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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第四章 リレイズの正体
32/73

第三十話 俊傑(しゅんけつ)のプログラマー

2015/12/27 文構成を修正実施

 その洞窟は以前と変わらない景色をしていた。


 壁の周りには茶色い苔があり、纏わり付くような湿度が草木の腐った臭いのような生臭さを放つ。


 木村達四人は鮫島 春樹から貰った手紙に記載されていた『ネロの洞窟』へ入り、鮫島 春樹が居る筈の地下五階層へ向う。


 この洞窟のポイントを知り地点移動魔法のムーブポイントが使える上杉が居らず魔法が使える木村と小沢はネロの洞窟へは来た事が無かった為、今回は地上一階層から進む事になった。


 ダンジョン内のモンスターである苔亀やオークの能力は以前と変わらないが、戦士職が三人の居るこのメンバーの敵ではなく、オークの素早い動きは木村の剣裁きで対抗し、硬い甲羅を持つ苔亀は四大竜派で一番パンチ力のある清水と小沢の炎竜派の技で難なく倒す事が出来た。


 ハヌマーン殲滅時に潜入した際にマッピングした地図があった事もあり、地下三階層までの道のりまでのトラップは難なく回避でき、現在ハヌマーンが居た時と様子が変わった地下四階層のダンジョンを先頭を行く川上の指示に従い小沢がマップにトラップや通路を記載しながらも、再び来る可能性のあるネクロマンサーの襲撃も警戒しなが進んでいる。


「そう言えば、上杉達はどこ行ったの?」


 清水が思い出したかのように発した質問に、先頭を歩く川上はその歩みを一瞬止まるがその問いに対して隣を歩く木村が正面を向いたまま答える。


「上杉と鮫島さんとはロッテルダムで別れました。二人はその後カサードへ行って上杉の転職をし、カシミールへの戦場へ行っている筈です。」

「上杉はカシミール戦線に行ってるの!?」

「ええ、彼はこれ以上アイリスの侵略を拡大させない為に戦いを選びました。」

「しかし、上杉が転職とはねぇ、何になるんだろう?『妖術師』の名前を捨ててまで変える職業って言ったら高級職業だろうねぇ。だけど、川上は木村ちゃんにイスバールに行ってる事聞いていたんだから加勢してやれば良かったのに。」

「お、おお、ほら、俺達はイスバールの復旧をしていたし。それに、ここを立て直さないとアイリスがここを拠点にして兵を補給出来るだろう。」

「まぁ、そうだけどねぇ。だったら、今からでも私が参戦して来ようかな。」

「今アイリスはシャーラ城で交戦中らしいですが、イスバールに入った情報だと戦局はカシミールが有利だそうですから、開戦された日から考えても今から向っても間に合わないと思いますよ。それに、彼の決意があればアイリスの兵程度は相手にならないでしょうに・・・。」

「ま、ここまで来ちゃったし取りあえずこっち集中でしょ。」


 木村はロッテルダムで上杉と話した時『見透かしの目』で見たあの時の上杉の心は脆く今にも壊れそうな陶器のような弱かったが、木村の下へ届いた情報ではシャーラの戦場に四大従者を操る召喚士と侍がカシミール側についた事で戦局が変化したとの内容で、その二人の姿がそうであれば上杉があの時の脆い心を完全に克服した事を意味している。


 昨夜の出来事で自身の心の脆さを感じた木村はその話しを思い出すと上杉を羨ましく思い、同時に僅かながらの嫉妬も覚え、それは流れを同じくする人間には一層厄介に感じる。

 それが上杉の器で、木村の度量の小さい器でもある事を実感し、アイリスのような己の満たす為の行動をとり続ける人間が横行するこの世界で、彼こそがこの世界を変える為に必要な人間だと感じていた。


