第三十四話 仲間の為に出来る事
村雨や川上達がシャーラ城で戦っていたアイリス兵は全て幻想だった。
それは、アイリスが開発した幻想魔法『リプレイス』で幻想を作り、遠隔操作により戦地で戦い、実際の兵はアイリスに滞在したままにしていた。
その目的は、中央大陸進出を狙うミリア軍をミリア大陸最南端にある『オズマン大地』で待ち伏せ奇襲攻撃を仕掛ける作戦で、その作戦に嵌ったミリア軍は、突如現れた数万のアイリス軍に対し防戦一方で、戦局は圧倒的に不利なミリア軍の壊滅は時間の問題であった。
だが、目前にあったアイリス軍の勝利に陰りを生む想定外の状況が、僅か四人のプレイヤーが現れた事により狂いだす。
高台でその戦況を確認する四人のメンバーのうち、三人はリレイズでトップクラスに君臨するプレイヤーであり、この世界になった後に覚醒した選ばれし者『ムフタール』となった木村、小沢、清水で、その戦況を見つめながらもう一人のメンバーの川上が驚いた表情で話す。
「なぜ、これ程までにアイリス軍が居るんだ!?アイリスはカシミール侵略の為にシャーラ城で交戦していたんじゃないのか。」
「これは間違いなくアイリスの軍隊だ。だが、アイリスに住んでいた私からすれば、これ程の軍勢があったとはとても思えないのだが。それともカシミールは既にやられ、その軍勢がミリアへ向かったって事なのか。」
「いいえ、カシミールは村雨や上杉達の協力でアイリスを抑えている話しを鮫島 春樹から聞いています。そうであればアイリス軍はこちらへ兵を出す余裕なんて無い筈です。」
カシミールで戦闘中の筈のアイリス軍の多さに、驚きの表情で話す川上に答える小沢の見解に対し、木村はネロの洞窟で会った鮫島 春樹が話した情報を思い出し、シャーラで上杉達に抑えられている筈のアイリスが他の国へ兵を出す余裕は無いと話す。
「しかも、あれって俺達が行こうとしているミリア軍の兵士じゃないか?」
「そして、中央に居るのはミリア二世だな。」
「じゃぁ、木村ちゃんの探している瀧見ちゃんもこの中に居るんじゃないの?」
「ええ、彼女は確かミリア軍の衛兵の筈ですから、アイリスとの戦いであれば彼女も来ている筈です。」
「じゃぁ、どちらに着くかは決まったな!」
「あそこにいる似合わない戦闘をしてるのって、カシミールで木村ちゃんを襲ったネクロマンサーの梁だね。よっし!私はアイツと戦って来るよぉ。」
「では、私の魔法剣なら広範囲攻撃では有利だから、他のプレイヤーを片付ける。木村はミリア二世を頼む。」
「分かりました。」
川上と小沢が、アイリス軍に押される軍はミリア軍の兵士と国王だと気付き、清水が瀧見の存在を木村に聞くと、瀧見がミリアの衛兵だと話す木村に、川上はこの戦いに参加する意思として、今回の目的地であるミリア側に着く事を話し互いに戦う相手を確認した後、戦闘体制を取った三人は高台を飛び降り、戦地であるオズマン大地に降り立った。
襲い掛かるアイリス兵と無数のプレイヤーに対し、小沢はファイヤーボムを剣に込めた魔法剣を繰り出し、清水は、以前イスバールで手合わせしたネクロマンサーの梁が戦う場所へ向かい、梁の目の前に立ちはだかる。
「よう、お兄ちゃん。私とイスバールの続きをしないかい?」
「・・・貴様か。いいだろう、今度こそ決着を着けようじゃないか。」
清水と梁は、互いの隙を伺いつつ暫く睨み合いが続き、その反対に居た小沢が残りのプレイヤー達を魔法剣で迎え撃つその間を、木村は高速で剣を繰り出しながらアイリス兵をなぎ倒し、ミリア二世が居る中央へ突き進んだその先には、王を守る為の兵士が全て全滅させられ、自身しか残っていない状態のミリア二世と向き合うプレイヤーは、ボロボロの黒いローブを纏う魔法使いで、その姿を見た木村は、その存在を以前に見た事がある事を即座に気付く。
「アイリス軍だと分かった瞬間、あなたが居ると思っていたわ、ネクロマンサーの江!」
「お前、なぜここにいル。」
「ミリア王、お怪我は?」
「そなたはイスバールの木村殿か!?なぜここへ。」
「瀧見殿に用事がありまして、イスバールからミリアへお伺いする途中でした。瀧見殿の姿がお見受け出来ませんが?」
