第三十七話 友の願い
イスバールを立ち、上杉達はミリア大陸最大の国ミリアを目指す。
ミリアからイスバールまでは一ヶ月程掛かり、途中にあるテネシーが各自個室で過ごす宿としては最後になる為、そこから先は各地でテントを張り野宿を繰り返す事になる。
鮫島とリシタニアと上杉の三人で暖を取りテントで共同生活をする長旅はこれが初めてで、ケルベロス討伐の時のリシタニアは小沢と共に先行偵察隊として先に行っていた為、上杉と鮫島とは別パーティーで行動していたので、広大に広がる静かな夜の地で火を囲み座る三人の中で上杉と鮫島の会話を聞き、突如リシタニアが二人に驚きの表情で話し始める。
「そなた達は夫婦ではなかったのか?」
突如語ったリシタニアの一言に上杉は口に含んだ豆茶を噴出し、その横で鮫島は動揺した表情で話す。
「ち、違いますよ!私達は学校の同級生であって・・・それで・・・。」
「ガッコウ?何だそれは?」
「リシタニアの世界で言えば、教育課程って事かな。王宮の貴族は大体個人で家庭教師を雇っているし、俺達の世界では同じ世代の人間が集まり皆で学ぶのが教育課程として義務付けられているんです。」
「なるほど・・・。で、そのガッコウとやらで、そなた達は一緒に教育を受ける仲なのか。」
「はい、これから会いに行く木村と鮫島は俺と一緒のクラスです。」
「そうなのか。そなた達の今の様子や戦いぶりや様子を見ていると、仲睦まじい夫婦のような意思疎通が感じられたのだったのがな・・・。」
「もう、リシタニアは私をからかっているの・・・。」
リシタニアの話に俯く鮫島に、上杉はこの世界に来なければ知り合う事はなかったであろう鮫島をこの時初めて意識した。
鮫島は学年トップの才能を持ち学校内でも期待される程の才女で、いくら進学校に居る上杉でも彼女とは比べ物にならず、あのままであれば今頃彼女は有名国立大学へ向け勉強を始めている頃だっただろう。
その彼女が突然上杉に話があると言い出した時は、正直上杉も心引かれる期待をしたのだが、鮫島が話した言葉はリレイズの世界に入りサイレンスと共にクエストを攻略する事だった。
鮫島の父親である鮫島 春樹が残した彼女用のIDに気付き召喚術士としてこの世界へ来た後、ルシフェルの影響で世界は『上書き』され『バウンダリー(境界)の破壊』が起きた事で元の世界へ戻る術を失い落ち込んだ時期もあったが、今は本来の目的であった鮫島 春樹を発見した今でも彼女は常に前を向いて歩いている。
それは、この世界になり戻れなくなってしまった事も大きな要因であるが、鮫島 春樹に託された理想の世界の実現を目指す目的が今の彼女を支える糧であり、鮫島 春樹が再び去った事で彼女の生きる目的が無くなってしまったのではないかと思えた上杉の懸念は杞憂に終わっていた。
だが、彼女が見るその先の未来はあるのだろうか。
確かに上杉もこの世界になり、戻れる可能性が今の所見つからない事で自身の未来は見えずにいるが、元はリレイズの世界での生活を生き甲斐にしていた人間である上杉にとって、それは鮫島と同等の悩みではないと考えている。
就寝前にリシタニアは稽古をする為一人で森へ入って行くそのタイミングを狙い、上杉は鮫島を呼び出し、乾いた音を立てる焚き火を囲み話し始める。
「鮫島・・・。お前がリレイズへ来た目的だった父親探しはとりあえず達成出来た、よな?」
「え、ええ。この世界になった事で一緒に居る事は出来なかったけど、父の言う通り、私は元に戻る術が見つかっていないこの世界で生きる事を考えなくちゃならないと思っているの。」
「う、うん、それならいいんだ。」
「突然どうしたの?まさか、昼間のリシタニアの話しを気にしているの?」
「え!そ、そうじゃなくて・・・。元に戻る方法が分からないこの世界で、目標をなくした鮫島が心配だっただけなんだ。」
たどたどしい会話で話しかける上杉に、鮫島は昼間のリシタニアの話を持ち出すが、上杉は相変わらずの動揺振りを見せながらも鮫島の今後についての心配を話すと、冷静な表情の中で口元だけ笑うような表情で話す。
