幽霊
ナナシたちが出て行って、ミツキとレンがいる牢屋のフロアは静寂で薄暗く小さい豆電球が通路だけを照らしていた
(では、『生者の特権』ですか・・・私から言えば、プレゼントですが今回は何だろうな?)
ミツキは、ナナシから渡された袋の中身を確認しようと袋の口を緩め、明るい通路の方で腰を落とした。
(目的の物とは違いましたが、貰ったものは私の物です)
袋に入っている物を確認しようとしたら、小さく囁くような声が耳に入ってきた。
「すみませ〜ん、ミツキ、あ、いや、ミツキさ〜ん」
隣のほうから、私の名前を呼ぶ声が聞こえるような気がする
(気がするだけです、そんな些細なことより、確かに私の目の前にあるものを・・・)
「ミツキさ〜ん、聞こえてますよね〜、レンですけど〜ミツキさ〜ん」
(最初よりかは、本当に最初より声が聞こえていますけど、確かに有るものを・・・)
「お願いします。ミツキさん、聞こえてますよね?」
私は、袋の中を確認して、本当に声が聞こえるか耳を澄ませました。これでも、私はお化けや雷というものが駄目なんです。ですから、これがお化けのものか調べないといけません。
「ぁのぉ〜ミツキさ〜」
ですけど、幽霊なんてものは、いないですよ私は生まれてこの方幽霊を見たことがありません。先ほど戦ったゴブリンのほうが余程現実味があります。
「声届いてますか?」
私は自分が見て聴いたものしか信じません。ですから、さっきから聞こえてるこの声はレンという青年の声なのでしょう。
「お願いです返事を下さ〜い」
まったく、私がもしかしたら初めて出会う幽霊かなぁ〜って思っている所でしたのに本当に非道いものです大体幽霊は、非業の死を遂げたり、この世のことがらに未練を残した者の魂だとよく言っていますね・・・そう、考えますとここは、絶好の心霊スポットであるのではないのでしょうか。あ、でも、幽霊と言いますのは・・・
「ミツキさ〜「はい、何でしょうか?」
「あ、気づいてくれたんですね」
レンは私の声を聞き入れ、すぐさま質問して来る
「ミツキさん、ここはどこなんですか?」
、レンの声が聞こえやすいようにレンのいるほうの岩で造られている壁に座って寄りかかりながら答えた
「プレーヌス・コロシアムだよ」
それから、ミツキでいいと答えた
「ミツキさ・・ミツキ、そういうことではなく、さっきのモンスターや闘技場で見ていた人のことだよ」
「私も良くは知らない」
そうですかっと落胆してレンが言った
最初に、少し雑談をした所で話しを始めた
「だが、私の推測だが私たちは賭けの道具に使われているんだろう」
「賭けですか?」
「あぁ、さっきいたナナシからお金がどうとか言われたでしょう」
「はい」
ナナシの姿とさっき話ていた会話を目を瞑りながら思い返し、ナナシから貰った紙を見て答えた
「多分だがな、それはナナシたちの都合の良いようになるように仕組んでるんですよ。自分たちが儲けるためにね」
人の命を弄びながらねっと付け加えた。そして、こうも言った
「生きる為に目的を与え、その上で私らはあいつに飼われてるんでしょう」
「じゅあ、ここは違法で賭博を行い、人と魔物を殺しあわせてるってことでしょうか?」
「少し、違うと思いますけどね」
ミツキは、その答えに反論した
「ここに集め、連れて来られてるのは、罪人、奴隷、悪人、異端者、狂信者、略奪者、浮浪者など生き場を無くしたものたちだと思います」
私もそうでしたよっとミツキは誰にも聞こえない声で呟いた
「多分、罪人を裁くついでに弄んでいるんでしょ。だから、誰も止めないし、死んでも気にしない。」
「そんなことって・・・」力なくレンは言った
