初陣
この極端な世界で命を繋ぎ、掴み、拾い、集め、捨てる者がいる
血を喰らい肉を切り骨を断ち
血を浴びて肉を喰われ骨を砕く
血を吐き肉に飢え骨を軋ませろ
走れば人、吠えれば獣、奪えば魔獣、殺せば魔物、臆せば餌、求めよさすれば与えられん
力を求めるなら、見定め見極め見渡せ
知恵を振り絞り振り出し揺すれ
体は歩き走り感じ飛び駆け抜けろ
自分だけを信じ、捧げた坊やが今日も血にまみれる日
始まりのセレモニーらしきものをメランが言い終えた
「さぁ、皆様歓迎致しましょう」
おぉーっと場内が盛り上がる
「本日のボーヤは、黒髪、黒目で呪われた盾を携える、スラムで育ってきたレンだぁ〜」
俺の紹介が終わる
場内の熱気がさらに上がり、目の前の檻が開き枷と鎖が外れる
俺は真っ直ぐ向かい側の門が開くのを見つめる
そいつ等は、ゆっくりと地面を這いずりながら出て来やがった
《スライム》そう一般的に呼ばれるモンスターが門から放出される
体は大人ぐらいあるが、地面にベタンっと幅を取りながらくっついている。色は青くドロドロとした液体状で出来た体は透明な薄い外皮で守られ、伸縮自在、変幻自在、体の中には赤い核が一つあった
俺がいままで抱いてきた連想するイメージと変わらないものがズズズっと動いている
それを見た俺は駆け出した
ザッザッザッっと砂の音を立てながら、一歩一歩足を踏みしめてく
小石が足に当たるが、そんな事は気にしない
十数年ずっと裸足で生きてきた俺の足の皮は固く分厚くなっている
そして、ただただ目的も戦略も何も持ち合わせていない俺はスライムに向かいひた走る
うるさいと感じていた声や太鼓の音が気持ちを高揚させ、それに伴い心臓が鳴り響きながら激しく動きだす
それほど、走ってもいないはずなのに呼吸が速くなり肩で息をする
(焦るな、慌てるな、相手はスライムだろ。おもくそ、ぶん殴ればいいんだ)
冷静に考えながら走る速度を落とし口で大きく息をして、前を見る
(う、嘘だろぉ)
前には、一体だと思っていたスライムの後ろに同じ奴が他に二体いた
ナナシから渡された、紙だけの情報では1対1の闘いだとばかりナナシは考えていた
(あぁ、狼狽えんな俺。たかがスライムだ一体だろうと三体だろうと変わんねーはず)
レンの答えは正しい。正しいがそれは、武器や強靭な肉体を持ち合わせていたり魔法・闘気が使えたらの話しだ
何も持ち合わせていない彼がスライムを楽に倒すには、闘技場の端に埋められ隠されている木の槍を手に入れられたの話しだろう
そんな事など知らないレンはスライムとの距離をただ縮める
目に見えて、近づいているスライムを見据えて
(スライムなんて、核を壊せば良いだけだ。そう、殴って殴って殴りつけて砕いて倒せばいい)
「うああぁあぁあ〜〜」
自分を鼓舞するように、叫び突っ込む
それに合わせたようにスライムが体当たりを仕掛けてくる
その突然の行動に、レンは腕をクロスさせて盾をぶつける
双方が体当たりしたようだが、レンが勢いに負け後ろに弾き出される
その様子を、地下の牢屋の通路に置かれている大きい水晶玉からミツキは無言で見ていた
闘技場の上からは、ナナシが含み笑いをしながら様子を見る
(いやぁ〜本当に自分の腕一つで戦うのですね。でも、気をつけて下さいねスライムの食事はむごいんですよね)
そして、ナナシは闘技場を見渡す
スライムに押し負けたレンはすぐさま体勢を立て直して、スライムを見る
「うん、なんだ?」
盾が先ほどミツキから貰ったクッキーの食べ残しを俺のポケットに入れていたんだが、それがスライムの体の中にどす黒い色をしてあった
(さっきの衝突で落としたのか)
