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サイバー・バウンダリー  作者: りょーじぃ
第二章 転移後の世界
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第十五話 黒い雨

2015/12/18 文構成を修正実施

「まったく・・・。なんで俺が追われなくちゃならいんだ!」

「待てー!」


 馬に乗り走る川上が後方から追いかける数人の兵士に対し弓を引き放つと、その矢は兵士の額を貫き馬から無防備に投げ出される。

 その兵士は、紺色に白の斜め掛けのストライプが入る鎧を纏ったアイリス国の兵士で、川上は追ってくるアイリスの兵士を振り切ろうと必死に馬を走らせる。


 川上の使う攻撃道具『クイックアロー』は、盗賊シーフが持つ攻撃道具としてはベターで、名前の通り連射が可能だが威力は小さく強大なモンスターには通用しないが、キャラクターレベルである兵士であれば倒す事も可能だ。


 川上はリレイズの世界で戦争は経験していないが、その放った矢が兵士の額や胸に突き刺さる音や手応えは明らかに今までと違い、ゲームの世界ではなく現実世界のそれに近い感覚を受ける。


 川上が転移させられ気付いた場所はアイリス城内で、スパイの潜入と思われた衛兵に追われる身となり現在に至る。

 リシタニアに便宜を図って貰おうとも考えたが、突然の転移の混乱でそこまで考えが至らなかったのが事実だ。


 アイリス兵から逃れアイリス王国から南にある森林に身を隠し、近くにあった洞窟で一夜を過ごす。

 洞窟に明かりを灯し、優しく淡い電球を見つめながらこれまでの事を思い出す。


 確かあれは昼を少し回った頃、得意先での交渉に時間が掛かり昼食が遅れたのでたまたま近くにあった食堂でランチを取ろうと店の暖簾のれんをくぐった瞬間、突然辺りが暗闇に包まれ視界が失われると耳元で聞きなれた言葉が聞こえた。


「ようこそ、リレイズの世界へ」


 そのセリフはリレイズの世界へログインする時に聞く声で、その直後川上は強制的にリレイズにログインさせられる。

 そして目が覚めた場所は、最後にログアウトしたイスバールのアジトではなくアイリス城の王宮内だった。


「あの黒い雨のような光は何だったんだ。あの雨の後、辺りが真っ暗になり俺はリレイズの世界へ送られた」


 現実世界で持っていた手荷物の携帯と財布は手元あり、その存在に気付いたステータスバイブルを手に取り確認すると、ゲームで獲得したアイテムやお金も以前のままだ。

 しかし、リレイズは現実世界の物をこの世界へ持ってくる事は通常不可能で、それが実現出来た事で川村もこの世界が現実世界の延長線にある事を薄々感じ、そうであれば、先程殺した兵隊の手応えや最初に聞いたリレイズのオープニングの声も、脳からではなく直接聴覚等から入った情報だと考えれば川上は納得が行った。


「まずは、上杉達の行方が心配だな」


 川村は手に取っていた携帯の電源を入れ状態を確認すると、やはり基地局経由の通話電波を表すアンテナは表示されず、非常用として用意されている機器間で直接通話する機能に切り替わっていて、試しに上杉に連絡を入れるが範囲内に居ない為通話が出来なかった。

 清水や鮫島の電話番号は聞いておらず、チャット機能の通話であれば使えたがそれは基地局経由になる為、試す事は出来なかった。


 川上はアイリス兵を警戒しながら今日はこの場で休憩を取り、翌日アジトのあるイスバールへ向けて進む事を決める。

 イスバールまでは通常数日あれば到達できる距離だが、川上一人ではモンスターを相手にするには分が悪く、モンスターが居ない場所を選びながら進む為、通常より多くの時間が掛かる。


 森を出てイスバールへ向い始めて数日経った夜、川上は暖を取りキャンプの準備を行ないながら、ふと空を見上げたその夜空は、都会の夜では見る事の出来ない無限に散りばめられた輝く宝石のような星が今にも地上へ落ちてきそうな程近い距離で見え、川上はその光景に思わず言葉を失いしばらく空を見上げていた。


 幻想的な世界に鑑賞していた時、その無数の星の中に奇妙な点を見つける。

 その点は星にしては手前に見え、距離にすると数億光年先にあるように思えず、不思議に思った川上はアイテムで持っていた望遠鏡を手に取り確認するが、この世界の望遠鏡はあくまで日中に使用する物の為、夜空にあるその点を確認する事が出来ない。