 襲い掛かる苔亀を撃退するとその先には地下への階段が見え、そこを降りればケクロプスの待ち受ける地下五階層になる。


 四人は五階へ行く前に戦闘陣形の確認をする。

 前衛で清水がヘイトを集め敵を釘付けにし、その間に川上がフロアのトラップを確認し戦闘可能な面積を増やして行き、後方で待機する小沢は戦闘面積が広くなり次第前衛に参加し、最初は回復役へ回る木村は川上が五階のキャンプポイントまでのトラップを解除次第、鮫島 春樹の所へ行く作戦を取る。


 地下五階層のフロアはケクロプスが立つ場所のみに光が差す暗闇の部屋で、先陣を切って飛び出す清水は光が差すケクロプスの所へ向かい、自身の体から光を発し出すと、その光を見たケクロプスは清水以外には目もくれず攻撃を繰り出す。


 清水の特殊能力『戦闘バトルオーラ』は、相手の気を引くヘイトを最大限にし清水以外に攻撃を加えられなくする能力で、今まで戦士が清水しか居なかったサイレンスが過酷なクエストでの戦闘を僅か三人の少人数でクリア出来た理由はこのヘイト操作にあり、ケクロプスの気を完全に引いた清水が戦闘をする最中に、川上は付近の罠の有無を確認する。


 ダメージを蓄積した清水に後方からロードである木村の回復魔法が清水の傷を癒し、再び交戦を始めるケクロプスを横目に黙々と作業をする川上は、この僅かな戦闘の間にこのフロアのほぼ全てのトラップを解除して見せた。


「木村さん、こっちはOKだ!鮫島 春樹は任せる。」

「分かりました、行って来ます。」


 フロアの奥に見える階段を目指し走り出す木村に目を向けるケクロプスは、口を開き体内で生成した鋼鉄の槍を放つが、目の前に現れた炎の剣を持つ小沢によってその槍は地面に叩き落とされる。


「さあ、お前の相手は私だ!」


 木村が居なくなりヘイト集中の作戦で清水の落ちた体力を自然回復させる為、後ろへ下がった清水に代わり小沢が魔法剣を繰り出しケクロプスの前に立ちはだかり、ケクロプスとの第二ラウンドが始まる。


 階段を駆け足で降りる木村の表情に、いつもの冷静さを含む余裕は見れず荒い息遣いを繰り返し地下五階層にあるキャンプポイントへ入る。


 キャンプポイントは、モンスターが進入出来ない場所になっていて、次の階層へ進む為の準備や休息をとる場所としてプレイヤーが使用する。

 最下層へ進むほどキャンプポイントを訪れるプレイヤーは減り、この世界になり洞窟探索はハイリスクとなる事とネロの洞窟の最下階層は六階の為、このキャンプポイントにはプレイヤーは見当らない。


 その時、木村の侵入に気付いたのか、木村に向かい進んで来る乾いた足音が聞こえて来る。

 その音は次第に大きくなり、やがて暗闇の中に一人の人間のシルエットが浮かび上がり、その姿を見た木村はその先に居る人物が自身の知る人物だと確信を得ると、荒かった息を整え話しかける。


「鮫島 春樹、・・・貴方はなぜこんな所に居るの。」


 ぼさぼさだが計算されて形に整えられている黒髪と黒のロングコート姿の華奢な男性は、テック社を立ち上げリレイズの原型とも言えるアシメントリーの法則を開発しリレイズの製作者としても参加した『俊傑のプログラマー』と謡われる天才『鮫島 春樹』だ。


 鮫島 春樹は、木村の言葉を聞くと優しい笑みを見せた後ゆっくり口を開く。


「久々の再会なのに、相変わらず年齢に合わない素っ気ぶりだね。」

「それが私なので。で、なぜ私をここへ呼んだの?」

「・・・まったく、この世界になっても変わらない君には驚かされるよ。」


 からかうようなセリフを言った鮫島 春樹に対し、木村は小さいため息をつき話しを本題へ戻すと、今まで見せていた笑みが消え真顔に戻り話しを続ける。


「君も今回の現象について思い当たる節があるんじゃないのか?」

「それが分かればわざわざここへ来る理由はないわ。確かにある程度の事は想像していたけど、それはあくまで想像にしか過ぎない。私はそれを説明できるのは貴方しか居ないと思っているから聞きに来たの。・・・そして、確認も。」

