々で発生する炎はプロミネンスのように見え上杉達の行方を遮る。


「火炎が出るタイミングを見てからフロアを駆け抜けるぞ。」

「だけど、途中にあるかも知れないトラップはどうする?」

「恐らくこの壁の炎がこのフロアのトラップだろう。ここまで業火な威力のある炎があれば他のトラップは必要ない、私が製作者ならそう考えるし、正直この炎の中でトラップを探すのは不可能だ。炎が出てから次が出るまでの時間は大体六秒。半分の五人ずつで渡るぞ。」


 先頭を行く下山が炎の壁から出る火炎の発生タイミングを計りながら、発生から停止までのタイミングでその場を走り抜ける事を伝えると、別のトラップの可能性を話す上杉に下山はこれ程強力な炎であれはそれ自体がトラップになり、その炎の中で別のトラップを探すのは不可能だと話す。

 下山は炎が出るおおよそのタイミングを掴み、半分の五人であれば炎の壁を抜ける事が可能だと推測し二チームに分ける事を指示し、先発隊の下山・村雨・東・入口・小沢は下山を先頭に炎が出切った直後に走り出す。


 次の炎が出るまで約六秒の感覚であれば向こう側に見える場所まで辿り着くのに問題ない距離であったが、下山達が向こう側へ辿り着く直前、真下に巨大な穴が開き下山達はその穴に吸い込まれるように落ちていく。


 後発隊の上杉達は即座にステータスブックのチャット機能から下山達の安否を確認し、五人とも問題は無い事の返事を受け安堵の表情を浮かべたが、下山は上杉達の居る場所まで戻れる手段が見つからない事と、落ちた階層は三階層では無い事をチャットで報告し、下山達はそのまま進み上杉達と合流出来るルートを探すと共に上杉達にはその先を進んで欲しいと下山の意見が記載されていて、それを見た上杉は後発隊の鮫島・清水・リシタニア・瀧見に話す。


「下山達は大丈夫だけど、すぐここへは戻れそうにない。だから俺達はこのフロアの先を進もうと思う。下山もこの事を想定して回復役を別けたと書いてあるし、トラップさえ注意すれば時間は掛かるが前には進めるし下山達とも合流出来るかも知れない。」

「落ちた下山達の居る場所は三階層じゃないのか?」

「辺りの様子からすると、どうやら違うらしいです。」

「あっちは下山さんが居ますし、それに戦闘は村雨さんと東さんが居るし迷宮探索に関しては大丈夫だと思います。」

「まっ、あたし達は先へ進もうじゃないか。」


 下山達と同時進行で迷宮探索進める事を提案する下山に、トラップを見抜く能力のある人間が居ない上杉達の部隊に対しは迷宮探索に時間が掛かる可能性のある選択だと感じる上杉だったが、同時に進める事で互いを探す時間のロスが無くなり無駄を小限に抑えられると考える下山の意見に同調し、下山の提案を四階層に残る残りのメンバーに説明をすると、鮫島達も同様に賛成をする。


 下山達が犠牲になって発見したトラップのお陰で、上杉達はそのトラップの位置を正確に把握出来た事でトラップを問題なく回避し先にある通路を進む。


 暫く進むと再び壁は炎に包まれ、その炎から溢れた炎が集まりだすと無数のフレイムゴーストが現れ上杉達に襲い掛かる。


「相手は炎属性のモンスターです、清水さんと上杉君は前衛へ、リシタニアは後衛へ、瀧見さんは炎の攻撃をお願いします。」

「あたしに任せておきな!上杉と清水、一旦下がって。」


 瀧見は持っていたスピアーを纏っていた赤いマントの中へしまい、両手を前に出し詠唱を始めながら上杉達へ下がる事を指示する。


 魔道士である瀧見が得意とするのは炎系の魔法で、重力操作で操るメテオスラッシュ程ではないが、これから放つ魔法は、必殺技が使えない迷宮内用に用意した彼女オリジナルの魔法だ。

 自身の出した魔力の力で赤髪を揺らしながら発せられた魔法は小沢が良く使うファイヤーボムだったが、瀧見の放ったそれは彼女の手の指の本数分に同様の火の玉を作り出し、目の前に居るフレイムゴーストへ襲い掛かる。


「どうよ!これがあたしの開発した多発火炎魔法『ファイヤーボムズ』よ。上杉達はその後ろから攻撃して。」

「ああ!」

「さっすが『ゲームマスター』だねぇ。」


 瀧見の放った無数の火の玉を盾に上杉と清水がフレイムゴーストへ向かって行き、ファイヤーボムズで倒し損ねたフレイムゴーストを清水の『陽炎』と上杉の『神速』で片付けて行き、やがて無数にいたフレイムゴーストは消え去り、後衛でサポートに回り出番の無かったリシタニアは、その魔法の威力を見て驚きの表情を見せる。