 暫く考え込む川上は何かを閃いたように、自身のポケットに手を入れ携帯電話を取り出す。

 この時代の携帯は夜間望遠機能が付いていて、皆既月食などの夜の天体を撮影するには便利な機能で、倍率もそこらの安い望遠鏡より高性能だ。


 川上は持っていた携帯をその点に合わせシャッターを押しその写真に取り込まれた映像をさらに拡大すると、そこには信じられない物体が写っていた。


「なんだ、この箱?」


 映し出された物体は、川上が知っている宇宙空間にある物体としてはあまりにもシンプルなただの四角形の形をしていたが、その一角に写った部品に川上は気付くと驚いた表情をする。


「これは多分パラボラアンテナだ。こんな個人が作ったような人工衛星になぜこんなアンテナが」


 アンテナは恐らく人工衛星用の物で、その飛行物体のサイズに合わない程の大きさで方角はこの地球へ向けて放たれている。

 川上は即座に携帯のメニューボタンを押しフィルター機能アプリを選択する。

 その機能は、世の中に降り注ぐ電磁波などの電波をみえるようにする機能で、放射能の線量も物理的に見えるようになるアプリだ。


 川上がそれを使って確かめたかったのは電波の周波数で、その周波数を解析出来れば人体の影響や目的が分かる可能性がある。


 現実世界で川上の売っている商品はこういった電波を解析する商品で、そのジャンルに関しては営業の必要上詳しくなる為常に最新情報を仕入れていて、このフィルター機能アプリも川上の会社の製品でデモ用に常時携帯に入っていた。


 フィルタ解析が終わり結果が表示され、放射線量など人体に影響のある物は確認されなかったが、常に放射されている周波数を川上は見逃がさず、その周波数の解析に入ろうとするが、これより先はPCでの作業になる為、現時点で分かった事は常時放射されている周波数は通常存在しない500GHzで、周波数帯域に関して詳しい川上にとって人工衛星で使用する300GHz以上の周波数帯域は電波法で使われていない筈である事に気づく。


 その時、川上は500GHzと聞いてある事を思い出す。

 それは以前、通信技術説明会で宇宙科学研究所を訪れた時にその周波数の質問をした事があり、返って来た返事は、その帯域は死の領域で使用は禁止されている』で、専門家達での間では、その帯域を『黒い雨』と呼んでいた。


 それ以上の事を聞く時間がなかった為、『黒い雨』に関して詳しく聞けなかったが、この世界へ向け放たれている電波は、その死の帯域と言われる『黒い雨』で、それがこの地球に向けられている事がリレイズの世界へ送られた事と必ずしも合致するとは考えずらいが、間違いなく何らかの影響は与えていると感じている。


 充電する方法が今の所ない為、電池残量の少ない携帯の電源を切り、川上はそれ以上の詮索を一旦止める。

 リレイズの世界はゲームの中でも電気が通っている為、明かりや冷蔵庫など現代同様の生活に必要な最低限の物は存在し、充電ケーブルは作成する必要はあるがコンセントもある為充電も可能だ。

 川上は携帯の充電をしこの捜索を引き続き行なう為、イスバールの手前にある『テネシー』の街へ情報収集も兼ね向う事にする。


 数日後、川上はテネシーの街に着き、この世界へ転移させられてから初めて見た街の様子に川上は驚きと恐怖を感じる。


 街に居るプレイヤーの数が自身の予想したよりも遥かに少なく、その数はアクセスが集中する週末や連休とさほど変わらず、もし今回の現象でリレイズのプレイヤーが全員同時にログインしたと考えると、それに対しての数としては明らかに少ない。


 それ以上の恐怖をこの場へ来て初めて感じたのが、リレイズユーザーではない人間の所在、それは身内や同僚達で、『黒い雨』の現象や今まで脳に信号を送っていた状態と違い全てを直接感じる体など、ここ迄の知り得た情報を集めた川上の結論が、この世界が現実世界の延長線上であればこの世界に存在できない人間は、全て消滅したと川上は考える。


 そして、この現象が起きた事で川上の脳裏に浮かんだ一人の人物。

 それは数日前にリレイズに入り行方不明になった鮫島 春樹で、自身がこれまでに集めた推測と言う名のパズルのピースを使い最終的に出た答えは、この現象は人為的な行為で起き、その首謀者は鮫島 春樹である可能性だった。


 そして今までと違い、脳からではなく体へ直接感じるこの感触は、己自身がリレイズの世界へ転移させられ、その体は死に接する事で現実世界の死と同等となる事も感じていた。


 街の情報屋とも話をするが『黒い雨』や人工衛星の話題は無く、入って来た情報はプレイヤーは全員リレイズのオープニングを聞き強制的にログインされた事と、この世界での死は現実世界の死と同等と言う事だけで、川上が推測していた事が確証出来た程度だった。