「私がリレイズへ来たのは父を探す為であった、それは今でも変わらないわ。けどその中で、私の心に目標ではないけど別の感情が涌いてきたの。それは、サイレンスの仲間達や木村さんやリシタニアとの出会い、そして現実世界ではありえない従者との契約とか、今はそれが現実世界になってしまったけど、この世界にも確かな生命を感じたのよ。この世界もまた、私達と同じ世界だって。だから、私はこの世界を守りたい。・・・そして、皆も。」
鮫島はリレイズを経験して僅か数ヶ月しか経っておらず、この世界になってからを加算しても一年にも満たない初心者プレイヤーだが、鮫島 春樹の用意したIDやサイレンスの協力で召喚士とはしては最強の四大従者の一人と契約し、連戦だったとは言え最強の召喚士と言われる『軍師』菊池と対等に戦えるまでの実力を身に付けた。
鮫島のリレイズの世界に染まり切った人間ではないその心が、この世界は新しい世界だと感動出来る感性を与えていて、それは、ゲームの世界でしかなかったリレイズの世界の行く末を真剣に考え尽力を尽くす事で、それが鮫島にとってこの世界になってしまったリレイズで生きて行く為の目標となっている。
焚き火を挟み上杉の前で冷静な表情で口元だけ緩み夢を語る鮫島に、何処までも真っ直ぐで馬鹿正直な才女に上杉は思わず笑みを溢し、それを見た鮫島は少しふて腐れた表情で上杉を見る。
「何よ!私の話している事って可笑しい?」
「いや・・・。ゴメン、俺が悪かったよ。俺は鮫島がこの世界で生きる目的を失っているんじゃないか心配していたんだ。だけど、お前の思想を聞けて安心したよ。鮫島 春樹が言っていたように、戻れないのであれば俺達はこの世界で生きるしかない。その為には皆が安心して住める世界にしないとな。」
「そうだね。」
「なんだ、やはりそなた達は仲が良いではないか。」
「え、リシタニア・・・。」
「ち、違うの!こ、これは会議!そう!会議よ!」
鮫島の思想を聞き安心した上杉は、ふて腐れる鮫島に謝りこの世界を互いが思う理想の世界にする事を話すと、稽古から返って来たリシタニアにそれを見られ慌てふためく二人は懸命に弁解をし、それは夜を徹して行なわれた。
イスバールを出で一ヶ月、季節的には一番過ごし易いが、周りには大量の雪が残る極寒の地ミリアへ到着する。
ミリア城へは誰も来た事が無かった為、ステータスブックのチャット機能を使い川上へ連絡を入れるが返事が無く、続けて連絡を入れた清水から聞いた言葉に三人は凍り付く。
オズマン大地でアイリス軍の奇襲にあったミリア軍は、崩壊寸前に助太刀に来た木村達によってミリア二世は無事だったが、その戦いでネクロマンサーの江に戦いを挑んだ川上は瞑目の薬を使い一時的に驚異的な力を手に入れ相打ちに持ち込む作戦を行った事によって、『永遠の副作用』の発動により『永遠の眠り』につき未だに意識が戻らないとの事だった。
その話を聞いた三人は急いで城に向かい、入り口で持っていた清水との再会も程々に王宮内にいる川上の部屋へ走ると、そこにはベッドに横たわり死んだように眠る川上と傍らには何かを詠唱する木村の姿と、その横には赤いロングヘアーの少女が川上を見つめていた。
「川上!」
「・・・上杉。」
「木村、一体どう言う事なんだ。」
「川上さんは、私をかばってウィザードに戦いを挑んで・・・。」
「解毒魔法は?」
「今も試してる。だけど、毒ではない副作用には私の解毒魔法でも効かなかった。」
「・・・それは、木村自身が作った魔法プログラムのアルゴリズムだから間違いはないね。」
「あなたが『ゲームマスター』の瀧見さん、か。」
「あんたが上杉だね、瀧見でいいわ。あたしは『ゲームマスター』の一人で、木村と共にリレイズのプログラムを作った人間さ。人との繋がりを持たないあたしでさえも知っている『妖術士』と呼ばれたあんたなら川上を救えると思っていたが、まさか侍になっていたなんてな・・・。」
「この世界を止めるには必要な事だったんだ。だけど、俺でもこれは無理だっただろう。俺の攻撃回復魔法は相手に過剰なエネルギーを送る事で爆発させる物理攻撃の延長線上の事であって、研究はしたけど人間の構造を弄る事は出来なかった。」
