第二十五話 この世界の現実
2015/12/24 文構成を修正実施
鉄壁を誇っていたシャーラ城壁の一部は無残にもその姿を無くし、その前で二人の向かい合う召喚術士と共にその前には四大従者と言われる『海王』リヴァイアサンと『炎の巨神』ベヒモスが、その巨体を張り合うかのように互いを睨み付ける。
ベヒモスを召喚し村雨との戦いに辛くも勝利した菊池は、村雨にとどめを刺す寸前にリバイアサンによって邪魔をされ村雨を殺せないでいる。
「お前、私を止めると言ったな。村雨と戦った後だからと言って、お前に負けるような私ではないぞ。」
菊池の声に合わせて目の前のベヒモスはリヴァイアサンを敵と見なしたかのように、その目は血走りいつでも襲う体勢を取る姿を見ても菊池を見つめる視線を鮫島は反らさない。
「リレイズでの私は、あなたと比べて新参者だし実力も足りないわ。でも、この世界になった今はゲームのレベルではじゃなくて現実世界同様、話し合う事が必要なのよ。」
鮫島は菊池を見つめ話しながら側で倒れる村雨にトレントを召喚し、トレントの放つ生命力を受け危うかった村雨は一命を取り留める。
その鮫島の姿を見て菊池は驚きの表情を見せる。
普通の召喚術士が同時に従者を召喚する事は可能だが四大従者となれば話は別で、その強大な力を現世に引き止めるには強力な魔力が必要になり、菊池ですら最初のうちはベヒモスを召喚した場合は別の従者を出すのは無理だった。
しかし召喚術士になって間もない鮫島は、リヴァイアサンを出した状態でトレントを召喚しベヒモス側への警戒も忘れていないその異常とも言える事をさりげなくこなしている鮫島に流石の菊池も驚く。
「・・・なるほど、その自信は口だけではなさそうだな。では、その実力も見せてもらおうか!」
鮫島達を既に敵と認識したベヒモスは菊池の掛け声と共に襲い掛かり、振り上げた拳をリヴァイアサン目掛けて繰り出す。
「リヴァイアサン、津波よ。」
鮫島の声にリヴァイアサンは反応し即座に尾尻を振り上げ叩き落とすと、その振動と共に何処からともなく現れる水の塊が強大な壁を作りベヒモスの拳を受け止め、ベヒモスの高温の拳に水の壁は蒸発した蒸気を発しながらも拳の勢いを完全に押し殺す。
リヴァイアサンは即座に第二の津波を発生させ、それを水壁に当てる事で勢いを増しベヒモスの勢いを殺したその水壁は再び動き出し、その勢いでベヒモスを押し飛ばす。
鮫島によって一命を取取り留めた村雨の意識が戻り二人の戦いに目をやると、先程まで戦っていた菊池との対戦を代わりに引き受け自身の治療も同時に行なっている鮫島を見る。
「お前は上杉の相方か、ヤツはどうした?」
「べ、別に上杉君の相方ではありませんが、彼は今シャーラ城内へ攻め入ったアイリス軍と戦いに行ってます。今は貴方達パーティーの仲間と協力して、プレイヤー達と戦っている筈です。」
「まさか、お前達が俺らを助けに来るとは思っていなかったが。」
「上杉君は、アイリスの戦略がこれ以上進む事で乗じるこの世界の均衡が崩れ『バウンダリー(境界)の破壊』」を起こす恐れを感じて、カシミールに付く事を決めましたが、別に上杉君は貴方達を嫌っている訳ではないと思います。この世界に転移させられ戻る術が見つからない今、この世界にいるプレイヤー達で協力して生きて行かないと、そう考えているだけだと思います。」
「フン、アイツらしい幼稚な考えだ。」
「確かに、貴方に比べれば私達はたかが学生でこれまで親の扶養で育って来ました。だけどこの世界になり頼れる人間が居なくなったからこそ、子供なりに自分で出来る何かをしなくちゃって考え抜いた結果なんです。貴方はどうだが知りませんが、目の前の女性はその子供から見ても間違っている考えをしてこの世界を破滅に向かわせようとしている事は分かります。貴方がその為に、そんな体になりながら戦っていたのであれば私は共感しますが。」
