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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第三章 カシミールでの戦闘
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第二十七話 心の葛藤

2015/12/27 文構成を修正実施

 シャーラ城内はアイリス軍の侵略により城は崩壊寸前の状態に見たが、シャーラ軍に加勢したエスタークと上杉達の健闘で戦局は均衡を保っている。


 『軍師』菊池は、村雨と鮫島により撤退を余儀なくされ、城内に攻め入ったアイリス兵もエスタークのメンバーによって、プレイヤーを含めその数は徐々に減りつつある。


 そしてその中央広場でエスタークの東と『美しき暴君』リシタニアが剣を向かい合わせ、その横では侍となった上杉とネクロマンサーの『ホロゴースト』ちょうが向かい合う。


 上杉の潜在の力を理解したちょうは上杉に向かい剣を繰り出したが、竜神の血を受け継ぐ上杉の『神速』により鎧と剣を割られ、その威力に脅威を感じていた。


「貴様、どこでその力を・・・」

「元々、俺にはこの職業が合っていただけだよ。ただ今まで使い物にならなかっただけで、その呪縛が解かれた今、俺はこの世界の争いを止める人間として君臨した『竜神』の生まれ変わりとして、お前達の野望を阻止する」

「『竜神』だと、馬鹿馬鹿しい事を言うな。・・・だが先程の剣速を見れば、その実力は受け入れなければならないようだな」


 ちょうは折れた刃先を見つめながら、魔剣ホロゴーストを折る程の剣速を繰り出す上杉の言葉は受け入れなければならない真実だと実感する。


 上杉の繰り出した『神速』は、竜神の得意とする高速の太刀で、最強の魔法使いであるリレイズに魔法詠唱前に攻撃を繰り出せたと言われている技で、その剣速があればホロゴーストでさえもただの剣になってしまう。


 だがちょうは、その折れた剣を捨てずにそのまま持ち続ける。

 ホロゴーストの剣先は既に無いが、その周りを覆う不気味なオーラは以前のままの形を保つように折れた剣先から放たれていて、そのオーラが折れた剣先の代わりをしてるかのように見える。


「では、折れない剣ならどうですか」


 ちょうは折られたホロゴーストを上段で剣を寝かせて構え刃先を上杉に向けると、その剣先から発せられる不気味なオーラが死霊の魂のような霊玉となり上杉目掛けて襲い掛かる。


 魔剣ホロゴーストは太古の昔に大量虐殺を行なった際に使った死刑刀で、その剣には無数の霊が宿るという設定になっていて、ホロゴーストの効果はその霊を物質化し相手に浴びせる事で魂を奪う霊的な攻撃を行なう。


 解き放った数体の霊魂を上杉に放つと同時に、ちょう自身も突っ込んで来る。

 ホロゴーストから放たれた霊魂の攻撃は通常の剣では受け取る事は出来ないが、同じ妖刀である上杉の妖魔刀であれば回避可能で、白いオーラを放つ妖魔刀を上杉が振りかざすと、ホロゴーストから放たれた霊魂は二つに切り刻まれる。


 だが、そこまではちょうも予想していた事で、三種の神器である妖魔刀であればそれくらいのパフォーマンスは可能だと考えていて、霊魂での攻撃はあくまで上杉の太刀筋を確認する為の行為であり、もう一つの秘技を見せる為の伏線でしかなかった。


 切られた霊魂が消えた後にちょうが姿を現し上杉に襲い掛かり、上杉は振り下ろした妖魔刀を即座に戻し、ちょうのオーラで形になる剣を受け止める。


「なるほど、貴様の剣速は確かに異常ですね。霊魂とホロゴーストの連続攻撃を受け止めるなんて。・・・だが、これならどうですか」


 ちょうはホロゴーストから手を話し、そのまま後ろへ跳び両手を出すと、両手から白と青に発せられる光を両手を合わせる事で一つに合わせる。

 合わせられ増幅したその光は、シャーラの城壁を崩し多数の兵士やプレイヤーを消したロード最強の魔法『プットアウト』だ。


 ちょうは竜神譲りのその検速を警戒し、ホロゴーストから霊魂を出した時、既に魔法の詠唱を始めていて、上杉と剣を合わせる事で太刀筋と検速を計算し、プットアウトの発動までに剣が届かない間合いと発動タイミングを計っていた。


「貴様の負けだ!貴様らごと消してやる!」


 それは、後ろで戦闘を繰り広げている東とリシタニアも含まれ、ちょうは以前よりこうからリシタニアの暗殺も命じられていた。

 プットアウトの威力を一度見ているリシタニアは、ちょうの話した言葉の意味を即座に理解する。


「えっ!何、あの光?」

「・・・なるほど、そういう訳だったのか」


 その異常な光景に驚きの表情の東はリシタニアから距離を取りちょうの方を向くが、妙に納得した表情のリシタニアは、東よりも早くその現象に気付いていたにも関わらず、その場を動かず東との戦闘を続け、東が距離を取った事で互いにちょうの方を向いた時、ネクロマンサーの考えている一端を垣間見た感じを持ちながら呟く。


