奴隷商
奴隷ってなァ、御主人サマの玩具になる奴が多いんだァ。
そんでもって、売られる前の奴隷の御主人サマってのが、オレタチ奴隷商さァ。
良い御主人サマに巡り会えるよう、精一杯調教させていただく卑しい職業さァ。
民衆や兵士サマはオレタチを蔑んだ目で見てくるけどよォ、オレタチも生きる為にやってんだぜェ?
それに、オレタチが居るからこそスクワレル者も居るって事にサッサと気付いて欲しいもんさなァ。
今日も今日とて調教のハジマリさァ。
朝っぱら早く、奴隷商始める時に大枚叩いて買った宿舎に乗り込む所から一日が始まるのさァ。
グースカ眠りこけてる奴隷共を起こすにはよォ、デケェ音を聞かせるのが一番さァ。
そう、入り口に備え付けられてるこのデケェ銅鑼とかうってつけだろォ?
コイツを棒で全力で殴ってやれば、デケェ音が鳴り響いて奴隷共が起きるって寸法さァ。
おォおォ、一発かませば早速起きて来たみてェだなァ。
真っ先に飛んできた女奴隷はよォ、オレのお気に入りなんだなァ。
自己主張の激しいデケェ胸に、サラッサラの栗色の髪、ついでに猫の耳と尾の付いた亜人種の別嬪さァ。
どんな上客にも渡したくねぇ至高の奴隷でさァ、オレが売らねェから一番の古株になってやがんのさァ。
名前はロレーズって言うんだがよォ、コイツがホントにたまんねェのさァ。
「おはよう御座います、御主人様」
「ギヒヒッ!綺麗に飾ってんなァ」
「そうですか?」
コレだよコレ!
自分に無頓着で魅力に全く気付いてねェ無垢な所が最高だろォ?
色っぽく髪を書き上げる仕草とかよォ、たまんねェなァ。
しかも面倒見が良いと来たもんさァ、将来子供を作った時が楽しみだぜェ?ギヒヒッ。
ちょっと時間を置けば大体の奴隷は揃って来たなァ。
総勢十五の奴隷共が勢揃い、ドイツもコイツも上玉の男やら女共さァ。
性奴に向いてる奴等だがよォ、個人的にそいつらとは付き合いたくねェから売ってねェぜェ。
そいつらに早速朝の調教を施したいんだがよォ、なんだか一人足んねェんだよなァ?
「ロレーズ、変わりにテメェがやっとけよォ?遅刻する奴は奴隷として未熟だから調教が必要だよなァ?」
「その通りです、御主人様。此方は私にお任せ下さい」
おォう、主人を立てる良妻賢母っぷり、益々手放したくなくなるってもんさァ。
それは兎も角よォ、奴隷ってのは主人の意向を最優先にしねェといけねェからよォ、こういう遅刻とかにはバツを与えなきゃいけねェんだよなァ。
寝坊とかすればよォ、下手したら主人にぶっ殺されるかも知れねェんだぜェ?
そういう事態を起こさないように調教するのが、オレタチ奴隷商の義務でもあんのさァ。
宿舎じゃあ寝坊してるネボスケがグースカ寝てやがったさァ。
名前はなんて言ったっけなァ、確かサラっつう奴だったっけなァ。
鼻ちょうちんまで出してよォ、綺麗なアホ面がすっげェアホに見えるぜェ。
ボブの黒髪も乱れに乱しちまってよォ、突然呼び出されたらどうする気なんだァ?
胸が小せェ分安心かもしれねェけどよォ、女は女だよなァ?
何はともあれ、仕事の調教が先でさァ。
今日の調教は、そうだなァ。
ベッドの上で寝てるからよォ、まずは落として地べたに這い蹲らせねェといけねェなァ。
「ギヒヒッ!起きろォ!」
「きゃんっ!」
幸せそうな寝顔を蹴っ飛ばしてやればよォ、大概は敏感な鼻に衝撃を受けて起きるもんなんだぜェ?
コイツもそれをされれば流石に起きるってもんさァ。
しかもメスみてぇな鳴き声上げやがってよォ、勝手に転がってベッドから墜ちるんだぜェ?
時間があれば笑い転げてたってレベルさァ。
「ふぇ?あれ?御主人様?」
「ギヒヒッ!時計、時計」
「時計?……あっ!」
オレが時計を指してやればよォ、速攻で顔を真っ青に変えて土下座を始めやがったぜェ。
ギヒヒッ!オレの調教が上手くいってる証拠ってもんさなァ。
「も、申し訳ありません御主人様!」
「奴隷ってもんにはよォ、ごめんなさいの後がねェんだよなァ?」
「そ、それは……存じ上げておりますが……なにとぞ、ご容赦を……!」
ご容赦なんて言ってる時点で甘ェんだよなァ。
奴隷ってのは使いっ走り、買い替えの効くタダの道具さァ。
気に入らなければ殺してストレス発散してよォ、次の奴隷を買えば良いんだぜェ?