「確認?」

「ええ、・・・貴方はこの世界になる事を事前に知っていたんじゃないかって。私は数ヶ月前に、貴方の娘と一緒に行動していたの。」

「・・・そうか、智子に会ったのか。なら、そう感じるのはしょうがないな。」

「しかもこの世界になってまで手紙で連絡を寄こすなんて、私なりの想像だけど、今回の首謀者は私達の中にいるんじゃないのかって。」


 木村の言葉に、鮫島 春樹は言い出し辛い事があるかのような複雑な表情を見せ押し黙り沈んだ表情を浮かべ口を開く。


「実はリレイズの次なる話題として、テック社とアステル社の間で脳へ送っていた信号を電波に変換する事で、ヘッドマウントディスプレイを通さず投影し、今まで以上に実体験に近い視野と感覚を体験できるハードを研究していた。それが実現できれば、自分の身の回り全てがリレイズの世界と同じ体験が出来る画期的な挑戦だった。」

「リレイズを直接投影って・・・。そんな話、私は知らなかったわよ。」

「これはソフト的なヴァージョンアップは必要なかったから、ソフト開発担当の君と『瀧見』には説明していなかったんだ。」

「ソフトの私と瀧見さんは知らないと言う事は、ハード担当であった貴方と彼は知っていた訳ね。」

「ああ、アステル社社長の『ミハエル』はこの事を知っていて、発案した中国のメーカーとのやり取りやハード変更のプロセスは全て彼が担当していた。僕は別件で会社の仕事が多忙になり、このプロジェクトはミハエルと中国間で進めていたけど、その中国側のメンバーに裏切り者が居た。そいつはリレイズのIDを持ち、アイリス教徒としてアイリスへ潜入するリレイザーだ。」

「中国でアイリス教って・・・まさか、ネクロマンサー!?」

「そういう事。」

「なるほどね、だからアイリスの動きがあれ程迅速だったのが理解できたわ。この世界になる事を事前に知れば、他のプレイヤーが混乱している最中に先手が打てて、戦略を有利に進める事が出来るって訳ね。」


 鮫島 春樹から返って来た答えに、木村はこれまで疑問に思っていた幾つかの点に納得が行く。

 この世界になってからアイリスの対応は異常なまでの速さだった事は以前から疑問に思っていたが、『ゲームマスター』の一人である『ミハエル』と組んだネクロマンサーであれば、リレイズへの転移を先読みし混乱に乗じて戦力を拡大する事は造作も無い事だった。


 それと、イスバールでピボットの言っていた『黒い雨』とは、その投影装置が放つ電波を指していて、ミハエルとネクロマンサーとで作られた投影装置の影響で、突然この世界へ転移させられた事で納得した。


「僕が知っている事は、その装置の名は『ルシフェル』と言い、そしてその装置は重要なバグを残しまだ未完成だったと言う事だ。」

「・・・まさか、それが『死』と『転移』って事。」

「その通り、僕の知るルシフェルのバグは二つ。一つは、β版の時と同様に精神への負荷が高く、バーチャルでの死を実際の死と脳が勘違いすると体と魂が分離し肉体はそのまま腐食し魂は霊魂と化す、それがこの世界での『死』だ。リレイズでは、その寸前で神経を切断するプログラムを組む事で修正出来たが、今回はハード自体の仕様のバグだから、ソフトのようにプログラム修正で済むような簡単な修正では無理で、放射する電波装置自体の改良が必要だけど、今の技術では解明しきれていなかったバグだった。」


