月目の
邪視っていうモノをご存じでしょうか?見た対象に呪いをかけたりみたいな奴です。バトル物なんかでは目の能力なんかが最近多く描かれていますよね。魔眼とか邪眼とか色々言い方を変えるといかにもになりますが、今回バトル要素は少な目で行こうと思います。
読みにくくならないよう一回一回の投稿を短く切ってやってみます。
冬の日の夕暮れ…といっても完全に帳は落ちていた。多くの学生達が駅の周りを楽しそうに行きかう中で彼だけは違った。繁華街の裏道に潜り…規則的に目的地へと歩みを続ける。淡々と歩き続け、たどり着いた場所は都会の隅の寂れた雀荘だった。
「いらっしゃい……って九龍!あんまりお前学ラン来てこの店入ってくるなよ」
景気のいい声で出迎えたのは、バーテンダーのような服を恐ろしく着こなしたえらく男前な店主、小島。表向きはバーとあり、卓は一つしか置いていない。卓に座った三人の客も新聞を読みながらメンツを待っているだけで雀荘とは思えない状況だった。
「誰にも見られてないよ」
「そういう問題じゃねぇんだよ。…ほらさっさと上脱ぎな」
雀荘に高校生が入店することなど本来御法度だ。この場に警察が来たら検挙されてしまうのは必至。ただこの店は店主のズボラな性格もありそういったダーティーな部分もある程度は黙認する。
「おいおい……小島さん。高校生じゃねえかい。大丈夫なのか?」
「細かいこと気になさんな。どうせ法外のレートでやるならかわりゃしませんよ」
今回この卓のレートは一晩でうまくしたらサラリーマン一か月分の給与以上の利益が出るような高レート。高校生でなくても関係なく即お縄のダーティーマッチだ。
「そっちじゃなくて金はもってんのかいってことだよ。それなりのメンツ揃えてくれっていっただろ。…坊主、加減はしないぞ?」
三人とも同じ意見だろう。学生だからって大負けして払えず警察に泣き寝入り……なんてことになるやもしれない。高レート麻雀にはメンツ同士にもある程度信用のある人物でないと多少不安な部分もある。
ただ、そんな不安が杞憂であるというかのように九龍は落ち着いて言い放った。
「いいから賽を振りなよ。アンタが起家だ……」
三時間だった。夜通し打つつもりだったブルジョア三人の持ち金が底をついて卓割れが起きたのは打ち始めて四度目の半チャン終了後、時間にしてたったの三時間だった。だがこの事態に店主は驚きもしない。三人がしぶしぶ帰った後で九龍はただのバーとなった店内でコーヒーを啜っていた。
「さすがは『月目の』の倅だな。人間業じゃない」
「人間業だよ…俺がやってるんだから」
「お前の親父もそんなこと言ってたけど、お前らみたいな真似は俺らには一生できないよ」
「透けて見えてるような正確な手牌読みに、流れの掴み方。その観察眼。度胸」
博徒にとっての最高の才能をすべて兼ね備えた天性の博徒はそれを人間業というが……その才能が紡ぐ結果はまさに神業。
稼いだ金を無造作に数えながら九龍は笑う。
「そんなことできなくていいんだよ。そんな才能……こんなもんしか生まないしな」
「こんなもん…か。ホント、世の中のサラリーマンを敵に回すぞお前」
おそらく一般サラリーマンの五か月分ほどある札束をこんなものよばわりか、とため息が漏れる。
こんなにも金に直結する才能に恵まれた彼だが、素直に羨ましいというのが不謹慎だというのはこの店主が一番良く解っていた。
彼はその才能ゆえに家庭を失ったのだから。
彼の父親を良く知る店主にも込み入った事情は解らないが、大まかな事情なら把握していた。彼の父親を一番よく知るものとして、店主は九龍のことはいつも気にかけて勝手に息子のように接していた。
「それ飲んだら帰れよ。明日も学校だろ」
自分の出来ることといったら、家族みたいに接してやることだろうとそんな言葉で追い返してやることくらいだというのが店主の考えだった。
主人公の名前をフル表記していなかったのでここに書いておきます。
萩原九龍 17歳。高校生。
名前のモデルは俳優でプロ雀士の萩原聖人さんです。ちなみに雀荘の店主の小島のモデルは小島武夫さんです。