考察 3
周りと自分を比べてみた。
特に違いは無かった。
残念。
ま、どうでもいいけど。
自分と誰かが出した答えが、両方合ってたら困るだろう。数学にしても、国語にしても。
だから、皆揃って自分が間違いだと言う。
私が違うんです、私が悪いんです、と。表面上。
「違うな」
創さんはそう呟くと、惜しげ無く企画書を丸めて隅の方にあるゴミ箱に向かって投げた。
「ナイスシュートです」
「は?」
「いや、すみません」
「何であの女性は人を殺したんだろう」
突然聞かれた。創さんは案外、変人なのかもしれない。
私はあいまいに答える事しか出来なかった。
創さんは無表情のままで私を見つめる。
「どう思いますか? 純粋な中学生の意見を、一人の大人として聞かせてほしい」
「私は純粋じゃないですよ。それに、何とも言えません。人様の心を探るなんて御恐れた事出来ませんし」
「解らないと」
「はい、解りません」
「そう――誰にも解らない」
少し創さんの表情が悲しそうだった。
「解らない。だから何もしない、何も言わない、何も探さない、ただ、隠し通して、忘れる。いや、忘れる振りをする」
「どうしたんですか」
私は戸惑う。
「別に、何とも」
別に、という言葉には二種類の意味があると聞いた。一つは、誰とも話したくない、というサイン。もう一つは、誰かに自分を詮索してほしいというサイン。今のはどちらなのかは聞き手が判断して、それに合わせた態度をとる。それが空気を読むという事、らしい。
でも私にはどちらなのか解らない。どうすればいいのかも解らない。
しかたないから、黙っている事にした。
「ほら――今の真ですよ」
「そんな悲しそうに言わないでください」
「悲しいんですからしょうがないでしょ」
私、ここに居たくない。
「帰ります」
「そうですか」
そのまま後にした。息苦しかった。怖かった。この人が。そこまで酷い事は言われてないのに。
目が嫌だった。全てを知られそうで、軽蔑されそうで。
苦しい。足の動きを早くする。止まらない。前なんて見えない。ひたすら、足元を見つめる。
何もかもが間違いに見えた。こんな気持ちは、久しぶりだった。