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六 系図

                     §



 「御館様討死!」

「総身に矢を受けられて、海中へそのまま……」

「まことに天晴れな御最期でござりました!」


 ……う……そ。


 「うそ……うそ……そんな……」

「姫様お気を確かに!」

「……いやああああっ!」

「姫様!」

「お静まりませ姫様っ!どうか落ち着いて……」


 ……祈ったのに。

あんなにも祈ったのに。

我が命に代えても護らせ給えと……ずっと祈ってきたのに。ずっと。


 嘘だわ。

信じないわ、こんな事。絶対信じない。


 「姫様!」

「姫様どちらへっ!」


 ……ああ。


 海は、今日も青い。

あの島を越えて、もうひとつ向こうの島を越えて、彼方の空の下。

あのあたりにいるのね、貴方。


 「姫様!」


 たくさんの矢をその身に受けて。水面を、朱に染めて。

……痛かった?

苦しかった?

水は冷たかった?

だけど何だか、気持ちいいわ、私は。

足に絡まる波が、とても気持ちいいの……。


 「だ、誰か来てぇ!」

「誰か!斎の姫様が海へ……!」


 違う。

私は斎姫ではない。

総領を守れなかった一の姫に、斎姫たる資格など、ない。


 ……それが恋ゆえに、ならば。

貴方を恋うたがゆえの、この報いというのならば。

ならば私はこの身をもって、罪を償うのみ。


 ねえ。

どこに、いるの?


 きっと、捜し当ててみせるからね。

この、海の中のどこかにいる貴方を。

息をひそめて隠れている貴方を。

待っててね。


 待っててね、美矢……。

待っ……。

 

                    §


 ――な……何?

何なの?今のは。


 闇の中。

たっぷり五分は天井を見ていた、と思う。


 頭をよじって枕元の目覚まし時計に目をやると、六時二十分。

締め切った雨戸の外で、小鳥達がさざめいている。

どこか遠くでちいさく鳴っているのは……船の、汽笛の音?


 ああ、そうだった。

ゆうべ遅くに帰って来たんだった、宮江島に。

それにしても。


 「……すごい、ゆめ……」


 思っている事が我知らず、唇をついた。

本当に、凄い夢だったわ。


 『斎姫』だった……私。


 誰かのためにずっと祈りを捧げていたけれど、力が及ばなかった。

その誰か……『御館様』が、討死したと聞いて、浜までふらりと出て行って。

そのまま海に向かって、まっすぐ歩いて行った。

見ていたのは唯、『御館様』が沈んだという彼方の海の水平線と、青い空。

そこを目指して、波間をざぶざぶと歩いて、そして。


 水中に没する瞬間に私が見たもの。

それは……美矢の顔だった。


 ……ちょっと待ってよ。


 つまり『御館様』って、美矢の事?

それで私、美矢の後を追って、自分も入水自殺してしまった、って事?

