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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第五章 リレイズ攻略
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第三十九話 ダークゲートの迷宮 Floor:2-3

 ダークゲートの二階層は水脈が多く流れるフロアで、掘られた穴は大量の水が貯水出来るように周りはレンガで囲まれ、その先には水門があり水量をコントロールする事が出来る構造になっている。


 大量の水をせき止める水門の横を、下山は周辺にあるトラップを慎重に確認しながら進むが、敵の出現もトラップも思ったより少ないこのエリアに上杉は目の前にある水門に疑問を抱く。


「しかし、なんでこんな所に貯水場なんてあるのかな。」

「貯水の水は真水だし、この洞窟の何処かに湧き水か何かがあって、それが溢れるのを防ぐ為の処置なのか。」

「それにしてもこの洞窟自体を作った人間は大した者だな、これが敵の住処となるのだからな。」

「リシタニア・・・、それは多分そちらの『ゲームマスター』達が作った世界ですので・・・。」

「そうだな、確かに以前から疑問に思ってはいたがそういう事であれば合点が行く。これに関してはそなた達の都合の良い事ではあるが、この貯水所も我々にとっては命の水であって、ここから水路を通ってカシミールの水脈として使われている筈だ。」

「確かに、俺達の都合で作られた建物もそうやって使われていれば役に立つ物となっているんだな。だから敵の出現も少なくトラップが無いのも、もしかしたら鮫島 春樹はその事を考えて作ったからかも知れないな。」


 水路を横に迷宮内に不自然な程の巨大な水門を見ながら上杉が呟いた疑問に下山が答えると、キャラクター側であるリシタニアの意見に上杉は、この世界を作った『ゲームマスター』が闇雲に設置したのではない事を実感する。


 リレイズが住むダークゲートを作ったのは鮫島 春樹で、リレイズの原案者である彼は既に最後のリレイズに関してはプロジェクトが始まる以前に設定済みで、リレイズに関しては残りの『ゲームマスター』も知っている部分は殆んどなく、『ゲームマスター』の一人である瀧見もキャラクターデザイン担当と言う事もあったが、ダークゲートとリレイズに関しては全く情報を持っていなかった。


 横を流れる水路に沿って進むと、やがてその先に三階層へ続く階段が現れるが、それまでの道のりがあまりにも平穏すぎた為、上杉達は戸惑いの表情を見せる。


「それにしても、あまりにも簡単過ぎる迷宮だったな。上杉達は確かこの階層には来た事があった筈だよな?」

「俺もこの水路を辿って来ては居たけど、クエストの途中にあった水門を調整するクエストだったから、その先へは行かなかったんだ。」

「俺も同じだ。同様のクエストをカシミールから依頼されて、派遣したプレイヤーと一緒に来ただけだ。」

「なるほど・・・。リシタニアの話や上杉達の話を考えれば、やっぱりこの階層はキャラクター達も利用が出来るようにレベルを低く抑えた設定なのかも知れないな。」

「それにしてもリレイズの居る迷宮にしては手応えが無さ過ぎだけどねぇ。」

「まぁ、全部で十階もあるんだし、こんなもんでないのか?」


 この階層のあまりにも攻略し甲斐のなさに不安を漏らした下山はダークゲートの経験者である上杉と村雨に確認するが、二人とも同様のクエストだった為ここまで来ていないとの返事で、下山はリシタニアの話すキャラクターも使える為の配慮と結論付けたが、その事に少々不安を漏らす清水に対し東はこの事は全十階層の一部の話しだけだと清水に話す。


 だがその先の三階層へ進んだ瞬間、全員はその極端な難易度の変化に言葉を失う。


 それは三階層へ辿り着き目の前に広がる風景で、上杉達の目の前には底が見えない程の深さの崖が現れ、数十メートル先に見える向こう側にその先へ進めるであろう通路が見えるが、そこへ辿り着く手段が思いつかない程上杉達の周りは完全に隔離された孤島のようになっていた。


