ちょっとちょろっとちょこっと
マスクで頭を覆われ、鎖て縛られ、手と足の枷が重たく辛い中、ひたすら長い階段を登っていく。
何度か立ち止まり、重厚な音をして、扉や門が開く音がした
空気が冷たく、たまにひんやりとした風が肌に当たり、ほのかに気持ちよかった
騒がしい声、特徴的な太鼓の音、楽器の音色がいまかいまかと待ち望んでいるように聞こえてくる
そして、一時間前にいた。闘技場の門の前に俺はいた
「いやぁ〜いつ来ても、ここは騒がしくて良いものですねぇ」
ナナシがフハハッと笑いながら言う
そこで、いきなりマスクをガバッと取られた
「うむむうぅ〜」
マスクが首に引っかかっり、マスクの紐を緩めれば簡単に取れるのに力づぐで誰かが剥ごうと後ろから揺さぶる
後ろから、取れないにゃあ〜っと言いながらぴょんぴょん飛び跳ねながらしこたま引っ張ってくる
「うあっ、くがっ」
(息が呼吸が、頼む、呼吸を誰か・・・かぁさん)
その時、マスクの紐が緩まれスポッという音がするかのように勢い良く外れた
んにゃあっと言ってルベルが後ろに倒れる
「はあ、はぁ、はあー」
必死に求めていた空気を大きく吸いながら荒い呼吸を整える
「ルベルさんここを外すんですよ」
ナナシは、ルベルが持っているマスクの紐を指差した
「そうなんだ」
ルベルはすぐ理解した
「一時間前も同じことを教えましたよ」
「ご主人様、ごめんにゃ私は忘れやすいのにゃ」
「まぁ、今回は生きていたから良いですけど、気を付けて下さいね」
はぁ〜いにゃっと元気な声が返ってくる
「俺を殺す気かよ」
呼吸を整えたレンが暗闇の中ナナシの声が聞こえる方に大声で叫ぶ
それに、対してルベルがごめんにゃっと軽く返すそして、ナナシが続ける
「ちょっとした緊迫プレイという奴ですよ」
「マスクで隠され、鎖と枷で拘束され、危うく殺されかけた状態をちょっととは言わない」
最初は早口で、最後はゆっくりと口を動かした
「じゃあ、ちょろっとですかねフハハ」
「ちょろっとの表現は胡散臭い格好をした道化師的な雰囲気をかもしだしておきながら本質を誤魔化している感がはっきりとでている」
「それは、私に対するあなたの印象でしょう?」
苦笑しつつ、おっほんっと咳払いをする
「では、ちょこっとっと」
「ちょっとちょぴりちょろっとちょこっともだ」
そんな、会話をしていると目が闇に慣れうっすらとナナシが映る
ナナシは、はぁ〜っと溜め息をついて一呼吸を置いて改めて言う
「いやいや、本当にすみませんねぇ、うちの娘がとんだご無礼をおかけしました」
ナナシがシルクハットを取り頭を低く下げ、改めて謝罪をした
その上品な佇まいにレンは身が竦んだ。
「生きていたから別にいぃ」
「そうです、苦しいと感じるのも生者の特権です」
いやらしく言い放った
そして、レンは問いかける
「ここは、なんなんだ?」
「プレーヌス・コロシアムですょ」
先ほど、言いましたけどねと不思議そうな顔をする
「そうじゃない、俺たちを見せ物にして何がしたい?」
「それを、教えて何になります」
ナナシが、低い声で聞き返す
「そんなことより、今を生きるのにもっと必死になったほうが良いと思いますよ。彼女にもいろいろと言われたのでしょうし」
(なんで、ミツキとの会話を知っている)
レンがナナシの声が聞こえる方を見つめる
「じゃあ、俺が生きて生き抜いて生き抜けば『生者の特権』って奴で教えて貰うぞ」
「いいでしょう」
ナナシは嬉しそうに、すんなりと答える