 鮫島 春樹がルシフェルで確認されているバグが二つある事を話すと木村はそれを即座に答える。

 木村は、この世界へ転移させられた時からその違和感は感じていて、確かに今までと違いモンスターの臭いや感じる痛みも実際に近い感覚だが、それは結局ゲームであるリレイズの延長線上に過ぎず、結局その感触も現実との違いはあり、その先にある死は今までと同じゲーム内での死としか想像出来なかったからだ。


 だが実際は、この世界での死は現実世界同様に二度と復活できない今の状況を、鮫島 春樹はそのバグはβ版の時のソフト的なものと違いハード自体の不具合で、それを直す術は当時の段階ではまだ見つかっていないと話す。


「じゃぁ、貴方はこの件に関しては関与していなかったと。全てはミハエルとネクロマンサーの陰謀だと言うのね。」

「僕がこの事を気付いたのはこの世界へ転移される数日前で、既に衛星は打ち上げられ、軌道に乗った状態ではどうしようも出来なかった。僕に出来る事は、この世界を救える『ムフタール』を作る事だけだった。」

「それで貴方、自分の娘を・・・。実の父親が、よくそんな危険な事が出来た訳ね。」

「・・・君も薄々知っているんだろう。リレイズのIDを持たない人間の末路を・・・。」


 鮫島 春樹は、先程同様沈んだ表情を崩さず一瞬押し黙った後再び口を開く。


「ルシフェルのもう一つのバグであり最大の恐怖は、現実世界をリレイズの世界に書き換えた事で起きた『上書き』のバグで、本来信号を脳へ送る事で目の前の世界を変えてきたアシンメトリーだが、ルシフェルは電波による広範囲放射で現実世界を入れ替える事でゲームの世界を再現させる。 『上書き』はリレイズに関係の無い物は全て排除するバグで、IDを持たない者やゲームの世界に存在しない物は、全て闇へと葬り去られている。『上書き』のバグが修正出来ない限りこの世界は元に戻らないが、一度排除された物を取り戻す術は今の所確立されていない。」

「衛星を破壊した場合は?」

「その行為はただ電波を停止する事しか出来ずこの世界はリレイズのままで、衛星が破壊された事でこの世界は二度と元へは戻らなくなる。まだ未完成なルシフェルはそれ程危険な装置だったんだ。」


 上空を飛ぶその衛星は、常に電波を放射する事で現実世界にリレイズの世界を再現していたが、もう一つのバグである『上書き』の影響により、かき消された現実世界を戻す事は今の技術では不可能で、木村は衛星の破壊を提案するが、鮫島 春樹はその行為は微かに残る現実世界へ戻る術を完全に消し去る行為になる事を話す。


「あなたも白状ね、そこまで知っていてなぜ家族全員を助けず鮫島さんだけ助けたの。」

「いくら別れたからって、僕の妻には変わらないし彼女は家族だ。そりゃ、助けられるものなら助けたかった。・・・だが、転移までの日数でいくら人を救ったとしても世界は変わらない。今必要なのは、リレイズを救える選ばれし民『ムフタール』であって、救世主が居なければこの先待っているのは『バウンダリー(境界)の破壊』だ。僕は、世界の救世主になって貰う為に智子をリレイズへ入れたんだ。」


 家族を助けなかった鮫島 春樹に、木村は軽蔑の表情を向け話しその事は正論だと感じている事を鮫島 春樹は話すが、その先に待つ世界を予知した事で、この世界を救う『ムフタール』を作る使命を選んだ事を酷薄だと理解しての選択だと続ける。


「この世界の異変がプレイヤーだけではない事に君も気付いている筈だ。我々が設定したキャラクターが設定したプログラム上の制約以上の動きや考えを持ち、各々が思想を持ち始め独自に行動を始めた事や、プレイヤー達も何かを掴んだかのようにゲーム内では考えられない事を始めた事を。サイレンスの上杉君の攻撃的回復魔法、あれが出て来た時点で我々は気が付くべきだった。同時期に進んでいたルシフェルを、ミハエルが作り始めて時から既に世界は変化していて、『バウンダリー(境界)の破壊』はあの時から始まっていたのかも知れない。我が社のクエストをムルティプルパーティーにした訳も、少人数パーティーの上杉君が、智子を拾ってくれる期待を込めての事だったし、こうして君とも知り合わせる事も出来て、上杉君は予想通り『ムフタール』として覚醒してくれた。」