「瀧見はミリアで待機させている。まさかアイリスがこれ程までの兵力を残しているとは思っていなかった・・・。しかも、ラムダに居る筈のネクロマンサーの江までも。」
「それは私も同感です。アイリスはカシミールへ数万の兵を出兵させている情報はイスバールにも届いておりました。援軍に連絡は?」
「ああ、冒険者を使って伝言をチャットで送っているが、通信範囲に届く迄にここから半日は掛かる筈で、来るとしてもまだ先だ。」
「私の仲間が加勢しておりますので、とりあえず王は一旦引いて下さい。」
暫定であるがイスバールの王を勤めている木村の存在を知るミリア二世は、突如現れたその存在に驚きを隠せずにいたが、質問に即答し木村の指示通り身を引くと、木村はイスバールで受けた不意打ちのお返しとばかりに即座に剣を江へ突き出し、目を大きくし驚きの表情を見せていた江は、その攻撃を紙一重でかわすと逃げるように後ろへ跳び間合いを取り、木村の攻撃範囲外になった江に向かい再び剣を構える。
「アイリスはカシミールへ出兵していた筈。なのになぜ、これ程までの兵がここに居るの。」
「私達は、元々カシミールを攻める事とミリア軍の襲撃に備えていただけの事ネ。思惑通り行けば両方を落とせる筈だったのに上杉が出しゃばって来たお陰で、カシミールは落とし損ね、さらにイスバール復旧に集中して居る筈のお前がここに居るのは想定外だたネ。」
「アイリスにネクロマンサー、あなた達の思い通りにさせる訳にはいかない。それにあなた達と共謀する『ゲームマスター』である『ミハエル』も。」
「・・・ホウ。そこまで嗅ぎ付けているのカ。そこまで知るのであれば、お前の後ろには鮫島 春樹が居るという事ネ。」
木村が発した言葉に、江は先程までの驚きの表情は無くなり冷静さを取り戻すと、おもむろに片手をローブから出し攻撃態勢に入る。
「覚醒者である『ムフタール』を野放しにする訳には行かないからネ。お前はここで死んでくレ。」
江の手より発せられた光はリレイズの呪文だが、通常行なう筈の呪文の詠唱を行なわず、既に準備してあったかのように、光の閃光は速攻で放たれたが、以前にそれを見ている木村はその閃光に対し、リムーブシールドでは無く自身の俊敏な動きを活かす為、その閃光へ躊躇せず向って行き、襲い掛かる閃光に素早い動きで上体を反らし攻撃をかわし、再び剣を構え江への攻撃の間合いに入る。
「あなたの無詠唱攻撃は前回の戦いで見ているから、私には通用しないわよ。」
「・・・なる程、それが『目』ってヤツカ。お前の能力は私の無詠唱を見破り、そのタイミングをも察知出来る予知能力的な力と見たネ。」
「それは、どうでしょうね。」
木村の予想外の動きに、江はゲームマスターの持つ能力を理解し解析すると、その優れた分析力で木村の『目』の特性をほぼ見抜いたが、木村は自身の能力を知られた事に動揺を見せず言葉を返すと、呪文を繰り出せない接近戦を挑む為、再び江へ向い突進し、江も木村の突進に合わせ、閃光魔法のフラッシュアローを無詠唱で間髪入れずに放つが、その閃光は木村を捕らえる事は出来ず、閃光は後方にある雪の積もった山々にぶつかり、その振動で付着していた雪が剥がれ雪崩を起こし視界を妨げた次の瞬間、木村は江の攻撃の間合いに戻って来る。
「フラッシュアローでも追いつかないとはネ。あれから僅か数ヶ月しか経っていないのにその変貌振りは、覚醒による影響カ。・・・どうやら、それは認めざるを得ないネ。では、『片手』では失礼ネ、これからは本気で行かせてもらうネ。」
江は片手のみで戦っていた事を詫びると、今まで見えなかったもう一方の片腕をローブから出すと、その腕には見た事の無い謎の術式が刺青として腕の面積一杯に描かれている。
「これが私達のリレイズでの成果の一つネ。この術式を開発した事で、リレイズの呪文が詠唱要らずで使えるようになたヨ。だが、私が目指した物はそれではなくリレイズの上杉のような新しい法則魔法ネ。お前、この大量のアイリスの兵がなぜミリアに居るのか不思議に思わなかたカ?」