ごぽっと音を立て、クッキーが溶けるように消化される
(もし、俺が死ぬときはあんな風にてか)
食事中のスライムに、赤い核の部分に俺は殴りかかった
バチィンっと音が響くがぶるるんっとスライムの体が揺れ打撃のダメージを緩和する
それでも、続けざまにバチィンバチィンっと殴り続ける
そこで、俺は横から体をぶっ叩かれた
地面を滑るように転がり急いで立ち上がる
そこにいたのは、人を真似たような格好をしたスライムがいた
ふざけやがって、俺は臨戦態勢を取り飛びかかる
先ほど殴っていた、スライムがまた体当たりをしてきたが、今度は盾のほうで裏拳をかまし向かいうつ
「うらあぁあ〜」
力強くスイングして、声と力を腹から思いっきり出して押し切る
飛ばされたスライムは赤い核の色が落ちて体と同色になり、だらんと体が地面に広がり動かなくなった
そして、人型のスライムに向かって叫ぶ
「生きるのは、俺だ」
俺はスライムの懐に潜りこもうとする
スライムは、俺に殴りかかるが、盾で受け止め奴の体に蹴りをお見舞いする
スライムの体にグニュっとめり込む
そして、体勢を戻し核がある頭に俺の拳をぶち込む
今度は、硬い核に拳が当たる
続けて、二、三発お見舞いする
すると、スライムの体が、ダメージに負けて元の体に戻っていく
そこを、好機と思い俺は核を何度も殴り、拳からは皮が剥がれ血が出るが、俺は気付かずにスライムを殴る
ぜぇはぁっと疲れが顔に出て大量の汗がにじみ出てくる
(最初のスライムは、こんなにタフじゃなかったはずだが・・)
「これで、終わりだぁ」
俺は力を振り絞り殴った
そしたら、ピキピキっと音を立て核が砕けた
すると、スライムがどろりっと地面に液体が流れる
はぁはぁっと息を荒げている中でも、最後のスライムが体当たりを仕掛けてくる
何とか、盾で受けたが体ごと吹き飛ばされる
「ぐはぁ」
(あと、こいつだけ・・俺はやる・・・こいつを倒す・)
息を整えながら、立ち上がると気の抜けた声が耳に入ってくる
「あぁ〜腹が減ったなぁ〜」
呑気に盾が喋る
「へへ、まったくよく言うぜ」
その、言葉に笑顔で答える
「お前は、あれも喰えるのかよ?」
盾の赤い珠が黄色くなる
「俺は雑食だぞ。だが、一番好きなのは生肉だがなハハッ。それに、あれは旨くはなさそうだな」
「それじゃあ、好きなだけ食べろ」
「厳しいご主人様だこと」
盾はへらへらと言う
俺は、スライムに近づき盾を掲げる
また、スライムが体当たりをしてきた瞬間
「いただきます」
盾の幾多にもある鉄の針がガバッと開きスライムを貪り、開けた口の中に入ってく
薄い外皮を貫き、スライムの体液が鉄の針を伝って口に入ってく
どろどろとしたものをこぼさずに縦横無尽に鉄の針が動きスライムを掻き込んでいく
《じゅるぐじゅくちゅくちゅズズッガリじゅるる》
※お食事中
盾の質量には入りきらないスライムを一体飲みほした
「ゲフッ、ごちそうさまってやつだな」
食べ終えた盾は、鉄の針を閉じ、最後に、まだ、足りねぇ〜なっと呟くのだった
「旨かったかよ?」
「どろどろでグニュグニュで不味かったが、腹の足しにはなったな」
盾は呆気なくスライムを倒すのだった
嫌、食すのだった
闘技場からスライムがいなくなり、会場が騒ぎ立つ中俺は精一杯叫んだ
「見届けろ、そして、見逃すな、俺が生きて魅せたことだけを唯一覚えてろーーー!!」
その、叫びに答えるように会場が盛り上がる
そして、俺は枷を手と足に付けて南の門が開くのを待ち
ギチギリギチッと鈍い音を立て門が開く
俺は重い足取りで闘技場から出て行くのだった
会場には、まだ冷めぬ熱気を残しながら歓声と罵声が響く
そして、闘技場には何もいなくなったのだった