第三十五話 孤独者の覚悟
川上が命を掛けて放った一つの爆弾の威力は常に雪のあるミリア大陸の一部を溶かし、現れる筈の無い地表を確認出来る状況を作り出す。
それ程の威力を至近距離で受け普通であれば生きていない筈川上は、この状況にいち早く気付いたミリアからの援軍である瀧見の浄天眼を使う事で爆破寸前で川上を救い出す事に成功したが、瞑目の薬を飲んだ川上は意識が戻らず死んだように眠り続けていた。
「川上さん!」
「こいつ、瞑目の薬を使っただろ。恐らくこいつの『永遠の副作用』は『眠り』だ。せっかく救ったが、復活出来ないこの世界じゃほぼ死人同然だ・・・。」
「そんな・・・。」
眠り続けるその状況を見た瀧見は川上が瞑目の薬を使った事による副作用を話すと、まだ傷の癒えない状態の木村は自身の体よりも川上のその状況に絶句しうな垂れる。
だが、目の前にいる瀧見とミリア二世以外にも人の気配を感じた木村は、現れたその人物を見て背筋の凍る感覚を覚える。
そこに居たのは先程の川上の決死の自爆を目の前で受けた筈の江で、あの爆発により左腕を負傷して無傷ではなかったがウィザードの職業を活かし回復魔法を己に掛けながら整わない息遣いで話す。
「さっきのは正直ヤバかたネ・・・。まさか、我々より先に火器類を開発していたなんて、やはり川上は油断ならぬ相手ネ。だが、あれは恐らく瞑目の薬でステータスを一時的に増強しての決死の攻撃、薬の副作用の影響で間違いなくこの世界では生きて行けないネ。」
回復魔法で息を整い始める江は、決死の覚悟で挑んで来た川上の攻撃に対して笑みを浮かべながら、瞑目の薬の副作用によってサイレンスの川上が二度と戻らない事を嬉しそうに話し、瀧見が抱く川上に冷徹な表情で視線を送る。
「・・・犬死、だたネ。」
「貴様・・・!」
川上を見て発した江の一言に木村は怒りを露わにし、ほぼ回復した体を起こし再び江に戦闘を挑む体制を取ると、横で川上を抱いたままの瀧見がおもむろに木村の前に背を向けて立ちはだかる。
「木村、あんたはまだ回復していない。あんたがそれ程までやられる相手にそれじゃ敵わないのはあんたも分かるだろう。」
「だけど、それでも川上さんは恐れずに向っていったわ!」
「いいんだよ、それで。・・・だけど、今回はあたしがその役をやらして貰うよ。あたしは現実世界に存在しないリレイザーだけど、ミリア国を守る衛兵でもある。決死の覚悟をするなら、あたしの方が相応しいと思わないかい。」
「瀧見さん・・・。」
リレイズを作った二人の天才プログラマーの一人である木村だから知っている瀧見は、現実世界に疲れ果てリレイズと言う世界に逃げ込んだ現実逃避者のイメージが強く、いつも何かにイラつく姿や悲壮感を漂わせる人物だったが、目の前にいる彼女はいつも通りの世の中を冷めた目で見つめる悲壮感漂う表情は変わらないが、その感情の矛先は明らかに川上に対する江の態度に向けている。
ミリアの衛兵に就いたのも鮫島 春樹に言われ渋々やっていた程度で、本人もリレイズで生活する為の糧程度にしか取っていなかった筈なのに、今の彼女はこの世界に居る己の責任を自覚しているかのように凛とした態度で真っ直ぐ前を向いている瀧見の心境の変化に驚きを隠せずにいる木村に瀧見は話しかける。
「天才のあんたなら大体は察しているんだろ、この世界の変化に。」
「それを瀧見さんへ伝える為に、私達はここへ来たのよ。」
「・・・鮫島 春樹の伝言か。」
「瀧見さんにも鮫島 春樹から手紙が着ていた筈よ。」
「あたしがバカだっただけだよ・・・。あの時あたしは、まだこの状況を完全に把握出来ていなかった。それが今回のミリア二世のアイリスへの遠征だった。『ゲームマスター』としてこの状況を気付かなくちゃいけなかったのに、現実世界から完全に離れたこの世界に転移した喜びが先行して、『バウンダリー(境界)の破壊』の本当の意味を理解出来ていなかったんだよ・・・。」