「それは、アイリスがこの世界への転移を事前に知っていて、あなたやミハエルがアイリス三世に入れ知恵をして大量のプレイヤーを取り込み、自国の勢力を広げたからでしょ。」
「だが、それでも死が直結したこの世界で集まったプレイヤーの数は精々百くらいネ。それとアイリス兵を合わせても以前と大して変わらなイ。兵をミリアとカシミールへ分けては戦力としては不足するから、私達は新しい魔法を作り上げたネ。それは魂のみを幻想で作ったの入れ物に入れ遠隔操作する事で、数万の兵を同時に違う国へ出兵する事が出来る術ネ。」
「それじゃぁ、カシミールとここに居る兵はどちらも同じ兵士だって事。」
「これが、私達が作り上げた新しい魔法『リプレイス』で、この魔法を使ってカシミールへ侵略を進めながら、その情報を聞きつけたミリア軍が、隙をついて向かって来るのを待ち構える作戦を同時に行なえるようになたネ。」
「今戦っているあなたもニセモノの幻想って事なの!?」
「それは違うネ。リプレイスにも欠点がある、その為に私はここに居るネ。そして、もう一つの成果がこの左手に宿る術式によって出来た新しい法則魔法『重力を操る魔法』俗に言う『無属性』で、これなら小沢の『属性吸収』は意味を持たないネ。」
江が話しを終えると同時に、振り上げた右手に描かれる術式の刺青が光り出し、その手を地面に押し付けると、木村と江の周りの大地が突如轟音を上げ地面が抉られ巨大なクレーターが現れると、木村の体はまるで巨大な岩でも背負ったかのような重さを感じる。
「クッ!体が重い。」
「今お前の周りに強力な重力が発生しているネ。それは恐らく20Gはある筈で、己の20倍の体重を支えているとほぼ同じで、それに何時まで耐えられるかネ。」
木村を襲う強烈な重力は、身動きどころが己の体を蝕み始める程の攻撃で、木村の衣装の下に着る鎧はその重力に耐えられず苦しそうに軋み音を立てると、やがて鎧にひびが入り始める。
今の木村の体を支えているのはその鎧で、もし鎧が砕ければ次は自身の体が悲鳴を上げる事を木村は感じ、身動きが取れない中で必至にもがくが、加重に対するダメージもあり何も出来ずにいる。
「そろそろ、その鎧も限界ネ。では、気持ちよく潰れて下さいネ。」
不気味な笑みを浮かべる江が右手を握ると、木村は己にへ掛かる重力が増した事で苦痛の叫びを上げ、その表情を見ながら笑う江はさらに重力を増す為に己の右手に力を込めると、木村の着ていた鎧はついに砕け、服の中から破片が落ちてくると木村はそのまま地べたにうつ伏せに倒れる。
「ついに鎧が砕けたネ。残るはお前の骨だけだネ。」
「・・・!」
激痛に襲われる木村は江の挑発にも言葉を発する事が出来ず、強大な重力が掛かり続ける大地ではいずり続けるしかなく、次第に薄れていく意識の中で木村が見た微かに見える光景は、江目掛けてクイックアローを放つ川上の姿だった。
「お前、そんなオモチャが私に効くと思ているのカ。」
「しゃーねーだろうが!盗賊なんて、これしか武器持ってないんだからよ。木村さん!目を閉じろ!」
「えっ!?」
江の挑発にも相変わらずの口調の川上は、自身の持つ唯一の攻撃武器であるクイックアローを江目掛け放つが、クイックアローは盗賊が使う武器で護身用程度の武器の為、戦士職ではないとは言え高級職業の江に対しては全くの効果はなく、無詠唱で放たれたフラッシュアローに簡単に飲み込まれるが、川上はそのタイミングを計っていたかのように木村へ叫ぶと同時に、自身のバックからアイテムを取り出し、それを上空へ放り投げると、その丸い物体は上空で強烈な光を放ち爆発する。
「なっ!」
「これは、この世界で作った閃光弾だよ!」
「しまった!目が見えなイ!」
川上が使った閃光弾の光をまともに見た江は、自身の視力を失った動揺で木村に掛けていた重力操作の魔法を解くと、木村は今まで加重の掛かる状況で息が出来なかったのか苦しそうに咳き込み、川上は即座に木村の側に駆け寄る。
「木村さん、大丈夫か。」
「・・・ええ、後は大丈夫ですから川上さんは無理をしないで下さい。」
「今、清水もネクロマンサーの梁と、小沢も他のプレイヤーと交戦中で多分こちらには加勢出来ないから、ここは俺も参戦するしかないだろう。」