「やっぱり、あんたでも同じ見解だったかい・・・。あたしも物理的な研究は成功出来たけど人体構造を変える法則や魔法は編み出せなかった。・・・だが、アイリスの江はプレイヤーの魂を別の幻想へ入れ遠隔操作する魔法『リプライス』を開発していた。それは、人体構造のさらに行く精神論的な部分で、ヤツらは既に人体の構造を弄れる研究を成功しているかも知れない。」
「魂を遠隔操作する魔法・・・?」
「あんた達はカシミールとシャーラでアイリスの軍と戦って来たんだろ。アイツらに何か感じなかったか?」
「・・・いや。」
「アイリスはそのリプライスを使い、カシミールへ幻想の兵を送りアイリスで遠隔操作し、その隙を付き奇襲を掛けようとしたミリアに対しても攻撃を仕掛けて来たんだ。」
「シャーラでのアイリス兵は全て幻って事なのか!?」
「間違いない。あんた達がアイリスを撃退した直後に我々は襲われた。今から二ヶ月前の事だ。」
「俺達がシャーラでアイリスとネクロマンサーの張や菊池と戦っていた直後くらいの日だ!」
「菊池は恐らくリムーブポイントであたしの足止めをする為にミリアの洞窟へ移動したんだろう。」
「確かに、菊池は私との戦いの後消えた時、詠唱した魔法はリムーブポイントだったわ。」
「時間軸が当てはまったな・・・。これで江の話していた事に確信が持てたよ。やっぱり話していた通り、アイリスは幻想をカシミールへ、そして本体をアイリスへ残しミリアの襲撃に備えていて、ヤツらは両方の国を侵略しようと企んでいたんだ。」
瀧見が話す事実は、シャーラで生死を賭けた戦いはアイリスにとってはまったくダメージの無く、リプライスを使い両方の国を同時に狙っていた事に、上杉達は驚愕の表情をする。
「そして、その罠を抜け出す為の代償は、川上と言う尊い男だった・・・。」
「川上・・・。」
うな垂れるように語る瀧見の横で、ミリアを守り永遠の眠りに着く川上を見つめ黙り込む上杉は、川上の回復する僅かにあるかも知れない可能性を必死に探すが、その答えは目の前にいるリレイズの全てを知る『ゲームマスター』の瀧見が話したように、現代世界で証明出来ない法則を編み出す事は、一介の高校生である自身には実現不可能な事に辿り着くだけであった。
だが、瀧見が話したように現実世界では説明できない事を実現できている事も確かで、それはリレイズで放つ魔法や召喚獣や必殺技なども現実世界では実現できない事であり、それを実際にプレイヤー自身で実現できたのがアイリスであり、上杉は敵が行った方法に対し川上が救える可能性を考え出す。
「これも、川上を救い出せる手段を見いだせるかも知れない・・・。先月、俺達は鮫島 春樹に会った。」
「鮫島 春樹に!?」
「イスバールの俺達のアジトの前で待っていて、その時この世界の事や、お前達『ゲームマスター』の『ミハエル』の事や、この世界にした原因が『ルシフェル』と言う人工衛星の電波投影装置だと言う事も。」
「その話は、あたしも木村から聞いた。元の現実世界を無理矢理リレイズの世界へ変えさせたのは上空にいるルシフェルってヤツで、それがあたし達『ゲームマスター』の一人の『ミハエル』の陰謀だって事もね。」
「鮫島 春樹は、ルシフェルの放つ電波と逆の周波数の電波を放てば反共振を起こし、電波を打ち消す事が出来るかも知れないと言っていた。そして、その反共振する周波数を放つ魔法が存在すると言っていた。」
「上杉、それは本当なの!?」
「可能性でしかないけど、ルシフェルから放射される電波を止める事が出来れば、この世界に何かしら変異が起きる筈で、それが元の世界に戻る事であれば川上は回復するかも知れないと思うんだ。」
「ルシフェルからの電波を消しリレイズの世界から解放されれば、川上さんの眠りが消えるかも知れないの。」
「・・・だけど、鮫島 春樹は同時にこれも話していた。元の世界にリレイズが『上書き』された現象は今の知識では解明出来ないって。だが俺達に残された可能性で一番実現可能な事と言ったら、『リレイズ』を倒し『アングレア』の魔法の書を手に入れる事だと思うんだ。俺達はこれから『ダークゲート』へ向かおうと思う。・・・本当はあの迷宮を切り抜けるには川上の力が必要だったが、あの迷宮を攻略する為には多くの仲間が必要だ。協力してくれないか?」