オレの所は客を選んでる分比較的安全だけどよォ、世の中の認識はそれが普通って事さァ。
世間と認識の齟齬があればよォ、俺の店の信用はガタ落ちさァ。
だからよォ、ちゃんとお仕置きを受けなきゃなんない訳よォ。
「取り合えずよォ、そこに仰向けになれよなァ」
「ごっ御主人様!?そんな……アレは!アレだけはご勘弁をっ!!」
「良いから仰向けになれってんだよォ、奴隷に拒否権があるとでも思ってんのかァ?」
ギヒヒッ!顔を赤らめて涙目の上目遣いのコンボ、そそるねェ。
コイツそういう方向の才能があんのかもしんねェなァ?
それはそうと、お仕置きの時間だァ。
まずはベッドの上に寝っ転がらせてよォ、服を軽くはだけさせてば準備完了さァ。
後はコイツを使ってヤるだけってもんさァ。
「ヒッ……!」
取り出した瞬間に色っぽく怯えやがってよォ、やっぱりそっちの方の才能あんじゃねェかァ?
ギヒヒッ!ここで獣欲に呑まれる奴は二流の奴隷商さァ。
一時の感情に任せて他に感けるなんて醜態を晒すなんてよォ、二流以外の何でもねェよなァ?
それはそうと、コイツを体の上に乗せてやるだけで後は任せとけば問題ねェぜェ。
「あっ、ひっ……あっはああぁぁぁぁぁぁん!!?」
「擽り地獄一時間の刑さァ……終わったら洗濯しとけよォ?」
オレの従魔の擽りラットに任せておけばよォ、調教は全く問題ねェなァ。
ギヒヒッ!一時間後にどんな醜態を晒すか、見物だぜェ。
ま、そんな時間ねェけどなァ。
「ロレーズ、終わってんのかァ?」
「はい、既に終わって皆教室で待機しています」
「ギヒヒッ!流石ロレーズだぜェ。じゃあサッサと行くとすっかねェ」
「はい!」
てな訳でよォ、オレの所でしかやってねェ教育ってのが始まんのさァ。
教養のある奴隷ってのは高く売れるからよォ、教育を施して単価を上げてんのさァ。
ちっと面倒臭ェがよう、必要経費って奴さァ。
「オラァ、3500リッドの物を268個買ったら幾らになるんだァ?」
「「「 938000リッド 」」」
即答だぜェ?
此処まで調教するのは苦労したってもんさァ。
それでも二ヶ月やれば大抵は出来る様になったけどよォ。
この算術があればよォ、秘書候補として高く売れるんだよなァ。ギヒヒッ!
「御主人様、御客様がいらしております」
「ギヒヒッ!今日はドイツが売れるかねェ?」
「私は何時までも御主人様の所に居たいです」
「嬉しい事言ってくれるじゃねェか。ギヒヒッ!」
ロレーズのケツを撫でてから、店の入り口へ向かうぜェ。
さてさて、今日はどんな客が現れんのかねェ。
揉み手擦り手何でも使って高く売りつけねェとなァ。
「これはこれはどうもどうも、本日は我が商店にどのような奴隷をお求めで?」
現れた客はでっぷり肉を付けた貴族、確か公爵家の御子息サマだったなァ。
豚のような外見、吐き気がするぜェ。
後ろには完全武装の兵士サマも連れて来てるなァ、物騒だねェ。
こういう客は大体お断りするってもんさァ。
奴等、大事な大事な奴隷を道具にしか見てねェからなァ。
ギヒヒッ!どうやってお帰り願おうかねェ。
「うむ。そこの女を買いに来た」
「申し訳ありませんねェ、ロレーズは売り物じゃァ無いんでさァ」
「貴様ッ!公爵家の跡継ぎたる私に逆らうかッ!」
ほらほら来た来た、権力を傘に着たアホ……じゃなかった、豚が騒ぎ出したぜェ。
こういう奴は大概が今まで我が儘し放題で生きてきた坊ちゃんだからよォ、次の瞬間には後ろの兵士サマが剣を抜いて来るんだよなァ。
そう、「無礼者ッ!」とか叫び散らしながら切り掛かってくんのさァ。
心配は無用だぜェ?
恨まれやすい奴隷商は護身術も完璧なのさァ。
突っ込んでくる兵士サマに足を掛けて投げてやればアラ不思議、吹き飛んで地面に沈んだってもんさァ。
「貴様ッ!何をするッ!」
「正当防衛でさァ。国王サマにも認められた、商人の正当な権利でさァ」
「公爵家子息に逆らって、無事で済むと思っているのかッ!?」
「どうなるんですかねェ」
「簡単だ!お父様に頼めば、こんな店のひとつやふたつ、すぐに潰せるのだぞ!」
結局お父様頼りって所が締まらないってもんさァ。
しかも世間知らず、お父様にバレたら大目玉間違いなしの行為だねェ。
商人の横の繋がり位は理解してなきゃ駄目だぜェ。
「どうぞご自由にしてくだせェ、代わりに全奴隷商は貴方サマの関係者との取引を今後一切停止させていただきますがねェ」
「何だとッ!?」
流石に拙い事に気付いたかねェ、全くアホな豚だぜェ。
もうこの豚に言う事は何もねェってもんさァ。
お、次の客が来たなァ。
しかも上客、大切に奴隷を使ってくれる大物商会の会長直々に御出ましくださったぜェ。
「これはこれはどうもどうも、本日は我が商店にどのような奴隷をお求めで?」
「あぁ、奴隷商殿!秘書に出来そうな方は居りませぬか?」
「お急ぎのようですなァ。今すぐ用意できるのは一人……サラって娘っ子が用意できますがねェ、何分寝坊癖が付いてましてなァ。まァ、商会長なら安心して預けられますがねェ」
「おぉ!それは僥倖!御目通り願えますかなっ!?」
「奴隷相手にそこまで畏まってくれるのは商会長ぐらいでさァ。すぐにお連れ致しますぜェ」
ちっとばかし奥に引っ込んで、笑い転げてたサラの体を清めて商会長様に見せるぜェ。
コイツ、オレが見に行った時には涎たらしてだらしねェ顔してやがったぜェ。
今は大丈夫みたいだがなァ、本人曰く慣れた、だってよォ?