「しかし、そなたの魔力は凄いの一言しかないな。」

「だけどあたしの魔法には欠点があって、強大過ぎる魔力を完璧にコントロール出来ないから味方も巻き込む可能性があるし、同時に魔力の消耗も大きいんだけどね。今の魔力消費だって単純計算ならファイヤーボム十発分だからね。」

「そうなのか?そなたなりにも悩みがあるのだな。」

「でも、その分あたしの魔力は異常な程あるけどね。だけどこの世界になって操作が出来ない状態だから、万が一転職でもしたらこのステータスは全て無くなってしまうだろうけどね。」


 瀧見の創作魔法に関心を寄せるリシタニアに、自身の魔法はコントロール出来ない為、戦術を壊す危険のある魔法だと話す。

 瀧見のメテオスラッシュは魔法の中では最強クラスの攻撃魔法であるが、コントロール出来ないそれは仲間にとっても脅威になりかねない諸刃の剣とも化す可能性のる魔法で、今放ったファイヤーボムズもコントロール出来ないのは同様だが、それ以上に負担が掛かるのはファイヤーボムを各指に作るそれは、単純にファイヤーボム十発分の魔力消費になると瀧見は話す。

 だが、『ゲームマスター』としてステータス操作が可能だった瀧見は魔道士としてはありえない魔力に設定した事でその問題をクリアしたが、この世界になり『ゲームマスター』の能力が使えない今、万が一転職などステータスの変更を受けた場合は普通のプレイヤーと変わらなくなると話した。


  フレイムゴーストを撃退した上杉達は炎が揺れる壁の迷宮をひたすら進むと、次第に徐々に回りの温度が下がっている事に気付き始め、メンバーの中で唯一鎧を着ける清水が金属の冷える感触に気づき口を開く。


「なんかさっきより間違いなく寒くなっているよねぇ。」

「ああ、でも炎が弱くなり温度が下がったと言うより冷却力が上がったって感じだけど、って事は、次の新しいエリアへ進める階段に近づいて来たのか、それともボスキャラが居るかだな。」

「どうやら、そなたの言っていた後者の方らしいな・・・。」


 異様な程の寒さに気づく清水の話に幾つかの可能性を話す上杉の前で、戦闘準備を取ったリシタニアがその答えは後者だと話しサーベールを抜く。


 上杉達の目の前に現れたのは円状に丸まった青い竜で、それはウロボロスと言われるモンスターだ。


「ウロボロスだって!あたしの作った北の従者モンスターがなぜここに!?」

「恐らくこの階層以降はプレイヤーしか来ないと踏んで強力なモンスターで固めたんだろうな。だけど、正直これはある種ラッキーかもな。」

「確かにそうだけど・・・。上杉君はここで従者の契約をするつもりなの?」

「ウロボロスと言えば四大従者の一人だから、正直探す手間は省けただろう?」

「じゃぁ、ここは鮫島ちゃんに任せるんかい?」

「皆は一旦後衛に下がって万が一に備えてくれ。鮫島、行けるか?」

「ええ、やってみるわ。」


 ウロボロスは四大従者の一人である氷の神で『青竜』と呼ばれ、冷気のブレスを吐く冷却系として最強の実力を持ち、それを従者にした者はリレイズの世界に存在しないと言われている最強の従者だ。

 その従者に対し、上杉は鮫島に友好的契約である話し合いでの契約を進め、不安そうな表情を見せる鮫島も上杉がなぜウロボロスを従者にする事を提案したかを既に知っている。


 鮫島が持つステータスブックのメモ機能には、鮫島 春樹が記載したリレイズの世界での召喚獣を従者にする方法がギッシリと記載されていて、その中にはもちろん四大従者を手に入れる方法も記載されていた。

 以前に上杉がそのメモを見た時、もちろん自身の知らない未知の生物である四大従者を最初に見た為、その従者の契約方法は一番覚えていた。


 ウロボロスは竜族であり、四大従者にはもう一人竜族が存在する。

 それが、今、鮫島が目の前で術紙を広げ召喚を行っている従者リヴァイアサンだ。


 鮫島 春樹が残したメモには、リヴァイアサンと話し合いをさせる事で従者として契約が可能と記載されていた事を上杉は覚えていて、確かにリヴァイアサンを従者にした時、鮫島はメモの記載通り行わずに従者にした事もあり、そのメモは完全に信頼して良いデータでは無い事は証明済みであった。

 だが鮫島 春樹はリヴァイアサンを力ずくで契約する方法しか書いておらず、もしメモの記載通りの方法で従者にしていたら、会話が出来ないリヴァイアサンではウロボロスを従者にする事は不可能であり、それは鮫島 春樹本人が書いたメモの内容に矛盾が生じる。