それって、まんまあの伝説じゃないの。

討死した総領を追いかけて自殺してしまったっていう、斎姫の。


 「……うわぁ、冗談じゃないっ!」

言葉でそうひとりごちながら。

だけど心の中は……ひどく騒いでいた。


 胸が、早鐘を打っている。


 この間の、聞得大君の夢と同じ。

寝る前に考えていた事に影響を受けやすくて、だから、あんな夢を見たんだ。

それだけのこと、だ。


 自分自身にしっかりと言い聞かせるように、もう一度私は呟いた。

「……冗談じゃ、ない……」


                     §


 朝食を摂ってから、私は本家を訪ねた。

伯父と祖父母はあいにく留守だったが

「まあまあ、ゆんちゃん!帰って来てたの?」

母の実姉であり、父の実兄の妻でもある伯母は、手を取らぬばかりに喜んでくれた。

「昨夜遅くに帰ったから、御挨拶が遅れてしまって失礼しました」

本家に対する分家の者としての無礼を詫びる言葉を、大人らしく口にすると、

「まあやだ!何を水くさい事言ってるの、ゆんちゃんったら!」

軽くいなされてしまった。

伯母にしてみれば私って、いくつになっても「ちっちゃいゆんちゃん」のままなのかしら。

でも、伯母がそんな風に気さくに接してくれたおかげで、気が楽になった。

いくら子どもの頃から来慣れた家とは言え、本当に長い事顔を出さなかったから、実は結構緊張していたのよね。

「本当に久しぶりねえ。綾子も次郎さんもゆんちゃんがなかなか帰って来ないって、よくぶつぶつ言っていたけれど……」

「ゆうべふたりがかりでたっぷりお説教してくれたよ。年末年始に帰って来なかったくせに何で今頃って怒られちゃった」

緊張がほぐれてみれば、そこは昔から気のおけない大好きな伯母の事、私は幼い頃そのままに、甘えた声でしゃべる姪に還っていた。

「でも絹子伯母さん、ほんっと、忙しいんだもの私!盆も暮れもないって位。今度だってお正月の埋め合わせにと思って、貴重な土日連休を使って何とか帰って来たのに!お父さんもお母さんも怒る事ないと思わない?」

