召喚された勇者の願い。
私は異世界召喚された。
愛する家族、友達達と引き離され、突然知らない世界に召喚されたと思ったら、「魔王を倒せ」召喚したこの国の王にそう言われた。
何日も泣き涙も枯れた頃、泣いていても元の世界に帰ることは出来ない。
私は決意して魔王を倒すため立ち上がった。
この世界に召喚されてから3年が経ち、魔王を倒した。
この3年間私は剣技を磨き、魔法を覚え新たに作り出し、この世界の事を学んだ。
全ては私の願いのために。
それが遂に叶う時が来た。
「異国の勇者よ、魔王を倒しよくぞ戻った。褒美をやろう。なんでも申すが良い」
玉座に座りふんぞり返って宣言する国王に、私はニヤリと口の端を持ち上げた。
「では国王。私の願いは今後この国が異世界召喚を行わない事です。それにともないこの国にある異世界召喚術に関するもの全ての破棄と今後異世界召喚を一切しないと言う証書をいただきたい」
「「なっ!!!」」
今私がいるのは、勇者に褒美を与えるという名目でこの国の上位貴族らも集められた謁見の間である。
そしてその場にいる国王だけではなく集められた貴族、と言うかここにいるこの国のもの全てが驚きの声をあげた。
無理もない。
この国は魔王討伐の為にと度々異世界から勇者を召喚していたのだから。
それだけにはとどまらず、異世界の技術が欲しいからと召喚することもあるのは調べがついている。
この国は事ある毎に異世界から人を召喚し、自分達の利にしている。
この世界に何も縁のない人物に全てを丸投げするのだ。
そんなことあっていい訳がない。
お前たちの世界はお前達でどうにかするのが当たり前だと言うことを、何故分からないのか。
それが私にはわからない。
だからこそ、魔王を倒すと決意してからこの願いのためだけに私に生きてきたのだ。
「国王はなんでもと言いましたよね?それを今更破故にするとは言いませんよね?」
私は満面の笑みで国王に言ったが、国王は渋い顔をするだけで了承を示さない。
しょうがない、と私は深いため息を吐いた。
「貴方達は自分達が何をしているのか分かっていないのですね。異世界召喚とはこの国となんの縁もない人を別の世界から召喚しているのですよ。それは誘拐となんら代わらない。召喚された方は今まで住んでいた世界からいきなりこの世界に呼ばれ、愛する家族、友達と引き離されるわけですから。しかも帰る術はない。国主導で行われる大々的な誘拐なんですよ。それをこの国の人々は当たり前のように行っている。しかもなんら疑問もなく、罪の意識すらなく。本当に救い様のない人々ですね」
もうこの国に用はない。
私は笑顔で最後の台詞を言った。
「今後この国が異世界召喚をするのならば、どんなことが起こっても知りませんよ?まぁ、貴方達に期待はしていませんがね」
そして、貴族達が何か言っているのを無視して私は立ち去った。
そのまま着の身着のまま、この国を。
最初から期待はしていなかったから、ちゃんと準備はしていたし、なんら問題はないしね。
そのまま私が向かったのは魔王城。
実は魔王を倒したというのは嘘である。
魔王と言われていた彼、実は私と同じ世界から召喚された元勇者であった。
魔王城にて魔王と相対したときに、私達はそれを知ったのだが、あの国の王は自分の言う通りにはならない元勇者を亡き者にして、自分の都合の良いようにしようとしたらしい。
本当に救い様のない。
魔王城に着いて彼に詳細を話、今後の計画と言うか起こり得るであろう事を語っておいた。
それに爆笑した彼は無礼講だと、飲めや歌えやの大宴会を魔王城で開いてくれた。
ちなみになんで彼が魔王なんて呼ばれているかと言うと、人間に迫害されたエルフや獣人など異種族を集めて国を作ったからなんだとか。
そんな宴会の中、謁見の間の中央に魔方陣が現れた。
それを見た全ての者の第一声が「はやっ!!」である。
その魔方陣から現れたのは、見ただけでわかるであろう高価なドレスに身を包んだ少女である。