村雨が見ても明らかに子供くらいの年齢に見える鮫島の語る言葉に、村雨の心は別の誰かに捕まれたかのような気分になり息が次第に苦しくなる。
正直村雨は、この戦いにそこまでの思想を持って挑んでいないと気付く。
カシミールは友好関係にある国であり、仕事上のパートナーでもある。
だが、それ以上の関係と言われるとそれはないと考え、カシミールが崩壊する事で自身がこの世界で生きて行く為の糧が無くなる事を困る程度にしか考えていなかった。
初めて話すまだ幼さを残す少女の言葉で、この世界の現状とその行く末の恐ろしさを村雨は初めて気付き、そして少女はその恐ろしさに向き合い自分に出来る事を、あの日以来、粛々と行なっていた話を聞いた村雨は苦虫を噛んだような苦い表情を見せる。
「・・・まったく、これじゃの時と変わらねぇな。」
村雨が吐き出すように嘆いた言葉の意味は、今から約七年程前の事。
会社を立ち上げ、順風満帆な生活を送っていた村雨に突如嵐が訪れる。
それは突然妻から突き出された離婚届の用紙で、彼女に対しては何不自由な生活させまいと常に口座に大金を入れた通帳を渡し自由に使って良いと話していた。
村雨はそれで全て上手く行くと思っていた。
だから妻から言われた言葉はまさに青天の霹靂で、その言葉に自暴自虐になった村雨はその責任を全て妻に押し付ける事で、己のプライドを寸前で保つ事は出来たが、その代償に妻子との永遠の決別と言う最悪の現実を突きつけられた。
あれから家族との再会は一切無く、村雨はその事を忘れようと一心不乱に仕事に集中し事業者として成功者した村雨は、人生で唯一にして最大の汚点であるその原因をその時初めて気付いた。
それは一転に集中する能力と引き換えに周りを顧みない事で、大切の家族の将来の理想を考える事が出来なかった。
そしてリレイズに自分の娘がログインして行方不明だと言う事実を知り、村雨もその跡を追うようにリレイズの世界に入り必死に娘を探しているうちに、気が付けば『狂剣士』としてリレイズの最強プレイヤーとして君臨しすっかりリレイズの虜にされていた。
結局娘の捜索範囲を広げる為のカシミールとの協定も、そちらに手が掛かりきりなり、この世界になった直後も娘がIDを持っている事に安心し捜索を後回しにしていた。
自分は一体何の為にリレイズを始めたのか、そしてこの世界になり自分は何をしたのか。
結局菊池やアイリスの思惑通りに戦争を起こされ、それを止めるだけの後手の対策しか出来ていない。
だが、上杉達は小さいながらも己が出来る事を考え行動を起こしここへ来ている。
それは大人になった事で面倒臭くなるような事で、判断力が付いた事で分かっていても優先順位を付ける冷静でつまらなくなった大人になった証拠でもある。
この世界に転移させられた事の不安よりこの世界でどう生きていこうと考えいた村雨に、鮫島の言葉は胸に中に鋭い針を刺された感覚を味わえさせる。
それは、この世界をまだゲームだと思っている自分と現実世界の同じ毎日を繰り返している、つまらない大人のルーチンワークをしていただけの自分が存在していただけだと。
目の前でベヒモスと戦う小さくも勇敢な一人の少女に村雨は自分の娘の姿を思い浮かべ、それはちっぽけな背中だったが、母親を守る為に自分で出来る事を必死にやろうとしてたあの姿と重なり合い、その姿を見ていた村雨はベヒモスに押されている鮫島に話す。
「嬢ちゃん、ヤツの技は『開放』って言って、従者との契約を解く事で召喚獣の本来の能力を出す秘技だ。従者のままのリヴァイアサンじゃ、あのベヒモスには勝てねぇ。!」
「フン!無駄足掻きだ。お前に『開放』が使える筈がない!」
村雨の言葉を聞き、菊池はそのアドバイスに対して無駄だと叫ぶ。
召喚術士が使う『開放』の秘技は職業の絶対数が少ない召喚術士の中でも使えるのは菊池のみで、その習得には特殊の訓練が必要な事を菊池は知っているからの自信の叫びだった。