「ですけど、生きれれば三食食べれて、ちょっとしたお金も貰え褒美も頂けます」
命を懸けた割には大したことありませんけどね。ため息を吐くように言った
「しかも、上で見ている人たちは生死を掛ける戦いを見て興奮し騒ぎはやし立て、私たちが勝てばその場だけの英雄扱いをして、楽しんでいるんでしょう。多分、賭けはついでで、見物するのが大多数の目的だと思いますよ」
これも、何とも悪趣味なことです。ミツキはなんとも、つまらなさそうに言った
「その為に、私達に戦いを魅せるように指示を出すのでしょう。条件を満たせば、簡単に勝てたり、やり方次第で勝機を見いださせる方法を考えて、武器や道具を置いてるのでしょう。観客を喜ばせるパフォーマンスとして」
本当に嫌らしいものです。私達は彼の手の上で踊らされてるんでしょう。そう言い、一つ大きくため息を吐いた
「まぁ、全て憶測のことですけれどね」
最後に気の抜けた声で、トーンを高くして言った
「えっと、もし、そうだったら。次の闘いは俺が魅せものになるってことかょ」
「多分、そうでしょう」
はぁーっと溜息をレンが吐いて話しが終わる
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「グキュルルルゥウ〜」
腹の虫が盛大に騒ぐような音が、レンの部屋から聞こえた
「へ、うわぁ」
レンの情けない声が飛び出す
「どうしました?」
それに、釣られてミツキが呼ぶ
「あ〜ぁ、お腹が減って力がでねぇな」
「へ、あぁ、盾が喋った!」
レンの左腕には、バックラーと呼ばれる盾を付けていた。無理やり包帯のようなもので腕にぐるぐると巻きつかれ、盾は手の指先から肘の先まで伸び、手のひらを大きく開いた状態の親指から小指の先端までの幅ぐらいの大きさで長方形の形だ。
装飾のベースの色は深縁、横縞に人差し指間隔で細い黒い線が入り、縁は薬指の太さぐらい白で塗られ、手の甲当たりには紅黒い目玉ぐらいの珠が一つあり、たまに琥珀色がゆらゆらと見える。その下の腕の辺りに、手の中指ほどの大きさの棘のような銀色に光る鉄の針が幾多も重なりあっていた
そんなことをよそに、盾が平然と喋る
「あ〜ぁ、いぃ匂いがするな。」
おぃ、姉さんその持ってるものをくれないか?」
私は、先ほどから持っていた袋の中にある、黒いクッキーを見つめる
「あなたは、何ですか?」
その質問には、食べさせてくれたら答えてやるよっと返された
私は、袋から一段とドス黒い色をしたクッキーを何枚か取り出し違う袋に入れ自分の腰に付け、状態の良い方が入ったクッキーの袋をレンのいる牢に投げた。
そして、ミツキは考える
(盾が喋る?もしかして幽霊!だって、幽霊は物や人に憑依すると聞きますが、それが本当なんてことは・・・)
レンはミツキから貰った袋を取った
「早く、袋を開け中身を出せ」盾がせかし始める
クッキーを全て地面に置く
「俺を、そこに持ってけ」
言われた通りに、近づけ地面に当て離すとクッキーが無くなっていた
「もう、宜しいでしょうか?」
「あぁいぃぜぇ」
「あなたは、元人間、幽霊ですか?」
「分からねぇよ」
ミツキは呆気に取られた。そして、盾はこう言った
「まぁ、数百年は生きている。しょうがない、もう一回だけチェンスをあげてやるよ」
盾がそういったら、コツコツっとステッキの音が聞こえた
「レンさん、時間ですよ」
ナナシとルベルとフードの者が来て、レンにマスクを掛け、見えないようにして、鎖で縛りルベルが引っ張って行く
「話しが出来るのも、『生者の特権』ですよ」
レンと私に、ナナシはそう告げて、レンを連れ去って行った