「ああ、そう言う事なら協力は惜しまないよ、なぁ木村。・・・木村?」
上杉が話す川上を救える方法は、ダークゲートに居るリレイズの魔法で、それは超音波魔法と言われる高周波を発生する魔法で、その周波数はルシフェルが放射する電波と反共し打ち消すことが出来る可能性のある一番現実的な方法と話した上杉は瀧見達にリレイズ攻略に協力して欲しいと話すが、一つ返事で了承した瀧見に対し、木村は川上を見つめたまま瀧見の語りにも無言を貫く。
「・・・上杉、私はイスバールへ戻り別の可能性を探る。」
「別の可能性って・・・。」
「アングレアを使う事で『バウンダリー(境界)の破壊』は止められるかも知れないけど、川上さんが目覚める可能性はその方法では低いのは私でも分かる。なら、私は別の方法を考えるわ。元の世界に戻す術が無い事は私も鮫島 春樹から直接聞いているから・・・。私にもムフタールの資格あるのかも知れないけど、鮫島 春樹にはそれを話されていないし、瀧見さんは私がそれを伝言で受けている。それに江を倒したのは彼女だし、私よりも十分戦力になる筈よ、リレイズの持つ魔法『アングレアの書』は魔術士が扱う魔法だし、それは瀧見にしか出来ない。」
「木村、あんたがなぜそこまで川上に対して負い目を負っているんだよ!それはミリアを止められず戦場へ赴かせたあたしの筈だ。戦力云々じゃなくて、皆で一緒にアングレアの書を手に入れてから次の可能性を探ればいいじゃないか!」
上杉の話を断る木村は、川上を助ける別の可能性を探る為に自身はイスバールへ戻る事を話すが、その木村の悲壮感漂う態度に瀧見は一人で責任を背負う木村に感情を露わにするが、瀧見を見ずうな垂れるまま木村は静かに話す。
「『永遠の眠り」はゲーム上でのバッドステータスであって、体ごと転移されたこの世界で受ける負担は現実世界同様で、寝たきりの人間の末路は体力低下に伴う衰弱の筈・・・。」
「うっ、な、なにもそこまでリレイズの世界が現実的な筈無いじゃないの?」
「本当に・・・そう思ってるの?上杉の言う通り、この世界は現実世界と入れ替わった世界であれば、例え魔法や特殊技が使えるけど、その中にいる私達人間の真の部分は変わらないと考えるのが妥当よ。」
木村の話す言葉に瀧見は動揺を見せたどたどしい返事をするのが精一杯で、瀧見もその点に関しては薄々感じていた部分であったが、体ごとこの世界へ転移されれば木村の話す内容と当然の結果で、寝たきりの人間の末路は体力低下による衰弱死であり、医療技術のないこの世界ではどうする事も出来ない事態になる前に、木村は常に回復魔法と解毒魔法を掛ける事で川上の体力低下を防いでいたのだ。
だが、この方法も未知の部分が多く、回復魔法は体力を回復する魔法ではあるが、弱った筋力を戻すとなると話は別で、今掛けている回復魔法も効果が無いものかも知れないが僅かな可能性に賭け、木村はひたすら川上の前に寄り添いながら回復魔法を詠唱していた。
黙り込む事しか出来ない瀧見の横で、上杉は以前に川上と話した事を思い出していた。
それは川上の戦争に対する思想で、以前に上杉は戦争のクエストの依頼を受けサイレンスへその話を持ち込んだ時があったが、即答で了解した清水に対し返答を保留した川上を不思議に思い、返事を一日延ばした時に二人で話をした事があった。
「・・・俺は、リレイズに戦争をしに来た訳じゃないからなぁ。俺の仕事はあくまで情報収集と冒険までの準備やトラップの解除だろ?冒険以外の事は俺にとっちゃ興味の無い事だよ。」
「でも、お前の戦略を戦場でも間違いなく使える筈だよ。トラップを見抜く事だって戦場では無数にある魔法トラップを解く為に必要だし、お前は戦場へ行けばもっと名が知れるプレイヤーになる筈だよ。」
「い、いや、俺は別に名前を売りたいが為にリレイズをしている訳じゃないし、お前と組んだのだってリレイズを研究するその探求心に興味があっての事だ。俺はお前のようにリレイズに可能性を求めるのが好きだが、殺戮を繰り返す戦場へは行きたくないんだ。・・・臆病物と思えばそう思えばいいさ、俺はそう言う人間だ。」