だが、菊池が鮫島に対して気付いていない重要な部分がある。
それは彼女の父がこのゲームの製作者である鮫島 春樹だという事と、鮫島 春樹は、娘の為に召喚術士のIDを与え従者の手に入れ方など召喚術士に関しての秘伝書を彼女のステータスブックのメモ欄に残していた事で、鮫島は、リヴァイアサンと手に入れた時点で既に『開放』の秘技をそのメモで知っていて、その結晶がリヴァイアサンの常時召喚であり、それは『開放』を覚えた後の延長線上にあった技であった。
「私は既に『開放』を知っています。リヴァイアサン良いですか?」
「ああ、いつでも行けるぞ。」
「お前!リヴァイアサンと話す事が出来るのか!?」
そして菊池と鮫島の四大従者の入手経由の違いが重要部分のもう一つで、菊池はベヒモスとの契約と言う形で従者にしているが、鮫島の友好的な契約とは違い命令でのみ動く従者で、鮫島は常に従者と話す事で互いの信頼関係を作り戦闘時のコンタクトを完璧に取れるようになっている。
鮫島も菊池と同じようにリヴァイアサンの魔法陣に一文字加えると、リヴァイアサンは先程とは明らかに違う様子に変わり野生に戻った状態に近いオーラを纏い、目の前のベヒモスと向き合う。
既に一戦交えた後のベヒモスに対し体力に余裕のあるリヴァイアサンは、同じ条件になった事で力の差が開き始め、リヴァイアサンの津波攻撃と打撃にベヒモスは防戦一方に変わっている。
その状況に流石に余裕が無くなる菊池は、体力が戻りつつある村雨がいつ自分に襲ってくるかも警戒しなくてはならず、状況を整理すればする程、己の劣勢を知る事しか出来ていなかった。
「お前、なぜこの短期間でここまで。」
「この世界を支配する事しか考えていない貴方と私とでは覚悟が違うわ。私はこの世界を変えるのではなく、守る為に戦う事を選んだ。このままでは世界の均衡は崩れ、この地に生きる者達にも『バウンダリーの(境界)破壊』が起きてしまう。」
「この世界に転移される以前から既に破壊は起きている!」
「違う!この世界への転移は切っ掛けに過ぎない。この世界になっても、己の私欲の為にしか動かない人間が破壊を進めているのよ。だから、貴方の行為を止める為なら私は全力で戦う。貴方達の目的は一体何、この世界を支配してどうするつもりなの。」
「この世界をアイリス教の国にする事が私の夢だ。ここにアイリスのシャングリラ(理想郷)を作り異教徒を無くせば、争いはなくなる筈だ。その為に異教徒は全て消し、アイリス教を慕う者のみが生き残ればいいのだ。国王は何を考えているか知らないが、私は王を利用し戦争を操作しているだけだからな。」
「でも、それが結果的にこの世界の均衡を崩していて、それは現実世界の宗教戦争と言われる内戦と変わらない。その結果がどうなるか、私より大人な貴方だったら分かる筈よ。」
「それは現実世界の話であって、この世界の私には力がある。最強の召喚術士として君臨するこの世界であれば、その夢は実現できる。」
「けど、戦争は憎しみしか生まない。憎しみは憎しみとなり、やがて己に振りかかる。それによって過去の闇へ葬り去られた人物は、星の数程いる。」
己の思想を語る菊池に、鮫島はその狂った思想と彼女の悲しい心の内を代弁するかのように菊池に向かい口を開く。
「あなたは何者なの。そして、これから何になりたいの・・・。」
その言葉を聞いた菊池は自身の心の中を掻き毟られる感覚になり、己の胸の奥深く届かない部分が痛く激しい焦燥を感じ、鋭い形相で鮫島を睨み返す。
「私は、この国でアイリスの神と並ぶ存在になるのだ!」
菊池の振り上げる手は新たな従者を呼び出す合図で、今までのリレイズでは考えられない三体の従者を同時出す荒技を菊池は行なおうとしている。
「貴様に私の何が分かる!分かったような目で、私を見つめるな!!」
菊池の発した魔法陣から、長い顎髭をたくわえた老人が現れる。