寝坊癖を直す気が一切無いみてェだなァ。
「お連れ致しましたぜェ、コイツがウチで最も算術やらに深いサラでさァ」
「サラ!?サラなのか!?」
「が、ガストン!?ガストン様なんですか!?」
おやおやァ、どうやら感動の再開のようですなァ。
奴隷ってのは大概が借金の形か攫われ人だからよォ、こういう再開がたまァにあるんだよなァ。
奴隷商やってて良かったと思える時間の一つだぜェ。
おうおう、抱き合って泣いてるじゃねぇかァ。
恋人かァ?家族かァ?まァどうでもいいってもんさァ。
今の内に奴隷紋の契約を変更して、主人を商会長に変更しておくぜェ。
「奴隷商殿、サラを拾っていただき、感謝の念に堪えません。彼女は三年前、人攫いに攫われて行方不明になっていたのです」
「そうですかァ、純潔を守ったままウチで拾えて良かったってもんでさァ」
「えぇ、奴隷商殿なら信用できますからね。早速、サラを買いたいのですが」
「そうですなァ、三年間の費用やら何やらを含めて、50万リッドって所でさァ」
「えっ!?そんなに安くてもよろしいのですか!?」
予想通り驚いてんなァ、仕方無いがねェ。
サラ程度の奴隷の相場は400万リッドって所さァ、破格も破格って思うだろォ?
だがよォ、これで巨大な影響力と購買力を持つ上に、奴隷にも優しい商会長との結びつきを強化出来るなら安いってもんさァ。
商人は繋がりが命だからよォ、そこで呆けてる豚には分かってねェみたいだがなァ。
「構いませんぜェ。此方としてもサラを有象無象に売るよりは、商会長殿に売ったほうが気が楽ですからなァ。ニナとジャネットも居りますしなァ」
「……ありがとう御座います、奴隷商殿……!」
「御主人様……ありがとう御座います!」
おうおう、人の店の中で抱き合って号泣するのは止めて欲しいってもんさァ。
ま、此処で口を突っ込む無粋者は――
「さっきから聞いておれば何だ貴様はッ!ソイツには奴隷を売れて、私には売れぬと申すかッ!」
――ホンッとに空気読まねェアホな豚だなァ。
商会長もサラロレーズもドン引きしてるぜェ、勿論オレもなァ。
「奴隷商殿、この方は?」
「どうも公爵閣下の跡取サマのようでさァ、ロレーズを売れと言うもんで断ったらこのザマでさァ」
「それはいけませんねェ」
商会長の目が剣呑になってきてるぜェ、おォ怖い怖いってもんさァ。
貴族が二番目に敵に回しちゃいけねェ奴を敵に回すとは、この豚の将来が心配ってもんさァ。
「分かりました。我がラグランジュ商会は公爵家との取引を即刻停止させますね」
「な……キッ、キサッ……!」
漸く事の重大さに気付いたみたいだなァ、顔が青褪めてやがるぜェ。
これは良くて追放、悪くて処刑ってもんだなァ。
ギヒヒッ!愉快愉快、ロレーズに手を出そうとしたバツってもんさァ。
さて、そろそろお帰り願おうかねェ。
「な……化け物ォォォ!」
兵士サマと一緒に担いで外に放り出してやったらよォ、腰抜かして逃げて行きやがったぜェ。
豚に相応しい逃げ方ってもんさァ。
一緒に見送ってる商会長にサラ、ロレーズも笑いを隠しきれてねェぜェ。
そんだけ滑稽って事さなァ、愉快すぎて涙が出るぜェ。
「では、私達もこれで……」
「御主人様、今までありがとう御座いました!!」
「ギヒヒッ!テメェの御主人様はこっちじゃねェぜェ。寝坊癖はサッサと直せよォ」
「サラ、元気でね」
幸せそうに腕を組む二人を見送ったらまた店に戻るぜェ。
より良い御主人サマに拾ってもらう為の、大事な大事な調教さァ。
「戻るぜェ、ロレーズ」
「はい、御主人様!」
「……ギヒヒッ!」
さァて、ついでに可愛がる準備もしておこうかねェ。