 今夜はここで宿を手配し、翌日にはテネシーを離れイスバールへ向う事にし、宿を見つけ夕食を取りに商業区へ向った。


 商業区で立ち寄った居酒屋風の店で食事を取る。


 店には夕食時と言う事もあり大勢の冒険者で溢れかえり、その顔には転移に対しての不安等は感じられない現実世界の酒場同様の賑わいを見せている。

 それは、リレイズで約30%存在すると言われるリレイザーがこの世界になって喜ばない筈は無く、活発的に商業活動などを行なっているからで、上杉同様あまり好きではなかったリレイザー達が、この世界になって頼もしく見えるのは正直川上は複雑な心境を覚える。


 客が多かった事もあり、川上は定員に相席のお願いをされそれを了承する。

 相席になった席の相手に軽く会釈をする為に相手を見ると、その姿は紺色のローブを纏った魔法剣士の小沢だった。


「川上か、久しぶりだな」

「小沢!?、どうしてここへ」

「お前もこの世界に強制的に転移されたんだろ?」

「小沢もやっぱり同じか」

「私はあれからずっとログインしていたが、突然目の前が暗くなり、気付いたらテネシーに転移させられていた」


 小沢は長期休みを利用してあの後もリレイズにログインしていたが、突然景色が真っ暗になり、気がついたらテネシーへ転送させられていたらしく、現実世界にいた川上同様、リレイズ内にいた小沢も同じように転移させられた。


「このテネシーでも、私同様に転移に驚いているプレイヤーもいたが、それよりもこの世界でパーティーの仲間と逸れた人間が多く居て、一緒にいたから同じ場所へ転移されているとは限らない事だな」

「やっぱり、俺もそれに関してはこの人の少なさで疑問を感じていた。恐らく、大陸や島以外に転移させられたプレイヤーは生きていないと」

「ああ、多分海やモンスターの群れや崖下などに転移した者は既に死んでいて、街の噂どおりその死は現実世界の死となってその人間は消滅したんだろう。後のログインIDを持たない人間はそいつら同様の結末だと考えている。・・・無論、私の家族も含めてな」

「・・・だろうな」


 二人が導き出した結末が互いに一致する事を確認すると、その絶望的な現実にただ黙る事しか出来なかったが、この空気を嫌うかのように川上は話題を切り替える。


「実はそれ以外で気になる事があって、この世界の上空に黒い謎の飛行物体があって、正体はまだ分かってないけど、その物体の発している電波が通常では使用されない周波数なんだ。その周波数は、専門家の間では『黒い雨』と呼ばれている」

「『黒い雨』?」

「専門家と話をした時、それは死の領域だと言いっていた。これは推測でしかないが、上空から発している『黒い雨』は今回の転移と何かしら関係があってその首謀者は、鮫島 春樹じゃないかと思ってる」


 川上の言葉から聞いた事の無い言葉を聞き、小沢はその言葉を聞き返す。

 『黒い雨』とは、人工衛星が使用する周波数帯より上の使用を禁止されている領域を言い、それを常時発している謎の物体は今回の転移と関係があると川上は話し、これら事件の首謀者は鮫島 春樹ではないかと推測する。


「鮫島 春樹か。このタイミングで娘のIDを作り自らもリレイズに入り行方を眩ましたとなれば、一番怪しい男ではあるな」

「これからイスバールに戻って仲間を集め、鮫島 春樹の行方を探そうと思っている。小沢も協力してくれないか?」

「お前達には一応借りがあるからな。この世界に転移されて、ゆっくり理想を探す旅に出れると思っているから私は正直嬉しい人間だが、とりあえずそっちを片付けるか。それに、アイリスの動きが活発になっているのも気になるからな」

「確かに、この事態を一番喜んでいるのはアイリス教かもしれないな。おれもアイリスに転移した時に衛兵に追われてここまで来た」

「じゃあ、川上も私と同じでアイリス教のお尋ね者って事か」

「まぁ・・・そうなるけど」


 今までリレイズの世界で問題になっていたリレイザーの存在が、この世界になった事で大きな混乱が起きていない最大の理由であり、小沢のように元々この世界を気に入り永住しているプレイヤーが多かった為、転移後も特に変わらず商売や生産は行なわれている。


 小沢は、今回の転移を機に自身の理想を探す旅を本格的に行なおうと思っていたが、ケルベロスの件での借りを感じていた小沢は川上の要請を受け、一緒にイスバールを目指す事を受諾した。


 翌日、川上はテネシー内の工場区へ行き充電ケーブルの作成を依頼する。

 まずは携帯の充電をどうにかしないと検証も出来ない状態なので、製作までに二日掛かると言われると川上達は仕方なくテネシーでケーブルの完成を待った。


 翌日、充電ケーブルが完成し携帯を充電した後、川上達は、一路イスバールへ向った。


 だがその先に待ち受けていたのは、アイリス教団率いるアイリス軍に占拠され謎の破壊され、城が消滅したイスバールであった。


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