「そうねえ、大変なお仕事しているんだものねえ。それに比べてうちの馬鹿息子は……」


 ……うっ。

やっぱり話はそこへ来るか。当然よね。


 「よっちゃんもね、忙しいのよ、伯母さん。今度修士終わるから、論文とかもあるし」

その論文の清書を丸々サポートした私が、何でこんなフォローしてやらなくちゃならないんだ。

とは思うのだけれど、本当の事をありのままにしゃべって、伯母に要らぬ心配をかけたくはないからね。

美矢の為じゃない、断じて。これは伯母の為だ。

内心そんな言い訳を自分にしながら、

「凄く頑張ってるんだよ、よっちゃん。さすが宮江の総領息子だなあって……」

一所懸命美矢をヨイショする事に、私は徹した。

「……ゆんちゃんがそう言ってくれるなら安心だけど」

そう言いながらも、伯母は何となく納得が行かない、という表情をして。

「あの子の事だから、昔作文の代筆をゆんちゃんに頼んだみたいに、論文も頼んでいるなんて事……ない?」


 ……す、鋭い。

さすがは母親、よく解っていらっしゃる。


 思いっきり大声で『大正解っ!』と。

叫びたくなるのを奥歯でぐっと噛みしめて堪え、私は笑顔で応えた。

「まさか、いくら何でも修論の代筆なんか出来ないわよ、伯母さん」

「……そう?だったらいいんだけど」


 私は嘘は言っていない。

小学校の宿題の作文ならともかく、人様の論文――全く畑違いの、それも修士論文――の代筆なんて、出来るはずがない。

清書なら出来るけれどね。五十枚でも百枚でも徹夜すればいくらでも、ええ。


 「あのね、絹子伯母さん」

心の中の呟きなぞおくびにも出さず、私は伯母に今日の用向きを切り出した。

「実はお願いがあるんだけど」

「ま、ゆんちゃんがお願いなんて、珍しい事。なあに?」

「宮江の一族の系図があるでしょう。それ、見せて欲しいな、って思って」

「系図?」

伯母は一瞬首を傾げ、やがてくすくす笑いながら、

「まあ、改めてお願いなんて言うから、何かと思えばそんな事?いいわよ。土蔵の中にあるからちょっと待って……鍵は、と」

席を立って次の間に入って行って、程なく戻って来た。

「はいこれ、土蔵の鍵。開け方は解るよね?」

大きな鍵を渡されて、私はすっかり面食らってしまった。

「鍵って……」

そんな、部外者が勝手に入ってかき回していいものじゃないでしょう?本家の土蔵って。

門外不出の古文書や、鑑定に出したら結構な値がつきそうな骨董品やらが、ぎっしり詰まっているって美矢が言っていたけれど、それを……。

私の顔に不安気な表情を読み取ったのか、

「ああ、遠慮しないでいいの。ゆんちゃんだったら入ったって構わないから」

伯母は笑ってそう言った。

「でも、どこに何があるやら」

「大丈夫、系図なら入ってすぐ左の棚の上に、「系図」って書いてある大きな箱が置いてあるから。見ればすぐ分かるわよ」

「は、あ……」

「離れのお部屋を開けてあげるから、そこに持って行って広げるといいよ。総系図の方だと広げるだけでも大変だしね」


 何か……随分慣れているみたい、伯母さん。

系図ってそう頻繁に出したりするものなのかしら?


 私の内心の疑問に答えるように、伯母は言った。

「うちのよっちゃんがずっと前に、ゼミ?だったか何だかで必要だからって、大騒ぎして土蔵の奥から系図引っ張り出してきてね、それから何度か、研究の為とか言って出してきては離れで広げて睨めっこしていたから、分かりやすい場所に置いてあるのよ」

「ああ、よっちゃん卒論、瀬戸内だったものね。この近辺の中世の水上交通の歴史……」

うんうん頷く私に、伯母は何か感じるものがあったのだろうか。

「ゆんちゃん……まさか卒論の代筆……?」

「やってないやってない!」

私は慌てて手を振った。

「本当に……?あの馬鹿の事だから、何かゆんちゃんにお手伝いさせたんじゃ……」

「やだ伯母さんってば!その頃は私も卒論書いていたのよ。学部一緒だから締め切りも一緒だったし、人の手伝いする余裕なんかなかったって!」


 疑わしげに私を見る伯母に一所懸命弁解しながら。

内心では私、真相を伯母に聞いてもらいたくて、うずうずしていた。

……自分の卒論を徹夜して締め切り前日に仕上げて提出した直後、いきなり美矢に泣きつかれて、結局締め切り一時間前まで一睡もせずに清書を手伝った……地獄の二徹体験談を。

だけど、辛うじて『しゃべりたい』という誘惑に堪えて、私は鍵を手に立ち上がった。

「じゃあ伯母さん、遠慮なく見せて頂きます!」

「どうぞどうぞ」


                     §


 ……長い。

こんなに長い巻物、見た事がないって位、長い。

八畳の部屋を二間ぶち抜きで使っても、全部広げきれないんだもの。


 伯母が開けてくれた離れの、二間続きの部屋の間の襖を開け放って。

土蔵から持ち出した系図を広げながら、私はほぅ……っと溜息をついた。

てっきり、模造紙みたいな大きな紙に書かれていると思っていたのだけれど、全然違った。

縦は新聞紙の横幅位、横は何メートルあるのか見当もつかない長い紙に、人の名前が横に並べて書いてある。

名前だけの人もいれば、その下に母の名や○○守といった官職や、太郎、四郎という通称のようなもの、果ては○○丸という幼名まで、小さい字で詳しく書かれている人もいる。


 昔、人の本来の名前はいみなと呼ばれていて、文字通り忌み名=人前で滅多に口にしてはいけないものらしく、そのために普段は太郎とか次郎とか、官職名で○○守殿というふうに呼び合っていたのだと……ずっと前に美矢から聞いた覚えがある。

今も本家の男の人達が周囲の人達から名前でなく『太郎さん』『次郎さん』と呼ばれているのは、その頃の名残なのだと。

 