瀧見はこの世界になっても自身はリレイザーとして生きて行ければ問題ないと思い、『バウンダリー(境界)の破壊』が起きた所でそれは異世界への転移程度のライトノベル的な考えでいたが、実際に起きているそれは現実世界がリレイズの世界に近づく現象こそが『バウンダリー(境界)の破壊』で、超人的な能力を持つプレイヤーが現実世界を戦乱の世界へ変える行為であり、個々の思想と力によって幾らでも世界が変えられる現実世界以上に異様な世界になる事に瀧見は気付いた。
だが、既に瀧見の好きだったリレイズの世界は戦争を好む乱世の世界へと変わり、ミリアで会った菊池のように己の思想と力でこの世を支配しよとする亡者が現れ始め、目の前の江も同様に己の思想を叶える為に新しい法則を開発し更なる力をつけこの世界を戦争の世界へ誘おうとしている。
リレイズでのプレイヤーとしての超人的な力を持ち、それが現実世界とリンクすれば間違いなくこの世は戦国乱世になる、自身も単独で行動出来る程リレイズの世界で個々のプレイヤーの強さを認識していた筈なのに『バウンダリー(境界)の破壊』の本当の意味に気付く事が出来なかった自分はやはりバカだった、そう思いながら瀧見は傷の癒えた江を見つめる。
「確か貴様は、菊池が足止めしていた筈だけどネ・・・。」
「菊池にこの事実を聞いた後のあたしじゃあ、全てに気付くのが遅過ぎたのは事実だ。けど、木村やこの男のお陰で、もう一度やり直せるチャンスを貰ったんだよ。悪いがあんたは消えて貰うよ。」
「貴様にそれが出来るかネ。さっきの爆発で貴様が使った瞬間移動魔法『シャインムーブ』は、私もさっきの爆発を避ける為に使たヨ。貴様が川上を助け出しその手の握力が落ちた一瞬、私もシャインムーブを使って爆発から抜け出たけど、さすが川上の奇襲だけあって全てを避け切る事は出来なかたがネ。」
「あたしは、あんたの事を良く知らないけど、魔術士のシャインムーブとヴィショップの高等回復魔法を同時に使える職業と言えばウィザードくらいしか居ないのは知ってるわよ。」
「では、これはどうかな?」
江はローブから右腕を出し、それを即座に地面に叩きつけると先程木村を苦しめた重力操作魔法を繰り出す。
「瀧見さん、江が使うその魔法は重力操作の無属性魔法で、強烈な加重が掛かって来るわ!」
「もう遅い!貴様は私の前に這い蹲るがいいネ!」
江が繰り出した重力操作魔法は瀧見の周りに巨大なクレータを発生させる程の加重を瀧見の体に纏わりつかせ、その強大な重力に何も出来ない瀧見を見た江は不気味な笑みを浮かべる。
「どうした!何も出来ないかネ。貴様は魔術士だから鎧がないその状態では数分も持たないヨ。」
「瀧見さん!」
高笑いする江に対し悲壮感を見せ叫ぶ木村に対し、背中を向けたままの瀧見は木村に顔を向け話しかける。
「あんたの『見透かしの目』であたしを見てみな。重力が武器なら既に勝負は着いている。」
「・・・え!?瀧見さん、その魔法って!?」
「あんたも時代遅れね!重力操作の魔法は、既にあたしが開発している専売特許よ!」
「何を馬鹿げた事ヲ!」
『見透かしの目』で瀧見を見た木村は、瀧見がこれから起こそうとしている事が見えると、その真実に木村は驚きの表情を見せ、その姿を見た瀧見は再び正面を向き、重力操作は既に自身が開発した魔法だと江に話すと、既に発生させている筈の重力操作魔法が、鎧も付けられない魔術士の瀧見が何時になってもその重力に対し倒れる事がない事に、江は次第に焦りを見せる。
「なぜだ!貴様に重力操作は効かないのか!?」
「あたしの周りだけ逆に重力を掛けているからね。あたしの足元よく見てみな。」
「なに!?その周りだけ加重で出来る筈のクレータが無い!」