その老人は片目を失い今にも死にそうな死相が見える容姿だが、その感じが死神にも見え余計に不気味さを感じる。
「行け、『オーディン』よ!奴の水壁を壊して来い!」
鮫島は、鮫島 春樹が春樹が記したメモを思い出す。
オーディーンは火炎属性の従者だが、他の従者との違いは炎や熱を操るのではなく光の閃熱を使う従者で、広範囲の攻撃力は無いがその閃光は全ての物を貫くと言われる程の破壊力があると記されていた。
オーディーンは持っていた杖を上げ先端に眩い程の輝きを放つ光を集め出すと、その光はやがて球体になり、その中は強大なエネルギーが詰まっている事が見える程の溢れるほどの魔力を感じる。
ベヒモスがリヴァイアサンが繰り出した水壁を押さえている後ろへオーディーンの繰り出したエネルギーの閃光がうねりを上げ向かって行き、その閃光とベヒモスの力で、リヴァイアサンの水壁は今にも崩れそうになる。
「これで貴様の負けだー!」
その時、突如菊池の召喚した従者達が消えてゆく。
そして菊池を包んでいたヴィゾーヴニルの炎が消えると、菊池の胸には赤い血の色をした剣が刺さる。
それは村雨の『聖なる青い剣』が血を吸う事で変形し伸びた姿だった。
「グフッ、き、貴様!いつの間に・・・。」
菊池の目線の先に、村雨が今にも倒れそうな姿で剣先を向け構えている。
村雨は、菊池が同時に三体と言う通常ではありえない召喚を行なう事で生じた隙を逃さなかった。
「鮫島に夢中になり過ぎて俺の存在を忘れていたな。それがお前の敗因だ。」
「しまった・・・。貴様、よくそこに気付いたな・・・。」
菊池は自身の隙を付いた村雨に賞賛を送るように話すとその場へ倒れ込んだ。
「村雨さん、無茶しちゃいけませんよ。貴方だってまだ完全に傷は治っていないのですから。」
「お前、それが命の恩人への態度か。まぁ、お前のお陰でここまで戦えたのは確かだ。・・・助かったよ。」
「村雨さん・・・。」
鮫島が一度会った事のある村雨はケルベロス討伐の時の彼で、あの時は明らかに敵キャラ的な存在だったと思っていたが、この世界になった事で様々な思想が飛び交う世界になった事で、村雨とこうして共に戦った事は、あの時から考えれば想像も出来ない事だと思い、そして今のように礼を言われるなんて想像も出来なかったと鮫島は感じる。
鮫島は菊池の側へ行くと、血の海となっているその周りを見て菊池の命があと僅かと理解し即座にトレントをこちらへ呼ぼうとするが、鮫島は菊池の鋭い視線を受けその行動を止めさせられる。
「貴様、私を助けようとしているのか。そんな事はしなくていい。私は負けたのだ、思想を貫ける物は勝者のみの特権だ。勝者からの情けなど無用だ。」
辺りの血の量と菊池の状態からは想像も出来ないほどの力強く己の信念を曲げないと言わんばかりの声で、鮫島からの治療を菊池は拒否する。
その姿に一瞬戸惑った鮫島だったが、すぐさま我に返りトレントを呼ぶ。
「貴様、私の話を聞いていなかったのか!」
「ええ、聞いていました。けれど、私は最初に言ったように貴方を殺しに来た訳ではありません。私は貴方を止めに来た、ただそれだけです。貴方にその信念があるように、私にも信念があります。それは子供じみて貴方から見れば馬鹿馬鹿しいかも知れませんが、だけどそれは確かに私の信念で私の考える思想なんです。・・・それが、父、鮫島 春樹が私の為にIDを残した理由だと思うから。」
「何!?鮫島 春樹だって!」
菊池が叫んだ言葉に対し鮫島は怯まず己の信念に沿って敵である菊池の治療を行ない、それが鮫島の考える思想であると菊池に話し、同時に自身がこの世界に入った理由が父親である鮫島 春樹が自身の思想を必要と感じIDを作った事を話し菊池はその名を聞き衝撃を受ける。
鮫島が話したその名は、菊池どころかリレイズのプレイヤーであれば誰でも知る有名人で、これまでの彼女の快進撃の理由もこれで解決できる。