 その前兆はリシタニアも気付いていた。

 あの時、ラムダを攻めた後のこうの態度から。


 これまでリシタには、戦場に他の考え事を持ち込む事は判断力は鈍らせ、それは己の命を縮めると考えこれ以上の詮索は行なわなかったが、冒険者達の異変に気付きつつそれを放置していた事で起きた今回の戦争は、リシタニアやアイリスにも責任はある。


 国王はどうせ、混乱に乗じて領地拡大の提案に応じたのだろうと思っているが、急激に増えた冒険者の数や混乱具合、そしてリシタニア自身の思想の変化など、ここまでに至った原因はこの世界に異変が起きる前から既に前兆はあった。


 だが、それらに目を反らし自国拡大の欲望の為に突き進んだ結果が、冒険者達の暴走と言う結果を引き起こしている。

 リシタニアは、今目の前で消滅呪文を味方にまで向けて放とうとするちょうを見て、これまで行なってきた戦略の結末が見えた気がしている。


「この世は裏切りが横行する世界。だが、アイリスの教えは『人を信じる事、それが人の器』だと説いた。私はひたすらアイリスの為に命を賭け戦場に立って来た。その結末がまさか同じアイリス側の兵士に裏切られるとはな・・・」


 リシタニアが己の心と葛藤する中、その強大な光の正体に気付いた東が既に手遅れだと悟り、二人の戦闘の行く末をただ見つめる事しか出来ないと感じた次の瞬間、その光は突如小さくなり地面に落ち光が消え地面に残ったのはちょうの両腕だった。


 上杉はちょうが剣を合わせ距離を測った時その意図を既に理解していて、剣を合わせた時、気付かない程の僅かな距離を詰め次の攻撃の備え重心を前にしていた事で、ちょうが目測し外していた筈の間合いに、予想より早く入る事が出来、プットアウト発動前にちょうの両腕を切り落とす事が出来た。


「馬鹿な、そんな事が!」

「お前が繰り出した剣の軽さから、何かを企む為の攻撃だと分かっていた。なら『神速』が入る間合いにを常に意識しておけば防げると思っていた」


 癖のある黒髪を靡かせ、上杉は刀を振り下ろした構えのままちょうの問いに答える。

 その姿を見たリシタニアは、上杉がちょうがプットアウトを繰り出す為に『神速』が発動までに届かない間合いを確認している事を読み、戦闘中に上杉に悟られず詠唱に集中するちょうに逆に悟られず間合いを詰め発動直前の絶妙のタイミングで切り出した神速を見て、その驚異的な攻撃センスに驚きの表情を隠せないで居る。


 ヴィショップ時代の上杉も決して腕が無い訳ではなく、その攻撃的回復魔法の威力に深く関心していたが、あれから僅か数ヶ月しか経たない転移後に、再び再開した転職した上杉の侍の立ち回りは、幾戦もの戦闘を経験した歴戦のつわものの貫禄さえ感じ、あの時以上の強烈なオーラを感じる。


 妖魔刀を戻し、上杉はちょうの所へ歩み寄り話をする。


「お前達の目的は一体何だ。その目的には、鮫島 春樹が関わっているのか」

「貴様に話す事など無い・・・」

「・・・待っていろ、その前にその傷を塞がなくちゃな」


 両腕が無く魔法も剣も使えない状態のちょうに上杉はこの戦争を仕掛けた張本人が鮫島 春樹の可能性を質問するが、その問いを拒否するちょうの両手から出る大量の出血を見て、回復魔法を掛ける為、ちょうの側へ寄る。


 その時、異様な殺気を放ったちょうは近づいた上杉目掛けて口を開ける。


「馬鹿め!魔法は手だけで出すものではない!」


 ちょうが先程作ったアウトップとは上杉の『神速』によって消滅したと思われたが、その魔法は地面に落ちた直後、ちょうが体内へ取り込み再生成し体内から発しようとしている。


 この方法はネクロマンサーが開発した独自の魔法回収方法だが、これを使うとその魔法が体内の臓器に多大な影響が起き、ましてやロード最強の消滅魔法となれば、ちょうの体でも無事では済まない。


 ちょうの命を賭けた魔法に、上杉はその光を受ける事は生命に関わる事を即座に理解し、避けるには体重を全てちょう側に向けていた上杉は、居合い抜きで仕留められる距離とタイミングは合う事を直感で感じ、妖魔刀に手を掛けちょうの魔法を繰り出す前に止めに掛かる。