「さて、そろそろ降りてくる頃だね。江!これが本当の重力操作魔法よ!」
瀧見の上空の色が次第に赤一色に染まってくると、その中から無数の隕石が大気圏を越えた事で高温を纏うオーラと共に江も頭上へ降り注ぐ。
「貴様!これは、まさか!?」
「そう、これは『メテオスラッシュ』よ。でも、ただのメテオスラッシュと一緒にしないでよ。これは、あたしが開発した重力操作魔法と掛け合わせたオリジナルで、魔力で作った隕石じゃなくて、本物の隕石を重力操作で引っ張って来ている、本当のメテオスラッシュよ!」
メテオスラッシュは魔術士最強として君臨する魔法で魔力で作った隕石を落とす魔法だが、瀧見はそれに重力操作を加える事で宇宙に存在する本物の隕石を引き寄せ大気圏の高温にさらされた隕石の物理攻撃を行なうメテオスラッシュを作り上げた。
無数に降り注ぐ隕石に打たれたオズマン大地は無数の隕石が転がる岩石地帯へと変貌し、巨大な隕石の上に立つ瀧見は目の前で左腕を無くす江の姿を睨みつける。
「あんた、メテオスラッシュを紙一重で避けたのね。重力操作とシャインムーブも使った魔力で、よくもう一回シャインムーブを使えたわね。・・・さすが、ウィザードって事かしら。」
「やはり貴様、重量操作の魔力消費を知ってのセリフだネ。正直貴様の重力操作は私の魔力では到底辿り着けない程の魔力を使ている筈ネ。宇宙空間の隕石を引っ張ってくる程の魔力量、それは間違いなく『ゲームマスター』が使える特殊コマンドによるものネ。」
「ご名答。あたしの特殊コマンドは『ステータス操作』で魔術士が持てない武器を装着する為や、連続詠唱が可能になるように、魔力と力の基礎能力を通常のプレイヤー以上に上げる操作が出来る能力よ。」
「確かに『今』の私では到底敵わないネ。」
「今?今じゃなくても、あたしのステータスは常識を逸する数値に変えてあるのよ。それに、あんたはリプレイスを使っていない事も菊池の話した内容からおおよそは理解している。リプレイスは巨大な魔力を使う事が出来ないから、あんたは幻想のままでは重力操作は使えない筈で、その魔法を使ったあんた自身が本物だと証明している。・・・あんたはここで死ぬのよ。」
千切れた左腕から出る大量の血を見て、瀧見は江が話す内容を最後の悪あがき程度にしか感じず持っていたスピアーを突き出しその矛先を江の左胸目掛けて突くと、胸から溢れる大量の血と共に江の口からも吹き出すように大量の血が流れ出すが、その姿になっても不気味な笑みを崩さない江は最後の力を振り絞るように小刻みに笑う。
「クククッ!菊池に聞かなかたカ?幻想を作り、それに魂を入れて遠隔操作する『リプレイス』は魔法だと言う事をネ。」
既に血が無くなり真っ青なゾンビのような表情の江は、その事を気にも留めず笑いながら瀧見の突いたスピアーの矛先を自らの手で血に染まった胸から抜き始める。
「あんた、まさか!?」
「菊池も結構お喋りな所があるネ。けど、リプレイスを作ったのは私ネ。貴様がメテオスラッシュを繰り出した時、私の体は既に幻想の入れ物と入れ替わっていて、この体は幻想の体、と言う訳ネ。」
瀧見に話しかけている間に、江は胸に刺さっていたスピアーを抜き終え、再びシャインムーブを使い瀧見との距離を取る。
「あんた、あの瞬間に幻想と入れ替わってたって事!」
「貴様のメテオスラッシュは確かに最強ネ。だが、従来であれば敵の頭上に作り出す隕石を宇宙空間から引っ張る事で地上までの距離が詠唱時間となり、貴様の魔法は詠唱時間がただ長い大技になってしまっていて、それではシャインムーブが使える魔術士クラスとは戦えないネ。それなら、私の重力操作魔法の方が詠唱時間も短いから圧倒的に戦闘向きネ。」
江は、瀧見の作り出したメテオスラッシュの弱点を指摘し余裕の笑みを浮かべるが、その表情は次第に険しくなり始める。
