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銀色の月  作者: 閑恨葬災
3/3

第二夜 宣告

神良美月はすぐに新たなクラスに溶け込んでいた。

定番の休み時間による質問攻めも美月は変わらぬ笑顔で受け止め、女子達からの誘いに喜んで答え、男子達からの賛辞の言葉には素直に感謝していた。


それでも銀次は一日中、美月に対し刺すような視線を浴びせ続けた。

この日はクラス全員にとってあっという間の一日だった。



      ---1---


放課後。

ようやく美月の周りには誰もいなくなっていた。多くの者は部活へ駆けだしていき、それ以外の者達もすでに下校をすましていた。

一緒に帰ろうという声もあった。貴咲という気品あふれる同級生からの誘いだった。

それに美月は少しだけ嘘をついた。


「転入についての作業があるから、待ってるように言われているの。だからごめんね、また誘って」


それを聞いて貴咲は残念そうに友人達と下校していった。

その後ろ姿に美月は罪悪感を感じずにはいられない。

待っているように言われたのは本当だった。だがそれは転入についての作業なんかではなく、机に入っていた手紙にこう記されていたからだった。


「放課後一人で残れ。拒否は許されない」


ペンで書いたはずなのにまるで墨と筆を使ったかのような重みがあり、美しさを備えた手紙。


(でも…ラブレターにいては優しさが感じられないのよね、これ)


夕暮れと共に暗くなってきた教室で美月は首をかしげる。

転校初日に愛の告白を受けるなんてロマンチックな出来事に最初は胸が高鳴った。

しかし、書いてあった文章はまるで脅迫状のよう。


「まったく!なんで今日初めて見てから目が離せなくなりました…みたいな甘酸っぱい空気感を出せないの!絶対ラブレター書いたこと無いわねこの人」

「そうだな。確かにラブレターなど書いたことは無かった」

「へっ!?」


一人だった教室に自分以外の声が響く。

いつの間にか声に出ていた愚痴を聞かれただけではなく、己の中のひそかな乙女心まで聞かれてしまった。挙句の果てに、どうやら聞かれた相手こそ、この手紙の主らしい。


「えっ…えと、貴方がこの手紙をくれた人?」


髪をかき上げ、取り繕うように余裕の笑みを相手に向ける。

教室に入ってきたのは物静かな少年だった。

クラス中の男の子が制服を着崩していたのに対し、この少年はまるで制服のカタログのようにきっちりと着込んでいる。

光沢のある黒い髪は短く切られ、癖っ毛なのだろうか所々はねている。


(この人は確か…)


美月はこの少年の事を知っていた。

今日、クラスの女子たちに教えて貰ったのだった。曰く、このクラスには二年生の男子二大巨頭がいると言う。

一人は剣道部に所属する花片悠斗。なんでも、部活に力を入れていない幹咲高校にいながら去年の個人戦でいきなり全国大会準優勝に輝くという伝説を打ち立てたらしい。

爽やかな容姿と活発で話しやすい性格から『動の花片』との愛称がある。


対して、もう一人も負けてはいない。

こちらは去年行われた全国模試で一位を取ってしまうほどの秀才という話。

花片悠斗とは対照的に話しにくい印象を与えてはいるが、それが逆に触れがたいカリスマ性のようなものを感じさせる。

それが二大巨頭のもう一人、


「確か…名前が…」

「自己紹介がまだだったな、武蘭銀次だ。よろしくたのむ」


『静の武蘭』そう目の前の少年は呼ばれていた。



      ---2---

  


銀次の視線と美月の視線は重なり合ったまま、数分の時が流れる。


(さっ…さすがにみんなが噂するだけのことはあるわね、確かに、少しはカッコイイかも…)


自己紹介を受けてから、美月は銀次から目が離せなくなっていた。噂に違わず、目の前の少年は端整な顔立ちをしている。


しかし、美月はその瞳に視線を奪われた。

意志を持った強い瞳。他の男の子達とはどこか違う不思議な瞳だった。


「神良美月、互いに黙っていても始まらない。簡潔に用件を述べよう」

「はいっ!」


沈黙を破ったのは銀次だった。

またしても抜けた返事をしてしまう美月。それでも構わずに銀次は会話を進める。


「今日一日、俺はずっと君のことを見ていた」


直球な一言に、美月の鼓動は一気に高鳴る。


「え、えっと。そうなんだ。なんだろ?ありがとうとか言った方がいいのかな?」


支離滅裂な返答。ようやくそこで、美月は自分が緊張していることに気付いた。

転校初日で告白を受けるというだけで驚きなのだが、その相手が学年の人気者ともなれば正気ではいられるはずもない。


思わず美月は視線を逸らす。


「目をそらすな。俺を見続けろ」


強い口調に押され、再び銀次へと視線を戻す。

乱れの無い制服姿。吸い込まれそうな美しい瞳。そして、手にした銀色の銃。


「えっ!?」


見間違いなどでは無い。銀次の右腕には確かに学生には不釣り合いな金属が握られている。

装飾の施された銀色の拳銃。一見すれば美術品のような精巧な作りをしている。

だが、美月はその銀塊にひどい圧迫感と威圧感を覚えた。


美術品などでは持ちえない血の香りとでも言うべきか、美月に銃に関する知識など当然ながら無い。それでもソレが殺戮のためのものだと肌で感じていた。


「えっと、武蘭君?ソレは…なに?」


勇気を振り絞って疑問を投げかける。


「これか?これは盈月(えいげつ)。覚える必要はない」


銀次は盈月と呼んだ銃をゆっくりと美月に向ける。

銃口が捉えるのは美月の額。

それだけで、美月は指一本動かせなくなる。


「俺は武蘭銀次。お前ら吸血鬼を殺す滅殺鬼だ」


冷たい声と共に、銀次は引き金を引いた。


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