「上杉の転職も想定していたって事?」

「君なら『見透かしの目』を使うと踏んでね。彼の潜在能力は『竜神』になる条件を満たしている筈だから、後は彼次第だった。今、彼はシャーラで菊池達と互角以上で戦っている。」


 鮫島 春樹は、自身の娘を上杉のサイレンスへ入れる為に配布したクエストや木村の能力を使う事で、上杉は心の弱さを克服し覚醒する事を想定していて、その結果が上杉は侍となり『神速』を操る『竜神』の生まれ変わりとして覚醒し、菊池率いる万を越えるアイリスの兵に対しシャーラ城を死守する程の力を得た事を話す。


「君と話をしたかったのは、『ムフタール』としてこの世界を救って欲しいと思ったからだ。僕と同じ『目』を持つ人間として。元の世界へ戻れる術を失った今、これからこの世界に住む住民として君達の手でこの世界を変えてくれ。リレイズではただのキャラでしかなかった彼らも、この世界では生きている。この世界に生きる者全てで力を合わせなければならない。」

「貴方はどうするの、一緒に協力はしないの?」

「僕は君達『ムフタール』の統率者としてミハエル達を止める。それが僕がこの世界でやるべき事だから、その為にこの世界へ来たんだ。瀧見にも同様の手紙を送っているけど、僕はもうここを発とうと思う。だがら、瀧見には君から話しておいてくれ。彼女は今、ミリア城に居る。」


 木村は既に『見透かしの目』を使い鮫島 春樹を見ているが、その能力を知る『ゲームマスター』にそれは通用せず、同じ目を持つと話す鮫島 春樹は、上杉と鮫島と協力してこの世界に住む住民として世界を救って欲しいと話すが、鮫島 春樹の真意が見えない木村は、これからの鮫島 春樹の行動を聞くと、『ムフタール』の統率者として、鮫島 春樹はこれ以上のバウンダリー(境界)の破壊を阻止する為ミハエルを探す事を話し、ここを離れる事ともう一人のゲームマスターである瀧見に伝えて欲しいと話す。


「瀧見に『ムフタール』の資格を持つ人間だと話をしておいてくれ。後は君達の気持ち次第だ。・・・久々に会えて良かった。君の若さゆえの心の脆さは時に武器になる、自信を持って良いよ・・・。」


 鮫島 春樹は木村に一言告げると背を向け、再びその先の闇へ姿を消し再び静まり返ったその場で、木村は今より先の未来を見て来たような鮫島 春樹の言葉に、彼の隠している能力の一端を垣間見た気がしていた。


 人気の無くなったキャンプポイントを後にした木村は、自分をここへ向かわせる為に、盾となりケクロプスと戦う川上達の所へ向かう為、下りて来た階段へ駆け寄りその階段を上り地下五階層へ戻る。


 鮫島 春樹の語る話しに重圧を多少なり感じてはいたが、ここへ来る前と違い木村の心は重りが取れたかのような軽さを感じている。


 それは鮫島 春樹が最後に残した言葉に勇気付けられた木村が居て、リレイズ製作に携わり、共に切磋琢磨した間柄以上の信頼関係があったからこそで、木村にとって鮫島 春樹は憧れの目標であり愛おしい人物でもあり、それは許されざる事だと己に言い聞かせる木村は普段の冷静沈着なイメージと違い、強い鼓動を感じ頬を赤く染める普通の十六歳の女性だった。


 その淡くも切ない気持ちを心の奥にしまい、木村は地下五階層へ駆ける。

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