誰から見ても高貴な令嬢。
いきなり今までいた場所ではない所にいて、しかも沢山の人に囲まれている。
涙目になりながら周囲を見渡している。
その少女に私は声をかけた。
「あ~ぁ、やっぱり君たちはまた異世界召喚をしたんだね。ねぇ?今の気分はどう?ここはやっぱり「魔王を倒してこい」って言うべきかな?」
声をかけられた少女は私を見るなり吃驚して声も出せずに口をわなつかせている。
それを見た魔王は笑いながら言葉を発した。
「それ俺を倒せってことか。目の前にいるって俺すげぇ親切じゃん」
確かに、と私も笑いだした。
状況的に旅をすることをすっ飛ばしての魔王討伐だ。
なんて親切設計。
「ねぇ?君が何故ここにいるかわかるかい?」
少女は横に首を振る。
「まぁ、そうだよね。私は君のお父さん、そう国王に「異世界召喚を辞めろ」と言ったよね?そして「今後異世界召喚をしたらどうなるか知らないよ?」とも言ったのは知っているかな?」
今度は縦に首を振った。
「そう、知っていて異世界召喚したんだ?本当に救いようがない奴等だね」
少女は意味がわからないと顔に出ていた。
さぁ、種明かしをしてあげよう。
「私はね、あの国を出て行く前に異世界召喚について書いてある書物なんかに細工をしたんだ。召喚されるのは異世界人ではなく、召喚した人の大切な家族を。そして召喚ではなく送還、此方に送るようにと」
少女は目を見開き愕然とする。
「流石に異世界に送還する術は見つけられなかったけど、同じ世界であればそれが出来たからね。君は同じ世界なだけまだマシだよね?でも少しは私や彼、魔王の気持ちは分かったかな?」
そう言われて初めて私の隣にいる彼が魔王であり、自分達が召喚した元勇者だと気付いたようだ。
「いきなり知らないところに召喚され、知らない沢山の人に囲まれる気分はどう?楽しいかい?まぁ、私は君達と違って誘拐犯になるつもりは無いから君をあの国に送り届けてあげるよ」
そう言って少女の腕をつかみ、魔王に手を振る。
「いってきまーす」
同じ日にまたここに来るとは思わなかったけど、又してもあの国の謁見の間にいる。
さっきまで異世界召喚しようとしていたからか、沢山の人がいるね。
それに突然いなくなった王女が私と登場したものだから、なにやら皆面白いことになっている。
さぁ、早くここから帰って宴会の続きしたいね。
「やぁ、昼間振りかな?ちゃんと忠告したのにその日に異世界召喚するとか本当に救い様がない奴等だね?」
何故知っている、とかなんでお前が、とかざわめいているけど無視無視。
私は国王を見ながら言葉を発する。
「ねぇ、いきなり愛する娘が消える気分はどうだった?楽しかった?」
国王は怒りに顔を赤くして怒鳴ってきたけど知ったこっちゃない。
「私は貴方達と一緒で誘拐犯になるつもりは無いからちゃんと届けに来てあげたよ?優しいでしょ?嬉しいでしょ?」
お前が連れ去ったのか、とかなんとかいってるけど、まぁさっきの種明かしをしてやるつもりはないから、娘にでもあとで聞けばいいさ。
「もうこれに懲りたら異世界召喚を辞めることだね。懲りずにまたやったらつぎはないよ?」
じゃあ、と言って私はその場から魔王城へ転移。
戻ってきたら皆宴会の続きをしていた。
「私だけ除け者で再開してるとか、ちょっと酷くない?」
「まぁまぁ。で、終わったのか?」
口を尖らせすねる私にワインの入ったグラスを渡しながら魔王は質問してきた。
「一応ね。また新しく異世界召喚の魔方陣を開発しなきゃだから当分は大丈夫じゃないかな?」
「それは重畳。まぁ、お互いお疲れさまだな」
「ん、お疲れさま」
カチンッ
そう言って互いのグラスを合わせて鳴らした。
その後、自分達の力でどうにかしてこなかった国は衰退していき、意思の強いもの達が反乱を起こし、新しい国が出来たと言う。
元勇者達は今後また異世界召喚が起こらない事を祈りながら、残りの人生を謳歌した。