 力ずくの契約では従者は会話を行う事は出来ない。

 それは、今回のウロボロスとの会話での契約が不可能になる。


 鮫島と上杉はこの事まで想定してリヴァイアサンとの契約方法を選択した訳ではないが、鮫島が選んだリヴァイアサンとの友好的契約は、結果的にウロボロスとの契約交渉が可能になり、それはリレイズではまだ存在しない四大従者を二体従える最強の召喚士を誕生させる事になった。


 二体の竜族には少し手狭なフロアに、『青竜』ウロボロスと『水竜』リヴァイアサンが対峙する。


「お前は・・・、なぜ人間側についている。」

「ワタシはこの娘の『器』に惹かれて従者になった。ワタシ達が思っているよりマシな人間が居たって、事かな。」


 人間と友好的な契約で従者になったリヴァイアサンに、表情は変わらないがその声は明らかに驚いている様子で、ウロボロスを見てリヴァイアサンは嬉しそうな声で話す。


「バカな、我ら竜族が人間と交わる事は不可能な筈。我々の知識は人間を遥かに超越する種族ではないのか。」

「それは今までの世界の話だ。お前も薄々感じている筈だ、この世界は今までの世界とは違う事を。ワタシが従者となり、お前と対峙している事がそれを証明している。」


 竜族は人間を超越する種族だと話すウロボロスに、リヴァイアサンは『バウンダリー(境界)の破壊』が起きた事で、人間であるプレイヤーやキャラクター、そして神と崇められていた竜族の全ての境界線は崩れ、各々の思想と力で世界を変えられる世界になった事を、鮫島の『相手を見る目』により友好的従者となりウロボロスの前に現れている事が何よりの証拠だと話す。


 その話にウロボロスは鋭く冷たい目を閉じ、うな垂れるように黙り込みその場で動きを止める。


 自身はリレイズ世界の最北端を司る『青竜』と言われた存在。

 だが、今居る場所は北の大陸ではなく自身と真逆な炎に包まれた迷宮のフロアであり、ウロボロス自身なぜこの迷宮に飛ばされたのか理解できず、それ以前にリヴァイアサンと会話をする迄その事に気づく事すら出来なかった。


 それはリヴァイアサンの話した『バウンダリー(境界)の破壊』の影響だと即座に判断したウロボロスは静かに目を開け、リヴァイアサンの後ろに居る鮫島を見つめる。


「では、娘よ。我を取り入れる事でお前は何を思う。」

「何を思うって・・・。」


 ウロボロスが語る言葉は他の従者同様の禅問答に近い質問で、その問いかけに鮫島は戸惑いの表情を見せるが、既に従者との駆け引きに免疫が付いている鮫島は即座に我に返り凛とした表情でウロボロスを見上げる。


「私は・・・、あなたを守りたい。そして守って欲しい・・・。」

「我を守る、だと?」

「あなたは、この地に居ない筈。なのにここへ閉じ込められているのは『バウンダリー(境界)の破壊』の影響でその記憶さえも失ってさまよい続けています。私にはあなたを救いだす術があります。そして、あなたは私を助けだせる力があります。」


 鮫島の目から発動した『相手を見る目』で鮫島はウロボロスの心の深層が見え、ウロボロスはリヴァイアサンに会った事で己がここに居る意義に疑問を持ち始め、その心の迷いを救い出せるのは契約が出来る自身の身だと鮫島は語り、逆にこの先のリレイズと戦う為に必要だとウロボロスに答える。


 鮫島の話を聞いたウロボロスの口元が僅かに緩むのが見えると、呟くような口調で鮫島を見ながら話す。


「なるほど・・・。お前が従者として大人しく居る理由がなんとなく分かった気がする。我らは最強の存在であり、また操られた人形でしかない事がな。・・・いいだろう、お前の力になろう。そして、迷える我に道を示してくれ。」


 鮫島の説得に応じたウロボロスは円状になっていた体を一本の形に戻すと、やがて体全体が輝き出し、鮫島が用意した術紙の中へ吸い込まれるように入って行った。


「どうやら説得は成功したようだな。アイツは冷却系の攻撃に加えて、道具に具現化する事が出来るから武器として呼び出す事も可能だ。」

「ありがとうリヴァイアサン。あなたともキチンと契約出来た事は私にとって今でもこの世界での財産よ。」

「フン・・・、ワタシはアイツと違い暇つぶしで居るようなもんだ。また何時でも呼んでくれ。」


 リヴァイアサンがウロボロスの術特性を話すと、感謝する鮫島にまんざらでもない表情を浮かべ術紙へ戻ってゆく。


 四大従者を二体従えた鮫島は、この瞬間『軍師』菊池を抜きリレイズの世界で最強の召喚士として君臨した。


 上杉達はその先にある筈の五階層へ続く階段を目指し進み始め、やがて目の前に現れた階段を見つけその階段を上りその先に見えた光景に上杉達は唖然とする。


 一方、トラップの落とし穴に落ちた下山達は上杉達と合流する為、先程までと違い炎の消えた冷たいフロアを突き進んでいた。

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