終章
―――2111年12月25日
…あん時は本当に色々とあったな…そして時が経つのは早いと言うがあのミカと別れ再会を約束した日から…もう、一年が経った…あれ以来、俺はこれといって特に非日常な日々を送るでもなく殆ど変わらない毎日を過ごしていた…変わった事といえば、前より音楽に費やす時間が増えたくらいだ
「おーい、どしたのよ?霧人」
「……んあ?どした?」
「いや、それこっちのセリフだから」
あぁ、思い出に浸っていて渉の話を聞いてなかったみたいだな…
「悪い悪い…で、何だっけ?」
「本当に聞いてなかったみたいだな…どーした?風邪でも弾い………あぁ」
「………何だよ?」
髪を掻きつつ視線を逸らした渉を見て俺はギターをケースに戻す手を止める
「いや、そーいや今日で丁度一年…だったんだっけ?」
「……あぁ」
あのミカと別れた日に何があったのかは、渉を含めた3人にも一応関係者であるので話してある…空達を見ると2人も懐かしむ様な表情をしている…どうやら全員同じ事を考えていたようだ
◇
――――12月25日23:00―ライブハウス前
「んで、結局…キリトはどうする?」
「あー…」
「俺達3人は行くし、飛び入りもOKらしいから結構人数居るし…楽しめると思うぞ?」
渉の言う用件とは今日あったライブの関係者内でやるクリスマス会らしく近くの居酒屋で盛大にやるらしいのだが…
「……俺ぁ、止めとくわ」
「お?なんだなんだ?霧人は1人寂しくクリスマスを過ご……いや、まさか!?」
「……んだよ?」
「まさか!1人だけ抜け駆けして彼女と一緒に!!」
『ズゴン!!』
「違う」
馬鹿な事を言う渉に一発、脳天直撃鉄拳を叩き込んでやった…まぁ、間違ってるとも言えなくは…ない、か?
「んじゃ、なんだよ?」
「大切な約束があんだよ」
そう言い俺は周囲に降り積もった雪の割りには雲一つない夜空を見上げる
「約束?…やっぱ彼…」
「しつこい」
しつこく言い寄ってきた渉に今度は目潰しを繰り出してやり、悶える渉を視線から外す
「んじゃ、またな」
そう言うと俺は歩き出す…とは言え、別に誰かと約束をしている訳でも只、家に帰る訳でもない…誰も居るはずがない…しかし、俺はあの場所へと行く…自分でも理解出来ない何かに従って…
◇
―――とある片思い人の思考
あいつは、行ってしまった…恐らく渉が茶化した事は現実ではないだろう、それは最近のあいつの様子を見ていれば分かる
「行っちまったか…」
「ん、行ったよ」
先程までうずくまっていた渉は立ち上がり薫は渉のコートについた雪を払い落とす
「んで、空はいいのか?このまま見送っちまって」
「は!?」
そんな2人を笑いながら見ていたら渉から予想外の言葉が投げ掛けられてきたので私は慌ててしまった
「な、ななな、何が!?何を!何で!?」
「おぉー、明らかに不自然な3段活用」
「うんうん」
慌てて口から次々と出た言葉を聞いた渉と薫が笑いながらこっちを見つめてくる
「だ、だから何が!」
「いや、空…お前ぶっちゃけ霧人の事が好きだろ?」
「うんうん」
「はあっ!?」
ちょちょちょちょっと待った!待て!待ちなさい!!?