「川上・・・。」
あの時の川上の悲壮感溢れる表情を今でも忘れる事が出来ず、上杉はそれ以来サイレンスに戦争もクエストを持ち込む事をやめ清水にも同様のお願いをし、戦争のクエストは二人で参加するようにしていた。
その川上が奇襲攻撃であったが戦場へ赴いたのは、『バウンダリー(境界)の破壊』の影響によるものかと考えたが、木村が続けて語った言葉で、川上がなぜ戦争を嫌ったのかが理解出来た。
「・・・川上さんの家系は軍事一家で、先祖が起こした戦争による反感を戦争と関係のない自分達が受ける事に嫌気が差していて、川上さんはここの誰よりも戦争の意味を知っていた人で、戦争は恨みしか生まない事を常に心に抱きながらこれまで生きていました。」
「俺も詳しい事は聞かなかったけど、以前戦争のクエストで川上はそれに強く反対した時があって、サイレンスとしてはそれ以来戦争へは参加していなかった。川上はこの世界になり戦争が身近になった事を一番感じていて、戦力としては使えない自分の職業に憤りを覚えていたのかも知れない・・・。アイツは、ただ純粋にリレイズを楽しみたかっただけなんだ。」
「・・・これが、そなた達の話す『バウンダリー(境界)の破壊』の影響によるものなのか。あやつは普段から感情を隠すような感じではあったが、戦争と言う者に対してこれ程までの険悪感を抱いていたとは・・・。」
「リシタニアが住むこの世界では戦争とは日常的に起きるものであり、死と隣り合わせなのは生まれた時からそれが当たり前の世界ですが、俺達の世界では戦争は既に過去の物で、確かに世界の何処かで戦争は日常的に行われていますが、俺達の住む国では数十年戦争は起きておらず、プレイヤーの殆どは本当の戦争を知らない人間なのです。」
「だから、そなた達の思想は多岐に渡る考えを持ち、我々では考えもしない発想をするのか。正直、そなた達の思想では戦場では生きていけない。だからこそ神はそなた達に不死の体を授け、我々と冒険者は永遠に分かり合えない宿命だと感じていた。」
「現実世界を超越した思想と能力、それが『バウンダリー(境界)の破壊』で、本来であればゲームの世界のリシタニアと俺達プレイヤーが相まみえる事が無い筈が、俺達とリシタニアは共に冒険をし、今も仲間として居られるのもそれが影響しているからだと思います。」
キャラクターとしての『バウンダリー(境界)の破壊』は、プレイヤー達の思想を理解した時だと話すリシタニアに、上杉は『バウンダリー(境界)の破壊』は誰にでも起こりえる現象だと話し、眠りに着く川上に目をやりながら話を続ける。
「俺は川上を救う可能性を求め、リレイズの持つアングレアの書を手に入れる為にダークゲートへ行く。・・・木村はお前自身の信念に則って川上を助ける可能性を探ってくれ。」
「ええ・・・。ありがとう、上杉。」
「回復職が居ないのは正直痛手だ。だけど、木村の話す衰弱の可能性は十分あり得る現象だし、川上の為にも最強の回復職がいれば俺達も安心して探索出来る。」
「あたしの魔法があれば十分だって。任せておきな!」
「私も微力ながら協力するぞ。」
「私のトレントもありますし、上杉君も回復が使えない訳ではありませんし大丈夫ですよ。」
心配そうな表情に対し上杉達は心配ないと話すが、上杉の心の中では正直今のメンバーは回復職が少ない事は実感していて、上杉が侍へ転職した事で以前の魔力が半分に下がった為、元々の経験値が少ない上杉の回復魔法のレパートリーや魔力では鮫島のトレントに敵わない程だ。
だが木村の意見も無視出来ず、心配する表情に木村を励ます為にもここは強がってでも虚勢を張る必要があると上杉は考える。
ミリア城の王宮内に居た小沢と清水を探し、上杉・鮫島・リシタニア・清水・小沢、そして瀧見の六人で、リレイズの居るカシミール最北端にある『ダークゲート』を目指す。
そこはリレイズ最後の迷宮と称される通りの難関が待ち受ける、過酷な戦いが待ち受けていた。
 