 その、諱が大きく書かれて、並んでいて。

人によっては記述が更に詳しくて、いつの戦で手柄を立てたとか、どこそこの寺を再建したとか、その人の事績が横に、漢文みたいなスタイルで綿々と書き連ねてあったりする。

そしてそれぞれの諱を、縦の線や横にずっと伸びた線で結んでいて、親子や兄弟の関係を表しているんだけれど。

世間一般で言うところの系図と違って、ぱっと見て前後や横の関係が解りにくい事この上ない。


 はあ。

何で私、こんなものを見たいと思ったんだろう。

巻物を広げる手を止めて、ふっとここまでの自分の行動を顧みて、考え込んでしまった。


 思い立ったら即行動、は私のモットーではあるのだけれど。

何の下調べもなく、こんな、門外漢にはさっぱり訳が解らないものを見るためだけに、わざわざ貴重な休みを使って宮江まで帰省してきたなんて、無謀にも程がある。

予め美矢から、系図がこういうものだと聞いていたら……やらなかっただろうな、こんな事。


 美矢も私も、どちらかが単独で帰省する時には、必ず相手に連絡を取って、実家に何か言伝る事や物がないか確認するのが常だった。

でも。

今回は何となく連絡しづらくて、黙って出て来てしまった。

おまけに、急に思い立っての行動だったため、出掛けにバタバタしたどさくさでうっかり携帯を持つのを忘れてしまった。だからメールも飛ばせない。

まあ、持っていたところでやっぱり、メール出来なかっただろうけれど。

あの日からずっと、私は電話もメールも美矢にはしていない。

美矢からも来ない。だから。


 あの朝。

美矢を送り出してから、ずっと心の中に引っかかっている事があって。

考えれば考える程、居ても立ってもいられなくなった。


 討死したと言われる総領と、彼を追って入水したと言われる斎姫の伝説。

それは単なる伝説なのか、それとも、実際にあった事なのか。

後者だったとして、だから何なんだ、と聞かれても返事に困るのだけれど。

ただとにかく、知りたくて。確かめたくて。

土日連続で休める週末をじりじりしながら待って、突き動かされるようにここまで来てしまった。


 ……あ、そうか。

総領の事なんだから、総領に絞ってチェックすればいいんだ。


 今更ながらそこに気付いて。

改めて手元に広がる巻物に目を向けると、総領の名前は一目でそれと判るよう、やや太めの字で記されている。

名前の右肩には○代目の記述。そして横には他の人よりも更に長く詳しい事績の記載がある。

現当主の伯父で四十二代目の宮江家の歴史は古い。

初代から五代目あたりの記載事項については、古い時代の伝承に基づいて書かれているのか、古事記の神話みたいな突飛な内容が多くて信憑性に問題がある……と、これも以前美矢から聞いた。

その辺の記述はさらりと読み飛ばす。

討死したって話だから、戦国時代に絞ろうかとも思ったのだけれど、鎌倉期の元寇とか、南北朝の動乱期とかにもこのあたりの水軍は色々活躍しているらしく、その時代という可能性も外す事は出来ない。