「な、なななんであたしがあんな、カラオケでこの間たまたまあの時の部屋に入って懐かしんだり、おにぎり見るたびに思い出して溜め息をついたりするあんな奴を!!?」
「思いっきり自爆してるぞ、おい」
「うっ!」
渉の言葉に私『八神 空』は言葉につまり視線を逸らしてしまう
◇
「で、雲一つない夜空の下の空の心模様は?」
「……その天気予報みたいな言い方止めてくれる?」
私は額を押さえながら尋ねてきた薫を見て名前をネタにした質問に溜め息を吐く
「携帯の待受画像があいつな時点でバレるだ…ぐぉああ!?」
「何時だ!何時見た!!?」
秘密にしていた筈の事が周知な事実になっていた事に驚きつつ私は渉の首を両手で掴み上げ締め付ける
「ぐっ、グェッ…ぐるじい…」
「答えろ!!」
そのまま左右に振り回すが渉は一向に答えようとしないので両手の力を更に込める
「取り敢えず、離さないと渉は何も話せないよ?」
「あ」
薫の言葉で私は渉の首から手を離した
「ギャッ!?」
「で?どういう事」
地面に落ちた渉は咳き込み始めたので薫の方に私は視線を移した
「んー結構分かりやすかった…けど」
「?」
「なんで告白はしないの?」
「うっ…それは…アイツが、いないから…」
そう、告白しない理由はアイツ、ミカが…いないからである。今、あの馬鹿…霧人はミカの事で何処となく吹っ切れず空しい気持ちでいる…そんな時に告白なんて漁夫の利みたいでしたくない
「たっく…『約束』したんなら、早く帰って来いっての…」
早く帰ってこないと…私があいつを食べちゃうからね?
私は微笑みながら人差し指で唇をなぞりつつ夜空を見上げるのだった。
◇
「此処から、始まったんだよな。俺の非日常って奴は」
俺はあの日、ミカと初めて出会ったあの自販機のある場所に来ており懐かしむように自販機に触れるとポケットから財布をそしてそこから小銭を取り出し自販機にいれスイッチを押し出てきた目的のものを取り出すと再び歩き始める
◇
「結局、此処に行き着いちまうわけ、か」
俺が足を止めた場所はというとちょうど今から一年前ミカと別れたあの公園だ。
あの自販機を始まりの場所とするなら此処は俺とミカの終わりの場所である。俺は一年前を思い返しつつ両手にそれぞれ持っていたミルクティーの缶をベンチに置き自身もそのベンチに座る。
そして、ミカが和馬と共に去って行き今しがた俺が歩いてきた公園の出入り口を見つめ、そこからビデオの巻き戻しのようにミカが歩いていた場所を見ていく。
そこにミカが居ないと分かっていながらも俺はあいつの姿を探すように公園をぐるりと見渡す
なんだかんだ言いつつも俺はあの非日常を随分と気に入っていたらしい。でもだからこそ、そんな非日常を与えてくれたミカの為に俺はあの日、自らの手であの非日常の日々に終止符を打ったんだ。
後悔をしていないといえばそれは嘘になる。だが、あれで本当に正しかったのかと言われると、俺はそうとはいえない。この自問自答もこの一年間ずっと繰り返してきた事だ。
体も冷えてきた事だし帰ろうと思い俺は立ち上がるとミルクティーの一本を落としてしまった。俺はそれ拾うために歩いていくが突如としてなった携帯電話おポケットから取り出し歩きつつ電話に出る
「はい、もしも…」
『やぁやぁ元気かい?青年』
◇
あの懐かしい軽い口調が聞こえてきた。その瞬間に俺は驚きで立ち止まる。
「あんた、俺に何で掛けてきた。」
『用事があるからに決まっているだろう少年。』
あいつの軽い口調を聞き溜息を吐きながら尋ねる
「案の用だ?」
『いやー青年の事だから今、あの公園に居るでしょ?そろそろの筈なんだが』
あいつの話に首を傾げていたが…その時、足音が聞こえたので俺は背後を振り返った
「よう、久しぶりだな」
そこには俺が先ほど落としたミルクティーを持ったミカが立っていた。俺は再びの驚きのあまり携帯を取り落としてしまう。
『あ、着いたみたいだね。』
俺は慌てて携帯を拾い叫ぶ
「どうなってんだよ!?」
『頑張ってバグを取り除きました。完璧にしました。やっぱ俺って天才!あ、定期連絡はする様に、後は宜しく。』
それだけを言い電話は切れた。驚愕の表情のままミカを見る
「まぁ、これから、宜しく頼む。」
そう言って笑うミカに俺は苦笑しつつ呟いた
「お帰り。」
「あぁ、ただいまだ…霧人!」
やれやれ、非日常はまた当分の間、続きそうだ。