「だけど、いくら戦士ではなくても相手は高級職業のウィザードです、盗賊が太刀打ち出来る相手ではないのは川上さんも分かっているでしょ。」
「だけど、お前がさっきの攻撃で受けたダメージが大きいのは分かっているから、まずは己の回復に専念しろ。それが無謀な事だと分かってても、仲間を見捨てる程俺は落ちぶれていない。」
「だけど・・・。」
「いいから!時間稼ぎくらいなら俺にも出来る!」
重力操作の魔法は思った以上にダメージが高く、木村が着けていた鎧がボロボロになり剥がれ落ちているその様子から、川上は木村が受けたダメージは想像を絶していると感じ、無謀な事とは分かっている戦いへ参加して来た。
清水も小沢も、アイリス軍との交戦でこちらに回れる余裕が無いのも明らかで、自身の受けているダメージは大きいのを隠しながら木村は川上を気遣ったが、その様子に気付かない筈の無い川上は即座に自身の回復に専念する事を叫ぶように話した。
「お前が私の相手になると思ているのカ?サイレンスの参謀としては優秀だが、感情に流される馬鹿だとは思てなかたヨ。」
「窮鼠猫をかむって言葉知ってるか?お前との力の差はそれ以上かも知れないが、油断してると俺に食われるぞ。」
「馬鹿にはしているが油断はしないネ。なぜならお前はサイレンスの心臓部でもあり、貴様は薄々この世界の事を知りつつある我々の計画には邪魔な存在ネ!」
先程と違い、右手ではなく左手から繰り出される無数の閃光は、一瞬にして川上の目前まで到達するが、盗賊職唯一の戦闘での利点である素早さを活かし攻撃をかわして行くが、万が一攻撃出来ても致命傷を与える事が出来ない相手と知る江は、その攻撃をわざと楽しむように笑いながら呪文を放つ。
「お前、このままでは何も出来ずに疲れて閃光の餌食になるだけネ!」
「さぁ、それはどうかな。」
突然、江の挑発に乗ったかのように、川上は逃げていた己の体を江の居る方向に向きを変え向って来るが、それがどれだけ無謀な事かはこの場に居る木村や江以外にも、キャラクターであるミリア二世でさえ知る事実で、その行動に笑う江に対し、回復を行なう木村は川上に向かい叫ぶ。
「川上さん、それはいくらなんでも無茶よ!正面から攻撃なんて!」
「あはは!気でも狂ったか!?盗賊如きがウィザードの魔法に敵うと思ているのカ。」
次の瞬間、川上の姿が突然江の視界から消え、それに慌てる江に対し、その状況が見えていた木村はその瞬間に『見透かしの目』で川上の行動が見えた時、初めて川上の考えていた思想やこれから自身が行なう行為に気付いた木村は顔面を蒼白にし、再び川上に向かい叫ぶ。
「川上さん、それは駄目!」
「ヤツは何処へいった!?」
「お前の上だよ!」
江へ向う前に、川上は己のステータスを一時的に上げる事の出来るアイテムを使い素早さを倍増していたが、それを悟られないように江の攻撃を避けられるギリギリのスピードに調整していた為、江はその驚異的なスピードに驚き見失い、その時川上は江の上空を飛び両手で江の顔を掴み己の勢いを止めた。
「お前、何するつもりダ!」
「ただじゃ死なねぇ、どうせ死ぬなら世界の悪となる黒幕と一緒に死んだ方がいいだろ!」
川上が戦争を嫌う思想を持つ理由は、自身の家族は過去の戦争でA級戦犯と言われた家系であり、その恐怖は平和になった現代でもマスコミに追われる川上の家族を苦しませ、遠い祖先が起こした戦争で家族が迷惑を蒙る今の状況に嫌気が差していたからで、それがたとえゲームでも人を殺す行為は必ず己に返って来る、そんな恐怖を覚えさせていた。
だが、この世界になり戦争はあの当時と同じ身近な物になり、川上は戦争に対する己の心と葛藤する日々を送っていて、今回の戦争も一番に引っ張るように参戦したが、その理由はこの世界になり戦争に対して自身が悩み抜き導いた思想に納得したからであり、人を殺める事で己の『バウンダリー(境界)の破壊』を起こしてしまうのであれば、その相手は今後の世界や仲間の為に必要だった殺生だと言われる人物と川上は考えていて、この世界になる以前から密かに進めていた開発を再開していた。