 しかし、上杉はこの世界になってから人を殺める行為は初めてで、止めなければ己が殺させるこの状況で上杉は初めて人を殺める事の重大さに気付き、先程と違いその迷いのせいで神速の太刀筋を出せる精神状態に至っておらず、居合い抜きをするその手の抜刀が遅れ、ちょうの魔法の方が先に繰り出される状況になる。


 一瞬判断の遅れた上杉の『神速』が繰り出されたが、妖魔刀がちょうを捉えた時は既に目の前のちょうの頭に一本のサーベルが命中し息絶えていて、それを投げた先には投げた後のモーションで止まるリシタニアが居た。


「・・・姫」

「気にするな、そなた達の現在の状況を知っているからこそ、躊躇なくヤツを殺せるのは私しか居なかっただけだ」


 リシタニアは、菊池達から冒険者がこの世界へ体ごと転移させられた事により、その死は自分達同様永遠の死だと聞いていてその行為に上杉が躊躇する事を予想し、先にサーベルを投げたと話す。


「奴らネクロマンサーがアイリスに入ってから物事が急激に進み始めたのは事実だ。それに、先程のアウトップは間違いなく私をも巻き込む勢いだった。それがこの戦争における作戦なら私はそれで構わないが、あの時私に向けられた殺気は戦略の為ではなく己自身の利益の為、それを感じただけだ」

「だけど、これで姫はアイリスの反逆者になってしまいます。恐らくそれもアイツらの思惑通りでもある筈です」

「・・・そうかも知れないな。だが、あそこでそなたを殺させてはいけない気がしてな。何故だが分からないが、答えようの無い答えはこの世界にはいくらでもある」


 上杉は今回のリシタニアの行動はアイリスに対しての反逆行為になると話すがリシタニアは元々素性の不明なネクロマンサーのメンバーを不審に思っていて、その一端が今回のちょうの行動に垣間見えた事で己の推測に確信を得た故の行動だと話したが、反逆者になってまで上杉を助けた理由わけはリシタニア自身も分からないと答え、考えより体が先に動いただけで、そんな事はよくある事だと説いた。


「だけど、姫はこれでアイリスには戻れないし、どうする。」

「・・・姫、また一緒にサイレンスで活動しませんか?今度は正式なメンバーとして」

「私が、サイレンスに・・・」


 反逆者になり戻る場所を無くしたリシタニアを案ずる東の話しを聞き、上杉は決心した表情でリシタニアにサイレンスへの勧誘を話す。


 ケルベロス討伐時に一度は仲間になったリシタニアは当時、誰も手に付けられない二つ名通りの暴君で、サイレンスに入ったのも清水に興味があった程度であったが、メンバーや小沢の出現により各々(おのおの)の思想を取り入れる事で自身の思想に目覚め、今回のネクロマンサーの思惑にも気付く事が出来たのはサイレンスのメンバーのお陰であった。


 だが、その後サイレンスへ合流しなかったのは、その思想を知る事によってリシタニアとプレイヤーは住む世界も考えも違うと気付いた為で、この世界になる少し以前からその傾向があったと今思えば心当たりがあったが、リシタニア自身もこの世界になった事で明らかに何かが変わったと感じていた。


 それが今まではプレイヤーとメンバーを組むというありえない行動を起こしたリシタニアが一番知っている事実で、その現象がこの世界になり顕著に現れ、アイリスの戦略も始まった事により、その変化やサイレンスの事を考える余裕がなかったのが正直な所だった。


 イスバール殲滅時に一度寄ったサイレンスのアジトは、あの時皆と冒険し互いの思想をぶつけ合った懐かしい日々を思い出させてくれて、とても気持ちの良い空間だった事は今も忘れないリシタニアは、上杉の言葉に対し『美しき暴君』と恐れられた人物が今まで見せた事のない優しい表情で見る。


「・・・いいのか、他のメンバーに相談しなくても」

「俺も鮫島も、清水も賛成ですよ。川上は姫にゾッコンですし、大丈夫でしょう」

「あやつは苦手だ・・・」


上杉の言葉にやな事を思い出し少し苦い顔をしたリシタニアだが即座に表情は戻り、その顔を見て上杉は再度同じ言葉を話す。


「姫、是非サイレンスへ入隊を」

「もう私は姫ではない。一人の冒険者、リシタニア=アイリスだ」

「そうですね、・・・リシタニア」


 二人はその場で握手を交わし、リシタニアと呼んだ上杉は少し照れ臭そうな表情をする。


「それじゃ、サイレンスとしての最初の仕事は、この戦争を止める為にエスタークと協力しシャーラで争いは終わらせましょう」

「ああ」

「いいね、アタイも燃えて来たよ。まずはアイリス兵の殲滅だ!」


 上杉達三人は、アイリス軍とシャーラ軍がぶつかり合う中央広場へ向かい走り出す。


 それとほぼ同時期に、鮫島と村雨も菊池との激闘を追え中央広場へ向かっていた。

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