「いいんだな、それじゃあここで生きる理由が一つ増えたな」
レンが自分の存在意義を見つけたように言う
「良いんですかぁ〜そんな大口叩いて、呆気なく逝っちゃう人も多いんですよ」
ナナシがいつもの調子で話す
「言える時に、言わないと後悔するんでね。それに、見せ物になるなら魅せてあげますよ俺の生き様ってやつ」
力強く宣言した
「いいですねぇ、私は嘘・はったり・駆け引きで生きる人は好きじゃないんですよ」
「勢いとその時のノリで動いてるだけだよ」
ナナシはニヤニヤっと笑っていた
「では、是非魅せて下さいね、全力のあなたの姿をね」
その言葉が嘘じゃないと信じますよと付け加えた
「あぁ、最初はここを生きてお前の信頼を得るのが初めだな」
「そんなことを言いまして、この闘いで生きる勝算はあるんですか?」
ナナシは笑顔が絶えなくずっと笑いかけながら話していた
「勝算なんて分かんねぇよ、ただ俺が生きたいから生きるんだよ」
「そんな、根拠で先ほどのような啖呵を良く言えますね」
私が約束を守る保証もありませんのにっとレンに聞こえそうな声で呟いた
「あぁ、後悔する前にやれることはやりたいからな。とにかく、生き残ってやればいいんだろ」
我武者羅に言い、こう続けた
「生きて魅せるよ、この腕でね」
根拠もない理由を高々と宣言する
「フハハッハハハッアハハ実に良いですね、私はあなたのファンになりましたよ」
暗い部屋の中に盛大な笑い声が響き渡る
(そんな、真っ直ぐな心の持ち主ここでは万が一にでも見つかりませんよ。レンさんですか、お気に入りリストに入れておきましょう)
「ご主人様、そろそろお時間にゃ」
ルベルがナナシとレンの会話の中に横槍を入れた
「では、レンさん少なからず私はあなたに期待しますよ。」
ナナシは右腕にしてる時計を見て言った
「あぁ、まかしておきな」
「盛大に会場を盛り上げてくださいよ」
ナナシがそう言い一歩下がる
「行ってくるのにゃぁ」
「え、おぃ、ちょっと待ってくれよ」
突如背中を掴まれ、ぐるりっと回され遠心力にはじき飛ばされるように投げ出された
飛ばされた方からは、もう遅いのにゃ〜と聞こえた
体が浮く浮遊感が数秒間感じたあとに、地面にドサッとぶつかり少しの間ズザザーっと地面を滑る
「痛ててて」
そして、ゆっくり立ち上がり、投げ飛ばされた扉が閉まり闘技場の門が開き光が差し込む
俺は門の前にいると思ったが、その前にも部屋があったことを知る
そして、眩しい光のほうへ歩きだし徐々に慣れてきた目が闘技場を見渡す
後ろでは、ギチッギリギチっと軋む音が鳴り響きながら門が閉じる
うるさい声が、耳に入ってくる
闘技場に入ったレンは、ミツキに言われた通りに環境を把握した
(平地か、他には置いてある物は何もないのか)
闘技場内は、平地で地面には小石があるぐらいで他には何もない
確認が終わると、可愛らしい声が耳に入ってくる
「本日は私メランがお送りしたいと思います」
彼女は闘技場の上にいた、マイクを持って話している
メランは、細身でパッと見てもスタイルがよく整った顔立ちで、漆黒の髪が背中まで伸び黒い猫耳がピコッピコッと動き、首には銀色の鈴の首輪をして、片手に黒い日傘を持ちその傘の取っ手の部分に赤い羽根が付いて、フリフリのメイド服を着て、黒いブーツを履いていた
闘技場の上では、マイクを使っているメランに負けないボリュームで騒ぐやからが叫んでいる
そんなことを気にせずに、彼女は話し出す