「これは一体・・・。」

「ジャンプで跳べるレベルの距離じゃないな・・・。」

「上杉君のフローならどう?」

「あれなら跳べるか知れないけど術者以外の人間を跳ばすのは無理だ。それだと向こう側へ行けるのは俺と入口と瀧見だけになってしまう。」


 呆気にとられる小沢の横で鮫島が上杉に飛翔呪文での可能性を示唆するが、術者以外に跳ばす事が出来ないフローを使えるのは自身と入口と瀧見のみだと話す。


 上杉がフローを使い向こう側へ跳び周りのトラップなどを確認したが特に無く、それはフロー以外でここを越えられそうにない事を示していて、上杉が僅か可能性として考えていた向こう側へ渡れるトラップがある可能性は無くなった。


「まいったなぁ・・・。こればっかりは戦士職じゃどうにもならになぁ。」

「鮫島のリヴァイアサンでどうにかならないか?」

「リヴァイアサンであれば宙に浮く事は可能だけど、人を乗せる事なんて無理だと思うわ。」

「そうだよな、いくら召喚獣と言ってもな・・・。リヴァイアサン・・・か。」


 頭をかきながらこの現状を嘆く下山の横で、上杉は召喚獣に乗りここを超える事を提案し鮫島はそれはリスクが高いと返答すると、それを承知の上での話であったかのように上杉は即座に納得したが、リヴァイアサンと聞き何かを思い出したかのように上杉は黙りこみ、暫くして上杉は鮫島に指示を出す。


「鮫島、リヴァイアサンを召喚してくれ!」

「えっ!リヴァイアサンを?」

「とりあえず戦闘時じゃない従者の状態でいいから。」

「ええ、分ったわ。」


 上杉の突然の話に鮫島は戸惑いながら術紙を取り出しリヴァイアサンを召喚すると、術紙からはデフォルトされた可愛らしい竜が一体現れたが、その口調は歴戦の猛者を感じさせる貫禄のある声で話す。


「私を呼ぶとは珍しいな、戦闘でないのであれば暇つぶしか何かかな?」

「リヴァイアサン、お前の津波でこの谷へ水を流す事は可能か?」

「その程度であれば今の姿でも可能だが、お前は何を狙っているんだ。」

「この谷の底の先を知りたいんだ。今俺達はこの谷の向こう側にある通路へ進みたいんだけどこの谷が邪魔をして進めないんだ。それで試したい事があって、その為に水の流れを知りたいんだ。」

「・・・なるほど分かった、水を出してやろう。」

「ちょっと待ってくれ。下山と村雨と瀧見で一旦二階層へ戻ってくれないか。」

「二階へ?なぜにさ?」

「確認したい事がある。さっき来た道の途中にあった水門、あの水門迄リヴァイアサンの津波が来ているか確認して欲しいんだ。一応敵の出現に備えて戦士と魔術士の組み合わせの三人なら途中でモンスターに出くわしても問題ない筈だ。水の到達の確認が出来たら連絡を貰えるか。」

「待つ時間は?」

「ちょっと推測出来ないけど、最低一時間は待ってみようと思う。水門へリヴァイアサンの津波が到達すれば俺の作戦が使える筈だ。」

「分かった。一時間待っても来なかった場合はここへ戻ってくる。」


 上杉の考えを了承した村雨達は、三階層の階段を下り二階層へ戻り上杉の話すリヴァイアサンの津波の到来の確認を行う。

 暫くして村雨のからの連絡を受け準備が整った事を確認した上杉は鮫島にリヴァイアサンへ津波を起こさせる事を話すと、鮫島は従者であるリヴァイアサンへ津波を起こす指示を出す。


 デフォルト状態でのリヴァイアサンの津波は戦闘時ほどの威力はないが、水の無いこの場所で発生した水量は尋常ではなく、溢れ出る水量のそれは小さな湖畔であれば簡単に飲み込んでしまう量であったが、リヴァイアサンが放った大量の水は谷底へ落ちると暫くし静かに着水した音を残し消えて行き、今回の上杉の不可解な行動に鮫島は話しかける。


「上杉君、一体これで何が分かるの?」

「俺が知りたいのは谷底を流れている可能性のある水脈の行く先で、その行く先が村雨達の居る場所へ繋がっていればこの谷を乗り越えられる可能性が出て来るかも知れないんだ。」