「・・・しかし、今の状態で居られるには体力の限界ネ。今回の戦争で敵の姿が捉えられた事が収穫と考え、これ以上の戦略は諦めるしかなさそうネ。まさか、『黒い雨』を降らす以前から練り込んだ私の戦略が、『ゲームマスター』が居たとは言え、たかが一介の数人のプレイヤーに両方共潰されるとは想定外だたネ。」
次第に息遣いも荒くなった江は、最後の力を振り絞るように大きく深呼吸をし、剣幕な表情で瀧見と木村を睨みつける。
「貴様らが敵だと分かった以上、次は容赦しないネ。・・・次こそはイスバールもカシミールも、ここミリアも全て、我がアイリスの植民地と化してやるネ!」
不気味な笑いと共に目の前の江の姿は、まるで霧のように消え去って行き、敵が消えたのを確認した瀧見は木村の所へ駆け寄り、木村のリムーブシールドに入っていたミリア二世に歩み寄る。
「国王、お怪我は。」
「・・・ああ、私は大丈夫だ。お前と木村殿のお陰で、この周りの敵は全て殲滅している。瀧見はあの二人の所へ行ってやってくれ。」
「・・・分かりました。」
己の作戦に反対し戦略を実行したミリア二世に対し、それを表情にも出さず自身の心配をする瀧見の姿にミリア二世は川上の件も合わせ居た堪れない気持ちと疲れ切った表情で瀧見に木村達の話しをすると、瀧見はミリア二世に軽く会釈し木村達の所へ向かい木村は川上に自身の解毒魔法を掛けステータスの回復を試している。
「やっぱり、私の解毒魔法『アンチ・デーテル』でも効果が見られない。」
「瞑目の薬は、毒ではないからね。『永遠の副作用』はあくまで薬が効果を見せた事に対しての結果であって、解毒とは解釈が違う、その事はあんたが開発したプログラムのアルゴリズムなんだから、誰よりもよく知ってる事だろ。」
リレイズの魔法システムの開発は木村が担当していて、魔法の効果などのアルゴリズムは木村自身が作り出している事を知る瀧見は、それを知りつつも解毒魔法を掛け続ける木村に哀愁漂う表情で話すが、それでも木村は、その事が聞こえていないかのように解毒魔法を掛け続ける。
「瀧見さんのメテオスラッシュだって、私のプログラムには存在しない法則だった。上杉達がやったように私もその奇跡を信じれば出来る筈・・・。」
「あたしのメテオスラッシュは元々存在する物理の法則を取り入れた魔法だけど、生命を蘇られるような奇跡は、現実世界同様それは存在しない法則だ。未知の部分が多い人の体を戻す事なんて不可能なんだよ。」
「・・・だけど!」
正論を話す瀧見を理解しながらも現実に納得出来ない木村は、瀧見の語りを消し去るかのように大声を張り上げると、今まで冷静沈着なイメージを持っていた木村から発せられたその言葉に驚きの表情の瀧見に対し、木村は俯きながら、自身の膝の上で眠り続ける川上を見ながら話しを続ける。
「私、川上さんが跳び込む直前に『見透かしの目」で川上さんの思想を見たんです。川上さんは先祖代々の軍事一家で、祖先の戦争の影響で今でも戦犯扱いされる現実に嫌気が指し、リレイズでも戦争へ参加していませんでした。それは、戦争経験の無い今の川上さん家族が戦犯の一家として世間から恨まれ続けていたからで、戦争は恨みしか生まない事を知るからでした。私達はリレイズを作った人間ですが、戦争に対してそれ程に重く感じた事はありませんし、戦争を知らない世代ですからそれは当然だと思います。けど、世の中には戦争を知らない世代が殆どになったこの時代でも、戦争は何処かで起きて誰かを不幸にしている筈で、私達はゲームの世界に、戦争と言うイベントを簡単に持ち込み過ぎているのかも知れません。川上さんは、ただ純粋にリレイズの世界を楽しみたかっただけなのに、転移された事で戦争が身近になったこの世界で、戦争へ参加しない自身を責めていたのかも知れません。」