……その頃の宮江一族の話も、美矢が語ってくれたのよね。楽しそうに。


 確かあれは、大学三年の最初の頃だった。

所属が決まったゼミで、自分の研究テーマについての概略とそれについてこれまで出されている学説の紹介及び分析をリポートにまとめて提出するように、と指示が出たそうで。

大学に入った頃からずっと、瀬戸内海の水運関係の研究をするんだと意気込んでいた美矢は、これで好きな勉強にがっつり取り組める、と嬉しそうに帰省して行った。

……そして数日後、私は戻って来た美矢に泣きつかれた。

リポートの内容をまとめるだけで手一杯で清書する時間が足りないから、助けてくれないかと。

小学生の頃に美矢に拝み倒されて夏休みの読書感想文を代筆して、結局先生に見破られてふたりで怒られて以来、その手のヘルプを要請されたのは久々の事だった。

その時に色々と、系図絡みの話をしてくれたんだった。

多分あの頃から、美矢は系図とよく睨めっこしていたんだろう。


 手書きで清書を手伝ったそのリポートは、他人の筆跡だと丸わかりで、ゼミの担当教授にやっぱり怒られたらしく。

以降、パソコン入力可の卒論まで、美矢のヘルプ要請が入る事はなかった。

そりゃ、美矢の筆跡を見知っている人なら誰だって、普通にさらりと読める字で書かれたリポートなんか出されたら冒頭だけで即不審に思うでしょうよ。

……そんな事を思い出してくすくす笑いながら、系図を目で追う。


 『廿六代 美秀 太郎・刑部大夫 文明八年討死 歳四十七』 

そこまでなかった『討死』の記述を初めて認めて、おや、と思った。

元号で書かれても一体どのあたりの時代なのかさっぱり判らない。

念の為にと持ってきた日本史用語辞典の巻末年表でチェックすると、一四七六年。

丁度、応仁の乱の最中にあたる。

書いてある事の半分も解らない事績をそれでも何とか辿ってみて、どうやらこの人は勝ち戦で命を落としたらしいと判った。

ひとつ上の二十五代当主まで戻って、そこから出ている線を辿って。

『女子 斎媛 文明五年没 歳四十』

の記述を見つけた。

年齢からして、この人は二十六代当主・美秀の妹。兄に先立って亡くなっている。

ふと。

『女子』の字の右横にちいさく

『結』

の一文字が記されていることに、気付いた。

遡ってざっと見て……ここまで見落としていたけれど『斎媛』と記されている人には皆、同じような記述があると判った。

他は皆『女子』のみ。

もしかしたらそれは、斎姫の名前、なんだろうか?

昔の女性の名は公式には伝えられないのが普通で、北条政子や日野富子とかはむしろ珍しい例なのだと……これも美矢から教わった。

確か、諱の話のついでに説明してくれたんだった。

だとすれば、斎姫だけ名前が伝えられるというのは、特別な事なんだろう。

やはり女性とは言え、一族の護り神と崇められた人だけに、扱いが別格だったという事かな。


 二十六代の次は

『廿七代 美行 三郎・左衛門尉 文明十八年没 歳三十四』

この人は討死ではないらしい。事績を読むと、戦で負った傷がもとで亡くなったように取れる。

兄弟の線を辿ると、上にふたり、早逝した兄がいる。だから三郎なのね。

そして『美弘 四郎』『美春 五郎』と弟達が続き

『女子 斎媛 文明十七年没 歳廿八』

三郎美行の妹なのだろう。兄の前年に亡くなっている。名前は『初』らしい。

亡くなった年が違うし、妹だし、総領は討死した訳ではないようだから伝説とは違うわね。

次は、二十八代。


 『廿八代 美矢 太郎・左衛門尉 明応四年討死 歳廿四』

……え?


 一瞬、思考が止まった。


 『美矢』って。

『討死 歳廿四』って。


 それは偶然、なんだろうけれど。

美矢と同じ名前で、同じ年で、討死なんてさらりと書かれていると、胸がひどく締め付けられるようで。

……何だか字面を見るのが、辛い。


 気を取り直して、事績を読む。

若くして亡くなっているためか記述は少ないけれど、二十六代の人と同じような事が書かれていて、やはり勝ち戦ながら自身は落命したのだと解った。

この人には弟がたくさんいる。

若死にだったからか子どもはいない。二十九代はすぐ下の弟の美直が継いでいる。それはまた後で見るとして。

弟は全部で四人。妹は……いない、らしい。

でも。

一番末の弟である『美景 五郎』の記述の横、どこから来ているか判らない線の下に

『女子 斎媛』

がある。

ざっと線を辿ったら、『美弘 四郎』に辿り着いた。二十七代目の次弟にあたる人だ。

二十八代目は姉妹がいなかったから、叔父の娘が斎姫になったんだろう。


 叔父の娘、って……従妹、よね。


 胸騒ぎを覚えながら。

もう一度その『斎姫』の記述に、目を戻した。

『女子 斎媛 明応四年没 歳廿四』

そして。


 「……なに、これ」

思わず呟いた言葉が、震えた。


 『女子』の横に、ちいさな文字がひとつ、記されていた。

『弓』と。


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