「水脈が通じているのが二階層だと何があるの?」

「二階層にあった貯水場の水と大量に流れる水脈、あれを使えばこの谷を満たす程の水量になる筈で、それにリヴァイアサンの本気の津波を合わせれば間違いなくこの谷は水に沈む筈だ。」

「なるほどな、谷であれば進めないが水が入れば泳いで渡る事は可能だ。」

「お、早速連絡が来た。」


 疑問に思う鮫島に上杉は今回の狙いを話すと、上杉の言う通り水脈が繋がっていれば大量の水量を持つ二階層の貯水層であればこの谷を水で沈める事は理論的には可能だとリシタニアが納得した時、上杉のステータスブックのチャットより二階層の水門前にリヴァイアサンの津波が来たとの連絡が入り、それを見た上杉は二階層に居る村雨に目の前にある水門の開放を話す。


「よし、村雨達には津波の方向へ向かって水を流すように水門を全快にしてくれと連絡を入れた。鮫島、これからこの谷へ二階層から水が来るから、推量が落ち着いたらリヴァイアサンを戦闘用へ切り替えてくれ。」

「ええ、分かったわ。」


 上杉は二階層に居る村雨との連携を確認した後、鮫島にリヴァイアサンを戦闘用に切り替え本気の津波を起こすように指示を出す。


 暫くして上杉のステータスブックに村雨から水門を全開にしたとの連絡が入り、その直後三階層の谷底より不気味な轟音が聞こえ谷底へ大量の水が入って来ている事を知らせ、やがてその音は静かになると共に上杉達の視界に大量の水が入って来ている事が分かり、その勢いが治まると同時に上杉は鮫島にリヴァイアサンへ津波を出すように話す。


「鮫島今だ!」

「リヴァイアサンお願い!」


 鮫島の合図と共にリヴァイアサンが強大な津波を起こすと、その波は三階層天井まで届きそうな勢いを見せ上杉達は壁につかまりながら様子を見ていると、大量の水を含んだ谷は姿を消し辺り一帯は巨大な湖と化した。


「ちょっとやり過ぎたかな・・・。」

「まぁ、泳ぐには変わりないし、いいんじゃなぁい。」

「リヴァイアサンありがとう。」

「あの兄ちゃんの考えは相変わらず面白いな。跳び越えるよりも沈める事を考えるなんてな。」


 辺り一面湖になったフロアを見てやり過ぎ感を感じる上杉に呆れた表情の清水に対し、リヴァイアサンは上杉の発想を感心する。

 跳び越える事が不可能であった谷を、上杉は三階層の下にある水脈に目を付け下から水を流す事で谷を水で埋める発想を思いつき、それでも足りないと考えリヴァイアサンの津波を加える事で目の前の谷を消す事に成功した。


 二階層から戻った村雨達と合流し谷の無くなった湖を泳ぎ渡った上杉達は、その先にある通路の入口に入ると目の前は再び辺りが湖に覆われるフロアに辿り着く。


「ここまで水が浸食してしまったのかな。」

「いや、この水はさっきの真水と違い海水だ。この水は海から入って来ている物だ。」

「湖に何かいる!」


 巨大な湖を見た上杉は自身の作戦でフロアを浸水させたのかと心配したが、その水をなめた下山がこの水は先程と違い海水で、それが別の場所から入って来たものだと推測すると、湖に浮かんだ泡を見た東が何かの存在に気づき剣を構え戦闘態勢に入る。


 東が見つけた水面の気泡はやがて大量に発生すると、目の前にタコの足に似た無数の巨大な触手が現れ先頭に居た東に襲いかかり、東は剣を盾にして触手の攻撃を受け止める。


「でかいタコだね!上杉!そっちへも触手が行ったよ。」

「上杉君、『神速』で触手を抑えられるだけ抑えて。リシタニアは上杉君と東さんのサポートを。二列目は正体がオクトパスであれば頭部がある筈です、それを探して下さい。後衛はサポートをお願いします。」


 東達の戦いを見た鮫島は即座に指示を出し、上杉達前衛に触手の対応を任せ後ろの村雨達に急所である頭部の詮索を指示し、村雨は『聖なる青い剣』に血を送り拡散攻撃を繰り出しオクトパスの急所である頭部を探す。