「・・・あんたがそこまで背負う事はないだろ!あたし達だって、リレイズを作る為に多くを犠牲にして来た。それは、このリアルなヴァーチャル世界を皆に楽しんで欲しかっただけだろう。戦争をテーマにしたソフトなんて、この世に星の数程にあるし、リレイズは大陸間の均衡を守る為に戦争は必要で、それは四人で話し合って決めたストーリーに基づいた事であって、それは只のソフトの仕様に過ぎないだろ。あたし達だって、こんな世界になる事なんて想定してなかった。」
「・・・だけど、この世界にしたのは私達『ゲームマスター』の仕業でもあるのよ。」
「それは・・・、あたしも菊池に聞いた。首謀者の名前までは聞いてないが、もし本当にこれが『ゲームマスター』の仕業であるなら、あんたではない事は分かるし、鮫島 春樹じゃないんなら『ミハエル』しかいない・・・。」
「そうであれば、この世界にした責任は製作者である私にも責任はあるし、川上さんをこうしてしまったのも私の責任・・・。」
木村が『見透かしの目』で見えた川上の思想を感じた木村の意見を聞いた瀧見は、世の中の思想を気にしながらではゲーム製作は出来ない事を話すが、今回の転移の原因が『ゲームマスター』の仕業の可能性を話す木村に瀧見は何も言えず立ち竦む。
「・・・でも、私にも出来る事はある。それは、皆が住み続けたくなる様な平和な世界で、その為にも世界の均衡を崩す者達を止める必要がある。それが、たとえ私達と苦楽を共にした同じ『ゲームマスター』だとしても。」
木村は川上に対する責任を一身に受け止める覚悟と共に、川上が話した理想郷を実現する為に選ばれし者としてこの世界を止める決意を話す。
その時、木村はロッテルダムで別れた上杉が話したそれと同様の言葉を発した事に気付き、彼も同様にリレイズの世界を愛し、そしてこの世界を止めたい為にあの時カシミールへ向ったのだと初めてこの時感じ、木村の表情は先程の悲しみの表情と違い僅かに笑みがこぼれ、その表情を見た瀧見は持っていたスピアーを取り出すとその矛先を木村に向け話す。
「その思想、あたしも共感させて貰ってもいいかい?あんたの言う通り『ゲームマスター』として、この世界にしてしまった責任はあたし達にもある。それが、今回の首謀者がミハエルじゃなくてもね。」
「瀧見さん・・・。」
「行こうじゃないか。あんたが目指すその思想にね。・・・そして、その男を目覚めさせる方法もあるかも知れない。」
「この人は川上さんって言います。少し女癖は悪いですが、仲間思いのいい人です。」
「なんか、信用していいのか悪いのか良く分からない人だな・・・。」
今まで現実世界に嫌気が差しリレイザーとして生活していた瀧見は、この世界で必死にもがき命を賭け答えを出した一人の男の存在に自身の不幸など子供の戯言にしかない事に気付き、その恥ずかしさと自国であるミリアを守ってくれたその二人に恩を感じ、木村と共にする事を話す。
鮫島 春樹は、以前より瀧見の資質を見抜き、木村とは違い『ムフタール』の資格を既に与えていたが、唯一彼女の気になる部分であったその性格を川上と木村の影響により覚醒した今の瀧見は『ムフタール』の資質を完全に持つプレイヤーとして生まれ変わった。
江の撤退により、全てのアイリス軍とプレイヤー、ネクロマンサーの梁も同時に撤退した事により、アイリスの今回の壮大な侵略作戦は終了する。
だが、既にアイリスは菊池の生還と共に次の作戦を決行する準備に入り、同時にラムダではネクロマンサーの劉が上空を飛ぶ『ルシフェル』の解析を始めていて、再びリレイズの世界は新しい戦力により戦争と『バウンダリー(境界)の破壊』を利用する者との思惑が交差する、不気味な世界になり始めていた。
- 第四章 リレイズの正体 完 -