「なるほどな、鮫島 春樹が付いているのであればその実力は頷ける。だが、ヤツこそ今回の首謀者ではないのか?アシンメトリーの理論を作り上げた男が、この世界を作り上げる事など造作もないだろうが。」
「その真意は私にも分かりません。それは、これから父を探す事で聞ける事だと思います。けど、この世界になった事で父がなぜ私にこのIDを作ったのかがこの戦いで分かった気がします。」
自身がなぜこの世界へ来たのかを話す鮫島は、先程までの何時もの冷静な表情から怒りを覚えるような表情へ変わり菊池へ向かい叫ぶ。
「この世界は、もうゲームではありません!その事をいい加減認識して下さい!」
その言葉に菊池は心を蹴飛ばされた感覚に襲われ、己の胸の動悸のリズムが急激に加速する事に気付く。
自分より明らかに年下の少女に菊池は諭され、そして罵倒される。
だがその言葉は的を獲る言葉で、菊池は核心を付かれたのように心は動揺を隠せずにいる。
菊池は確かにこの世界になりアイリス教を広める事を即座に思いつき、エスタークの後押しもあり物事は順調に進んでいた。
だがそれでは今までと同じゲーム的感覚の発想であり、その先の思想なんて正直考えておらず、アイリスのシャングリラ(理想郷)などそれを実際に実現しようとすれば間違いなくこの世界は内乱の様相になる筈で、それは現実世界の宗教戦争が示している。
それは菊池自身がまだこの世界がゲームの世界だと思っているからで、リセットも復帰も出来ないこの世界は紛れもない現実だと完全に認識していない菊池は既にその事を理解しているにも関わらず、この戦争を仕掛けている。
鮫島が叫んだ言葉の意味はこの世界は紛れもない現実世界で、この世界に生きるプレイヤーとキャラクターそれぞれに思想があり、その思想がぶつかり合えば、それは思想間の『バウンダリー(境界)の破壊』が起こり、ゲームの世界の気持ちで現実世界の殺戮を犯す人間としてのリミッターが切れる事を示す。
「現にこの戦争で幾人ものプレイヤーが命を落としました。もうこんな惨い戦争をしてはいけない・・・。」
最後に力なく話す鮫島はそのまま暫く口を閉ざし、その姿を見て村雨は片足を引きずりその場にやって来る。
「まさか、お前が鮫島の娘だったとはな。菊池、ここはお前の負けだ。潔く嬢ちゃんの言う事を聞けよ。」
村雨の言葉に菊池は静かに目を閉じる。
それは、今まで村雨が見た事のない何かを感じたかのような悲しみに満ちた表情に見えたが、菊池は即座に目を見開き倒れる菊池を見つめる二人に罵倒する。
「私はこの戦争の世界で生きて行き、そしてシャングリラ(理想郷)を作る!」
次の瞬間、菊池の手が光りだし魔法を詠唱する。
「~ムーブポイント~」
術者が記録している洞窟の場所へ移動する魔法ムーブポイントを唱え、菊池はこの場から去って行った。
菊池はこの世界のどこかの洞窟へ移動し、そこからアイリスへ戻るつもりだろうと考えた村雨は、深追いを止め隣の鮫島の方を向く。
「俺も探し物があってな。お嬢ちゃんに言われるまで気が付かなかった。探し物を後回しにしている自分にな。だが、この戦争はとめなきゃならない戦いだ。俺は城内で戦う仲間の所へ加戦しに行く。」
村雨は己が忘れかけてた重要な部分を思い出させてくれた鮫島に感謝を述べるが、再び戦場と言う現実に己を戻し今も戦っている仲間の所へ行く事を鮫島に告げる。
「はい、私もその意見には同感します。だって、その戦場には私の仲間もいますので。」
「そうか、そっちには上杉も行っているのか。相方は大切にしなきゃなぁ。」
「なっ!べ、別に相方とかそういう関係ではありませんので・・・。」
村雨の言葉に鮫島は頬がみるみる赤く染まり動揺を見せるが、その先に助けたい大切な人がいる事は鮫島も同様であった為、二人は風穴の開いた城壁を通り城内へ潜入する。
シャーラ城内では、シャーラ王の首を狙うアイリス軍がエスタークのメンバー達との交戦を繰り広げていた。