 村雨の剣から拡散する鋭い赤い放射線が湖に刺さると、湖の奥から痛みに耐えかねてオクトパスは全容を現す。


「やはり急所は頭部です。清水さんと小沢さんは恐らくオクトパスの属性は水ですので一旦後衛へ引いて下さい。村雨さんは水属性ですので前衛へ回って、リシタニアが前衛サポートへ回って下さい。」

「おう!」

「承知した。」

「はいよぉ。小沢ちゃん後へ戻るよ。」

「分かった。」


 オクトパスの属性を推測した鮫島は触手と交戦中の東と上杉以外の布陣を見直し、炎属性である清水と小沢を一旦下げ水属性の村雨を前衛へ移動させ、風属性で広範囲攻撃も可能なリシタニアを前衛サポートへ移動させ、属性が合う村雨はターゲットが絞れた事で拡散攻撃である血での攻撃を止め水竜派の技を繰り出す為、先程までと違う上段の構えで剣を持つ。


 その技は以前シャーラでの戦いで使った技で、水竜派の『師』の称号を持つ村雨のみが使える奥義の構えで、四大従者であるベヒモスでさえもその技から逃れる事が出来なかった水竜派奥義『水影』で、村雨が突き刺した剣がオクトパスの居る湖に潜ると湖は黄金に輝き、湖に居るオクトパスは金縛りに合ったかのように動きを止める。


 金縛りあったかのように動きが止まったオクトパスを前に、村雨は仁王立ちをし呟く。


「やっぱり『解放』後のベヒモスに比べれば大した事ねぇ相手だな。」

「村雨、お前いつの間に『水影』を。」

「あの時は菊池が居たから手の内を明かしたくなかった、だからお前達が知らなかったのは無理はねぇ。上杉、とどめは任せたぜ。『水影』は己と同調させる奥義だが、この技のデメリットは自身でとどめを刺せない事だ。以前の世界なら相打ちの形に持ち込む事は可能だったが今はそれはハイリスクだから、お前達周りの仲間の協力が頼りなんだ。」

「村雨・・・。ああ、任せてくれ!」


 村雨の『水影』を見て驚く表情の下山に、村雨はメンバーにも話していなかった奥義の理由を来るべき菊池との対戦まで自身のみ知る秘密だった事を明かし、村雨がこの世界になり既に菊池との対戦を意識していた事を理解し神妙な表情になった下山に村雨は背を向け、己の動きと同調するオクトパスに対し上杉へとどめを刺す事を話すと、上杉はそれを聞き村雨がそこまで信頼を寄せていた事に驚きと同時にムズかゆい感情が湧き出していて、村雨が最高の技で押さえたのであれば自身も最高の技で返す必要ががあると感じる。


 上杉の持つ妖魔刀は自身の闇の心と引き換えに最強の強度を誇る剣と化す魔剣で、それを上杉は契約という形で成立させた事でローリスクでそれを扱える術を手に入れ、中段に構え精神集中をした直後、全員の視界から消え次に上杉を捉えられた時は目の前のオクトパスは複数回に刻まれた後で、村雨の『水影』が解かれると同時に湖に巨大な波を起こしオクトパスは無数の破片となり湖の中へ消えて行った。


「・・・ヤツは末恐ろしい存在だな。まさか、これ程までとはな。」

「うむ、先程の攻撃は私は全く言えなかった。」

「うーん。四回くらいまでは見えたんだけどなぁー。上杉、何回切ったの?」

「十六回。」

「あれが『神速』ってヤツか・・・。あたしも初めて見たよ。」


 上杉の繰り出した『神速』に村雨は上杉の存在の恐ろしさを改めて感じ、斬り刻んだ回数を聞き驚くリシタニア達を見て、リレイズの設定上でしか現れない『竜神』の血を引き継ぐプレイヤーの実力を目の当たりにした瀧見は、自身ですら知らないリレイズの深層部分に触れた事に驚きを隠せずにいた。


 オクトパスを倒した湖の先に現れた四階層への階段を見つけ三階層まで攻略した上杉達は、次なる階層である四階層へ進んだ。


 三階層まではキャラクターも訪れる可能性を考慮して作られていたダークゲートは、四階層から本格的な迷宮へと豹変し上杉達へ襲いかかる。

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