論理 3
揺すられている事も、迷惑な事も解っている。でも、まぶたがとてつもなく重いんだ。
「うう……限りなく灰色に近いグレーが……」
「どんな夢見てたんですか」
「あ、創さん」
私が目を二、三回ショボショボするのを見届けた後、皮肉っぽく創さんは言った。
「遅ようございます。御昼ご飯はいかがいたしましょうか?」
「何時間くらい寝てましたか?」
「およそ三時間ほどかと思われます、お嬢様」
皮肉に嘲笑が加わった。それでも勝手に上がり込んでそのまま寝た私は何も言えない。さて、どうしよう。
「ごめんなさい」
とりあえず、謝っとけ。そんな声が聞こえたのでその通りに行動する。
「はい」
下げた頭の正面にラーメンが突き出された。
「へ?」
「お腹、すいてるでしょ」
「いやいいですよ、そんな、いつも食料持ち歩いてますし……」
そういいながら鞄の中を確かめる。一口サイズチョコレートの箱があった。二粒入っていた。それだけ。
お言葉に甘える事にしよう。
「これ、作ったんですか?」
「まあね。インスタントですけど」
そんな会話をしながら二人で麺をすする。ありがたい事に一番好きな豚骨味だった。最後に取っておきのチャーシューを口に入れようとした時に、奇妙な事に気がついた。
なんでこの人はタートルネックにトイレサンダルなんだろう。しかし『なんでトイレサンダルを履いているんですか』とは聞きづらい。それに創さんの事だから安いからとかそんな感じだろう。それに良く似合っている。いい意味で。
なんだか寝かせてもらった上に御馳走にもなったのでこれ以上いたらいけない気がする。ここはまた頭を下げた後早めに退散しよう。この話はもう終わりでいい。すっかり迷惑をかけましたとさ。めでたしめでたし。これで大丈夫。
今後の予定が決まっただけで少し安心したきっと脳の仕組みが適当であろう私は、次に何故創さんと出会った後ここに来るようになったのかを考えた。
結論。
なんとなく住所聞いて押しかけて来た自分が悪い。
へこんだ。何故かは良く解らないが、きっとその理由の中に『皆さんは私が居ても居なくてもどうでもいい』という一文が入る事だろう。
「――ところで」
「はい」
近頃考え事が増えて人の話を聞いてない時が多い。それに合わせてそれが悟られない様な振る舞い方も身に付けた。きっと今回も成功だろう。
「話してませんよね。何で僕がこんなのを着てきたか」
「はい」
「さっき編集長に脅されてしかたなく話したんですけど、そうか。寝てましたもんね」
「はい」
同じ返事。だけど違う。発音が。
「まさか創さんが人あらぬ物で誰かに命を狙われて襲われたなんてオチじゃないでしょうね」
「おおさすが真。半分正解」
冗談のつもりで言ったのだが本当か。確かに創さんが人ではない事は百キロほどの物でも持ち上げられた時や本を読むスピードが異常に早い所から予想していたのでそこまで驚きはしない。
「半分正解と言ったでしょ」
私の心を読まないで下さい。
そんなこんなで人事の様に一方的に語り始めた。殴られる。血が出る。首絞められる。意識が遠くなる。そんな感じ。創さん、表現上手いな。
それでも首の傷は見せてくれなかった。どうして私だけ見せてくれないんだろうと切なくなった。
「警察には言わないんですか?」
自分で犯人見つけるとか言わないで下さいよ。
「いやいいですよ。そこまで致命傷でもないし、それに――」
続いた言葉に、私は唖然となった。
こうして、物語は加速してゆく。