その成果が、川上が取り出した先程と違う色をした丸い物体で、それは閃光弾同様、川上がリレイズでは戦闘に向かない自身の為に開発しようと考えていた武器で、川上はこの世界に存在する物質で火薬を作る事をネクロマンサーよりも先に成功していて、手榴弾同様の形をするその物体のピンを川上は抜く。
「なぜだ!盗賊如きの力で私を抑えられる筈なイ!」
「当たり前だ、俺の両手は今戦士やパラディンよりも強力だからな。」
「まさか、『瞑目の薬』を使って!お前本気か!?」
『瞑目の薬』は現実世界の覚醒剤に近い麻薬で、使用者の神経を遮断する事で痛みを無くし、同時にステータスを倍増させる薬だが、その副作用は『永遠の副作用』で、自身にどのようなステータス異常が起きるか分からない諸刃の剣的な薬の為、この薬を使うのは死を覚悟した場合であったが、それはあくまでゲーム時代のリレイズでの話であって、死が直接の消滅となるこの世界でそれを使うのは、かなりのハイリスクである。
だが決死の覚悟の川上は、目の前の相手が己の力では抑え続ける事が出来ない事を知っていた為、そのリスクは仲間を助ける為であれば大した損害ではないと感じ、まだ動く事が出来ず川上を止める事が出来ない事を悔しがる木村に対し、川上は己の不安を殺すように無理な笑みを見せながら話す。
「・・・木村さん、後は頼むよ。上杉には鮫島さんや木村さんのような人間が必要だ。そしてこの世界で選ばれし人間として、この世界を変えてくれ。俺が生まれ変わった時に、また生きてプレイしたいと思える世界を作ってくれ・・・。」
「貴様!」
「お前も一緒に行くんだよ!江!」
木村へこの世界の未来を託す事を話した川上は安堵の表情を浮かべた時、川上の心に一つの答えが現れる。
それは、今まで戦争の影響で悪役として嫌われた祖先の最後で、祖先は向って来る敵に手の内を無くした絶望の状況中、自身の戦闘機を敵の中枢へ向け突っ込み爆死したと話しを聞いていたが、その時川上は「馬鹿げた事を」程度にしか感じておらず、それはA級戦犯と言われた祖先が最後のあがきとして突っ込んだだけだと思っていたが、いざ己が同じように絶望的状況になった今、それは違う事に気付いた。
確かに今まで戦争に参加していない川上が戦犯になる筈も無く、あの時の祖先と同様の立ち位置では無い事は知っているが、あの時祖先は己のエゴを押し通したのではなく、そのエゴに付き合ってくれた戦友に対し、僅かでも生きる道が開ければと考えての自害だと川上は感じ、それは今まで戦闘や戦争を只見る事しか出来なかった自分が、目の前の敵にやられる寸前の仲間を見て無我夢中で行なった今の行動は、あの時の祖先と同じ気持ちだったかも知れないと感じた瞬間、川上は僅かな一瞬であったが穏やかな表情を浮かべる。
怪力で掴んで動きが取れない江と川上の間にピンを外した爆弾を落とすと、それは即座に発火しオズマン大地にある雪を全て溶かす程の熱量を発し、即座に出したリムーブシールドをする木村の場所を残し全てを消し去り、付近にいた一部の兵士とプレイヤーも同時に巻き込む強大な威力と爆発を見せ、その後に残った金色の煙はやがて灰となり木村の上に降り注ぐ。
その光景に木村は言葉を失い、自身を命懸けで守ってくれた川上に対し、ただ悔しさと頬を伝う大量の涙を流す事しか出来なかった。
「川上さん・・・。」
その時、泣き崩れる木村の前に、見覚えのある赤いロングヘアの少女が、先ほどの爆発で消滅した筈の川上を抱きながら木村の前に突如現れ、木村を以前から知るような口調で話し始める。
「木村、あんた達がここまでミリアを守ってくれたのかい。」
「・・・瀧見さん。」
絶望的な状況であったミリア軍に参戦した四人のお陰で、菊池との戦闘でこの状況をいち早く気付いた瀧見は、この戦場に間に合い『ゲームマスター』として持つ能力である浄天眼を使い戦況を確認し、川上が自爆した瞬間に妖術士の高等魔法である瞬間移動魔法で川上を救いだした。
だが、瀧見に抱かれた川上は目を覚ます様子もなく、その姿はまるで死んだように眠りに着いたままであった。